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「効かないさ。俺だけでなく、アンデッドに闇系統は無害だ」
「最高じゃん」
「ところが闇魔法の中には、同時に物理的ダメージを伴わせる魔法も存在するんだ。だから油断は出来ない」
「わお、貴方って本物の魔術師って感じ」
「闇魔法に限った話じゃないからな。お前も気を付けろよ」
「もちろんわかってる。けど戦ってる時って、そんな余裕ないのよね」
「慣れるしかないな。次は武器だ」
片手を上げるマーラ。
「待って、ここに毒に抵抗できる装備はある?」
「無い」
「本当に?」
「ああ」
「実は~」
「有る」
「本当に!?」
「嘘だ」
「フンッ!」
「気持ちは分かるが、ここには無い。別で揃えるにしても、毒には複数の種類がある以上、完全に防ぐのは困難だ」
「かぁー」
少し残念がっているマーラ。
「そのタクトと…」
マーラが腰に差した短剣を取り出す「この短剣」マーラは取り出した短剣を巧みに指の間で動かしていき手の平へと戻す。
「おお、見事だな」
「対人での対1接近戦だと今のところ負けなしよ」
「見せてくれ」
マーラが柄を回し短剣を差し出す。
「ふむ。見事だな。これは相当えげつない短剣だ」
「またまた〜」
「真面目な話だ」
真剣な表情になるマーラ。
「ビックリ」
マーラに短剣を返す。
「俺に向けるなよ」
「そんなに?」
冗談めいた顔をするマーラ。
「どこで手に入れたんだ?」
「内緒」
マーラが短剣を納める。
「短剣の方がしっくりくるのか?」
「まあね。重いのは嫌だし合わない」
「その短剣があれば、ここのは見劣りするだろう。盾はどうだ? 反対は手持ち無沙汰だろう。軽い盾なら合うかもしれん」
「どれも重そうよね」盾を片手で持とうとし、しっくりくる物を探しているマーラ「重っ! こんなの持って戦ったら良い的よ。走り回れない」
「片手で敵を魔法で吹き飛ばし、もい一方の手で魔法を使い防ぐのを鍛えた方がいいな」
「華麗には行かないだろうけど、努力はしてみる。それより貴方は?」
「お前が終わったらな。他に無いようなら最後は仮面だ」
「宝飾品は?」
「有翼の指輪が1つ有っただけだ。誰かが持ち出したんだろう。まあ着飾りたいというのなら、好きにするといい」
「そっか。仮面はどれをつければいいの?」
「お前は…これだろうな」
銀色の無表情で目を大きく見開いた仮面を取り、マーラへ手渡す。
「なんか不気味じゃん」だが仮面を躊躇なくつけ「どう?」と両手を腰に当て胸を張るマーラ。
「悪くない」
「ンフフ、嘘でしょ。流石にセンスなさすぎ」仮面を外し仮面を見るマーラ「もうちょっとデザインとか、どうにかなんなかったのかな〜」
「それは暗闇でも視界が利く仮面だ。今のお前には有用だろう」
「そりゃ便利! でも今着けてみたけど、そうでもなかったけど?」
「暗闇だとじんわりと効果が現れてくるはずだ」
「ふ~ん。よし!」胸の前で両手を合わせ音を鳴らすマーラ「今度は貴方の番ね」
「ああ。だがもう決まってい……」
マーラが意気揚々と右手前の鎧棚へ行く「これなんてどう?」
「その棚は前衛用だ。デュラハンにやる」
「デュラハンって脱ぐの無理じゃなかったの?」
「ドラゴンも、鱗の上から鎧を着けるだろう? それと同じだ」
「そう……ね」
「うん? 俺は後方にいる事が多い以上、そんな動きにくい防具は不要だ。もっと有益な物がある」
「分かるわ。前衛ですら鎧って鬱陶しいもの。動きにくいし、重いし。じゃあやっぱりローブ?」
「ああ。だがここには、これと言って目に止まるような物はない」
前方の棚へ行くマーラ。
「本当ね。誰かが宝飾品を持ち出してる」カタ…「うわっ!? 何これ…」マーラが地面をじっくり見ている。
「触れるなよ」
