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八百万の神々と千年王国の竜  作者: 涼城 鈴那
最終章「闘神の顕現と究極の依り代」

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アレクサンドライト


ヴァルとアリーシアに案内されて王都内の大通りを進む、フリッツ、王女、サクヤ、ウォルターの4人。新しい世界の象徴とも言える出来たばかりの真新しい建物や路面を観察しつつ、気になった所はヴァルとアリーシアに質問する。


「新しい街とはいえ、通りの何処にもゴミ一つ落ちておらぬのう?」

王女は一番最初に気付いた件を思わず口にした、ヴァルがそれを受ける。


「ええ、マサキ兄さんが『どんな物にも場所にも神が宿る』とのお考えなので、皆それに倣って神様の居られる場所を朝と夕方に掃除をしているんです。」

日々平和に暮らせることを神様に感謝する事を行動で示してるわけです。


『神に祈ったのに願いが叶わなければ不満に思う』今まで無意識にそうしていた為に、その不平不満が邪神の力の源に悪用されていたのです。邪神の力の源を無くしてしまえば、マサキ兄さんとアレックスさんが早く帰って来れるのではないかと考えて、皆が自主的にそうているのです、とヴァルは説明した。


そう言われて改めて街の住人を見てみれば、皆一様に明るく活気に満ち溢れた様子が伺える。皆が皆、二人の帰りを心待ちにしているのだ。



────────────────────


もうすぐ女王に住まう丘へ向かう階段のある広場でその騒動は起きていた。

多くの観衆に囲まれながら、一人の若い男と一人の黒髪の美女が相対している。


「おや、あれはスーではないか?見慣れぬ格好をして何をしておるのじゃ?」

「あ、もう一人はブルーノ?一体何がはじまるのでしょう?」


王女とサクヤの良く見知った顔が輪の中心で向かい合っている。

スーフェイは黒を基調にしたメイド服の様な物でその身を包んでいる。

その周囲には一般市民の姿しか見かけないが、その中には筋骨逞しい男たちの比率が異様に高い、その男たちがブルーノを囃したてている。


「ブルーノ隊長!あんたまだ懲りてなかったのか!?もう諦めろって!」

「団長に喧嘩売るより剣一本でキマイラに挑んだ方がまだ望みがあるぞ!?」

「結果が解り切ってて賭けが成立しないんだから止めとけって!なぁ!?」

囃したてているのはこの国の騎士団員達の様だ。


「この国では騎士団員は普段街中で別の仕事に就いてるんです。」


アリーシアが説明する、この国の騎士団員たちは普段は街中で生活しており、何か事が起これば即座に城下に馳せ参じる仕組みの様だ。このお陰で街中には目が行き届き、大抵の問題は起こる前に解決してしまっている事が多いと言う。


そしてその数少ない問題?が今、発生しているようだ。どうやらこの睨み合いは一度や二度では無いらしい、ブルーノは一体何が不満でスーに挑もうとしているのか?

サクヤは泣き虫ブルーノの無謀さと其の身を案じ、王女はスーの剣技が見れるかと期待し、フリッツは時間に遅れる可能性を考えたが『まぁ一瞬で終わるし良いか。』と思い直した。


「団長に決闘申し込んで以来『アレス-シュナイデン』が抜けないんだよ!こんな事がクラウディア姉さんにバレたらヤバいんだって!察しろ!」

ブルーノが好き勝手に囃したてる騎士団員達に叫ぶ。


「その刀は私の元に戻りたがっているのよ、貴方がその刀を再び抜く為には私より強いと言う事を刀に証明しなければならないと言う事ね。」

スーフェイが刀の意思を代弁する、刀がストライキを起こすとは一体どういう事か。


「私は右手しか使わないからさっさとかかってらっしゃい。」

スーフェイがそう言うも、ブルーノは相手に全く隙が見えず手にした木剣を打ち込めずにいる。するとスーフェイは散歩でもするかのようにブルーノに近づくと、いつの間にかブルーノが仰向けに大地に転がってしまっていた。


