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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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テーブルに置かれた白い林檎を手に取る。

林檎の底はテーブルと癒着しており、白い糸を引いている。

林檎は表面にしわができ、黒い斑点が全体に浮き出ている。黒い斑点から細長い生き物が出てきた。生き物はそのまま体をうねらせながら地面に落ちた。

林檎から少し離れテーブルの上には古びた羊皮紙が幾つか広げられていた。

林檎をテーブルに置き、広げられた羊皮紙を読む。


────色褪せた羊皮紙。

緊急。


こちらは既に騎士団の襲撃を受けた。

負傷者が多く、我々が撤退するのは困難だ。

こちらが持ち堪えている間、そちらから援軍を送って欲しい。


アクア・ヴィテの与えし者。ルド・ローカン。

ロクスソルスの与えし者へ。

────


────腐敗した羊皮紙。

最早残されているのは我々とそちらだけのようだ。

多くの支部が騎士団によって壊滅させられた。

同胞達は光輝の炎によって民衆の前で火あぶりにされ、ヴォイドの加護を失っていってしまった。

我々は同胞を見捨てることしかできなかった。


これ以上は腐敗していて読めない。

────


マーラの言うように、ブラックハンドは騎士団との戦いに破れたようだな。

この手紙を受け取る生存者が残っていたこの隠れ家に、長らく誰も訪れていないという事はもう壊滅したのかもな。


部屋の奥にある数段の石階段を上がり、別の部屋へ行く。

最初の部屋より広々としている部屋は円形になっており、中央を取り囲むように様々な器具が設置されていた。

「ここ凄いわ! 錬金台やエンチャント器具、簡易的な鍛治場まである!」

マーラが両手を胸に当て、尻を振りながら嬉しそうに周囲を見回している「見て、錬金台のところにメモがある」マーラは錬金台の方へ行き前屈みになる「ふ~」手紙に積もった埃を息で吹き払うマーラ「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」マーラが咳き込みながら手を扇ぎ、錬金台に背を向け離れていく。


