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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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ケリーと離れ、ニオスが側に来る。

「妙ですな。ですが思念は神の特徴」

「ああ、恐らく声の主はモルスだろう」

「同意です。とすれば、疑問が数多く出てきますね」

「オッケー。で、どういう事?」

マーラが合間に入ってくる。

「狐。失せろ」

「ニオス。マーラには窮地を救ってもらったんだ」

「そうよ。あなたがモタモタしてるから、私が代わりにね」

「それは、申し訳ありません師よ」

手で遮る。

「構わない。それよりも、モルスの意図が不明だ」

「何らかの理由で、突然介入してきたと?」

「いいや。それよりも前からだろう。メトゥスと会った遺跡には闇の痕跡があった。それからいつも、すぐに消えるが妙な跡が残っている事がある」

「そういえば、あったわね」

「気配は感じられませんでした」

「意図的に消しているんだろう」

「ですが、態々、我々から隠す意図が分かりません」

「ああ、問題はそこだ。何か…重要な事を見落としている気がする」


ケリーが側に来る。

「ねえ、まだ聞きたい事があるんだけど」

ニオスに頷き、ニオスが離れる。

「何だ?」

「あなたはリッヂに変わる時、ヴォイドに会った?」

「悪いが覚えていない」

「それって記憶を消されたって事? 私もそうなのかなって」

「それは違うだろう」

「どうして?」

「ヴォイドに何のメリットがある」

「なにか…私達には理解出来ない、神の何かがあるのかも」

「話はそれだけか?」

「同じリッヂなんだから、もう少し付き合って。ヴォイドは面倒見が良くて、神にしては話し好きって聞いてたのに。それが会えなかったんだよ。もしかしたらヴォイドなんてそもそもいないのかもって、思って。これは新しい発見になるかもしれないでしょ」

周囲を伺い、ケリーに視線を戻す。

「単純に、全員に会わないだけだろう」

「身も蓋もない」

「そのヴォイドの知識はどこで知った?」

「以前、図書館で読んだの」

「ここのか?」

「そうよ」

「孤児がよく入れたな」

「うっ! ヒィッ…ヒィッ…」ケリーは突然泣き始め、両手で目を覆った。頬に涙を流すケリー。両手で不器用に涙を拭う「パパと…ヒィッ…ママが…戦争で死んじゃって…うぅ…本を読んでいる時は、ヒィッ、2人の事を忘れられるから…ヒィッ、だから…だから少しでいいから…すんっ、本を読ませて欲しいの」

