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「そうだな。お前の言う通りかもしれん」
「…………」
マーラの険しい表情が一瞬で和らぐ。
「お前の言う通り、会った時から隠していた事がある。俺は恐らくリッヂじゃない」
「また適当な事を。こっちはマジで話してるの。馬鹿にしてるの?」
睨み付けてくるマーラ。
「俺にはヴォイドの声も、主の声も聞こえない。誰の指示も受けていないんだ。お前と同じで自らの意思のまま行動している」
「はっは〜、それ冗談のつもり?」
「いいや本当さ。自分でも信じられないがな」
テラスの柵に腕を置き空を眺める。
少ししてから、落ち着いた様子のマーラが隣に来る。そして同じく柵に腕を置き空を眺める
「それって孤独じゃないの?」
夜風が心地よく吹いている。
「ある意味な」
マーラを見る。
「じゃあ、なんで蘇ったか分からないだ」
「ああ」
空を見上げる。
「そう。じゃあなんで行くわけ?」
「答えが欲しいからだ。何か分かるかもしれないという希望がある」「本当に何も覚えていないんだ。自分が何者で、どんな事をしてきたのか。この世界を知っているような口ぶりだったけど、実際はそうじゃないだ」
「そっ、ただの愚かなアンデッドだ」
「その……」俯いた後、顔を上げこちらを見るマーラ「さっきは言い過ぎたかも、ごめんなさい。つい感情的になっちゃって」
「気にしていないさ」
「あ〜ん、だったら貴方が少し羨ましいかも」
「何故だ?」
「ある意味鎖のない、新しい人生ってわけでしょ?」
「見方を変えればそうだな。だが過去からは逃れられない。事実だけは変わらない。それを知らないんだ」
「でも……そっか。辛いよね」
「お前に言われると悲しい。悪く取るな」
「ンフフ、まあそうよね。あなたから見れば、私なんて生きた内にも入らないもんね」
「お前の話も聞こうか?」
「別に私は……話す事ない」
「それは不公平だな」
「勘ぐり過ぎ、別にやましいことなんてないって」
「なら聞かせてくれ」
「そんなに私の事知りたい?」
「ああ。というのも、遺跡で会った時、初めて会った気がしなかったんだ。それがどうも引っかかっていてな」
「プッ、それだけ?」
「忘れるな。俺はかなり長生きなんだぞ」
「そ、そうだった。ごめんなさい。でも、笑えるもん。ンフフ」
「これから一緒にいるわけだし、気が向いたら話す。今言えるのは私なりの答えを探してるってことだけ」
「さっきから食べてるそれはなんだ?」
「向日葵の種よ」
「家畜の餌を食べてるのか?」
「ンフフ、まあね。意外と美味しいよ」マーラが片手に持つ袋を揺らし、俺に近付ける「食べる?」
「いやいい」
「そっ」
「よく食べるのか?」
「わりと口が寂しい時。摘まんでる。あと南瓜の種も美味しいかな」
「ふ~ん。ある種の名残りなのか?」
「さあね。でも言われてみれば、私達以外はあんまり食べてないかな」
「死霊術と無縁の人生を送りたいと思った事は?」
「そんなこと考えた事もない。けど、普通の暮らしをしてたら、どうなってたんだろうって、思うことはあるかな」
── Ⅳ章『ブラックハンド』──
過信するな。我々は想像以上に脆い。『慈愛と祝福』より。著:ゼムノース:マスタークレリック。
マーラと共にロブスター亭を後にし、下水へ向かう為街の外周を進む。
「じゃあただ、生き残る為ってこと?」
「端的に言えばそうだ。お前たちと変わらない。ヴォイドの声が聞こえないのなら、自ら行動し、己の身を守るしかない」
「貴方がヴォイドの代わりにアンデッド達を導いたら?」
「恐ろしい事を言うな〜」
「ヴォイドに干渉されていないリッヂなんて、貴方しかいないと思うし」肩を竦めた後、遠くを見つめるマーラ「私はどうなると思う?」
「神に運命を握られないよう、変えていけばいいさ」
不思議そうな顔でこちらを見つめるマーラ。
「それもいいかもね。もちろん貴方もよね?」