錬金台に置かれたメモを読む。


──古びたメモ。

モンタグの言う通りだった。

この特異なスライムの習性には隠された部分が存在している。

偉大なる魔術師リーケンが指標していた事をようやく理解する事ができたかもしれない。


この特異なスライム達は、死人や死んだ魔物を食すと共に、体内に魔力とは別の何か、おそらく死霊魔力と呼ばれる物を取り込み、溜め込む事が可能なようだ。

これは目覚ましい発見だ。

アンデッドに精通する我々ですら気が付いていなかった事実。

リーケンがどうやってこの事実に気付いたのかは不明だが、これはアンデッドの祖であり虚無の神であるヴォイドに繋がる足掛かりなる事は間違いない。


しかし現段階ではリーケンが示していたのはこのスライムの死霊魔力特性を有効的に活用し、かつ効率的に回収することにあったと思われる。

つまりスライムの養殖だ。

リーケンはこの収集した死霊魔力でどんな魔道具を生み出したのだろうか。

1人の錬金術師に過ぎない私にとってはリーケンの様にエンチャントや鍛治の事まで理解が及ばないのは非常に残念な事だ。


より知識が深まれば、いずれヴォイドへと行き着き、強大な力を得られるかもしれない。

──


あの変わったスライムはこいつらが養殖していたのか。


デュラハンとマーラが閉じたドアの前で立ち止まっている。

錬金台を離れドアへ向かう。

「どうしたんだ?」

「開かないの」ドアを何度か叩くマーラ「ただの壁で、象られてるだけかな?」

「ふむ、見てみよう」

デュラハンとマーラが道を開ける。

ドアから僅かに共鳴を感じる。

右手をドアに当て、死の記憶を放つ。

岩の動く音と共に、ドアの仕掛けが動き室内が揺れた。

「相変わらず凄い。よく分かったね」

「試しただけで偶然だ」

澄まし顔で目を閉じ、腕を組み何度か頷くマーラ「自慢じゃないけど、私も分かってた」片目を開き、右手の人差し指を立てる「死霊魔力に反応したんでしょ?」


デュラハンに顎でドアを示して合図を送る「そうらしいな。趣味が遺跡巡りだったからか?」

デュラハンが両足で踏ん張り、両手でドアを強く押していく。

「経験は浅いけど。まあ、そうなるかな」

「罠が無くて良かった」

「死んでアンデッドになってたかも」

デュラハンが分厚いドアを開け終えた。

「確認してこい」

「は~い!」

「お前じゃない」

「軽いジョーク」

デュラハンが奥の部屋に入り、少ししてからデュラハンが閉じた側のドアをノックしてくる。

「行こう」

「あ~! 胸がシキシキする~」

「ドキドキだろ」


部屋へ入ると、両サイドの通路は瓦礫で埋まっていた。

ドアから正面の奥の壁にもたれかかり倒れている骸骨が視界に入る。

骸骨の側には何かが落ちている。

「広っ。まだ部屋があるなんて。ここはなんだと思う?」

「さあな」

壁にもたれ掛かり倒れている骸骨の元へ行き、落ちている羊皮紙を拾う。


──朽ちかけた羊皮紙。

この地下通路までユースティティアの信徒が迫ってきている。

ドアを封鎖し、宝物庫に隠れようとしたが、既に魔法を放つ力はおろか立ち上がる力すら残っていない。

ヴォイドは私達を見捨てた。

夫からも音沙汰がない。

今や与えし者はヴォイドの使者であるリッヂがいない。

私が目を閉じたら、私の魂は一体どこへ送られるのか分からない。

それが恐怖で仕方がない。

光輝の神々の元へ送られ、未来永劫苦痛を受け続けるかもしれない。

願わくばヴォイドの元へ行き、そしてリッヂとして蘇り、娘のマーラの成長をこの目で見届けたい。

赤子だったマーラをあの遺跡に1人、置いてきたことを酷く後悔している。

強力な封印は掛けたけれど、解かれるリスクは消えていない。

これ以上は文字が掠れていて読めない。

──


ここで力尽きたか。

【⇄】マーラに知らせるべきか否か。


辺りを見回しているマーラの元へ行く。

「マーラ」

「どうしたの?」

羊皮紙を差し出す。

マーラがそっと受け取った。


マーラの元を離れ、周囲を探索する。


どちらの通路も瓦礫で完全に埋もれてしまっている。下手に動かせば落盤する可能性があるな。

長期的な拠点としては不向きか。

どちらにしろ利便性があまり高くないな。

羊皮紙を読み終えたマーラを見る。

「大丈夫か?」

羊皮紙を折り畳んで腰のバッグにしまうマーラ

「ええ。まあ…大丈夫かな」

息を吐き、明らかに動揺を隠そうとしている様子のマーラ。

「そうか」

片膝を突き、骸骨の頬骨を優しく撫でるマーラが「ねえ!」と突然叫ぶ。

「どうした?」

「母…いえ、骸骨の背の壁のところに小さなスイッチみたいなのがある」

壁のタイルを凝視する。

「確かに、このタイルだけ妙だな」

「私向こうの部屋に行ってるわ。罠とか、怖いし」

マーラが前の部屋へ戻っていく。


マーラが出るのを待ち、タイルを押す。

岩が動くような音と共に室内が揺れ、振動で骸骨が倒れた。骸骨がもたれ掛かっていた壁がスライドし、更に奥にある部屋が現れた。

「見てみろデュラハン。宝物庫だぞ」

「恐悦至極」

デュラハンを先導させる。

「おっと、マーラの母を踏むなよ〜」

デュラハンに続き、宝物庫に入る。

宝物庫はこぢんまりとしており、両サイドと正面には七段程の棚が綺麗に中央を囲うように配置されていた。

棚は道具や装備が敷き詰められている事はなく、割りと隙間が多かった。

「イエナを呼んで来い」

「御意」

デュラハンがイエナを呼びに宝物庫を出る。

目ぼしい物がそれなりに有りそうだな。

左の棚から順に見る。

杖を手に取る。

これは俺の背丈程はある大きめの杖だな。

全体的に深い色の樹木。持ち手以外が捻れている。先端にはフェイの黄色い結晶が備えられていた。

杖を見ているとイエナが急ぎ宝物庫へ入ってくる

「お呼びでしょうか?」

「この杖を」

イエナに杖を手渡す。

「は、はい」

少し戸惑いながら杖を受け取るイエナ。イエナが地面に杖を軽く突き立てる。

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