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ヴォイドの呼び声Ⅰ虚無の跫音  作者: 逆立ちハムスター


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本を凝視する。

何か変だな。


本のふちに妙な魔法が練り込まれているのが感じ取れた。


「どう? 文字が浮かび上がってきた?」

「これは恐らく、型だな」

「型?」

「どこかに嵌めるんだ。しかし見覚えがあるな」

「本当!? どこどこ?」

「んん、落ち着けマーラ。冒険が好きだとヒューバートに言ったんだろ?」

「まあ」

「だったら意味は分かるな」

「探せって!? 無理でしょ」

「楽しめ」

「はぁ、そうね……」

残念そうにするが、本を大切に受け取るマーラ。


メトゥスが硬化した棒に、カラフルな茸を突き刺し火で炙った物を渡してくる。

「旨いのか?」

メトゥスの触手から受け取り食す。

「イエナも美味しいの? って最初に聞いたの。普通食べれるの? でしょ? もう食べたの!?」

「ああ、意外とイケるぞ」

「ねえ、だから美味しいって言ったでしょマーラ」

「いくら美味しくても、食べたくない」

「気持ちは分かる。アンデッドはその辺、気にしなくていいからな」

更に食す。


「ここはテネブラエだけど、デーモンも私達も勝手に入ってきて、モルスは怒らないわけ?」

「怒ったんじゃないか。だから襲われた」

「でも引き返したわよね」

「だからと言って、モルスの意思だったとは限らんだろう。俺達は引き上げようとしていた。他に厄介な侵入者の元へ向かったのかもしれん」

「なるほど」

「真意など、聞いてみなければ分からん」

んん、美味い。しかしどこか懐かしい味だな。

「こういう別の世界って、どれくらいあるの?」

「数え切れないほどだ。テネブラエでさえ、膨大な数だ」

「テネブラエって、ここだけじゃないの?」

「ああ。この闇の濃度なら、かなり浅い領域だろう」

「街とかもあったりする?」

「当たり前だろ。だがイニティウムと違って殆ど闇の住人ばかりだろう」

「吸血鬼とか、あの影とか?」

「そんなところだ」

「なんだが、行ってみたくなる」

「その体じゃあ無理だろう。それにイニティウムの1領域ですら満足に旅してないだろう」

「うん。そう思えば、ヒューバートって改めて凄いって感じる。数え切れないほどの世界を…領域を旅してるのよね」

「ああ、確かに凄い。俺の事も何か見抜いていたしな」

「なんだか怖い。一気に世界が広がった感じで、感覚がとてもじゃないけどついていけない」

「そうだな。だからこそイニティウムは素晴らしい領域の1つだと今なら分かるだろう」

「ええ」

「俺達はその素晴らしい領域に住み、こうして生きている。それに、生まれた街、生まれた国からすらも出た事がない者が大勢いる中、お前は領域を出て、別の領域でデーモンすら倒した。十分価値のある生き様だ。恐れる事はなど一切ない」

「う〜ん♪ アンデッドとも仲良く旅してるしね。そう思うとちょっと気が楽になったかな。ありがとう。でもだとしたら、みんなイニティウムを欲しがってたりしないのかな?」

