127.
空間の壁を蹴り破り、わたしたちはついに下の階層へと足を踏み入れた。
そこは、先ほどまでの湿った石壁とは打って変わって、ひんやりとした冷気が漂う広大な鍾乳洞のような空間だった。
ポタリ、ポタリと水滴が落ちる音が反響し、青白い発光ゴケが足元をぼんやりと照らしている。
「さて、次はどう進むかな」
わたしが周囲を見渡していると、キャンピー(人間形態)の胸元から、カーナビの半透明なモニターがホログラムのように浮かび上がった。
そこには、迷宮の地図とともに、無数の赤い点が点滅している。
『アハハッ! 下の階層にも、遭難したおバカな冒険者ちゃんたちがいっぱいいるみたいだよぉ!』
真理のウザい声が響く。
どうやら、赤い点はすべて怪我をして動けなくなっている遭難者たちらしい。
キャンピーはカーナビと真理のサポートによって、彼らの現在位置を完全に把握しているのだ。
「マジか。でも、これだけ広いと、いちいち回収して回るのめっちゃめんどくさいんだけど」
わたしは盛大に顔をしかめ、ガックリと項垂れた。
おんぶに抱っこで遭難者を拾い集めるなんて、労働対効果が低すぎる。
『そんなズボラなスミコちゃんに朗報でーす! キャンピーちゃんの新モード、使っちゃえば?』
「新モード? また変な機能ついてるの?」
『ジャジャーン! その名も「分身」だよぉ!』
真理がドヤ顔で言い放った瞬間、キャンピーの身体がポンッと弾けるような音を立てて光に包まれた。
眩しさに目を細めていると、光が収まった後には、膝丈サイズの小さなキャンピーが十人ほど現れていた。
「ほえー、かわいい!」
ミニドラならぬ、ミニキャンピー。略してミニピーだ。
真っ白なワンピースに、頭のてっぺんでピコピコと動くアホ毛。
ちょこまかと動き回る姿は、見ているだけで癒される。
「ダーッ!」
だが、ミニピーの一人が、わたしの足首をヒョイと掴むと、そのまま片手でわたしを高く持ち上げたのだ。
フワリと身体が宙に浮く奇妙な浮遊感に、わたしは目を限界まで見開いた。
「うおっ!? 見た目に反してめっちゃパワーあるじゃん!」
わたしは激しくのけぞり、そのまま空中でジタバタと暴れた。
どうやらこのミニピーたち、サイズは小さくても基礎スペックは本体譲りのチートらしい。
「ダー! ダーッ!」
ミニピーたちは気合の入った掛け声を上げると、遭難者を回収すべく、鍾乳洞の奥へと凄まじいスピードで散っていった。
あっという間に見えなくなった小さな背中を見送りながら、わたしはふと首を傾げた。
「ん? ていうか、そんな便利な機能があるなら、最初から使えばよかったじゃん。なんで今まで隠してたの?」
『いやー、それがさぁ。分身を使うと、本体であるキャンピングカーが使えなくなっちゃうっていうデメリットがあるんだよねぇ』
「あー、なるほど。車中泊や移動ができなくなるのか」
わたしは腕を組み、深く納得した。
確かに、快適な車内空間という最大のメリットが失われるのは痛い。
「む。つまり、今は馳走を作るキッチンもないということですか」
テンコがふさふさの尻尾を力なく垂らし、ぷくっと両頬を限界まで膨らませて抗議してきた。
相変わらず食い意地が張っている。
「まあでも、わたしは【野外活動】スキルがあるから、キャンプならいくらでもできるし問題ないよ」
わたしは余裕の笑みを浮かべて、ポンと胸を叩いた。
「キャンピーがいなくても大丈夫。っていうか、いない間に敵なんて絶対こないだろうしねー」
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