112.
熱気に包まれたギルドの喧騒の中、人混みを掻き分けて一人の老人が進み出てきた。
潮風と日差しで日焼けした顔に、深い皺が刻まれている。
漁師たちのまとめ役のような出立ちの老人は、キャンピーの前に進み出ると、すがりつくように膝をついた。
「おお、ミカデス様の再来たる聖女様! どうか、我らをお救いくだされ!」
老人の悲痛な叫びに、ギルド内の空気がピンと張り詰める。
「実は最近、港のすぐ近くの海域に、巨大な『海のダンジョン』が突如として出現したのでごぜぇます」
「海のダンジョン?」
私が聞き返すと、老人は深く頷いた。
「はい。そのせいで周辺の海流が荒れ狂い、恐ろしい魔物たちが湧き出して、船が全く出入りできなくなってしまったのです」
老人はガックリと項垂れ、床に額を擦り付けた。
「このままでは漁にも出られず、交易船も来ない。港町ウォズは干上がってしまいます! どうか、聖女様のお力でダンジョンを塞いでいただきたいのです!」
「あわわわっ!」
懇願されたキャンピーは、完全にパニックになっていた。
白銀の髪を振り乱し、両手をバタバタとさせて後ずさる。
だが、キャンピーは根が(車だけど)とてつもなくお人好しだ。
困っている人を目の前にして、見捨てて逃げるような真似はできないらしい。
キャンピーは私の服の裾をギュッと掴み、上目遣いでこちらを見上げてきた。
その瞳はうっすらと涙ぐみ、助けを求めるように揺らいでいる。
私がこういう面倒事を極度に嫌がっているのを、相棒である彼女はよくわかっているのだ。
だからこそ、助けたいけれど言い出せないという板挟みになり、もじもじと身をよじらせていた。
「きゅいー?」
「スミコ。キャンピー殿が困っていますよ」
ソーちゃんが首を傾げ、テンコがふさふさの尻尾をパタパタと揺らしながら言ってくる。
テンコに至っては、海のダンジョンと聞いて「さらなる海鮮の宝庫では」と目を輝かせ、涎を垂らしていた。
私は大きく天を仰いだ。
そして、勢いよくガバッと背中のけぞり、特大のため息を吐き出す。
「あー! もう! わかったよ! やればいいんでしょ、やれば!」
私が半ばやけくそ気味に叫んだ瞬間。
「ぱぁっ!」
キャンピーの顔が、文字通り花が咲いたようにパッと明るくなった。
そして、私の前に立って、力強くバシッと親指を立てる。
「ぐっ!」
満面の笑みでのサムズアップだ。
お前、本当に車かよ。可愛すぎるだろうが。
「おおお! 聖女様が依頼を受けてくださったぞ!」
「うおおおおおおおおっ! 奇跡だ!」
老人が歓喜の涙を流し、ギルド中の冒険者たちが一斉に拳を突き上げて咆哮した。
床が震えるほどの凄まじい歓声が、ギルド内に響き渡る。
「ダンジョン攻略の暁には、町中の海鮮で大宴会だぁぁぁ!」
「海鮮! 馳走なのです!」
冒険者たちの言葉に、テンコが歓喜の声を上げてガッツポーズをした。
ソーちゃんも短い手足をバタバタさせて喜んでいる。
「はぁ。また厄介事に首を突っ込むことになっちゃったよ」
私はガックリと膝から崩れ落ちた。
だが、満面の笑みを浮かべるキャンピーと、美味い飯を期待してはしゃぐ神獣たちを見ていると、不思議と悪い気はしなかった。
かくして、追放聖女とチートキャンピングカー一行は、海のダンジョンへと挑むことになったのである。
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