「欲しているだろう。だが何か理由があるんだろう」

「デーモンも……そういえば、どこかで聞いた事あるんだけど、デーモンはヘルにいる時に戦う方が危険だとか」

「そうだ。デーモンは寒いとコアの炎が弱まり、力が低下するからな」

「じゃあデーモンって、ヘルの領域で戦うとしたらめちゃくちゃ強かったりするの?」

「ああ。何もかも奴らにとって優位だからな」

「だからさっきは私でも勝てたんだ」

「まあそれだけじゃないと思うが、それにデーモンに限った話じゃない。そろそろ力も養えた。イニティウムへ戻るぞ」

「はい」

「イエナ、大丈夫?」

「火が気持ちよくて、ウトウトしてた♪」

「分かる。この火、心地良いよね」

立ち上がり、片手で砂を払うマーラ。


焚き火をそのままにし、イニティウムへ向かう。

「これ作ったのあなたじゃないよね?」

「違う。何を言い出すんだ」

「言い切れるの?」

「……確かに言い切れないな。だが断言もできない」

「常に可能性はある。そうでしょ? リーケン♪」

「んん〜。そうだな」

「あのヤバそうな吸血鬼があなたの魂はリーケンだって言ってたし、間違いないでしょ」

「…………」

「ンフフ♪」

「参った。まさかお前に説き伏せられるとはな」

「なんて、本当にあなたがリーケンなら大事だもん。皆が尊敬し、恐れ、そして崇める、あの古代の伝説の魔術師」

「お前が秘密にしている事に、何か関係があるのか?」

「秘密? 秘密なんてないわよ。私はただの激しい冒険を夢見る獣人よ」

「そうだったな」

「ええ、そうよ」




── Ⅹ章『意企』──



男は痛みで怒りを感じ、女は痛みで恐怖を感じる。『兵士の本質』より。著:アルスノフ:種族学者。



ドアの前で待機していたボーンゴーレムがドアを開ける。

テネブラエに来た時とは異なり、問題が生じる事はなく、無事にイニティウムへ着いた。


「皆無事に抜けれたようだな」

何やら賑わっている。

「あぁん……」

マーラが困り果てて眺めている。


「離せ! 私を誰だと思ってる!」

有翼種アンデッドが電撃の鎖を放ち、小柄な赤いリッヂを拘束していた。

このリッヂの魂には見覚えがある。

更に雷の檻、浮遊する複数の雷球から生じる電撃が、リッヂの体を包み閉じ込めていた。

時より拘束されているリッヂが暴れ、意図せず檻に触れ電撃を受けていた。

あれは地味に痛いやつだ。


「ニオス様。この者を始末しましょう」

「師の承諾を得てからだ」こちらに気付くニオス「師よ。御無事でなにより」

ニオスが側まで来る。マーラを軽く見た後、再びこちらに視線を戻すニオス。

「ああ、マーラ。あなたも無事で何より。いえいえ心配してくれてありがとう。イエナもこの通り無事よ。ご心配なくっ」

「邪魔だ狐」

「これから長い付き合いになるのよ。ニオスッ。仲良くしましょう♪」

有翼種アンデッドがマーラを酷く睨みつけ、今にも襲いかかりそうだ。

間に入る。

「ニオス、そのリッヂは?」

「先ほど別のゲートから抜けてきた者です」

「他にもゲートがあったの!?」

「如何致しましょう?」

「解放してやれ」

ニオスが振り向き、有翼種アンデッドに頷く。

有翼種アンデッドが拘束を解く。


腕を痛そうに擦っているリッヂへ近付く。

「ケリー、お前の為に随分と骨を折ったんだぞ」

「んん……あっ、あの時のリッヂ。ねえ、凄いでしょこの体? 私も遂にヴォイドに認められたのよ♪」

「じゃあヴォイドに会ったの?」

「あ〜ん、あなたは誰?」

「マーラよ。ジャスミンの友人」

「そっか……。その…ジャスミンは残念だった」

「そうね。でもあなたが無事みたいだし、それに…会えないわけじゃない」

「それって、ジャスミンを死霊術で蘇らせるって事? なら私も協力する♪」

「いいえ……違う。つまり…」

「話せば長いんだ。それよりリッヂになった経緯を聞きたい」

「もちろん♪ なんたってあなたは、あのリーケンだからね〜。聞いた♪リーケン、あなたの気持ちが少し分かったの」

「ほお」

「知識が豊富になっていくっていうのも、結構ストレス。よく私の質問に付き合ってくれたよね。私だったら無理だった」

「お前と話すのは楽しいからな。だから早く経緯を教えろ」

「目が覚めると、ルインが側にいたの。ルインがまさか吸血鬼だったなんて、あの時は当然驚いたけど。今は受け止めてる」

「…………」

目を細める。

「ああ、私はルインから全てを聞いた。もう吸血鬼になるんだって思ってたけど、それが不思議とならなかったの。ルインも驚いてたわ。そうしたら視界が緑の光に覆われて、体も緑の光で包まれ始めたの。そしたら、どこからともなく頭の中に声が聞こえて、いつの間にかリッヂになってた」

「ルインは生きてたのか?」

「当たり前でしょ」

「その頭の中で聞こえた声は、どんな声だった?」

「う〜ん、透き通ってて、綺麗な女性の声だった。それからとても落ち着いてた」

「間違いないか?」

「はっきり覚えてるもの」

「分かった。ありがとう」

「他に聞きたいことはないの?」

「これはメトゥスだ。お前にとっては珍しいだろう?」

「わおー! 凄い。ねえねえメトゥス……」

「キュル?」


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