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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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読み終え血糊の引く書物を閉じると、背骨に凄まじい痛みと衝撃が走る。そのまま体の力を失い地面に崩れ落ちてしまった。

手足の感覚はない。だが視覚と聴覚はまだ健在だった。

頭蓋骨が潰されれば虚無へ墜ちる事になるだろう。

だがそれもいいかもしれない。今の俺は自分が何者かもわからない愚かなアンデッドに過ぎない。

自らの記憶を取り戻せる保証もない。

だが妙だな。一向に頭蓋骨を潰される気配がない。被っていた騎士団の皮が剥がれ落ちる。

ルビーとイエナが向き合って対峙していた。

イエナが拾った杖を地面に落としていた。

ルビーの手に持っていた剣が石化し、地面に破片として崩れ落ちていく。地面に落ち、跳ね返った剣の破片が目に入ってくる。

顔つきの変わったルビーが崩れ落ちる剣をじっと眺めていた「壊れた? 手を抜いたわけね。まあいいわ」

明らかに動揺し、ルビーに身構えているイエナ。

ルビーが背中からマグマの血脈が巡る赤い翼を生やし、顔の皮膚が爛れ落ちていく。皮膚が落ちると赤い肌をした女の顔が現れ、額から黒い2本の巻き角を生やした。

「デ、デーモン……」

杖を構えるイエナの表情が強張っている。

「ねえ、お互い戦わないってのはどうかしら?」

「ふざけないで! 絶対に許さない!」

デーモンを睨み付け、杖を強く握り締めているイエナ。

「ふん! これだから小娘は」下を向き肩を竦めるデーモン「まだ分かってないのかしら? あなたの後ろにある扉の先にまだ敵が残っているのよ。私は無駄な戦いで力を消耗させたくないの。ね~、分かってぇ~」

「どうして彼を」

「フッフッフッ」

イエナが翼で飛び立とうとした時、デーモンが片手でイエナの首を瞬時に掴んだ。掴まれたイエナはもがき必死に杖の力を放つ。

デーモンの足元に棘のついた植物の蔓が出現していく。だが蔓がデーモンに巻き付く前に蔓が炎で燃え、消滅してしまった。

イエナが杖を落とし、両手でデーモンの腕を振りほどこうともがく

「クッ! うぅ……」

デーモンがマナドレインを放ち、イエナから魔力を吸収していく。

「あら、意外と魔力持ってるじゃない。有り難く使わせてもらうわね」

「デュ…デュラハン……」

「あ~ん、チッチッチ。向こう側からは見えないの~。ホント残念ね」

不干渉ベールか。盲目耐性のある仮面を着けたイエナしか見えていないのだな。

しかしいくら力を失っていたとはいえ、奴の正体に気付けなかったとは…愚かだったな。生前も少しの油断で殺されてしまったのだろうか。他の複数の気配に気を取られ見落としてしまった。すまないな。イエナ。

アンデッドとしてだが、一時の希望を与えるべきではなかったのかもしれない。


イエナは苦しみながらも腐敗肌を放ち、自身を毒化させた。

「イタッ!?」デーモンがイエナから手を離し、掴んでいた手を痛そうに軽く振っていた「まったくも~。魔力が殆んど残っていないんだから悪あがきなんかしないで、早くどこかへ消えなさい。こっちは万全な態勢で挑みたいっていうのに。あ〜痛い」肩を竦めるデーモン。地面に崩れ落ちた後、上を向きデーモンを睨み付けるイエナ「まったく威勢がいいわね。どうしようかしら」


〘⇄〙

「こうすんのよ!」

天井の柱から飛び降りてきたマーラが降下の勢いに任せ持っていたタクトをデーモンの頭部に突き刺した。

「ンンッ! アァァァァーー!!」

デーモンが痛みで咆哮をあげ、体を大きく振り回しもがき始めた。

突き刺さった際の衝撃とタクトから放たれる魔法でデーモンの顔の肉が裂け、デーモンの片目が飛び出し目の前に転がり落ちてきた。目玉がヘルの炎で激しく燃え上がる

マーラはそのまま勢いを保ち、反対の手に持っていた短剣でデーモンの後頭部から体を縦に切り裂いていき、短剣が背中に達した際にもう一方の手でデーモンの取れかかった翼を掴み、生え際の切れ込みから翼をもぎ取った。

もぎ取った翼の生え際から赤く燃え滾るマグマの血が噴き出し、こちらにまで大量に飛散してきた。鈍い痛みと共に、蒸発音が聞こえてくる。ハイエルフの男の血で染まった地面にデーモンの血が混じり加わっていく。

マーラはすぐさま距離を取る様にジャンプし、悶え苦しむデーモンから距離を置く。

イエナも翼で避難していく。

「グアァァ! アァァァ! アァァァァーー!」

両手を必死に振り回し、金切り声の断末魔を上げながら周囲をさ迷い歩くデーモン。

デーモンの顔面は鼻の肉をえぐるようにタクトの柄が突き抜け、もう一方の目玉も腐敗させていた。

デーモンはさ迷い歩きながら頭部から血肉の混じった粘液を勢いよく垂れ流し始めた。

地面には肉や内蔵が混じった液体が次々と流れ落ち、高台の地面を染めていく。次第に粘液は端まで達し下へ垂れ落ちていっていた。

デーモンの顔面は流れる粘液の勢いに飲まれ崩れていき、次第にデーモンの体が上半身から失われていく。

デーモンの下半身上部まで液状化し流れ落ちていくと、数本の長い牙が肉をえぐっており、中央に多数の種族の歯茎が折り重なりながら出てきた。

多数の歯茎が地面に落ちると震えながら音を立て歯を鳴らし始めた。

デーモンの下半身は力なく両膝を突き倒れ、そのまま液状化し跡形もなく流れ落ちていってしまった。

すべての体が液状化し流れていくと、音を立てていた歯茎が一斉に動きを止めた。

赤く固形化した地面を歩き、近づいてくるブーツ。ブーツの底が光りながら固形化した血肉の地面を進み、デーモンの体があった場所までマーラが歩いていく。

マーラは中央に落ちてある血肉にまみれた正方形の黒い小さな物体を拾い上げると「ほらイエナ。パス」下から軽く投げ、イエナへ放り投げた。

「あっ」

イエナが両手で受け取る。

マーラは血肉が付き、損傷したタクトを拾い上げこちらへ歩いて来る「まったく。仮面って何か鬱陶しいのよね〜」仮面を外し太ももにある革紐に結び付けるマーラ「暗っ。さてと」目の前まで来るマーラ「リッヂさん。今のご気分は?」マーラが前屈みになり、俺の頭蓋骨を軽く撫でてくる。


イエナも仮面を外し、疲れた様子で歩いてくる

「ヴォイドの元へ行ってしまったのかな?」

「たぶん行ってないんじゃない。感じるの」マーラがイエナの方に振り向く「感じない?」

「言われてみれば……少し」

困惑した表情を浮かべ、目が泳いでいるイエナ。

「分かんないけど、時間がそれほど立たない内は大丈夫なのかも」

「そうなの?」

「だから分かんないって」マーラが軽く首を傾げた後、人差し指で俺の口に触れる「いつもならこの口から、有難い知識がわき出てくるんだけど、今はどうも眠いみたい」マーラが何度も口をつついてくる「ねえ、聞こえてるなら何か言ってくんないかな~」


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