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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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マーラが側に来る。

「それで。何が書かれてあったの?」

背後で杖を使い、転移を行っているイエナ。マーラの隣にはイエナの形をしたアイスエレメンタルが立っていた。

「大した事は書かれていなかったさ」

「ふ~ん」

「その指輪はどんなエンチャントだったの?」

「…………」

「どゔじたの?」

「よく喋るな」

「アハッ、ンフフ、ンフフフ」

女はとにかく喋らないと、心が枯れてしまう。だからこそ愛おしく愛でてやるのが男の仕事になる。

「う〜ん」

「まったく笑わせないでよ。真剣な表情でいきなり何を言い出すかと思ったら。やっぱり一度分解してしまったせいね」

「…………」

「大丈夫?」

マーラが目の前で2度指を鳴らしてくる。

「女に詳しい友人の言葉が頭によぎってな」

「へ〜。でも友人か〜。アンデッドにとって友人って悲しい存在?」

「いいや。俺の場合だが、恐らく俺同様アンデッドになって、どこかで元気にやってるだろう」

「ふ〜ん。会ってみたいなっ」

何だこの胸騒ぎは…。

「ンンッ、この指輪は恐らく変性が付与されている。簡単に言うと正体を隠せるんだ。それで思ったんだが、これを体内に取り込んでいたデーモンをよき仕留められたな」

「イエナのおかげかな。それに別に、私はペネロペみたいに家の中で織物をしてきたって訳でもないし。来日も来日も遺跡巡りで、今回は相手がデーモンだったってだけ」

「ほお。感慨深い物があるな。お前の人生が一歩違えば、俺はここで朽ちていたわけだ」

「う〜ん。そう言われると何だか神秘的。まるでネケシタスの吐息を感じてるみたい。しみじみと私に感謝してるわけだ」

「ああ、溢れんばかりにな」

「リッヂを従えし偉大なネクロマンサー、マーラ。悪くない響き」

「書物を残すなら、誇大はよせよ」

「大丈夫。大抵は誇大に見えるものでしょ」

「そうだな。イエナ、そろそろ準備しろ」

「はい」

転移で目の前に来るイエナ。バランスを崩しぶつかる。

「す、すみません」

小さく頷く。

「凄い物手に入れたじゃない」

「マーラも使ってみて」

「もちろん」

「やめておいた方が良い」

杖を掴む前に手を止めるマーラ。

「まさか副作用があったりするの?」

「ああ、お前が使うと生命力が削れる可能性がある」

「なにそれ怖っ。杖が私の血を吸うわけ?」

「そんなところだ」

「わ、私は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だが、使い方に気を付けろ。相手が転移に対処できる奴なら、転移先に罠や体の周囲に魔法を掛けるかもしれないからな」

「分かりました」


デーモンの亡骸にヴォイドの囁きを放つ。だが反応はない。

「デーモンってヘルで殺さないと復活するって本当?」

「そんな事はない」

やはり吸収したのか。しかし気配すらなかったな。ディスコルディアの元へ行ったにしては妙だな。

「どうしたの?」

「やはり短剣がデーモンの死霊魔力を吸収したようだ」

「さすが」

「だが妙な点がある」

「そお?」

「デーモンソウルもそうだが、お前が短剣の力をまったく知らなかったとは思えんがな」

「ンフフ、なに言ってるの。16年しか生きていないただの獣人の私がそんな事知るわけないじゃない。まともに死霊術すら扱えないのよ」

「まあ…そうだな」

「も~、早く調子取り戻してよね」

「努力する。デュラハン、門を開けろ」

「御意」

「お前達はここを見張れ」

アリゲーターとバジリスクに門の警備をさせる。

剥がれ落ちた殉教騎士の皮を付け、門へ向かう傍ら、ハイエルフの死体にヴォイドの囁きを放つ。予想通り、ハイエルフは塵と化した。


大きな音が響き渡る。

デュラハンが門の片側を開け終え、盾を構え奥へ向かっていく。

グール、キメラは足止めの役目を果たしたが、見返りが少ないのは痛いところだ。


デュラハンに続き、マーラ、イエナ、アイスイエナと共に奥へ進む。

アイスイエナが転移の杖をイエナの代わりに持っていた。

仮面を付けるマーラ。

「まだこんなに広いの。一体どこまで」

直線の長い階段を降りていく。そして階段の最後の段を降り終えた。

階段柱壁の部分、そして後方の壁の間にあるスペースには、大量の鋼のオートマトンの残骸が山積みにされていた。オートマトンはすべて魔力コアだけが抜き取られているようだ。

山積みにされたオートマトンの残骸は階段の高さを優に超え、いつ崩れてきてもおかしくはない状況だった。

「これは一体何でしょうか?」

少し先にある中央付近の地面を眺めているイエナ。

イエナの元に行くと、足元に転がる多数の朽ちた指輪が目に入る。

イエナが1つ拾い上げ手の中で転がす。すると指輪は炭粉のように崩れていってしまった。

イエナが近づいて来て手を見せる。

「ハイエルフの男が、ブラックハンドの宝物庫から奪った指輪だな」

「もし宝物庫に保管されていれば使えたのでしょうか?」

「ああ、恐らくな」

「残念ですね…。でもどうしてこんな所に、無造作に置いていたんでしょうか?」

「特に意味はないだろう。あのエルフには、謂わば荷が重過ぎた代物だったんだ」

「はぁ~。魔道具を装備し過ぎると、何かデメリットがあるのですか?」

「ああ、魔道具の制御に力を分際させ過ぎると不利に働く事もある。それにあのエルフのように、身の丈にあっていない事をすると、魔道具を失った際に自力で事態を収束できなくなる」

「魔道具も使いようなんですね」


「ねえー!ちょっと来て!」

左奥で叫ぶマーラの元へ向かう。

アイスイエナが先にマーラの元へ転移する。

「あっ!? もう! あんたはいいの」


「嬉しそうだな。指輪とはいえ、従属ができたのが嬉しいのか?」

「ええ、とても嬉しいです」

笑みを浮かべるイエナ。

アイスイエナが道を開ける。

「牢か」

「地下にあったのとは、また違うようですね」

「これは独房だな。左から開けていくか」

「私が開ける」

「気をつけろよ」

マーラが短剣を構え、独房の古びた黒いドアを盾にするようにし、開けていく。マーラは中をそっと覗き込んだ後、片手で中に招くよう手を広げる。

独房の中を見る。

「寛ぐリッヂ?」

独房の奥の壁にもたれ掛かるようにして倒れている骸骨が1体目に入る。

独房の中へ入り、骸骨の側に落ちていた羊皮紙を拾い、読む。



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