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人差し指、中指を立て回し指示を出す。
デュラハン、アリゲーター、バジリスク。集合するアンデッド達「周囲をを警戒しろ」
デュラハンが槍を手元に戻し、戦いで損傷した騎士団の剣を掲げ見せる。
視線を地面に向け了承の合図を送る。デュラハンが剣を足元に落とす。
「で、大丈夫?」
マーラが顔を覗き込んでくる。
「なんともない」
「大丈夫そうには見えないけど」
「多少頭痛がする程度だ。調子が戻るまで少し時間が必要だろうが、問題ない。生者でもよくあるだろう?」
「まあ。私がやった影響が心配なんだけどね」
「大丈夫だろう。んー、その事だがどうも腑に落ちん」
「私の実力に恐れを成して、現実を直視できないのね」
マーラが俺の肩を軽く叩く。
「…………」
マーラを注意深く眺める。
「気に障った?」
「分かった気がするぞ」
「なにが?」
「その短剣だ」
マーラが短剣を鞘から抜く。
「短剣?」
「デーモンの影響だろう。その短剣から多量の死霊魔力を感じる」
マーラが短剣をかざし眺める「何も感じないけど」短剣を戻す「でも分からない。どうして急に? 今までそんな事なかったのに」
「ふむ。不思議だよな」
「う〜ん」
短剣で自分の肩を何度か叩くマーラ。
「仮定の話だが。お前のネクロマンサーとしての能力開花に関係しているのかもな。力が開花した事により、その短剣が何らかの反応を示した。のかもしれない」
「じゃあ、私の能力が突然開花したのはどうして? ずーっと疑問なんだけど」
「さあな。分からない」
「歩く古代辞書の貴方でも分からない事あるんだ」
「雑に扱う奴に読ませたくなくてな」
「つい忘れるんだけど、貴方は自分の事すら分からない状況だもんね。それにこのデーモンみたいに周囲は問題だらけ。あはっ、気のせい? 貴方と一緒にいるようになってから、常に棺桶に足を突っ込んでる気がする」
「アンデッドになりたかったんだろ。望みが叶ったな」
「まあ嬉しい事もある。碑文に載りそうな冒険が舞い込んで来るようになったからね」
「気のせいだろう。とは言い切れないな。正直、もう一度眠りにつきたくなってきた」
「棺桶ってそんなに寝心地良いんだ」
「ハッハッ、参ったな」
イエナが側に来て、軽く頭を下げた後、デーモンから回収した黒い物体を手渡してくる。
「でもようやく頭の切れるリッヂを1つ出し抜けた」
「というと?」
「アッアッ~。さっきの事」
「こっそり嗅ぎ回ってくれたおかげだな」
「う~ん、それだけじゃないわよ。実は街に着いたらすぐ寝て、それから食事をして、お風呂に入ってたの」
「本当は街に着くまで眠かったのか?」
「そう。ハ~ン。私は夜行性っての知らなかったでしょ。ホレホレ〜」
嫌らしい目付きで俺の顔を何度も指差してくるマーラ。
「つまり昼間は役に立たない訳か」
「はんっ、面白い。まあ昼夜の関係ないアンデッドにとって、気になるような事でもないか」
「お前が後を付けてきそうな気はしてたんだが、全てを見通す事は出来なかった」
黒い物体を注意深く観察する。
「ねえマーラ。ここへ来る時、スケルトンに会った?」
「いいえ、スケルトンなんていなかったわよ」
「そ~」
「で、デーモンが持っていたのは何だったの?」
「ふ~む。恐らく……収納の類いの魔道具だろう」
「えっ、そんなもん体の中に入れてたの?」
「デーモンにとっては珍しい事じゃない」黒い硬貨を取り出し黒い物体に近付ける。黒い物体は震え始め、音を立てながら上部が開いた。
中には黒い硬貨が2枚。複数の小さな目玉が象られた指輪。何かの書物。そして綺麗に折り畳まれた溶皮紙が1枚入っていた。指輪の目玉が激しく動いている
「箱、持っててあげる」マーラに空になった黒い物体を手渡す「これって何か使えるかな?」
「試してみろ」
黒い硬貨を一枚マーラに手渡す。
「イエナ、向こうでその新しい杖と指輪も一緒に見てみよ」
「うん!」
イエナが嬉しそうにマーラの元へ向かう。
黒い硬貨を手の平で転がし眺める。
地下で拾ったのは古び色褪せ確信が持てなかったが、この黒い硬貨はやはりヘルコインだな。珍しい代物という記憶は生きている。
デーモンスレイヤーらは今でもこれを追い求めているのだろうか。
指輪を眺める。
虚栄か。こいつのせいで気付けなかったのか。デーモンのやることは理解し難い。だがこの指輪はかなり強力だな。状態もかなり良い。かなり腕の立つ鍛冶屋の作品だろうな。
ブラックハンドの拠点で手に入れたヘルコインと共にローブの内側へしまい、虚栄の指輪を指に嵌める。
折り畳まれた溶皮紙を開く。
溶皮紙の外周は何かの骨で装飾され、下部には血の刻印が押されていた。別の小さな溶皮紙も貼り付けられていた。
──綺麗に折り畳まれた溶皮紙。
購入証明書。
誓約と同等の価値を有する。
紛失注意。
ヘルウォッチャーによる監査の際に携行なき場合、地獄の法に基づき処罰の対象となる。
以下の証明書。
解離の剣。鍛造責任者。ゴルム・ゴルド。
虚栄の指輪。鍛造責任者。ゴルム・ゴルド。
──小さな溶皮紙。
いいか、俺は脅されるのが好きじゃない。
誇りを持たぬ鍛冶屋なら手を抜いているところだ。
あんたの父親が誰だろうと、いくら積まれようと関係ない。今度からは他の奴に頼むんだな。
ヘルの法に誓い、あの解離の剣に抜かりがない事だけは保証しておく。
あんたがこの剣を何に使うかは知らないし、知りたくもない。
だから修理が必要でも絶対に立ち寄らないでくれ。
──
折り畳まれていた溶皮紙を捨て書物を開く。
書物は様々な種族の皮膚が縫い合わされ作られているようだった。
──種族の皮膚で作られた書物。
──比較的新しいページ。
アガレスは自らのコレクション以外に関心が薄いようだ。これは私にとっては好都合。
資源の比較的豊かなこの地は、私の計画の一歩として相応しい場所になりそうだ。
正直、誰が皇帝に即位しようと私にはどうでもいいこと。ルシファーの時と同様、皇帝はすぐに取って代わる。それにルシファーの忠臣が消えた今、何の為にお互い争っているのか理解できない。
神共は嘲笑い、このヘルでの紛争を傍観しネクタルでも嗜んでいる事だろう。
なんて愚かな。
──
次のページは開かず、無理矢理こじ開けようとした瞬間、書物が火を上げ、跡形もなく消滅してしまった。
ヘルも随分と賑やかなようだな。




