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──羊皮紙。
この手紙が無事届く事をヴォイドに祈って書いた。まあ特別信仰しているわけじゃないが。祈って損はないだろう?
本題だ。
配達人からこの手紙と大きな羊皮紙を各々受け取ったはずだ。
大きな羊皮紙は街の地下、取り柄アンダーグラウンドの地図だ。知ってるとは思うが、街の地下だけでなく周囲の森にまで繋がっている。全体像はあまりに大き過ぎる。断片的だが、他の区域の地図が欲しい場合はまた声を掛けてくれ。
その地図の見方だが、右下の◯が侵入口になる。
もう1つが安全な街への入口だ。
侵入口は左上に街の簡素な地図と下水への入り口を書いておいた。
アンダーグラウンドはこの都市が建てられた当初は使われていたが、今は忘れられ、使われていない場所だ。魔物には十分気を付けてくれ。まああんたなら心配ないだろうが。
×印は不安定な通路を示した。
ドクロは崩落した通路だ。
△は魔物が多く巣くっていると思われる箇所になる。
☆印だが、そこは昔、ブラックハンドが使っていた拠点と思われる場所だ。
詳しくは知らないが、あんたなら気になると思ってな。
以前、そこへ部下を送り、内部に入ろうとした事があったんだが、どうしても扉の開け方が分からず中には入れなかった。
リッヂのあんたなら何か知ってるかもしれないしな。
中に入れたら何があったか酒を飲みながらでも教えてくれ。
健闘を祈ってるよ。
モーク
──
「使える奴だ」
「ガル」
もう日が沈みそうだな。実に短いな。
有限の時の感覚が、少し残っている気がする。
「もう洞窟に戻れ。他の者と少し待っていろ。合図を送ったら、すぐに俺の元へ皆を連れてこい」
「ガル」
「向かう際は隠密だ。注意しろよ。近くまで来たら、同様にこの顔のにおいを辿れ「よし、もう行け」
モートが森の中へ消えていく。
一旦街に戻るか。
ノームの兄弟がいた街の城壁の潜り路へ戻る。
下りた鉄柵扉を叩く。
「おう、あんたか。待ってろ。いま開けてやる」
ノームの兄がレバーを引き、鉄柵扉が上へスライドする。
通り抜けるとすぐにレバーを戻し、鉄柵扉が下りる。
ノームの兄がこちらの方へ来る
「で、どうだった? 収穫があったのか?」
「関係していそうな集団を見つけた」
「おぉ。マジかよ。どれぐらいいたんだ?」
「それなりにいた。半端な兵力では手出ししない方が良いだろう」
「不安だな」
「この城壁とこの兵力、街は大丈夫だろう」
「一先ずは安心ってことか」
「また兵を送るのか?」
「詳しくは知らんが、まあそうだろうな。だがここの総督は問題に極端に無関心で困る」
愚痴をこぼし腕を組むノーム。
「それほどなのか?」
「俺がこの扉を開けたまま昼寝するぐらいさ」
「そいつは相当だな」
「前の総督の時は、そりゃあ良い街だったさ。今みたいに問題ばかり起きやしなかったしな」
「烙印以外にも問題があるのか?」
「そりゃもう山積みさ。この烙印に」拳を握り人差し指から立て数え始めるノーム「連続殺人だろ。吸血鬼が街に潜んでいるという噂に、子供の誘拐。それから…」
「まだあるのか?」
「ああ、だから言ったろ。山積みだって。あんたも気を付けな。この街は見た目以上に芯まで腐ってるからな」
「お前はこの街を出て行こうと思わないのか?」
「そりゃ出て行きたいさ。だが金が貯まるまで我慢してんだ」
「もうすぐこの街は良くなるさ」
「だといいな。まあ誰でも希望は抱くものさ」
「聞きたいんだが、ロブスター亭とやらを知っているか?」
「当たり前だろ。有名さ。この街の住人なら誰でも知ってる」腕を組んだまま片手を組み外し、手の平を広げるノーム。
ノームにロブスター亭の場所を教えてもらった。
「助かった。お前も気を付けろよ」
「ああ、じゃあな」
ノームは鉄柵扉側の壁へもたれかかり、腕を組んで目を瞑った。
その場を離れ、マーラのいるロブスター亭を目指す。
中心街から離れたこの場所は、この時間帯故に人影がまばらになってきているようだった。
道の端にテーブルが並べられ、青色の天幕の張られた露天が目に入る。
「毎度あり〜!」人間に叫んでいた少年が近付いてくる「ね、ねぇそこの旅人さん。僕の店をちょっと見てってよ!」
青いローブを着た人間の少年。ケリーと同年程だ。だが妙だ。
笑顔で手招きをし、天幕の方へ後ろ向きに歩き向かっていく。
「悪いが忙しい」
立ち去ろうとすると、少年が目の前まで駆けてきた
「アンデッドは時間をあまり気にしないでしょ?」
「何故そう思う?」
「あんたから死人のにおいがするからさ。特にその顔からね」
俺の顔を指差し、皮肉めいた笑顔を浮かべる少年。
「アンデッドを目の前にしても動じないとは大した度胸だ」
「へっへっ、あんがと」
人差し指で鼻を横にかく少年。
「それで商品はなんだ少年」
「おいらの名はルイン。言うまでもないけど、この店の店主さ」親指で自分の顔を指差すルイン「最高にイカす魔道具の数々と、将来価値の上がる美術品さ。さあ手にとって是非! 見てってよ」腰に手を当て、胸を張る少年。
手書きのパネルを読む。
モルスの描いた絵画か。
古びた小さな壺を手に取る。
「これは?」
「あ~あ! 流石だ! 非常にお目が高い! それは古代の邪悪で恐ろしい悪霊を封じ込めた壺さ。それさえあればどんなに強い霊が襲ってこようとも、たった一撃で封じ込めてしまう素晴らしい代物さ」
壺をテーブルに戻し首飾りを手に取る。
「あっあ~! 気付いてしまったようだね~。それは古代の偉大な魔術師リーケンが残した凄まじい魔力を秘めた首飾りさ。それさえあれば街を1つ消し去ることなんて容易い程の魔法が放てるようになるんだ。扱い方には工夫が必要だけど、買うなら今だけ特別に教えてあげても良い」
首飾りを戻し短剣を手に取る。
「おっと、おっと! おっと~!! それは危険だ~! どんな悪魔も一撃で葬ってしまう程の威力がある恐ろしい短剣さ~」
「いくらだ?」
「そうだな~。20金貨ってところかな?」
「性能のわりに、安すぎはしないか?」
「お客さんお金持ちだね~。でも金額に間違いはないよ。買うかい?」
短剣をテーブルに戻す。
「いいや、鍛冶屋のゴミ箱を漁った方がマシだ」
「あ~! 分かるよ、分かる。自分がこれから偉大な英雄になるのが怖いんだろ? でも大丈夫。この装備があれば必ずあんたの旅で助けになってくれるって」
「カモを探しているのなら他を当たれ」
「チッ! つまんね~の。 わぁったよ。冷やかしが済んだならさっさとどっかへ行ってくれ。商売の邪魔だ」
「それなりに楽しませてもらった。良い店だった」
「くたばれ」
ルインの店を後にする。
ルインは別のカモの男を誘い、短剣を売りつけようとしていた。
やはり何か引っかかるな。
再びロブスター亭へ向かう。
カモの男はルインに金貨を手渡し、短剣を受け取っていた。




