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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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黒く、背丈程はある杖は、数本の黒い触手が上部の球体を緩やかに巻いていた。

杖の力を壁へ放つ。

杖の力を使うと同時に上部の球体が緑に輝き、球体内にある目玉が動き始めた。そして杖からメトゥスと同様の黒い触手が複数放たれた。だが杖の触手にはメトゥスのような無数の目玉はついていない。壁に突き刺さった触手は壁を溶かしていた。


「キュ~」

メトゥスが突き刺さった壁の方を見つめている。

ただの攻撃用途だけの杖ではないようだな。いずれ確認するとしよう。

「感謝する」

「キュル」

メトゥスが触手で同じ壺を差す。

「まだ何かあるのか?」

「キュル」

壺の底を触手で叩くメトゥス。

「悪いがお前ほど腕は長くないんだ。代わりに取ってくれ」

「キュル」

メトゥスが壺の中に触手を入れていく。そして1つの指輪を取り出し、触手を俺の目の前へと持ってくる。

指輪を受け取り眺める。

リングの外周に小さな目玉が均等に埋め込まれ、緑に発光し輝いていた。

「ほお」

指輪をしまう。

「他にはないか?」

「キュル」

メトゥスが触手で空の壺をひっくり返す。

壺の奥にはレバーが設置されており、側には円形の刻印メモが置いてあった。青く輝く刻印メモには落としたような形跡が残っていた。


──魔法の刻印板。

完全に闇で埋もれてしまっていたが、何とか取り除きここまで来られた。

おまけで新たな鉱脈も見つけたが、それは今はどうでもいい。

何かの遺跡の様だが、地上の連中の物とは到底思えない代物だ。

今度こそ目的の手掛かりが見つかるかもしれない。あまり期待はできないが。


王はなぜかこの事に躍起だ。それだけ報酬もデカいから気にならないが。

部下を降りさせ、調査させる事にした。

──

下側の文字を浮かび上がらせていく。既存の文字が消えた。

──

部下の1人がレバーを見つけた。

勝手に触るなと言ったのに、レバーを引きやがった。まったく。だが何も起きなかったのが幸いだ。これもウルカヌスへの信仰の賜物だろう。

少し頭がずきずきと痛むが、いつもの働き過ぎだろう。今度からはこれを書き終え、寝酒をしなくては。

明日は部下と共にここを徹底的に調査するつもりだ。

──

下側の文字を浮かび上がらせる。だが板は割れてしまった。


レバーを元に戻す。

「よし、もう行こう」

「キュル」

メトゥスと共に出口へ向かう。

杖の触手を閉じたドアへ放ち、予想通り開いた。

そして階段まで戻り上へ向かう。


「多くのアンデッドと、1人の生者が待っている」

「キュル?」

「大丈夫仲間だ。これからは他にも多くの生者がお前の周囲に犇めく事になるだろう」

「キュル」

「メトゥス。恐らくお前のいた時代とは大きく事態が異なるだろう。昔とは違う。我慢できるか?」

「キュル」

「ふむ。まあそう長くはない。再びアンデッドの時代が来るさ。いや取り戻す」

「キュル」

メトゥスがじっとこちらを見つめてくる。

「お前は俺の事を知っていたのか?」

「キュル」

「そうか……。世界だけでなく、俺自身も変わってしまった。時が経ち、記憶を失い、眠っている間に多くの事が変化した」

「キュルル」

「だが適応していくしかない。お互いな。お前も俺も昔のように全てを元に戻す必要はないかもしれない。新たな者として歩んでいけばいいさ」

「キュル」

「もうすぐ歓迎パーティーだ。生者の彼女は……良い奴だ。それにネクロマンサーに成り立てでな。優しくしてやってくれ」

「キュル」


腰に備えてある短剣の柄に手を置き、俺に身構えているマーラ。

マーラの隣にいるイエナは辛辣な表情を浮かべてくる。

「合言葉、決めとくんだった」

マーラが目を細め短剣を抜く。

「ギュル」

メトゥスに囁く「よせ。ただの挨拶だ。マーラ。頭はこの上なくハッキリとしている」

「でもさっきの事があるし、後ろから刺されたくない」

二度メトゥスを見るマーラ。

「原因が分かった」

「へぇ~、それで?」

「地下にあった遺物が関係していたんだ」

手を上げ、指を見せる。

「嘘でしょ。文献で見た事ある」短剣をしまい、指を近くで眺めるマーラ「もちろん自分のよね?」

「恐らくは。だがハッキリとした確証がある訳ではないがな」

「へぇ~」

指を注意深く見ているマーラ。

「さっきの事と関係があるのですか?」

「マーラに死霊魔力を吹き込まれた事で、恐らくこの体が活性化したんだ。つまり、お前が初めて死霊魔力を吸収した時のように」

言い辛そうに口を開くイエナ。

「あ~……」

「本能に逆らうのが難しくなった。それは分かるだろう?」

「はい」

「それに加えてこれだ」腕を上げ、戻す「この肉体の一部から、何か激しい憎悪が漏れ出していた。詳細は分からんが、一体化させた事により制御は容易になった」

「まさか、今まで憎悪が無かったという事ですか?」

「ああ、ある意味な。憎悪だけじゃない。感情がかなり乏しい」

腰に片手を当て、俺に手の平を返して向けるマーラ「仮に貴方の肉体だとして、じゃあこれからは気に入らない事があったら暴れ回るって事?」

「それは大丈夫だ。他の者と差して変わらん。多少、以前よりは感情豊かになるだろうが、感情の制御はそこらの連中よりはできる。それにお前やイエナに咎められれば考えを改めるさ」

「ふ〜ん。これから肉体を取り戻して、謎を解明していくって事?」

「まあな。ああ、紹介しよう。これはメトゥスだ」

「キュル」

「結構可愛いじゃない。にゅるにゅる動いてる触手とか、無数にある目玉とか、じっと見られている感じとか。にしてもメトゥスかぁ」

「…………」

イエナは閉じた口を何度か左右に動かす。

「こいつの制御は現状難しい。だが幸い悪い奴じゃない。まあ油断は禁物程度だ」

「なにそれ、こわいんだけど」

「まあ仲良くしておけよ」

「んふ」

「分かりました」

イエナがメトゥスに軽く手を振る。メトゥスは触手を伸ばし左右に振って答える。

「さあ上へ戻ろう」


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