117
警戒しながら先へ進むと、謁見のフロアであろうドアの前には、闇の魔術装置が2つ置かれ、1つは台座の上に青黒い球体が自転する枠に囲われ光を放っていた。
もう1つは台座の上に浮遊する青黒く脈打つ鎖で作られた四角い物体が、小さな衝撃波を鼓動のように周期的に放っていた。
少し近付くと中央に闇の霧が現れ、闇の穢れに覆われたデーモンが姿を現した。
デーモンが一瞬でタイムダウンを放ってきた。
「うぅっ」
「何が起きたの!?」
マーラは動揺しながらも身構えていた。
イエナ、マーティン、サム、メトゥスは静止したまま一切動かない。闇の魔術装置も稼働はしているが、時が止まり、停止していた。
「手を引け。さもなくばモルスの怒りを買うことになる」
「手は引けない」
「では何れ後悔する事になる」
デーモンが泡立ち溶けていき、闇の液体へと変わる。
デーモンに憑依していた者の姿が一瞬だったが目に入った。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
マーラが壁に向かって俯き咳き込む。
「マーラ、大丈夫!?」
イエナがマーラに寄り添う。
「あの装置の影響なのか?」
「そうかもな。停止させよう」
2つの装置を停止させ、ドアの前の闇の障壁が消える。そして大規模なヴォイドの呼び声を放つ。
上手くいったようだが、下階フロアからは小競り合いの音は聞こえてこない。
そのままアンデッドデーモン達に邪魔が入らぬよう警戒させる。
「あれは…オルクスだった」
マーラが声を震わしている。
「やはり、お前も見たんだな」
「一体何の話?」
「さっきまで、オルクスが時を止めてたの。邪魔するなって言われた」
「嘘だろ……。神々の争いに巻き込まれるの御免だ」
「まったく気が付かなかった……」
「キュル……」
「マーラ、どうしてお前は効かなかったんだ? 俺に秘密にしている事に何か関係があるのか?」
「秘密?」
「またそれ? 何もないって。だったら貴方だって、平気だったじゃない」
「2人に話したかったんじゃないのか?」
「そうね。マーティンの言う通りかも」
「何も解決していない」
「だったら気まぐれか、ただの偶然だったのかも。私自身、本当に驚いてるんだから。貴方だって驚いてるでしょ?」
「……ああ、そうだな」
「お互い何度も死にかけて、一緒に乗り越えて来たじゃない」
「すまなかったな」
「アンデッドの2度死には気になるが、この装置は一体何だったんだ?」
「1つは障壁を発生させる物だ。もう1つはさっきも言っていたが、デーモンの魂を閉じ込めておく為の物だ」
「じゃあ、デーモン達の魂はヘルに返ったのか?」
「いいや。その前に利用した。後ろに援護がある。先へ進もう」
「なあ待ってくれ。神の警告が気になるんだ」
「私も。神と戦うなんて馬鹿げてる」
「神が直接手を下すなど滅多にない。態々警告で済ませたんだ。大した事ではないさ」
「でももし来たら?」
「いいや、来ない。断言できる。だが刺客は送り込んでくるだろうな。何れにしろ、アガレスに比べれば大した障害ではない」
「「「…………」」」
「来ないのなら構わない。アガレスと交える前に知れて良かった」
「待って。一呼吸入れていただけよ。長生きしている貴方には、こういう困難な経験は珍しくないだろうけど。私には初めてだから、気持ちの切り替えをする時間が少し必要だっただけよ」
「吾輩もマーラと同じだ。気合いを入れる時間がなければな」
「神々の計画の一片に触れるのは恐ろしいが、偉大な先人達も通った道。これも信仰の概念を試す良い機会かもしれない」
「あまり命を粗末にするな」
「リッヂに言われてもね」
「ニャハハ」
「ンフフ」
「では行こう」
「ええ」
「勿論」
「ふぅ〜、ああ」
イエナとメトゥスが静かに頷く。
念動でドアを開ける。
謁見フロアは赤い透明なクリスタルでいくつも覆われ、中央奥の玉座の間には、全身が赤く爛れた1人の女ドワーフが座っていた。
玉座の後方には巨大な魔術装置が置かれ、稼働していた。
女ドワーフは全身を燃え滾らせ、燃える両目でこちらを見てくる。
仲間が全員身構える。
だが敵意は感じられない。
手を掲げ、仲間に堪えるよう促す。
「来ないで」
女ドワーフが悲痛に満ちた声で囁くと、フロア全体が木霊するように揺れた。
前へ出る。
「お前は誰だ? なぜここにいる?」
「私は……分からない。思い出せない。何も…思い出せない。あぁ! どうして来たの!」フロアが激しく揺れ動き、クリスタルが赤く発光し点滅する「全部あなたのせいよ」
クリスタルから赤い半透明の女ドワーフゴーストが多数出現し始める。
ゴースト達は怒りに満ちた表情を浮かべ襲いかかってくる。
【⇄】女を生かす。殺す。
「お前達はクリスタルを壊せ!」
全員が素早く行動に移った。
杖と共に障壁を二重に張る。
玉座に座る女ドワーフが、多数のファイアーアローを四方八方に放ち始めた。続けざまに俺に地獄の凝視を放ってくる。
「うぅ…」
頭痛を振り払う。
小型の死の火球を放ち、ゴーストを倒して援護する。
イエナが毒液でゴーストを怯ませ、イエナの肩に乗っているマーティンが小規模のホーリーピラーを放ち次々とゴーストにトドメを刺していく。
イエナが杖の魔力吸収でクリスタルから魔力を吸収していき、枯れたクリスタルがヒビ割れ崩れ落ちていく。
マーラは素早く動き回り、次々とゴーストにトドメを刺しながら、クリスタルにアイスシャードを放っていく。アイスシャードがクリスタルに突き刺さると、クリスタルにヒビが入り、ヒビの入った箇所に小型のホーリーファイアを放ちクリスタルを破壊していく。
サムはゴーストを果敢に避けながらクリスタルの近くまで行くと、ブラッドチェーンを慎重に放ち、クリスタルを1つずつ破壊していっていた。
死の火球をコントロールし、回避するゴーストを追い、サムに誤射させようとするゴーストを仕留める。
ゴースト達が小型のファイアーボールを多数放ってくる。
迫るファイアーボールを念動で全て地面に叩き落とす。同時に死の火球をゴースト達に浴びせ、ファイアーアローで損傷していく障壁の修復に注力していく。
側の地面から出現したゴースト達。
メトゥスが触手で突き刺し消滅させていく。
「こっちは終わりました」
イエナが左側の最後のクリスタルを破壊し終え、マーティンが最後のゴーストを倒す。
「あぁー! 多すぎる」
「これで最後だ」
サムが右側の最後のクリスタルを破壊し、マーラが最後のゴーストを短剣で突き刺し消滅させた。
「あぁぁぁ!!!!」
玉座に座っていた女ドワーフが椅子から落ち、前の地面に倒れ込む。
杖の触手を放ち、女ドワーフを拘束する。
全員が集う。




