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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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111/117

111.

 私たちは町長たちから逃げるようにして、冒険者ギルドへと駆け込んだ。

 だが、ギルドの重厚な木の扉を押し開けた瞬間、私は思わず立ち止まってしまった。


 昨日あれほど私たちを馬鹿にして笑っていたむさ苦しい冒険者たちが、一斉にこちらを振り返る。

 そして、モーセの十戒のごとく、綺麗に左右に道を開けたのだ。


「おお……聖女様!」

「美しき救いの聖女様!」


 屈強な男たちが、床に膝をついて祈りのポーズを捧げている。

 酒と汗と潮の香りが入り混じったギルド内に、異様なまでの熱気と信仰心が渦巻いていた。


「あわわ……!」


 その視線を一身に浴びたキャンピー(少女形態)は、完全にパニックに陥っていた。

 白銀の髪を振り乱し、私の背中にガシッと抱きついて隠れようとする。

 ガタガタと小刻みに震える姿は、どう見ても怯える小動物だ。


「ちょ、ちょっと待って! なんでこんなことになってるの!?」


 私はキャンピーを庇いながら、昨日対応してくれた受付嬢のカウンターへと向かった。


「受付のお姉さん! 昨日クラーケンを倒したのは確かにキャンピーだけど、なんで『聖女』なんて呼ばれてるの!?」


 クラーケン討伐の功績が称えられるならわかる。

 だが、なぜ聖女として崇め奉られているのか、さっぱり意味がわからない。


「どうしてって……決まっているではありませんか」


 受付嬢はうっとりとした瞳でキャンピーを見つめ、両手を胸の前で組んだ。


「あのお方は、いにしえの聖女『ミカデス』様にそっくりなのですから!」

「ミカデス……?」


 私は首を傾げた。

 どこかで聞いたことがあるような、ないような、不思議な響きの名前だ。


「ふふん。何を隠そう、妾を育てた偉大なる山の神のことですよ」


 テンコが得意げにふさふさの尻尾をパタパタと振った。

 鼻高々に胸を張り、ドヤ顔を決めている。


「ああ。あんたがちょいちょい口に出す、あの育ての親のことね」

「ええ。山の神ミカデス様。とても優しく、聡明で、それでいて強大な力を持ったお方。困っている人を決して見捨てず、常に慈愛に満ちておられました」


 テンコの言葉に、受付嬢も激しく首を縦に振って同意する。


「その通りです! ミカデス様はまさに慈愛と力の象徴! キャンピー様は、そのミカデス様に生き写しなのです!」

「ふぅん。なるほどね」


 私は腕を組み、大きく頷いた。

 つまり、キャンピーはその山の神にして伝説の聖女、ミカデスに容姿がそっくりだから、これほどまでに祭り上げられているというわけだ。


 神様に似ているなら、そりゃあ信仰の対象にもなるだろう。

 でも、一つだけどうしても引っかかることがある。


「って、そもそも聖女って、あんな極太ビームを出す生き物なの!?」


 私は勢いよく身を乗り出し、カウンターをバンッと叩いた。

 キャンピーが昨晩放った【魔物ぶっ殺し光線】は、どう考えても聖女の技ではない。

 完全に大量破壊兵器の類だ。


「ええ、出しますよ」

「出しますね」


 テンコと受付嬢が、寸分の狂いもなく同時に頷いた。


「ミカデス様も、悪しき者を浄化する際によくビームをお出しになられておりました」

「山を丸ごと吹き飛ばすほどの、神々しい光の柱でしたね」


 私はあまりの衝撃に、ガックリと膝から崩れ落ちた。

 床に手をつき、天を仰ぐ。


「まじか……。この世界の聖女の概念、どうなってんの……」


 ビームを撃つのが聖女の標準仕様だとは恐れ入る。

 私が召喚された時に追放されたのも、ビームを撃てなかったからかもしれない。


「てゆーか、なんでこのウォズの町だけ、そんなにミカデス信仰が盛んなの? 別の国ではそんな話、一度も聞かなかったけど」


 私が立ち上がりながら尋ねると、受付嬢は誇らしげに語り始めた。


「ミカデス様には複数人の娘様がおられまして、その中のお一人、全知全能の『真理』様が、この町を興されたからでございます」

「ふぅん。真理、ねえ。全知全能ってまた大層なお冠だこと」


 真理。

 どこかのサポートスキルのような、いかにも胡散臭い名前だ。


「真理様は、その凄まじい知識の力によって、荒れ果てた海岸だったこの場所を、立派な港町へと発展させてくださったのです。その母であるミカデス様もまた、真理様に快くお力をお貸しになられたと伝わっております」

