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マーラが勢いよく飛び上がり、吸血鬼の男の脳天へと例の短剣を振り下ろす。吸血鬼の男が上を向き、マーラに魅了を放つが、マーラは払い除けた。そのままマーラ短剣が吸血鬼の男の顔面へと突き刺さる。
「グア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!」
眉間から後頭部までを短剣が突き抜け、断末魔を上げる吸血鬼の男。
吸血鬼の男は頭部から次第に石化していく「モルスよ…いま貴女の元へ…」
完全に石化した吸血鬼。
メトゥスと共に触手を解き、吸血鬼の男の体が地面に落下すると石化した体が砕け散り、粉々になった。
指示を出し、ボーンゴーレムに周囲を警戒させる。
マーラが地面に落ちた短剣を拾い上げ側に来る。
「これで私も立派なヴァンパイアハンターね」
「めでたいな」
短剣を鞘に収めるマーラ。
「あの吸血鬼、復活したりしないわよね?」
「恐らくは」
イエナが転移で側に来る。
マーラの短剣をじっと見ているマーティン。
「大した事なかったわね」
「お前さん一人じゃ無理だっただろう」
「確かに。1人だったら今頃吸血鬼のおやつね」
吸血鬼の男の塵を念動で吹き飛ばし、指輪と羊皮紙を念動で拾う。
「念動の扱いが上手いんだな」
「念動って便利よね」
羊皮紙を読む。
──黒液の染み付いた羊皮紙。
ルーセット、破り捨てずに読めよ。
お前は誤解しているようだが、その土地は元々バイングである俺達の領地だ。
モルスは俺達の諍いには、さして興味はないようだから遠慮なく好きにやらせてもらう。
つまりお前の首を取りに行く日は近いという事だ。
だが互いにこんな僻地で無駄な血を流したくはないだろう?
良い返事を待っているぞ。
コバ。
──
羊皮紙を読む傍らマーティンとマーラの会話が聞こえてくる。
「誰でも扱える魔法だしな」
「そうそう。でも凄くコントロールが難しくて、全然上手く扱えない」
「分かる。私は何度も引き寄せる時に顔面に衝突させていた」
「ンフフ♪ 私だけじゃなかったのね」
「ああ♪ それと念動を極めたメイジマスターは、風術を極めたマスターより凄まじく恐ろしいって知っていたか?」
「風術を極めた種族にもあった事ないのに、凄さが分かんないわ」
次を読む。
──黒液の染み付いた羊皮紙2。
クソッタレが!
そこにはお前の求めるような物は一切ない。
いいか、余計な真似はするな。モルスの血にかけて後悔する事になるぞ。
モルスが喜ぶだと? ふざけた事を抜かしやがって。俺達のような連中如きに、モルスが介入すると本当に信じているのならお前はどうしようもない間抜けだ。
覚悟しておけよ。お前の終わりは近い。楽に死ねると思うなよ。
──
羊皮紙を捨て階段へ向かう。だが階段の途中に設けられたスペースの両サイドの壁が音を立てながら崩れ始めた。
階段上部まであるスペースに設けられた壁が下から順に崩れていき、4つあるスペースの壁全てが崩れていく。
崩れた壁の中から灰色の粘膜に包まれ、鼓動する多数の血管に包まれた吸血鬼の繭が姿を現す。
「やばそう」
短剣を握り身構えるマーラ。イエナもすぐに臨戦態勢を取る。
だが繭に包まれた吸血鬼は魂の乱れがなく、こちらへの敵意はまったく感じ取れない。
階段の頂上には、押し出されてきた石棺が並び、その内の中央にある棺の蓋が突然吹き飛んだ。
イエナとマーラは慌てた様子で避ける。
吹き飛んできた蓋を念動で受け止め、側面の地面へ投げ捨てる。
青黒い無数の血管に覆われた石棺から、何者かが顔や手を押し出し、血管を引き千切るよう押し出てくる。