マーラの元へ行く。
「これ一体なに?」
「恐らく鼠の骨だろう。触れても大丈夫だ」
「鼠?」片膝を突き鼠の亡骸を見るマーラ「ん~、ん〜? 棚の下に何かある。羊皮紙? と小瓶?」
「羊皮紙を見せてくれ」
マーラが棚の下へ手を伸ばし、羊皮紙と小瓶を取ろうとする。カチッ「あっ…」室内に音が響き、部屋の中央のタイルが少し浮いた。マーラが羊皮紙と小瓶を取り、急いで棚の下から腕を抜いて立ち上がる「まったく。トラップだらけじゃない。はぁ~、腕がなくなるかと思った。はい」
マーラが羊皮紙を差し出し、受け取る。
──汚れ塗れの羊皮紙。
モンタグにしてやられた。
あいつのせいで宝物庫から出られなうなった。
与えし者がアクアヴィテのブラックハンドの救援に向かった途端、私の後頭部を殴ってきた。
あいつはずっと機会を伺っていたんだ、間違いない。
幸い日頃から鋼のベール等の変性魔法で常に身を守る術を心掛けていた私にとって致命傷とならなかった。
これもヴォイドの加護のおかげだ。
救援に向かった部隊が戻ってきたら、この宝物庫から出してもらおう。
それからモンタグの首をひねり潰しに行く。
部隊の帰りがやけに遅い。
戦利品が多く、手こずっているのだろうか?
もうやる事がなくなってしまった。
このままでは宝物庫から宝飾品を奪っていったモンタグが逃げ仰せてしまう。
これを書き終えたら、体をスライムに変化させる試験薬が手元にある。それを使ってここから脱出を図るしかない。
奴らを逃すわけにはいかない。
──
羊皮紙を読む中、マーラが小瓶を棚に置いて中央へ向かって行く。
「ねえ、良い物見つけちゃった」マーラが中央で得意気な表情をして手招きしている。
読み終えた羊皮紙を棚に置き、マーラの元へ行く。
「何だ?」
「これよ」タイルの側で二度、右足で足踏みするマーラ「さっきから気になってたんだけど、足音がしないの」再度軽く足踏みをするマーラ「ほらね」
片膝を突き床下の金庫を探る「ブーツに足音を消す効果があったんだろう。それよりこの金庫をよく見つけたな」
全体的に黒く、青く輝く装飾が施されているローブ、グローブ、ブーツ。そして小袋と羊皮紙が一枚入っていた。
「まあ、それは偶然ね。でも流石マーラ! って言ってくれてもいいよ」笑顔で両手を左右に振り、首と体でリズムを取るマーラ。
小袋を取り、縦に軽く振る。
硬貨の音がする。
羊皮紙をローブの上に置き、装備一式を金庫から拾い上げる。
「そのローブ見せて!」
マーラが興奮気味に折り畳まれたローブを軽く掴み観察する。
「また紋章のようだな。さっきとは少し違うみたいだ」
手形、親指の部分が強調され刺繍されている。
「これは与えし者の装備よ。まあ、貴方にはお似合いね」
「お前のとはどう違うんだ?」
「コホン!」わざとらしく咳払いするマーラ「良い? この紋章はブラックハンドの各々の役職を示しているの。指は示す役職を強調している。だから私のは奪いし者」片手を自らにかざす「貴方のは与えし者」俺を人差し指で差す「与えし者が親指、奪いし者が人差し指、中指が……」
「なるほどな。だがマーラ、続きはもういい」
「んー!」
胸の前で右手の拳を握り、左に勢いよく振るマーラ。
ボロい革の装備を脱ぎ捨て、与えし者の装備を身につける。
傍らまじまじと見てくるマーラ。「骨しかないぞ」
「残念よね~。それよりスケルトンじゃなくてリッヂ、よね~?」
「何を今更、スケルトンはアンデッドを生み出せん。愉快な会話もたしなめんだろう」
「でも私の知っているリッヂとは違うから。少し引っ掛かっちゃって」
「大勢のリッヂを見てきたのか?」
「それは……まあそうね」
装備を着終える。
「ニアッテル、サイコー、カカカッコイイ!」
「アリガト」
金庫に入っていた折り畳まれた羊皮紙を開く。




