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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
最終章「闘神の顕現と究極の依り代」

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英雄の帰還


さて、これからが本番だ。フリッツは用意していた書類を卓に出した。


「これ、フィーネに見て欲しいんだけど、共同体の名称を『アレクサンドライト』に決定する為の書類なんだ。既に帝国、同盟国、共和国の代表には話を付けてて、あとは君の承認さえあれば正式に制定されるんだ。」


フィーネはその書類に目を通す。が、小難しい文体で長々と文章が続いているのでどうしても目が泳ぎそうになる。それを見越したフリッツが補足に入る。


「僕も共和国代表としてサインしてるけど、難しい事は一切ないよ。『アレクサンドライト』はアレックスの名の下に、今後邪神が絶対に復活しないよう、その力を削ぐような行動を規範にしようって内容だよ。」

フリッツの説明にフィーネは書類から目を離し、フリッツに頷く。


「代表のアレックスの故郷であるこの街を『アレクサンドライト』へ改称して共同体の中心地として、各地方政府が協力して共同体の運営に当たる。そういう事だよ。」

「この街の名前がアレックスの偉業を称える中心地になるんですね?」

そう、そう言う事だよ。とフリッツはフィーネに頷き返す。


「邪神の力を削ぐように行動を規範にするってのも、なにも難しく考える事じゃないよ。むしろこの街で既に実践しているから、僕も驚いたくらいだ。」

フリッツはこの街の人々が生活の中で実践している『自分自身で行動し身近な神に感謝する』という行動が、世界中で行うべき行動なんだと強調する。


「この街は世界の規範になる。その為に各地方政府がこの街を参考に色々変わろうとしてるけど、フィーネは『アレクサンドライト』の代表として今まで通りの普通の生活をしてくれてたらそれで良いんだよ?」

「私だけ、何もしなくても良いんですか?何か申し訳ないです。」


フィーネは自身をこの街『アレクサンドライト』の代表だと理解して話を聞いているが、フリッツはこの街ではなく世界共同体「アレクサンドライト」の代表と言う風にすり替えて話を持って行っている。


『この世界の新女王になってくれ。』と言っても絶対首を縦に振らない事は解り切っているので、全てにおいて「アレックスの為」を強調し、「アレックスの偉業を後世残す為」として納得させた。ある意味詐欺まがいのやり方だ。