青黒い血管に覆われ、顔は判別できないが、脆い血管から徐々に千切れていき、中から出ようと藻掻いているようだ。
耐えきれなくなった血管が千切れ、中から一体の種族型吸血鬼が飛び出してきた。
吸血鬼が飛び出した瞬間、宙に浮かぶ巨大な血塊が吸血鬼へ落下し、衝突と共に血飛沫が周囲へ飛散した。
石棺から飛び出した吸血鬼が血を全て吸収し終えると、赤く光る目で静かにこちらを見下ろしていた。
皮を引き千切る音を立て、左右側面の灰色繭から原種型吸血鬼が次々と出てくる。
青黒い粘液に塗れた吸血鬼達は、糸引く粘液を滴らせながら翼をゆっくりと広げていく。
吸血鬼達が自身の体についた粘液を長い舌で舐め始めた。
吸血鬼達が舐めるのを止めると、頂上から女の声が聞こえてくる。
それは掠れた少女のような声であり、とても落ち着いた声だった。
歌声は先程石棺から飛び出てきた赤いローブの吸血鬼が発していた。
赤いローブの吸血鬼は金色の長い髪に、吸血鬼特有の白い肌と赤い瞳。そして赤いローブを身に纏っていた。
歌声が聞こえ始めるとともに、原種型吸血鬼たちは咆哮を上げながら、肉体が内側から押し上げられていき次第に姿を変えていく。肉と皮膚が泡立ち、恐らく生前の種族の姿を形成していく。だが皆容姿が幼い。姿を変えた吸血鬼たちは、その後黒い闇のオーラに包まれ、オーラが消えると闇の魔力を帯びた黒いローブとフードを身に纏っていた。
「モルスの宴が始まる。モルスの宴が始まる。モルスの宴が始まる。今宵も」
赤いローブの吸血鬼は、歌声を響かせながらゆっくりと長い階段を降りてくる。
静寂に包まれたフロアに響く歌声。孵ったばかりの吸血鬼達が、皆歌う赤いローブの吸血鬼を静かに見つめている。
「微笑み溢れ滴る赤い血。微笑み溢れ滴る黒い血。微笑み溢れ滴る青い血。今宵も」
天井の巨大な曲線の柱が次々と音を立て側面へ格納されていく。
マーラとイエナは身構えつつも上を見上げ、2人にとっては異様な光景なのか驚いていた。
天井がドームのように開いていき、半透明の障壁に包まれた天井からは、宇宙から射し込むエーテルの光が入り始めた。
エーテルの光りを浴びた周囲の吸血鬼達も共に歌い始めた。
「恐れはいらない貴女は仲間。恐れはいらない貴方は眷属。恐れはいらない彼らは同族。今宵も」
吸血鬼達の歌声が周囲を包み込むように響き渡っていく。吸血鬼達がモルスを称え、モルスの讃美歌を歌っている。
次第に大きくなる歌声に警戒し、周囲を注意深く見回すマーラ。
メトゥスは触手を歌に合わせノッていた。
吸血鬼達の歌声は次第に力強くなり、フロアはモルスの讃美歌で覆われていく。
「町娘は赤く素朴。漁師は黒く芳醇。賢者は青く濃厚。今宵も」
止む事はなく繰り返される讃美歌。
「モルスの宴が始まる。モルスの宴が始まる。モルスの宴が始まる。今宵も」
歌声が止むと周囲は静まり帰る。
「彼女の宴が始まる。彼女の宴が始まる。彼女の宴が始まる。今宵も」
だが赤いローブの吸血鬼のみが尚も歌い続ける。
次第に鼻歌へと変わっていく。
「ふ~ん、ふ~ん、ふんふんふふふ。ふ~ん、ふ~ん、ふんふんふふふ。ふ~ん、ふ~ん、ふんふんふふふ。ふ~んふ~んふ~んふ~ん」
階段を降り終えた吸血鬼は、赤い瞳でこちらをじっと見つめてくる。だが敵意は感じられない。
整然と1列に並んでいる他の吸血鬼達も、静かにこちらをじっと見下ろしている。
沈黙の間、触発的な空気の流れを感じる。だがこちらを凝視していた赤いローブ吸血鬼は目を見開き、酷く驚いた表情を見せた。
気の緩んだ吸血鬼の魂を凝視する。
「その深淵の如く深き魂は……リーケン様」
赤いローブの吸血鬼が恍惚に満ちた笑顔を浮かべる。




