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「マーラ、そんな冗談言ってる場合?」
「ごめん。こういうの苦手で。とにかく、どうすればいいのか良く分かんないから」
「分かってる。それより何でここにいるのかとか、聞きたい事はあるんだけど。今は彼を助けないと」
「そうよね~」マーラは姿勢を正し両手を腰に当て「ハァー! フーー!」気合いを入れるように息を吐く。
「何か復活させる方法に心当たりある?」
「実は1つだけあるの」
「本当に!? じゃあそれを試しましょ」
「無理よ。死霊魔力を吹き込むって案だもん。それが出来るのは多分リッヂだけ。まあ髭もじゃな魔術師もいけそうだけど」
「じゃあ……とりあえず街に彼の頭蓋骨だけ持ち帰って、何か手掛かりになる書物とか探すのはどう?」
「あ~、その~、イエナ。何かやる前に先に言っておきたい事があるんだけど」
「何? 悪い事?」
「う~ん、従属アンデッドって、主を失うと次第に我を忘れるって聞いた事があって。まあ最悪塵になるんだけど」
「ああ……。それってつまり」
「2人で仲良く紅茶飲みながら読書なんて無理って事」
「…………」
イエナは宙を見つめ、1人考え込んでいるようだ。
「そ、そんな深刻な顔しないでイエナ。解決する方法は別にそこまで不可能な事ではないかな」
「できるの? マーラ」
「あんまり自信ないんだけど。ブラックハンドの拠点にいた時、この頭蓋骨がやってたのを間近で見たの。それなら私はできるし。可能性もある」
「だったら、試すしかないよ。早くやろ」
「でももし間違ってたら、冒険が終わる」
「マーラ。はぁ~。でもどうしてその魔法が分かったの?」
「最近、ほらっ! 私って冴えてるから。その…魔法の感覚とかに敏感で、何となく分かるの。まあこの頭蓋骨に比べたら確かな知識がある訳でもないんだけど。死霊魔力もヴォイドから与えられた訳でもないけど。使うなら私の力じゃ足りないかもだけど。要は成功するか自信がないの。もし失敗したらイエナ。その体は多分……」
イエナがマーラの両手を握る「大丈夫。マーラならできる。やってみるしかない。でしょ?」真剣な表情で励ますイエナ。すぐに顔を背け、俯くイエナ「ごめんなさいマーラ。私は集める事しか手伝えないけど…」
「痒い所に手が届かないわよね」
「うん…」
「はぁ~。よし!いっちょやりますか」
「マーラならきっとできる。だってネクロマンサーになって、デーモンスレイヤーにもなって、アンデッドのマミーとも友達になったんだから」
「ンフフ、ありがとう。イエナ」
マーラが笑顔を浮かべ、イエナの手を握り返していた。
マーラが俺の目の前に手をかざす。
マーラの手から緑の死霊光が現れる。
デーモンを狩った影響か、それとも他の要因か。いずれにしろマーラには才能があったようだな。
死霊光から心地よさを感じる。
次第に目の前の視界は緑の光に覆われていき、意識が遠退いていく。
ここに来るまでに頭によぎる本能のまま物事を進めてきた。本能でただ居場所を求めただけなのか、それならもう十分だったはずだ。
なぜ更に求めたのか。この欲求は生前の自分に関係しているのだろうか。俺は一体、生前何者だったのか。疑問が尽きる事がないな。
どうでもいい事ばかり思い出せるが、大切な事は何1つ思い出せない。
だがある意味、生前も似たような事をしていただけなのかもしれない。
ジャスミンの話が正しければ、ここに何か俺に関係する、或いは関係した人物、または物があるはずだ。
仮にマーラが成功し、俺が復活したとして、記憶を呼び起こす何かが見つかればいいが。
ああ、ヴォイドよ。一体俺に何をさせたいのか。 これもお前の計画している物事の1つなのか。
まったく自分でやればいいものを。
神はどうしてこうも高慢なのか。腹立たしい。
視界を覆う光度が増していく。次第に体へ感覚が戻っていくのを感じる。
