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捨てられ聖女は万能チート【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる  作者: 茨木野


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109/117

109.

 私たちは、とばり(夜)の降り始めた静かな浜辺へと戻ってきた。

 波の音がザザー、ザザーと心地よく響き、潮の香りが辺りを包んでいる。


 だが、今の私には情緒を味わっている余裕なんてない。

 目の前では、キャンピー(人間形態)が砂浜に三角座りをして、目に見えるほどどんよりとしたオーラを放っているからだ。


「よし、キャンピー。ご機嫌を直してよ。今から特製の海鮮バーベキューを振る舞うからさ!」


 私は気合を入れ、【KAmizon】を起動した。

 虚空に浮かぶブラウザを高速で操作し、本格的な焚き火台、高級な木炭、そしてバーベキュー用の網とトングを次々と注文する。


 ガサッ、ガサガサッ。


 足元に届いた段ボールから手際よく道具を取り出し、設置していく。

 炭に火を点けると、パチパチと薪の爆ぜる心地よい音が静かな夜に響き始めた。

 そこに並べるのは、先ほど仕留めたばかりの巨大クラーケンの足だ。


 ジュゥゥゥゥ……ッ!


 網の上に乗せた瞬間、食欲をそそる凄まじい音が立ち上った。

 醤油とバターを軽く垂らすと、香ばしく焦げた匂いが鼻腔を強烈に刺激する。


「じゅるり……。スミコ、もう焼けたのではないですか? 妾の鼻が、これは至高の馳走であると告げておるのですが」


「きゅいー! たべるー!」


 いつもなら真っ先に飛びついてくる食いしん坊コンビが、身を乗り出して鼻をピクピクさせている。

 テンコは涎を堪えるのに必死なようで、ふさふさの尻尾を落ち着きなく左右に振っていた。


 だが、今の最優先事項はこっちじゃない。


「ステイ! 二人とも、一回お座り! 今日はキャンピーが一番最初だよ」


 私は焼きたてでぷりっぷりのゲソを小皿に取り、おそるおそるキャンピーの前に差し出した。


「ほら、キャンピー。一番美味しいところだよ。どぞ」


「…………」


 キャンピーはチラリと皿を見つめ、それからゆっくりとゲソを口に運んだ。

 もむもむ、と小さな口を動かして咀嚼する。


 私とテンコ、そしてソーちゃんは固唾をのんでその様子を見守った。


「……どう、かな?」


「…………」


 キャンピーは、なんとも形容しがたい、微妙な表情を浮かべて首を傾げた。


「ええっ!? まじか。まずいの? クラーケン、見た目はイカだけど味は変なのかな……」


 私は不安になり、自分でも一切れ食べてみる。

 隣では我慢の限界を迎えたテンコが、残りの足をひったくるようにして口に放り込んでいた。


 むぐっ。


「ん、普通にうまいじゃん! 弾力があって、噛むほどに甘みが溢れてくるよ」


「なんという美味! びーみー! これほど濃厚な旨味を持つ食材を、まずいなどと、キャンピー殿の舌はおかしいのではありませんか?」


 テンコは目を輝かせ、ガツガツと二本目の足に食らいついている。


「じゃあ、一体何がご不満なの……?」


 私が尋ねると、キャンピーはおもむろに立ち上がり、砂浜に指で文字を書き始めた。


『ガソリンほしい』


「ああ……。そっちか」


 納得である。

 彼女は人間になれるとはいえ、本質は【野外活動車】なのだ。

 生物としての食事より、機械としてのエネルギーを求めているらしい。


「わかったよ。特別に【KAmizon】で最高級のやつを取り寄せてあげる。ハイオク満タンでいい?」


「…………」


 キャンピーは深く頷いた。

 現金なものである。

 それまでのどんよりした空気を一変させ、期待に満ちた目で私を見つめてきた。


 私はすぐに注文を済ませ、届いたポリ缶を手に、キャンピーが差し出した専用のジョッキに液体を注ぎ込んだ。

 ゴクゴク、と美味そうにハイオクを飲み干していくキャンピー。


「……それで、いいの?」


「…………」


 飲み終えると同時に、キャンピーの姿が眩い光に包まれ、元の巨大なキャンピングカーへと戻った。


 ぷっぷー♪


 軽快なクラクションが鳴り響く。

 車体を左右に可愛らしく揺らすその姿は、どう見てもご機嫌そのものだった。


「はぁ~……良かったぜ。これでやっとゆっくり寝られるよ」


 私は安堵のあまり、その場にガックリと膝をついた。


 夜の海辺に、再びパチパチと焚き火の音が戻ってくる。

 満腹になった神獣たちと、エネルギー満タンの相棒。

 私たちは波の音を聞きながら、静かな夜を過ごすのだった。


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※4/6(月)


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