しかしその方法を取るのも仕方ない面がある。世界中でのフィーネの扱いは

『邪神戦で英雄が全力を発揮できる様に我が身を犠牲にして世界を救った女神』

となって世界中の人々に尊崇されている。


現時点では女神教団の女神アンネリーゼを上回る土の巨大結晶の加護を受けた現人神として扱われ、人々から事実上の世界の女王と成る事を熱望されている。

その期待を一身に背負ってのフリッツの交渉は無事に終了した。


フリッツの説明に納得したフィーネはフリッツの用意した書類にサインをした。

これで新世界の共同体『アレクサンドライト』の女王の誕生だ。



一連の流れを観察していたウォルターはため息交じりに思う。

『兄さんの真似しろって言われても僕にはとてもじゃないけど無理そうだなぁ。これでマサキさん達が帰ってきたらどうなるんだろう?』


ウォルターは表面上は笑顔を浮かべつつも、内心では頭を抱えていた。


────────────────────


今回の目的を無事果たした一行は肩の荷が下りた事もありその後は歓談となった。


「スーよ、アレクサンドライト騎士団長の仕事は充実しておるのか?」

「はぁ、殿下に推薦されて騎士団長などに任命されましたが、至って平和なので特にする事がないのが玉に瑕ですが。」


スーフェイの隣でブルーノが小さくなっている。まるで自身の存在を消し去りたいかのような不自然さを醸し出していた。


「ブルーノ、『アレス-シュナイデン』が抜けないとはどういう事ですか?」

サクヤに指摘されてブルーノが観念したように恐る恐ると言った感じで言う。


「・・・団長に決闘を申し込んだ時から、抜けなくなったんです。」

「サクヤ、コイツ、スーさんに勝ったら結婚してくれって決闘申し込んだんだよ。」

ヴァルがため息交じりに種明かしをすると其の途端に王女が突っ込む。


「お主は阿保か!!白百合の君に結婚を申し込むなど正気か!!?」

「ブルーノ!?あなたはもう少し分別があるかと思ってましたが、馬鹿ですか!?」

「いや、姉さん!団長がお寂しそうだったのでつい・・・。」


ブルーノの言葉にスーフェイは呆れて何も言わず、サクヤに窘められる。


「あなたとスーさんが一緒になるなど天地がひっくり返ってもあり得ません。」

「そうじゃ!その場合マサキ様が戻って来れない事が前提になる。そこを考えよ!」

「すみません!そこまで頭が回りませんでした!!」

ブルーノがテーブルに両手をついて頭を卓へ擦りつける、皆が呆れた表情でそれを眺めていた時。


庭先の土の巨大結晶の優しく温かい光がいきなり周囲を包み込んだ。


────────────────────


「これは!?まさか!?」

「光が増した!?ついに!?」

「とうとう決着が着いたのか!?」

室内が騒然とする中、廊下を駆けてきたアキラとメイが扉を開けて叫ぶ。


「スー様!紅月様と蒼月様が遥か北の大地にご帰還されました!」

「アレックス様マサキ様共々ご健在です!!」

その報告に一同は立ち上がり廊下へ飛び出し表の巨大結晶の元へと走る。


先頭はスーフェイが尋常でない速度で駆け、後にアキラ、メイと続く。

巨大結晶の周囲には館の役人、騎士団員が集まり一日千秋の思いで待ち続けてきた事態を目の前にして騒然としていた。


「!?団長!ついに英雄と勇者の凱旋でしょうか!?」

「街の人々もこの事態に気付いて通りに溢れ出て来ております!」


街の何処から見てもその存在が目視できる巨大結晶の異変は、たちまち街の人々も知る所となり、歓喜の声が街中に溢れ出した。


「やったぞ!遂に邪神本体を滅ぼしたんだ!!」

「千年王国どころじゃない悠久王国の誕生だ!」

「やっと英雄と勇者のお二人が帰って来るぞ!!」


人々は自然と街の郊外へと向かった。あの巨大な応竜が降りられるのはそこしかあるまいと踏んで出迎えに向かう人々の足は自然と早まる。

丘の上の館からもその光景が一望できる、皆で顔を見合わせ向かおうとした時、


「あ!私、こんな格好している!?マサキに笑われないかな!?」

スーフェイが自分の着た黒を基調としたメイド服に困惑して叫んだ。

王女はそれに笑いながら言う。


「良いではないか!そういう女らしい格好にも惚れ直すかも知れぬぞ!?」

「おかしい所などありませんよ、女性らしくてお似合いでいらっしゃいますよ?」

王女とサクヤに女性らしい服装だと肯定され、『そうかな?そうよね?』と一人自問自答して、納得したスーフェイも館からの階段を駆け下りる。


「なかなか早いではないか!というか、この階段をあの速さで降りれるのか!?」

「ちょっと!あれでは誰も追いつけませんよ!ブルーノ!追いかけなさい!」

「無理です!団長が本気出したら誰も追いつけませんって!!」


一同はスーフェイの後を追って駆けるが、アキラとメイが付いて行くのがやっとで彼女との距離は開く一方だった。通りを郊外へ向かう人の群れが後方から走って来るスーフェイに気付き、一斉にその道を開ける。


「団長!遂に英雄のご帰還ですね!おめでとう!」

「スー様!おめでとうございます!」

「スーお姉ちゃん!おめでとう!」


通りの両脇に道を開けた人々から祝福される中を、スーフェイとアキラ、メイは郊外の飛行艇が着陸している広場へと駆けた。



────────────────────


北の大地の天空、雲海の中に現れた暗黒の空間から雲を切り裂いて現れたのは、応竜の背に乗ったアレックス、政樹と白狐だった。


眼下には約2年ぶりとなる白い北の大地が広がっている。こちらの世界に戻った時、今まで加護を与え守ってくれてくれていたのであろう、各巨大結晶の力から解放されるのが感覚として解った。


政樹は各巨大結晶へ力を与えてくれていた事の感謝を捧げた。


「やっと帰って来れたなマサキ。」

「ああ、随分と長い間留守にしちまったな。」

「しかし、これでもう未来永劫邪神に怯えなくて済む事になったんだ。」


やっと使命を終えた開放感から、二人とも気分は高揚していた。

やっと帰れる、帰ったら何をしよう、まずはゆっくりと柔らかいベッドで寝て、久しぶりの料理を食べて、風呂にも入りたいな、・・・というか何もせずに只ボーっとしていたいとも思える。


先ずは街に戻って大地に降りる事だな、というか何処へ行こうか?

やはり王都なのだろうな、あの戦いの後王都がどうなったのかが気になる。

土の巨大結晶がどうなったのかも気になるしな。・・・政樹がそう考えていたら、応竜は方向からすれば王都を目指している様だと気付く。


「この先の街にお主を待つ者の気配が多く集まっておるな、そこへ向かうぞ。」

「あ、はい。お任せします。」


白狐に指示された応竜は旧王国の新都市「アレクサンドライト」へと進路を向けた。



────────────────────


「あ!あれ!応竜じゃないかな!?」

「え!どこ!?・・・・あ!あれかな!?」


「アレクサンドリア」門外の飛行艇の周囲には大勢の街人で溢れかえっていた。

どうしても外せない用件のあるもの以外がほとんどこの広場に集まっているのだろう、皆が北の空を注視している中その影が雲の中から現れた。


「ドラゴンだ!本当に英雄と勇者が帰って来たんだ!」

「団長!マサキ様のお帰りです!遂に!・・・遂に!!」

「スーお姉ちゃん!マサキお兄ちゃんが帰って来たよ!おめでとう!」


上空を見上げるスーフェイの周囲からはあえて人々が距離を取っていた、遠くからでもその姿が見える様にと言う皆の想いが込められたごく自然な光景だった。


その周囲には英雄たちと同じ時を過ごした仲間たちがスーフェイを見守る。


「あー、これで首席宰相ともおさらばだ。後は頼むよウォルター?」

「・・・やっぱりそうなるんですよね?あー素直に喜べないなぁ・・・。」

「やっと帰って来られたのう、一度イヅナ山にもお越しいただかねばのう。」

「是非ともマサキ様の好物の海の幸でお祝いしなければなりませんね。」

「お二人と一緒に各地に挨拶回りした方が良いですよね?アリーシアさん?」

「ええ、そうね。彼らの帰りを待ちわびてた人はとても多いから。」


いつの間にか街中で歌を歌っていたアスコールも交じって空を見上げていた。

「さぁ。向こうでの活躍を聞いて新曲を作らなくちゃ。」


しかし人々の中でただ一人、人狼アキラだけがその異変に気付いていた。


『・・・?応竜の反応がおかしい?なにかトラブルがあったのか?』


歓喜に沸く人々とスーフェイの姿を視線に収めながら、アキラはこのトラブルがどう転ぼうとも決してスーフェイを悲しませる様な事にならないよう神に祈るのだった。



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