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第二十話 神に逆らいたいわけじゃないです、懺悔してもいい

年末のアップからかなり空きました。今回は戦闘ナシです。

 伝書鳩で知らせ切れる話じゃないってことで、王城に話を伝えるため、実際にギャラガンと話した俺がレイナを連れて、シュタークもいっしょに戻ることになった。もちろんヴォルトックも一緒だ。

 ひかり号に乗って走る俺に合わせるために、レイナとシュタークとヴォルトックは持ち馬以外に一頭予備を連れて、乗り換えながらついてきた。どっちの馬も走る距離とペースは同じだが、乗り換えることで乗ってる人間分の重荷を背負わず走れる予備の馬は疲労蓄積が軽減できる。それくらいでやっとひかり号のペースについてこれるという。

 ひかり号のすごさを今更ながらに思い知ることになった。

 野営で休むときも、ほかの馬はへとへとで水を自分で飲む気力もなさそうだったが、ひかり号は平気でそこらの草を食いまくっていた。

「王は魔族と交渉するんでしょうか」

焚火の前に座り込んだシュタークは心配そうだ。

「ギャラガンの方はそのつもりらしいから、王次第だな」

俺はそう答えるしかなかった。

「我々の戦いが隣国を守るためだけのものだったなんて」

シュタークにとってはそっちのほうが認めたくない話だったらしい。

「兄さま、それよりも、神が信仰心を集めるために戦を煽ったって話のほうがショックよ」

「レイナ、それはギャラガンの言い分だ。真実かどうかはわからない」

 俺が信仰心を集めるためのシンボルとして使われているとは、あんまり思えないんだが。

「以前、信者から金を集めまくっていた悪徳神父を摘発するのを手伝ったことがあったけど、神様があの神父と同じようなことしてるなんて考えたくないわ」


「ふうむ」

 王は俺の話が終わると溜息をついた。

 だだっ広い広間には出入り口の衛兵たちを除くと、俺たち4人と王と宰相さんが居るだけで、がらん、としていた。

 王は宰相さんと目を合わせた。考えは同じ、という確認のアイコンタクトのようだった。

「オーダック卿の推測はおそらく正しいでしょう。攻め込むつもりのない我が国とわざわざ和睦というなら、条件をつけたいということになる。聖王国が目標なのなら、むこうが望むのはわが国の通過。見返りは領土。もっともな話です。ただ、これは人の国として、許されることではない。神のご意思が戦による信仰心の高揚にあるのなら、神のご意思にも反するかもしれませんね」

宰相さんが頷いて続ける。

「信仰心がお望みなら、国策によって戦と同様の効果を上げれば、神はお怒りにはなりますまい。問題は聖王国ですな。宗教宗主でもある法王は周辺諸国にも影響力が強い。魔族に対する対抗連合軍を周辺諸国に呼びかけたとしたら、魔族だけでなく我が国もその敵国と位置づけられるでしょう」

「そうですね。さて、いずれにしても、聖王国の知らぬ間に話が進むのはよくないでしょう。これまでの長年の我が国の戦いが聖王国の盾になっていたという話もある。聖王国の法王がこの件をどうとらえるか、情報をお渡しして、お考えを問うてみる必要があるでしょうね」

「国王陛下のおっしゃるとおりです。魔族の条件に対抗して、我が国に援軍を出すから魔族を共に討とう、というあたりなら今回の魔族からの話は交渉の余地なく一蹴することになりましょう」

「ふむ」

王がすこし考えこむ。顔を上げた王が見た先は、俺の顔だった。

「オリアルト。お疲れのところ申し訳ないが、手紙を書くので聖王国の法王に届けていただけませんか? そしてあちらが今回の魔族の話についてお聞きになりたいとおっしゃるなら、あなたが見聞きしたありのままをお伝えいただきたい」

 つまりこれは王命だ。隣国への使者という。

「は、はい。ですが、わたしはあの国の出身とはいっても国情に疎く、どうやって法王にお会いするのやら」

「まずは、あなたの養父どの、大賢者ハウアーどのにお話するのがよろしいでしょう」


 王の手紙とやらが準備されるまでの一時間ほどがささやかな休憩時間となり、俺たちはすぐにまた旅立つことになった。

 国境の町トロンダプト。俺、オリアルトの故郷だが、俺にとってはほんのいっとき滞在しただけの町なので、感慨は少ない。だが、住人たちにとっては、俺は隣国で名を上げた地元のヒーローということで、大歓迎だった。子供たちが周りを駆け回り、握手を求める人だかりで馬がなかなか進まないほど。

 凱旋のつもりはなかったのだが、町の人にはそう映ったらしい。なんとか歓迎の人ごみを抜けて教会にたどり着いた。わが養父、大賢者ハウアーは、あの質素な私室で俺たちを迎えてくれた。

「よく戻りました。おお、立派になって。活躍はこの町にも伝わっていますよ」

 司祭長は両手を広げて迎えてくれた。

 親子と言っても苗字をもらっただけだから、さすがに抱きついてただいま、でもないだろうと思い、お辞儀をしてそれに応えた。

「実は、国王から法王への手紙を預かっていまして」

ベルトポーチから、預かっている手紙を取り出す。蝋で封され、飾り紐で留められた丸められた羊皮紙だ。

 俺は、司祭長に洗いざらい話した。

「なるほど・・・・・・では、一刻も早く、法王にお会いしましょう。馬はここに置いて、皆もいっしょに来なさい」

 馬を置いて、って馬車ででも行くのかな? と思ったら、司祭長はその場で手品師が何も持ってないことを客席に示すように壁に向かって手を動かし、なにやらぶつぶつとつぶやいた。女性アナウンサーの声が響く。