マーラ。お前に初めて出会った時は嫌悪感すら抱いていた。初めて会った気がしなかったのも事実だ。だが短い間で随分とお前には興味を抱かせてもらった。
良く考えればあり得ない事だ。マーラがこれほどの死霊魔力を保有しているはずがない。イエナの助けがあったとしても復活させるのは不可能だ。
もしかしたら、ヴォイドが与えているのか? いや、そんなまどろっこしい。現実的ではないか。
だがこの光はマーラでなくヴォイドなのかもしれない。復活ではなく、用済みの俺を虚無へ堕とすつもりなのかもしれない。
次第に視界から光が消えていく。
眩しい逆光が視界を覆う中、視界の先に2つの影が微かに見えてくる。
次第に影がくっきりと浮かんでくる。
マーラとイエナにそっくりだな。
マーラが本当にやってのけたのか。何て事だ。
「はぁ…はぁ…」
ふらつくマーラに肩を貸すイエナ。
「大丈夫?」
「大丈夫。でも激しんどい。何とか成功したみたいね」
俺に片手をあげ、指を動かし、笑顔を見せるマーラ。
「何があったのか覚えていますか? あの吸血鬼ハンターの正体はデーモンで、いきなり私達に襲いかかってきたんです。それで…」
「意識はあった。鮮明に見ていた」
「えっ、じゃあ私がつついたのも見てたわけ?」
「指が腐敗しなくて良かったな」
「怒って、ないわよね?」
「感謝してる。助かったマーラ。大きな借りが出来たな」
「そ、そう。良かった。その顔…いや骨を久しぶりに見たから違和感が凄い。ンフフ、ねえイエナ?」
肩を貸すイエナの方を向くマーラ。
「うん。マーラ。でもアンデッドの目はあんまりそういうの関係ないみたいなの」
「そうなの?」マーラがイエナの手を優しく放し、イエナが支えるのをやめマーラが姿勢を戻す「まあそれより、戦いに行くのなら私にも言っておいて欲しかったけど」
睨み付けてくるマーラ。
「どうやって復活させたんだ?」
「見様見真似で死霊術を掛けたのよ。凄いでしょ」
「ああ、凄い」
「なんて、実はね。少し前に使えるようになってたの。イエナと話し合って魔法とかお互い少しずつ練習しようって言って、まあ、ね!」
「うん」
「なんか普通に使えたって言っても、味気無いな~っと思って。黙って良い機会を待ってたの。謂わばサプライズね」血肉に浸った殉教騎士の皮を拾う「ねえ、本当に怒ってない?」
「怒ってない。少し復活の余韻があるだけだ」
「あ~ん」その場を離れようとする俺の前へマーラが急いで立ち塞がる。マーラは困惑の表情を浮かべていた。かと思いきや軽い怒りの表情へ急変させた「ちょっと! それだけ?」
「あぁ、何がだ?」
「ああ、凄い。なにそれ!」
「他に言いようがないだろう」
「そうじゃなくて。もっと、よくやったな~とか。流石マーラ! 信じられない成長だ~! とか。もっとこう褒めてくれたりしないわけ?」
マーラの目を見つめる。
「立派だマーラ。それとさっきも言ったが、本当に感謝しているんだ。この恩は忘れない」
「う~ん」腕を組んで横を向き、頬を赤らめ目を閉じ、尾を振るマーラ「そうそう、うんうん、悪くない、悪くない。リッヂに感謝されるネクロマンサーなんて今じゃ珍しいもんね~」
「機嫌が直って良かった」
「まあ昔から一種の憧れでもあったし」
片目を開き見てくるマーラ。
「復活して、俺が嬉しさのあまり飛び跳ねるとでも思っていたのか?」
「まあ、それも見てみたい気もするけど。何かこう、ね~」
「望みはなんだ?」
「ほら、騎士は勲章が貰えるでしょ? 良い功績を得れば名声の証しに重要な役職につけるし。私もな何かこう、証みたいなのが…」
「心配するな。考えておく」
「そりゃどうも。でもさ、今日の事が後世にまで語り継がれるかもよ」マーラは両手の親指を首元で立て笑顔で肩を揺らす「流石マーラ! って」
「フフッ。イエナ、ちゃんと杖を回収しておけ」
「はい」
イエナが落とした杖の回収に向かう。
「集結」




