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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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──朽ちかけた羊皮紙。

懺悔を書けだのと、ふざけた事をほざいていた。

誰がヴォイドなんかにそんな事をするものか。このメモを我が同胞が手に取る事を神に祈っている。

悔いはない。これからユースティティアの元へ行けるのだからな。

傲慢なるヴォイド信者共に聖なる破滅を。

我らがユースティティアに永遠の栄光を。

デリアデス。

──


牢を出る。

「次だ」

「はいきた」

マーラが意気揚々と次の独房のドアへ向かう。

「気分が良いのか?」

「そうすっごくいいの。自分でも分からないけど、こう、なんて言うか、体の中が温まって気分が高まってくる感じっていうのかな」マーラが先ほど同様に独房のドアを開ける。

漂ってくる強烈な死臭。

「ふむ」

「うっ、すごいにおい…」腐敗臭に圧倒されたのか、マーラが手で鼻と口を抑え、独房に背を向け離れた。


イエナがマーラの元へ駆け寄り、軽くえずくマーラの背中を摩る「違うわよイエナ。それじゃあ出ちゃうでしょ!」

「そっか。ンフフ」


独房の中へ入る。

リブステーキのように芳ばしい香りだ。

入ってすぐに死体が目に入る。

座って上を見上げ、口から槍が刺さり、そのまま後ろ首から槍が貫通し、地面に矛先が突き刺さっている。槍が死体の支えになっているようだ。

死体は既にかなり腐敗し、地面には体から滲み出た内蔵の液が蓄積していた。

死体の顔の皮は綺麗に剥ぎ取られ、同時に歯茎もなくなっていた。

腐敗した遺体を探り、内側の胸ポケットにしまわれていた革袋を取り出す。革袋の中から書物を取り出し開き読む。


──死臭のする手記。

──ページ1。

吸血鬼の潜伏情報を得て、遥か遠くの街、ドワーフ領のロクスソルスという鉱山都市に赴く事が決まった。

遠征はこれが初となるけど、ロクスソルスの住民達が吸血鬼の被害に遭っていないか、今から気掛かりで仕方がない。

早めに出立する事にした。

──

──ページ2。

ロクスソルスへ着いて僅か数時間だというのに、この街はとんでもなく多くの問題を抱えている事が分かった。

悪魔の気配をすぐ側に感じる事がある。でもきっと気のせいじゃない。かなり嫌な予感がする。

ドワーフ領にいる知り合いのデーモンスレイヤー達に手紙を送る事にした。

悪魔の問題は専門家の彼らが来てから一緒に当たればいい。

──

──ページ3。

今日は斡旋所の掲示板に烙印に関する調査のビラが多数貼り出されていた。依頼はこの街の衛兵達。

まったく、自分達で解決すればいいものを、どれだけ自分らが可愛いのだろうか。

この街の問題は戦争に明け暮れる彼らが放置してきた代償だというのに。

奴隷商のドワーフとはよく言ったもの。

──

──ページ4。

依頼は衛兵だが、ツケを受けているのは罪もない人々。当然放っておけない。

烙印だろうと精神魔法の一種に変わりはないはず。吸血鬼の魅了に対する訓練を積んできた私にとっては、意外と適任かもしれない。

信仰心は殆んどないけれど、それでも意志の強さには自信がある。烙印の欺き如き、はね除けられる。

準備が整い次第、烙印の問題を追う事にする。

──

──ページ5。文字が掠れている。

判断を誤ってしまった。

私はずっと悪魔につけられていたんだ。

悪魔は衛兵の皮をかぶり、私をいきなり襲ってきた。

何とか致命傷を避け、この独房へ避難できた。

あいつが私を探している。

いま思えば烙印も悪魔の仕業だったのかもしれない。

しばらくはここに隠れている。

念の為に明日までここで休む。起きた時にあの悪魔がいなくなっている事を願うしかない。

──


独房を出る。

「何かあった?」

「ああ」

マーラに手記を渡す。

「うわ…」

マーラが手記を開き、イエナと一緒に読み始める。

読み終えたマーラがイエナに手記を手渡す。

臭いに慣れたのかマーラが独房前まで歩いて来る「つまりこの吸血鬼ハンターは殺されて、デーモンに成りすまされた訳ね」

「その様だな」

