115.
キャンピーは反重力機能で海面を滑るように進み、あっという間に海の神殿——『海のダンジョン』の入り口へと到達した。
ザザーッ、と波が神殿の基部にぶつかり、真っ白な飛沫が舞い上がる。
潮の香りが一段と濃くなり、古い石造りの建物特有の、湿り気を帯びた冷たい空気が流れ込んできた。
入り口の大きな石門の前には、うっすらと青白い光の膜が張られている。
「普通のダンジョンは、不法侵入を防ぐために出入り口にバリアが張ってあるらしいけど。ここも御多分に洩れず、って感じだね」
私がハンドルを握りながら独り言を漏らした、その時だった。
『ふはははは! よくぞ参った、導かれし者たちよ!』
突然、車内全体に響き渡るような、やけに尊大な声が聞こえてきた。
どこから聞こえるのか、スピーカーを通したような、それでいて直接脳内に響くような不思議な感覚。
「な、何この声!?」
「きゅいきゅいーっ!」
ソーちゃんが驚いて私の頭にしがみつき、テンコもふさふさの尻尾を逆立てて周囲を警戒する。
『ふははは、驚くことはない。我こそは「真理」。この地の守り神的サムシングであーる!』
「真理……? 守り神的サムシング?」
私は露骨に嫌そうな顔をして、ガックリと項垂れた。
名前からして胡散臭いし、語尾の「あーる」が絶望的に怪しさを加速させている。
『はぁ……。それで、そのサムシング様が私たちに何の用?』
『ふむ。殊勝な態度ではないか。特別に任務を与えよう。実はな、我はこのダンジョンの最奥に閉じ込められておるのだ。我を解放してほしい。その暁には、攻略のアドバイスを色々してあげまっする!』
「……あやしすぎでしょ。誰が助けるか」
私は即座にアクセルを踏み込もうとした。
見ず知らずの、自称神様なんてろくなもんじゃない。
だいたい「アドバイスしてあげまっする」とか言っている奴が、まともな神のわけがない。
『わわわっ、ちょっと待て! ガイド、ガイド欲しくねーすか!? このダンジョン、結構複雑だぞ!?』
「いらん。私には【鑑定】スキルがあるから、道順もギミックも全部自分でわかるし」
『わわわわ……まってー! お願い助けてー! もう何百年も一人で寂しいのー! 誰も来てくれないのー!』
さっきまでの尊大な態度はどこへやら、声の主は泣き落としにかかってきた。
必死すぎて、もはや威厳の欠片もない。
「…………」
ふと隣を見ると、人間姿のキャンピーが、潤んだ瞳でじーっと私を見つめていた。
小首を傾げ、服の裾をギュッと掴んでくる。
どうやら、あまりの必死さに同情してしまったらしい。
「……わかった、わかったよ。そんな目で見ないで」
私は観念して、大きく両手を挙げてのけぞった。
相棒にこんな顔をされては、断れるわけがない。
『わーい! 話がわかるではないか! 恩に着るぞ、キャンピングカー聖女!』
「キャンピングカー聖女って言うな! ……はぁ、行くよ、野郎ども!」
私の号令と共に、キャンピーがバリアを突き抜けて神殿の中へと走り出した。
謎の自称神様「真理」を救出するため、私たちは得体の知れないダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
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