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「ふぅ〜、ふぅ〜、ふぅ〜」
「はぁ、はぁ。良くやった」
「ンフフ」
見張り台の残骸と共に肩にボルトが刺さった烙印ノームの死体が地面に転がっている。
転がる烙印ノームにヴォイドの囁きを放ちグールを生み出す。
背後で烙印ドワーフ達を全てを殺し終えたバジリスク、アリゲーターが合流する。手で前進の合図を送り、デュラハンの援護に向かわせる。
2体は血や内臓の切れ端を地面に残しながら洞窟の奥へ猛進していく。
「烙印から死霊術を感じます…。この者達はどうして…」
「俺も不思議に思っていた」
「まさか相手はネクロマンサーですか?」
「いいや、こいつらは生者だ」
「あぁ…。では…」
「対象を操る魔法なら、他にも多くある。だが一番妙なのは、術者の気配を感じない事だ」
「魔道具でしょうか?」
「ああ、可能性はあるな。スケルトン、武器を拾い、ここで身を潜め邪魔が来ないよう見張っていろ。死霊のにおいのする者は例外だ」
スケルトンが地面に転がる烙印ドワーフの剣と盾を拾い、岩場に身を潜める。
アリゲーターとバジリスクが殺した残りの烙印ドワーフの死体にヴォイドの囁きを放つ。
アリゲーターの鋭利な爪やバジリスクの強靭な牙の餌食になった死体はミンチの死体に成り果て、器の状態がすこぶる悪い。
肉片ミンチからキメラ4体が現れる。2体のグールと共に追従させる。
「お前達は脇を固めろ。後ろに続け」
グールが左右に、ミートが追従する。
「…………」
静かにキメラを見つめるイエナ。
「キメラは苦手か?」
「いいえ…。大丈夫です」
「あれとは別のキメラだ」
「はい」
洞窟の奥から戦いの音が聞こえてくる。
奥へ向かう。
閉じられた大きな門を前に、立ち止まっている3体。
デュラハンを頂点に、左右の壁にアリゲーター、バジリスクと三角に配置し、中央に烙印のある死体が山積みになっていた。
「フッフッフッ、あぁ〜、素晴らしい」
俺の鼻笑いに驚いたのか、驚いたイエナと目が合う。
「驚かせてしまったな」
「乗り移られたのかと」語尾が小さくなるが察した様子で切り替えるイエナ「ど、どうかしたのですか?」
「いや、高ぶる感情が抑え切れなくなってな。見てみろイエナ。素晴らしい〜光景だ。こんな光景を見たのは本当に久し振りだ」
無性に懐かしい。
「お気持ちは分かります」
イエナが落ち着かないそぶりで両手を自身の胸に当てる。
「ふむ」
「以前の私なら卒倒して倒れ込んでいたと思います。それぐらい、素晴らしい光景」
「イエナ」
「は、はい…」
姿勢を正すイエナ。
「欲しいのか?」
「いえ…私は別に…。そんなことはないです」
「以前のアレが忘れられないんだろう」
「その…はい。実は…そうなんです」
物欲しそうな顔で見つめてくるイエナ。
「駄目だ」
「我慢します」
イエナは少し残念がる表情でゆっくりと小さく頷く。
手に力を集中させ、死体の山にヴォイドの誘いを放つ。
だが何も起きなかった。
「くそ…」
無理か。死体が足りないというのを願いたいが、明らかに力が足りていない。
先へ進む。
「アンデッドにしないのですか?」
「後でな。絶対に死霊魔力を食うなよ」
不思議そうに目を開き、首を少し傾げているイエナから視線を外し巨大な門を見る。
中で2人待ち構えている。
「デュラハン」
「見えております。いつでも」
デュラハンが槍を構える。
「お前達、左を開けろ」
アリゲーターとバジリスクが左の門扉に体を押し付け、巨大な扉を押し開いていく。
扉に隙間ができると同時に、隙間から複数の火炎瓶が飛んできた。
デュラハンは盾で火炎瓶を受け止め、油で燃える盾を振り払った後、隙間に向け槍を投擲する。デュラハンの投擲した槍を受け、扉の前に身構えていた者の頭部に槍が突き刺さった。背後から多くのシルエットが押し迫ってくるのが見えたが、扉越しに白いシルエットが1つ消えると、黒い球体が手から地面へ落ちていき、すぐさま爆発が起こる。肉片や石の破片が隙間からこちらへ飛散してくる。
「あっ!?」
イエナが少したじろぐ。
「デュラハン」
「御意」
デュラハンが盾を構え中へ向かう。
「続け」
グール2体をデュラハンと共に向かわせるに追従させる。
1体のグールが扉の隙間からこちらを覗いてくる。
「俺に続け」
中に入ると、内部は木製の階段に足場、そして足場の下側に石で囲ったキャンプファイヤーなどが設営されていた。
キャンプファイヤーの周囲には鼠の串焼きが複数立てられ、側には目玉が膨らみ飛び出したメガロケロスの丸焼きがこんがり焼かれていた。
内部の隅には大量の木製の杭が綺麗に積み上げられている。
ヴォイドの囁きを放ち、爆弾でミンチになった肉片からキメラ10体を生み出す。
「また扉のようですね」
キメラに散開するよう合図を送る
「扉は後だ。先に地下に行く」
地面を見るイエナ「うわ!? 沢山いますね」
「ふむ、そうだな。だが少し妙だ」
「そう、ですね。等間隔に密集しているような…いえ四角形に?」
「恐らく牢獄だろう」
「あ〜、そうですね。それにしてもこの魔法の視界はとても便利ですね」
「ああ。しかもシルエットと重なれば、さっきのボムのように物体を推測する事もできる」
イエナは感心した表情で熱心に頷く。
「どうしますか?」
「もちろん向かうさ。デュラハン、イエナ、一緒に来い。他はここで待機だ」
「はい」
デュラハンが盾を構え先導する。
階段を下り、地下へ向かう。
階段の途中で足を止める。
「デュラハン、ここで待て。呼んだら来い」
「御意」
デュラハンが階段の壁に背を付け道を開ける。
イエナが下りていく際にデュラハンの血と油で汚れた盾を凝視し、こびりついた内臓の断片に視線を向けていた。
地下に着く。
「随分と広いですね」
「確かに思ったより広いな。ただの洞窟じゃないのは確かだ」
烙印が警報代わりになり、警備が押し寄せたのは好都合だったな。