「はぁ~、誰も気付かなかったわけ? 街に悪魔が堂々と歩いてるっていうのに」

「それが現実だ。例え気付いたとしても、どうにもならない状況なら、黙っておくだろう」

「まあ、そうよね。でも少なくとも、この吸血鬼ハンターは善人だったわけだ」

「悲しいのか?」

「そりゃ、少し」

「ほお」

「貴方はどうなの。悲しい?」

「正直、何も感じないな。それにこの顔じゃあ、涙は流れんしな」

マーラと一緒に振り向く。

「あ……」

涙を隠すように顔を背けるイエナ。

マーラと互いに目を合わせる。

「マーラ、少なくともお前は生者だ。少しは悲しめ」

「貴方だって昔は同類だったんだから。それに少しその顔に敬意を払ったら? 彼にだって両親がいて、子供や奥さんもいたかも」

「うぅ…」

イエナの悲しむ声が漏れ聞こえる。

「そうだ。この吸血鬼ハンターを生き返らせてあげたら?」

「ふ〜ん。既に魂が見当たらん。信仰心がないのなら、デーモンに喰われたのかもな。仮に魂があったとして、アンデッドの俺が光輝魔法を使うなど。俺が聖堂にいき、魂を渡すよう光輝の神々に祈りを捧げる姿を見たいのか?」

「違うわ。せめて肉体だけでもアンデッドとして……フッ、でも貴方が聖堂で祈る姿、ちょっと見てみたいかも」

「これだけ状態が悪いと良くてスケルトン。最悪塵だな。吸血鬼ハンターとしての希望は打ち砕かれるだろうな」

「それは…可哀想ね」

「つまり」

「つまり?」

独房のドアを念動で閉じる。

「こういうことだ」

「酷い棺桶ね」

最後の独房の前へ向かう。

「棺はいいぞ」

「入った事あるの?」

「もちろん。お前も一度入ってみろ」

「さて、どうしてこれが最後なわけ?」

「生存者がいるからですよね」

「そうなの? なら一番最初で良かったじゃん」

「ただの生き残りじゃないのは確かだ」

「ノーム…いえ、子供?」

「下がってろ。デュラハン」

「デーモンの事があって、リッヂ様は少しビビってるのかもね」

無言でマーラに軽く相づちを送るイエナ。

アイスイエナを盾にしているマーラ。

デュラハンが盾を構え、一気にドアを開く。独房のドアが開くと同時に、何者かがデュラハンをすり抜け、走り去り逃げようとした。


デュラハンが盾を背負い、逃走を図る者を服ごと掴み阻止する。

「クソッ、離せよ!」

「助けてやったんだ、事情ぐらい話せ。ルイン」

「なんでおいらの名を…あ、あんたは…チッ、クソッ」

「何故こんなところに。まさか仕入れだなんて言うなよ」

「そ、そう。商品を探してたんだ! 流石はリッヂ、物知りだね〜」

「お前の商品など、其処らの土を捏ねればいくらでも作れるだろ。さっさと本当の事を話せ」

「あんたに言われて分かったんだ。このまま人を騙すのは悪いっ、てな。だから改心して、まともな商品を並べてみようと思って。ここに良いものを探しに来たんだ。それで厄介ごとに巻き込まれた。それだけ。ただそれだけなんだ。助けてくれて感謝してるよ。いや本当。命の恩人だ。この感謝は永遠に忘れないよ」

「結局、偽物から盗品に変わっただけか」

「うるせーなー。あんたもみんなもやってる事だろ。資源の有効活用だよ。おいらがやらなきゃ他のあんたや他の連中がやるだけだ」

「その点に関しては同意する。だがお前は危険だ。そんな感じがする。今すぐアンデッドにするっていうのも悪くない」

「や、やめてくれよ! じょ、冗談じゃない。そんな─ん─頭。助けて! 助けて! 助けてー!」

ルインが必死に逃げようと踠き、デュラハンが掴んでいるルインの服が千切れそうなほど伸びる。

イエナとマーラが側に来る。

「どうして逃がしてあげないの?」

「何となくだ(空虚)」

「え?」

「冗談じゃない! うぐ…。うぅ……ぐすっ、た、助けて」

ルインはしゃがみ込み、両手で顔を覆い涙を流す。

「その…逃がしましょう。まだ子供ですし。何もしていないですよ」

「気安く俺に指図するな。逆らうつもりか(威圧)」

「い、いえ…私はただ……」

「なら口を閉じてろ(喝)」

イエナは困惑した表情を浮かべ一歩下がった。

手に力を集中させ、虚無の囁きをルインに向け放つ。だが不発。

「くそ…デュラハン。殺れ」

「御意」


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