「ああ、神の為でなく、己の為にな」
少し後…。
「こんな所にも地下の入り口があるだなんて」
歩きながら周囲を見回すマーラ。
「知っていたのか?」
「冒険好きだしっ。まあここじゃないけど、あるのは知ってた」
「地下は危険だぞ」
「大丈夫、お荷物にはならないから」
「いや、ただ心配だっただけだ」
「そう。やっぱり根は優しいのね」
「まだ分からん。その服もオートマトンが乾かしたのか?」
「そっ。でも厄介よね〜」
「何がだ?」
「衛兵用のデカいオートマトンは熱風を吹くって聞くし」
「あ〜あ。蒸気で生きたまま肉が焼けるのは痛いだろうな」
「う〜ん、想像したくない」
「着いたぞ。ここだ」
周囲を確認し、手に魔力を集中させ念動を放つ。念動でウルカヌスが象られた円形のマンホールを動かす。
動くマンホールを注視するマーラ。
「ガル!」
マーラの背後でモートが吠える。「あっ!? ビックリした。モート、脅かさないでよ~」
「マーラ」
「イエナ!」
イエナの方へと嬉しそうに尾を立てて駆け寄るマーラ。
「う~ん、無事で良かった。元気そうで何より。随分と離れてたもんね」
イエナを抱きしめ顔を擦りつけるマーラ。
「そんなに離れてなかった」
イエナが笑顔を見せる。
「ンフフ、でも寂しかったのは本当だよ」イエナを抱き締めたままこちらを向くマーラ「それで? このマンホールからみんなで仲良く入るわけ? 私でも分かるんだけど、これはどう考えたって入らないと思うけど」
「これは入り口を開くただの仕掛けだ」
イエナを抱きしめるのをやめるマーラ「あ~あ! なりほろね〜」
マンホールに象られたウルカヌスの兜の尖った部分と周囲に彫られたハンマーの印をマンホールを回転させて合わせる。
マンホールが白く輝き、石の音と共に前方の地面が沈み、左右各々に分かれスライドしていく。
そして地下へ続く大きな石の階段が姿を現した。
蜘蛛が通れる程の幅はあるようだ。
「わお、すご」
マーラが仕掛けを眺め呆然としている。
「アリ、ミート、先行しろ」
アリゲーターとミートが階段を降りていく「モート、蜘蛛の背中にいるデスフラワーを下ろせ」
「ガル」
階段の先を注視しているマーラ。
「ねえ……」
「怖じ気づいたか?」
「そんな事ない。そうじゃなくて、少しでも灯りがないと何も見えないの」
「はぁん」
「マーラ。大丈夫よ」イエナが蜘蛛の方まで行き、蜘蛛の繭からカンテラを取り出す「はい」
「あ~あ! ちゃんと拾っておいてくれたんだ。あの時すっかり置いてきたんだと思ってたから、助かった。イエナありがと」
モートがデスフラワーを丁寧に抱え、ゆっくりと下ろす。
デスフラワーは楽しそうにモートの腕の中で手足をバタつかせている。
「マーラ、デュラハンの後ろに。極力足元以外照らすなよ。それと物音がしたらすぐに灯りを消せ」
「分かってる。分かってる」
嬉しそうに魔法でカンテラに火を灯すマーラ。
デスフラワーを下ろし終えたモート。
「デュラハン、2人を守れ」デュラハンが頷く「よし行け。デュラハンの後に続け」
「イエナ、行こ」
「うん」
「バジリス、このデスフラワーを口に入れておけるか?」
「シャッ」
舌を出すバジリスク。バジリスクは大きな口を開けデスフラワーを飲み込もうとする。ガタガタと震えるデスフラワー達。隣のモートが軽く片手を上げる。するとデスフラワーの震えが収まり、無事にバジリスクの口を受け入れた。口に入った後、バジリスクの口内から手を振るデスフラワー達。
「モート、こいつらの面倒を任せたぞ」
「ガル」
「よし行け」
蜘蛛の方へ行き顔を撫でる。そして蜘蛛の負傷具合を見る。
「人間のナイフ程度では、まったくお前は問題ないようだな」
「ギュルル」
「後ろから何者かが来たら、歓迎してやれ」
「ギュル」
「俺の後に続け」
蜘蛛が入り口の奥へ行くのを待ち、壁にあるレバーを下ろし入り口を閉じる。閉じていく階段を降り、待っていた蜘蛛の下を通り抜け先へ進む。




