106
「悪いがデーモンは信用できない」
「くそがぁぁ!!」
バロルが地獄の束縛を放ってくるが、闇の手が目の前を塞ぎこちらへは届かなかった。
凄まじい早さで上部へと引き込まれていく。
バロルの叫び声が聞こえた後、足元から闇の手が覆い被さっていき塞いでいく。
凄まじい早さで上部へと引き込まれていくが、同時に足元から闇の手が覆い被さっていき塞いでいく。
凄まじい早さで上部の出口らしき場所へ無事に引き込まれた。
すぐに再び視界が闇に覆われてしまった……。
目を開け、次第に視界が鮮明になってくると、見覚えのある畝りと感触を感じてくる。
視界を覆っていた畝る触手がほどけていき、メトゥスが心配げにこちらを見つめる姿が目に入る。
闇に覆われていたせいか、感覚が遮断されていたのかもしれない。
「キュル…」
「メトゥス、守ってくれていたんだな」
「キュル!」
マーラも少し離れた場所に横たわっていたが、メトゥスが触手で覆い守っていた。
「はぁ、はぁ……死者の領域から無事に帰ってこれた。メトゥス、お前がいなければ、帰る場所はなかっただろう。感謝する」
「キュル。キュル? (平気?)」
「俺は大丈夫だ。それよりマーラを頼む」
「キュル!」
楽しげに触手を畝らせるメトゥス。
少し離れた場所のキノコの影から、体の薄いシャドウウォーカー達がこちらを見つめていた。
メトゥスが仰向けのマーラを触手で抱え、側まで来ると地面にゆっくりと降ろした。
屈む「マーラ。マーラ!」マーラの体を軽く揺さぶる。
「んん……」
目を閉じたままだが、魘されるように顔を顰めるマーラ。
意識はあるようだな。良かった。
「メトゥス、マーラを見ていてくれ」
「キュル」
離れた地面に倒れているバロルの元へ向かう。
群がっていた小さなシャドウウォーカー達が走って逃げ、振り返りこちらを見つめ立ち止まり、また走っては逃げていく。
バロルの元へ着く。
バロルは仰向けに倒れたまま白目を剥き、魂は完全に失われていた。
恩恵まで与え、捨て駒という程ではないだろうに。
なぜディスコルディアはバロルの魂を呼び戻さなかったんだ。
念動で地面に落ちているバロルの剣を吸い寄せ手に取る。
手に取ると同時に剣は縮小し馴染んだ。
燃え盛る剣。剣に備わっているコアを抑え地獄の炎を鎮火させる。
剣を地面に突き刺し、バロルの亡骸を探る。
赤い小袋を手に取り揺らすと、硬貨の音が聞こえてくる。
赤い小袋をローブの内側に入れ、更に探る。
バロルの鎧の内側に備え付けられ、紐で頑丈に括り付けられている指輪を2つ取る。
どちらも手に取ると赤く輝き熱を持ち始めた。輝きと共に熱が次第に増していき輝きが点滅し始め、点滅が次第に早くなる。
「ああ、くそっ!」
2つの指輪を急いで遠くへ投げ捨てる。
指輪が遠くの地面に落ちた途端爆発が起き、周囲に爆風が駆け抜けた。
驚いたシャドウウォーカー達が逃げていく。
爆発地点は地獄の炎に包まれ、キノコや地面を燃やしていた。
他にはないか。
バロルの持っていた盾はどこにいってしまったな。シャドウウォーカー達が持っていったのかもしれない。
「こんな激しいモーニングコール頼んでないけど」
意識を取り戻したマーラとメトゥスが側まで来る。
「戦場で寝ると、危険だと教えたかったんだ。気分はどうだ?」
「最悪。割れるように頭が痛い。あと吐き気も」声に力が感じられないマーラが淡々と話す「けど、もう大丈夫」
「本当か?」
「取り敢えずは。それより何があったの?」