「だから、この町では親であるミカデスも有名で、信仰の対象になってるってわけか」

「はい。あちらをご覧ください」


 受付嬢が指差した先には、ギルドの壁際に設置された立派な祭壇があった。

 そこには、大理石で彫られた美しい女性の像が鎮座している。

 周囲にはお香が焚かれ、甘く神聖な香りが漂っていた。


「これが、ミカデス様の像です」


 私は祭壇に近づき、像をまじまじと見上げた。

 なめらかな曲線で描かれた肢体、慈愛に満ちた瞳、そして風になびく長い髪。

 なんか、ちょー美人だ。


「言われてみれば……たしかに、キャンピーの人間形態に顔つきが似てるね」

「そっくりです! 目元や輪郭、そして醸し出す神聖なオーラまで!」


 受付嬢が興奮気味に身を乗り出してくる。

 私も像とキャンピーを交互に見比べた。

 確かに瓜二つだ。姉妹だと言われても信じるレベルで似ている。


「でも、なんで私のキャンピングカーと、この町の神様が似てるんだろう……?」

「それはきっと、ミカデス様の生まれ変わりだからですよ!」


 受付嬢が両手を合わせ、目をキラキラと輝かせた。

 周囲の冒険者たちも「おおっ!」と歓声を上げ、さらに深く頭を下げる。


「そ、そう……」


 私は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

 キャンピングカーが神の生まれ変わりだなんて、そんな無茶苦茶な話があるだろうか。


 すると、横で像を見上げていたテンコが、不思議そうに小首を傾げた。


「おかしなことを言いますね。ミカデス様は、まだご存命ですが」

「だよね! あ、やっぱ生きてるよね!」


 私はテンコの肩をバンバンと叩いた。

 生まれ変わり理論は、開始一分であっさりと論破された。


「じゃあ、本当にどうしてキャンピーとミカデスが似てるんだろう……。ただの偶然?」


 私は腕を組み、唸り声を上げた。

 謎は深まるばかりだ。

 私の固有スキルであるキャンピーと、この世界の山の神。

 何らかの繋がりがあるのだろうか。


「みかですー? おいしー?」


 ソーちゃんが呑気に私の頭の上でよだれを垂らしている。


「食べ物じゃないよ、ソーちゃん」


 私がソーちゃんの頭を撫でていると、背後から服の裾を強く引っ張られた。

 振り返ると、キャンピーが涙目になって私を見上げている。


「あわわ……」


 キャンピーは両手で顔を覆い、首を横にブンブンと振った。

 周囲を取り囲む冒険者たちは、今や完全に狂信者の目つきになっている。

 みんなから「聖女様!」「奇跡の体現者!」ともてはやされ、すっかり怯えきってしまったのだ。


「よしよし、キャンピー。大丈夫だからね。私がなんとかするから」


 私はキャンピーの白銀の髪を優しく撫でた。

 だが、なんとかすると言っても、一体どうすればいいのか。

 町長からはクラーケンの巣の討伐を押し付けられそうになり、ギルドでは神の生まれ変わりとして崇拝されている。


 出稼ぎに来ただけなのに、事態は完全に私の手に負えないレベルまで膨れ上がっていた。

 私は大きくため息を吐き、これからのトラブルの連続を予感して、ガックリと項垂れるのだった。

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― 新着の感想 ―
>「それはきっと、ミカデス様の生まれ変わりだからですよ!」 いやその子軽自動車の付喪神未満を神が転生させた子だから。 思うに、この世界に人間とにかく思い込み激しいうえに一度こうと思ったら軌道修正激し…
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