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── Ⅲ章『カタルシス』──
何かを成し遂げる時、必ずしも仲間が必要とは限らない。『争乱の記憶』より。著者:アダテ:マスターバトルメイジ。
人通りの多い中心街へと近づいてきた。
街はフェイの灯火魔法で溢れ、所々から魔法による光で暗闇が照らされ始めた。
ドワーフがフェイの魔法で自らの街を灯しているとは。何とも不思議だな。
噴水と共に建てられているウルカヌスの像がフェイの魔法で幻想的に彩られている。像の周囲に植えられた花壇には、フェイの灯りに呼び寄せられたホタルが舞っていた。
この噴水の広場を右に、そしてロブスターが描かれた目立つ看板…ああ、あれか。
建物の正面に大きくロブスターが描かれた看板が飾られている。独特なデザインかつ不釣り合いなピンクの花弁が頭に添えられている。
ノームも妙な物を作るものだ。芸術は理解できんな。
木の段差を登り、入り口のスイングドアを抜け中へ入る。
仕切りがなく広い建物内には多くのテーブルと椅子が置かれ、大勢の種族が食事をしながら談笑を楽しんでいた。衛兵の姿も多く見られる。
マーラを探しつつ、奥のカウンターへ向かう。
いないな。獣人が少ないな。
簡易な見せ場では、各々異なる種族の女が肌を露出させ踊っていた。
見せ場の側では吟遊詩人がバンスリ、タンブラ、リュート、チェロなどで陽気な曲を奏でている。
演奏と共に聞こえるのは様々な種族達の談笑、皿を重ねる音、カトラリーの皿をつつく音、そしてジョッキをテーブルに戻す音。騒がしく、かなり賑わっている。
平和だな。
奥のカウンターを見るが、マーラはいないようだ。
マーラはともかく、あいつが持っていた短剣が気掛かりだな。
あれが酒場のオーナーか。随分と個性的だな。カウンター内側で洗い終えたジョッキを布で拭き、ウェイトレスやコックに指示を出している。やはりオーナーのようだな。
オーナーと思われる人物に近づくと目が合う。
「あら、この辺じゃ見かけない顔ね~」オークのような体格に、戦士のような強靭な顔つき、だが不釣り合いな花柄のエプロンを身に付けている人間の男。
顔には多くの古傷があり、男が自身に多くの変性魔法をかけているのを感じ取れる。
「ここのオーナーか?」
「ええ♪ そうよ~♡」
ジョッキと白い布巾を置き、酒場のオーナーは片手を胸に当てた
「私はここロブスター亭で、バーテン兼オーナーを務めている、ビッグママよ。覚えておいてね。ウフッ♡」
ウィンクするビッグママ。
「そうか。友人とここで待ち合わせをしているんだが、見当たらなくてな。茶髪で、無駄に頭からも耳を生やしてる獣人の女だ。知らないか?」
「さあ~、知らないわ~。ここは見ての通り人が多いからね~。それに私は女には興味がないから」
このビッグママとやらは妙な感じだ。くだらん嗜好とは別に、何か感じる。
ビッグママは別のジョッキと白い布巾を取り、目を閉じジョッキを拭き始めた。
「酒を頼む」
銀貨を2枚カウンターに出す。
酒場のオーナーが目を開ける。
「何にする?」
「一枚分。酒は任せる」
カウンター下の棚から取り出した酒を注ぐビッグママ。そして目の前のカウンター前に酒の注がれたジョッキが置かれる。
「上物よ。ウフッ」銀貨を二枚カウンターの内側に入れるビッグママ「そういえば、浴場の12にそんな子が向かって行ったわね」
「邪魔したな」
「また来てくれるわよ、ね♡」
最後の言葉が野太いが、満面の笑みだ。
別のカウンターの方で人間の男がドワーフの女を連れ手を上げている「こっちにエールを2杯頼む!」
「はいは~い!」ビッグママが手を上げた男の方へ向かっていく。
側の椅子に座っているドワーフの男に声を掛ける。
「あんた、酒は好きか?」
「なんだてめぇは」
「これをやる」
前に置かれた酒を顔で示す。
「おお~! マジか~! ありがてぇ~な~!」
男は満面の笑みでジョッキを掴み、勢いよく豪快に飲み干していく。そして腕で濡れた髭を拭う「あぁ~! こいつぁ~かなりの上物だ。ヒック、ガッハッハッ! あんた良い奴だな。気に入ったぜ!」
「浴場はどこか知ってるか?」
「ああ! ほら、あそこだ」
男が親指で示す。
「誰でも入れるのか?」
「ああ、もちろんだ。まっ相応の金がいるがな。ハッハッ! ここは初めてか?」
「そんなとこだ」
「ああ、ヒック! 女と入るつもりなら、魔法を掛けんのを忘れんなよ」
「魔法?」
「ああ、錠前みたいなもんさ。ルーラル地域にしちゃあ、ここはきっちりしてんだ」
「そうか。助かった」
「こっちこそ酒をありがとな」
カウンターを離れ、浴場へ向かう。
呑気に酒場で風呂か。
浴場へ繋がるドアへ向かう。ドアの先は個室になり更に奥へ続いていた。
1人の女ドワーフがテーブル側の椅子に座っていた。
「どうもー。銀貨5」
気だるそうに女が話しかけてくる。
念動で銀貨を5枚取り出し、テーブルに置く。
「どぞ」
17に光る小石を雑にテーブルへ置く女。
小石を受け取り、奥のドアへ向かう。
「ごゆっくりー」
銀貨を回収する音が聞こえる。
扉を抜けると、多くの個室が設けられ、各々のドアの上には数字が魔法で浮かび上がっている。
風呂上がりのシャーグ達とすれ違う。
「噂には聞いてたが、ドワーフ達は風呂の世話まで機械にやらせるんだな」
「ナニもって噂だろ」
「ハッハッハッ」
通路には個室ドアの開閉で漏れた蒸気が時より漂ってくる。
通路の上部には魔法石が等間隔に埋め込まれ、蒸気をゆっくり外部へ排出していた。
マーラのいる個室へ行き、個室のドアをスライドさせ入る。
中は思いのほか広くなく、半透明の白い魔法の障壁が正面を塞いでいた。
念動で後方のドアを閉める。
「合言葉をどうぞ」
魔法の障壁に水紋が走り、言語を発する。
「ふむ」
合言葉か。
「ブラックハンド」
「一致しません」
「ディアーナを称えよ」
「一致しません」
「シーラセラーイ」
「一致しません」
意外と分からんもんだな。
魔法障壁に手を翳すと、手が障壁を通過した。
そのまま障壁をすり抜ける。
アンデッドには効果がないのか。
少し残念だな。所詮酒場の浴場か。
もう少し楽しみたかったな。
障壁の先は脱衣場になっていた。
足元を四角い胴体から二本ずつ手足の出た小型のオートマトンが通り過ぎていく。
オートマトンの向かう先で別のオートマトンがムクロジの実を大量に入れた桶で服を洗っていた。
桶は白い泡で溢れ、オートマトンも泡に包まれている。
白い泡から2つの橙色に光る目がこちらを見てくる。
何かにおうな。
強い花の香りだ。