「闇に魂を引きずり込まれたんだ」
「あぁ…夢じゃなかったんだ。デーモンに殺されて地獄に連れて行かれたのかと思った」
「似たような物だな」
「あなたが助けてくれたんでしょ?」
「そうだ。だが先に救ってくれたのはお前だ。二度も救われたんだ。借りがある」
「ンフフ。あなたは運が良い。私みたいな仲間を持って」
「ま〜あ、そうだな」
「ンフフ」
「本当に心から感謝してるんだ」
「そー。あ〜ん、だったらここは素直に喜んどいてあげる」
「フッフッ」
「ンフフ♪」
「だがマーラ。一つだけ聞いておきたい事がある」
「なに?」
その時、遠くから凄まじい爆発音が轟いてくる。
マーラと目を合わせた後、共に緩やかな砂丘を登る。
巨大な4足のシャドウシーカーが、周囲を飛び交いながら火球放つデーモンら目掛けショック波を体から何度も放出し、口から闇のブレスを放つ。ブレスに当たったデーモンは跡形もなく消滅していく。
距離はあるが、こちら側にブレスが飛んでくる。
巨大なシャドウウォーカーの足元には地獄の炎が燃え広がり、周囲一帯が炎上していた。
宙に出現した巨大な闇のベールから巨大なシャドウシーカーが現れ、着地と同時にヘルゲートを足で踏み潰してしまった。
轟音と共にヘルゲートが激しく破裂し飛び散っていく。地獄の炎で燃え盛るヘルゲートから次々とバロルの兵が抜けテネブラエへと侵入してきていたが、ヘルゲートを抜けようとしていた数体のデーモン達も共に押し潰され、そのまま燃え広がる爆発の炎と共に見えなくなっていった。
「おい!」
背後から声がし、振り向くとデーモン達がこちらを半円状に取り囲んでいた。
「マーラ、まだ戦えるか?」
「勿論」
「メトゥスと時間を稼いでくれ。隙を見てバロルをアンデッドにする」
「分かった」
マーラが身構える。
デーモン集団のリーダーらしき者が転移して前へ出てくる。
「おいおい待ってくれ! 戦う気はない。ここはお互い平和に行こうじゃないか」
「平和だと?」
「俺達はただの傭兵。雇い主が死んだいま、俺達に戦う理由なんてない。そもそも俺達は始めから乗り気じゃなかったんだ。モルスに魂を喰われるなんて嫌だったからな」
「だったら好きなとこに行けばいいだろ」
「あいつが持っていた誓約書がないと、俺達は誓約に縛られたままなんだ。ヘルに戻っても…テネブラエに遊びに来るほどのリッヂなら分かるだろう」
「ヘルでは誓約がなによりも重要だからな」
「そうさ。審問官に生皮を剥がされちまう。だから誓約書さえ返してくれれば、目の前から直ぐに消えるさ」
「探したが無かったぞ」
「そんな筈はない」
「キュル」
メトゥスが誓約書らしき物を手渡してくる。
「これか?」
「ああそうだ。頼む、渡してくれ!」
「はん」
「リーケン、相手はデーモンよ。信用しない方が良い (小声)」
「マーラ、その呼び方はやめろと言ったはずだ」
「んな事言ってる場合?」
「渡す」
「でも…」
「俺を信じろ」
マーラの目を見つめる。
「……分かった」
念動で紙切れを傭兵デーモンのリーダーへ渡す。
再び爆発音が轟いてくる。
「おい! こんな所さっさとずらかるぞ!」
「了解!」
デーモン傭兵のリーダーが指輪からヘルゲートを生み出すと、取り囲んでいたデーモン達が一斉に飛び立ちヘルゲートへと我先にと入っていく。
デーモン傭兵のリーダーがゲートに入る前に立ち止まりこちらに振り向く「感謝する」そう言うとゲートに入り、地獄の炎で燃え盛るヘルゲートは消滅した。