「ゲート」

壁の前に青白い光の環が立ち、大きく広がると、その輪の中は違う場所に繋がっていた。屋外だ。城門の前らしい。

 司祭長が先に環をくぐって向こうへ行った。俺たちもそれに続く。

 首都ルーンオンヘアーだ。名前は知っていたが。トロンダプトの遥か南。何日もかかる場所という認識だったんだが、振り返ると司祭長の部屋が青白い光の環の中につづいている。環の外側は城門前からの風景。

 城は百メートルほどの高台の上にあり、数十メートルの幅の石段がふもとまで続いている。そして高台の周囲は白い壁と屋根の建物が、敷き詰められたように町が広がって、数キロ先の城壁まで続いている。大都市だ。

 石段の十段おきくらいの両側に、槍を立てて持った衛兵が立っている。そして門の両側にも。

 鎧の上に白い法衣を着た、宗教国家の衛兵らしい格好の兵士たちは、突然のゲートとそれをくぐって訪れた客に対しても、まったく動じていなかった。

 司祭長が門に向かって歩き出すと、両側に立った衛兵は、それを遮るのではなく、ホテルのドアボーイよろしくうやうやしいお辞儀をして、両側から重い木の扉を引いて開け、司祭長を中に招き入れた。

 顔パスなんだ。

「アポとかいらないんですか?」

 養父どのに呼びかけたが、司祭長は歩みを進めながら当然のように、

「わしはいつでも法王にお会いできることになっておる」

と答えた。建物の中に入っても、だれにも遮られず、中に居た人たちは、皆、脇によって道を開け、お辞儀をして司祭長を通す。

 大賢者、という二つ名が想起される。この国の要人なんだ。

「法王は今どちらに?」

 司祭長が通路ですれ違いかけた青い法衣の青年に声を掛けた。色や装飾が役職を示しているのだろう、法王の居場所を把握しているべきポストの人物と知っていて声を掛けたらしい。即座に迷いのない答えが返ってくる。

「大神殿におわします。今朝のおつとめでお告げがあったとのことで、大賢者様がおいでになるのを大神殿でお待ちになると」

 なんでもありだな。もう、要件も神様から伝わってんじゃないか?


 白い大きな両開きの扉も、そこを守る衛兵によって開かれ、まったく誰にも呼び止められることなく、法王が居ると言う大神殿に入った。

 天井が霞むほど高い、数百メートルありそうな円錐の吹き抜け。鋭角なデザインの装飾が施された壁。光取りの無数の窓が開いている。あの窓の開け閉めは魔法でしかやれそうにないな。それか俺のエアウォークみたいなのを履いた窓開閉係がいるのか。

 床は一平方メートルほどの石のパネルが敷き詰められていて、鋭角な模様の魔法陣のようなものが、大神殿と呼ばれる大きな円形の部屋の中央から放射線状に描かれていて、その中心に白い衣をまとった老人が立っていた。

 法王だ。

 杖を持っているが、身体を支えるためではなく、しっかりと宙に浮かせて握っている。背筋が伸びた姿勢で立っている老人が振り返った。百歳だと言われたら納得しそうな皺だらけの顔。白髪と白い髭。痩せた白衣のサンタクロースといったところか。

「良く来ました、おひさしぶりですね、大賢者。そしてあなたが聖騎士オリアルト・ハウアー殿ですね」

 法王の傍にはだれもいない。隣国の兵士である俺たちは鎧を着て帯刀したままだ。保安上も儀礼上も、これでいいんだろうかというオープンな謁見だった。

 司祭長の部屋で取り出したまま持っていた書簡を法王に歩み寄ってお辞儀しながら差し出す。

 法王は書簡の封を解くと、素早く黙読し、読み終わると丸めて懐にしまった。

「魔族との戦いが、我が国の盾としての戦いなのであれば、何の見返りもなくこのまま戦い続けてくださいと言うのは、虫のいい話ですね」

 和睦には反対なんだ。やはり。

 それは神が戦いを望んでいるから、でもあるんだろうか。

「ギャラガンが言った、神の糧の話は、本当なんですか?」

思わず口から出た言葉に、俺の後ろに立っているレイナやシュタークが緊張する気配が伝わってきた。

 いきなりド直球な俺の質問への答えはとんでもない問い返しだった。法王はやさしく笑って言った。

「直接、神にお聞きになってみますか?」

「え?」

 俺は3秒ぐらい、とんでもなく間の抜けた顔をしていたと思う。「チョクセツカミニオキキニナッテミマスカ?」その言葉の意味が脳に浸透するのにかかった時間だ。

「神と話せるんですか?!」

「わたしは聖王国ジークライトの法王です。神をお呼び出しすることを許された人間ですよ」

マジらしい。

まだ、つづきます。

次回、女神キター、ということで。まだひと山あります。

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