「演劇人になれるな」

「まあ、リベルタリアのアレクサンドリアに比べたら本が少なかったけど」

「書物を読むのが本当に好きなんだな」

「そう。だって自分の知らない知識が載ってあって、教養を高めてくれるもの」

「同感だな」

立ち去ろうとすると。

「ねえ」ケリーが自分の胸に手を当てる「このケリーブラッドリッヂの力を借りたいとは思わない?」

「だとしたら」

「仲間に入れて欲しい」

「好きにしろ。だが仲良くな」

「ウケる。ありがと」


有翼種アンデッドと話しているニオスの元へ向かう。

「師よ、援軍が間に合わず、申し訳ありませんでした」

「遅れた理由を聞こう」

「思いの外、この塔での抵抗が激しかったもので」

「排除したのか?」

「向かってきた者だけです」

隣の背の低い有翼種アンデッドと目が合うと、こちらへ深々と頭を下げてくる。

「これは偉大なリーケン様」

「ああ、申し遅れました。愛弟子のバディホーです」

「以前会ったか?」

「直接はお会いしておりません。ですが、リーケン様の事はニオス様より伺っております。お会いできて大変光栄です」

「ニオス、俺がリーケンだと知っていたのか?」

「当初は半信半疑でした。あまりにも、話が出来すぎていましたので、警戒をと、申し訳ありません」

「昔の俺は、お前が慎重過ぎると言っていなかったか?」

「御名答です。リーケン様。しかし力のみならず、記憶をなくされているとは、なんともお労しい事」

「ふむ、バディホー。お前は同族が恋しくはならないのか?」

「ええ、時より。ですが私の種族は幸い現存しておりますので、それほどとは言えません」

「ここでは1人も見かけなかったが?」

「それについては…色々と」

「師よ。事前にお話しした通り、その事も含め、重要な報告が御座います。ですが、まずは優先して頂きたい事案がありますので、こちらへ」

有翼種アンデッド2体がドアを開け、ニオス、バディホーと共に部屋を後にする。


部屋を出ると、魔術師達の死体やオートマトンらの残骸パーツが地面に散乱していた。

「派手にやったな」

「ご心配なく、活用できるよう、魂は保持してあります。建物への被害も必要最小限に留めておきました。他は慌て逃げ去りましたが、既にカラスに監視させてあります」

「ニオス、先程のお前への忠告を撤回させてもらおう」

「お気に召して頂いてなによりです」

「リーケン様、他愛もない連中でしたよ。ヒッヒッヒッ。ご命令さえ頂ければ、いつでも私が皆殺しに致します」

バディホーの目が青く光っている。

「お前の腕を見るのが楽しみだな」

「失望はさせません」

「しかし気になることが1つ」

「何だ?」

「誓約魔法の類が掛けられていた者が、幾許かおりました」

「デーモンか?」

「いえ、ヘルウォームとは全く異なっておりましたので、別の物かと」

「ふむ」


部屋の前に着く。

ドアが自動で開く。中にいた図体のデカいデーモン2体がドアを開けていた。

デーモンの鎧には᪣見覚えのある刻印が刻まれている。

テーブルを挟み、何者かがこちらに背を向け立っていた。

「死の香りが漂ってくる。ようやく会えたわね」何者かがこちらを向く「リーケン」


テーブルを挟み顔を合わせる。

妖艶さを漂わせる女デーモンがこちらを見つめ、嗜めるかのように薄ら笑みを浮かべている。

赤い鎧に金の装飾。立派な名工の鎧だとすぐ分かった。

部屋には女デーモンの手下であろう者達が複数いた。

だがデーモンの他に、サラマンダーやコティス、アント等の種族達も混在している。


「俺とは面識が?」

「ンフフ、そうだったら良かったわ。残念だけど、そうじゃない。私はジードルフォニーの君主、イスティアナ。お互い時間が惜しい身、早速本題に入りましょ」

「デーモンとは取引しない」

「これは取引じゃないわ。謂わば協定ね」

「はん、尚更無理だな」

「折り込み済みよ。ただの利害の一致と思ってくれればいいの。難しい話じゃないわ。それに貴方はもう私に借りがある」

「ほお」

「こうしていま貴方が会話できるのは、私がヘルでアガレスにサプライズを贈ったからよ。あ〜、今すぐ中止にする事も出来る」

「目的は分かった。だが俺がレッドデーモン如きを恐れると思うのか?」

「いいえ。でも思った方が良い。今の貴方は自信とは裏腹に、とてもか弱いから。イニティウムの赤ちゃんね。それにアガレスは、貴方が思っている以上に厄介よ」

「それで俺達を襲った後、気まぐれで見逃してくれたのか。デーモンは相変わらず慈悲深いな」

「元々襲わせる気なんてなかった。でも捨て駒にはああいう役立たずしか送れないの」

「だったらミスを犯したな」

「印象は傷付けたかもしれないけど、貴方の力量は十分測れた。本物かどうか確かめる必要があったの。賢いあなたなら理解してくれるでしょ?」

「それでもお前の手下を散々殺したんだ。いくらデーモンでも、同族庇護が働くだろ」

「まさに話の争点はそこよ。私の父は古臭い考えで一杯だった。デーモン至上主義だった父は、私がこの傭兵組織を立ち上げた時も、まあとにかく煩わしかった。要するに、私は父とは違い、柔軟に物事を考えられるの。古臭い枠組みはいらないってね。アンデッドと手を組めるなら、それは願ったり叶ったり、大歓迎よ」

「素晴らしい考えだ。だがお前の若さで君主とは。父はどうした?」

「今も父は私の力になってくれているわ。結局のところ、度が過ぎてしまってね。私を愛してくれていたのは好都合だった」

「どうして俺に持ち掛ける?」

「後ろの2人が答えよ。さっきも言ったけど、貴方が本物じゃなきゃ、後ろの2人が貴方に従う筈がない」

「どうかな。俺が口だけ動く従属かもしれないぞ」

「ンフフ、やっぱり面白いわ〜。私はこれでも君主、お飾りじゃないの」

「のようだな。自らを愛する父を殺すデーモンか。信用できるな。本題を聞こう」

「そう言ってくれると思ってた。察しの通り、詰めはアガレスよ」

「奴とは個人的な遺恨でもあるのか?」

「多少は、ね。でもそれは大きな問題じゃないの。アガレスと私は考えが似ていてね。早い内に摘み取っておかないと。今でも手がつけられないほどになってる」

「ではアガレスと組めば最強だな」

「ンフフ、まあそうね〜。問題はお互い欲しい物が同じって事ね」

「俺は違うと?」

「多少は被るかもしれない。でも私達と違って興味程度。主に資源でしょ?」

「ふむ」

「交易なら喜んで開くし、何なら移住権だって認める。でもアガレスは心が狭い。全部自分の物でなければ気が済まないのよ。そんなんじゃこの先、生き残れないわ」

「多様性には毒もある」

「でもメリットの方がずっと大きい。貴方が一番分かってるはず。私は貴方と同じ側で同じ考え。私はあの狐ちゃんの事、ペットだとは思わないわ。大切な仲間よね」

「良識のある友人は宝だからな」

「そうよね。アガレスの排除に手を貸すわ。その代わりヴォイドに口添えを頼みたい」

「目的はアガレスじゃないようだな。なんだ?」

「ええ、通過点よ。アガレスがいなくなれば、ヘルの第1領域を治めるのはそれ程苦労しない。問題はそんな私を彼女が目障りと思うかどうかよ」

「ディスコルディアの事か?」

「彼女は騒がしいのが好みだろうけど、私はそういうのにはもううんざりなの。デーモンだってまともだと知らしめたい。それに神々の議会の座に席を貰いたいし」

「ディスコルディアに限らず、どの神も戦争好きだ」

「それが違うの。貴方が長く眠っている間に、世界は大きく変わったわ。貴方にも何れ分かる事だろうけど」

「だとしたら尚更、ヴォイドは興味を持たないだろう」

「それはどうかしら」含みが籠もっている「いずれにしても、神に喧嘩を売る以上、後ろ盾が欲しいのよ」

「それは、あまりにリスクが大き過ぎる。半神ならまだしも、神とは。しかも俺の記憶では、ディスコルディアはハイゴッドだ。今は違うなら別だが、お前を燃やす次いでに、イニティウムごと燃やされたりでもしたら堪らん。少しここを気に入り始めたところなんでな」

「アガレスもディスコルディアも同じ通過点。真の脅威を見据えないと、そうでしょ?」

「お前は何を知っている?」

「ンフフ、どうする?」


〘⇄〙ここは様子を見るか。取引に応じるか。


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