自分の身に何が起こったのか解り兼ねている風のブルーノにサクヤが声を掛ける


「ブルーノ、まだまだ修行が足りないようですね?」

「!?姉さん!?・・・・・ご無沙汰してます・・・・。」



────────────────────


スーフェイとブルーノが合流し、客神たちは女王の館へと通された。

新女王の住居は「城」ではなくあくまで「館」と呼ぶのが相応しい規模と外観だった。大きさで言えばワイズマン邸の方が大きい位のささやかな物だ。


これは女王本人の『人の気配が感じられないような規模の城は苦手だ。』との意見を最優先にした結果で、女王はこの規模でもまだ大きく感じている風ではある。


幼い頃に親族を亡くし、他国に移住してすぐに父親とも離別してしまった彼女からすると、畏まった対応をされる事は距離を置かれているように感じるようだ。

騎士団員達が甲冑を纏わず平服で普段から街中に居るのもこの為で、なるべく女王に対しては必要以上に畏まった言葉遣いをしない様に暗黙の了解がある。


そんな事情を理解しているフリッツがテーブルに着くなり言う。


「フィーネもこの暮らしには少しは慣れたかい?」

「まだまだ慣れませんね、村での暮らしが長かったから。」

アレックスと共に彼女に一番親しい関係を続けてきたフリッツが敬語を使おうものなら、彼女は悲しむであろう事は容易に想像できるので、あえての口調を使う。


「しかし、土の巨大結晶が庭先にあるってのも凄いよね?」

フリッツが窓の外で優しい光を放ちつつ泰然と佇む巨大結晶を見ながら言う。

フィーネの使った『聖者の博愛』の、使用者の生命力を吸い尽くす効果はこの巨大結晶が生命力を肩代わりする事で、彼女はその効果から逃れる事が出来ている。


「ええ、でもお陰で多くの人が邪神から守られたので感謝しかありません。」

この巨大結晶は邪神戦後にアレックス達が異界へと行ってしまった時から、その輝きが明らかに減ったと言う。どうやら他の3つの巨大結晶も同様で、離れた異界の政樹とアレックスに邪神の勢力と戦う為の力を送っているらしいと結論付けられた。


この輝きが抑えられている間は、未だに彼らが戦い続けていると言う事なのだ。


街の何処に居ても見える巨大結晶のこの輝きこそが、街の住人や王国国民が二人の英雄を思い、彼らの負担を無くすべく共に戦う決意の象徴なのである。


「僕らはアレックスとマサキがいつ帰ってきてもいいように街を、国を、世界中を心を一つにして守っていかなければいけないと考えてるのは皆一緒だ。」

「はい、私もそう思っています。」

フィーネにとっては自分の親代わりとなって守り続けてくれたアレックスが、世界を守るために戦い続けているのだ。その想いは誰よりも強い。


「そこで、王国や帝国、同盟国に共和国なんて括りは必要ないと思うんだ。」

「括り・・・ですか?」

「そう、今までの国の括りを取っ払って、一つの大きな共同体として造り変えようって考えたんだ。ジギスムント王国、シュタール帝国、ツヴェルグ同盟国、アイントラハト共和国、4つの国を勇者アレクサンダーの元に一つにするんだ。」


フリッツは世界を一つにしてその名称を新たに付け直そう、と提案した。


「恒久的な平和をもたらした勇者の名を付けるのが良いと思うんだけど、『アレクサンダー』なんて付けたら絶対本人は嫌がると思うんだ。」


フィーネはアレックスが帰って来た時に、新たな世界の名前に自分の名前が勝手に使われていると知った時の事を想像して、少し可笑しくて思わず笑ってしまった。


「アレックスは絶対に嫌がりますよね?」

「うむ、嫌がる顔が目に浮かぶようじゃ。」

「彼、目立つ事が嫌いだから反対に改名するかもしれませんよ?」

王女とアリーシアがフィーネに同意する。


「かと言ってマサキの名前を使っても・・・ねぇ?」

「マサキ兄さん、そういうのドン引きしますよね?」

「マサキはそんな事したら人目に付かないところに行っちゃいそうね。」

ヴァルとスーフェイが正樹の名前を付ける事を即否定する。


「そこで妥協案として考えたのが『アレクサンドライト』の名称なんだ。」



────────────────────


『アレクサンドライト』、帝国でわずかに産出すると言う希少な宝石の名前で、光の当たり具合で様々な色に変化すると言う性質から最上級の貴石とされている石だ。


一つの物質でありながら、見る者、見る角度、その他の要因によって様々な色に見える事は、全ての色を否定せず全ての色を肯定する事になる。転じて、全ての人を、全ての神を肯定しお互いを敬い、慈しむ。政樹の考えにも通じるのではないか、と。


「国家の枠を無くし、人種も、全てを肯定する国の名前としてどうだろう?」

フリッツが「アレクサンドライト」の説明の後にそう尋ねると、否定する者は一人もいなかった。


「まぁこれなら、アレクサンダーの名前が混じってても嫌な顔出来ないよね?」

フリッツがそう言うと、確かにこれだけ高尚そうな理由が付けばアレックスも否定は出来ず受け入れるしかないだろう。思わず皆に笑みが浮かぶ。


『この名前しかない。』全会一致で決定した。




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