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第十九話 何のためにどこで誰と戦うか、考えておくべきだったか

ぎりぎり年内ですね。このお話、年を越します。

 魔族軍の撤退により、戦いは終わった。

 砦はあっけなく人間の手に戻った。

 谷の外向けに作られた砦は、逆向きには機能しないので、防御魔族の拠点とはなり得なかったのだ。砦の壁のこちら側には、壁の上に上り下りしやすいように、スロープや階段がついてるわけだし、門の開閉もこっちからできるようになっている。

 魔族たちは、砦の物見の塔から見える範囲にはいなかった。俺のデテクトイビルにも、軍勢は反応せず、土着の野生動物っぽいイビル系生物が何匹かひっかかっただけだった。

 砦についた軍勢は、怪我人の治療や休息、食事など、非戦闘モードになっていた。

 騎士団の主だった面々が、今後のことを話し合う場は、砦の門の横での立ち話だった。まわりの兵士は、聞き耳を立てることもなく、自分たちの休養に専念しているようで、重鎮たちもこの開放的な場所での重要な話し合いを気にしていないようだった。

 俺が、ギャラガンの話を始めるまでは。

「上空に、魔族軍の軍師だと名乗るやつが現れて、あ、いや、実体じゃなかったようなんだが、俺に話しかけてきたんだ」

 聞いているのはオーダック卿とその副官二名。シュタークに、聖騎士の三人。レイナと、俺の後ろにはヴォルトックも立っていた。

「ええ、私たちからも見えました。戦っておられる様子がなかったので、話をしているというのは、わかりましたが」

 オーダック卿は俺が戦っていなかったことを問題視する様子はない。しかし、下から見えていたということは、他の兵士たちからも、俺が魔族を前に戦っていないのが見えてたってことで、問題ではある。

「ギャラガンという名だそうなんだが」

「その名は聞いたことがあります」

シュタークが言うと、騎士団の面々は頷いた。

「それで? やつは何と言ったのです?」

オーダック卿が訊いてきたので、彼のほうを向いて答えた。

「和平を望んでいるんだと」

 さすがにこの話は周りの兵士には刺激が強すぎると思ったから小声で言ったのだが、これを聞いた騎士団の連中は、まわりに聞き取ったものがいないかと慌てて見回していた。

「場所を変えましょう。そうですね、塔へ上りましょうか」

オーダック卿が言うと、みなで移動した。

 砦の壁には塔が四つあった。門の両脇の柱の上と、あとは両側の岩壁の間際に円柱の塔がそれぞれ立っていた。オーダックは門の右の柱の上の、一番高い塔へ向かった。円筒の塔の内側に壁から中央へ向かって伸びる石の板でできた階段があり、ぐるぐる回って登っていく。一番上は円形の広間になっていて、窓があった。見張りの兵が三人いたが、オーダック卿が下へ降りるように指で指図した。

「ここなら兵たちには聞かれないでしょう。戦意をくじく罠かもしれませんな」

「ああ、俺もそう思った。最初は俺のスキルの話から始まったんだ。なんでそのスキルを神が与えたかって

「魔族を作って力を与え、人間を襲うよう仕向けたのも神で、神に与えられた力でそれを打ち破る聖騎士で信仰を集めてるって。神の糧は人の信仰心なんだそうだ。

「で、出来レースを演じるのはやめて和平を、とかいう言い分だ。交渉に行くから王に伝えとけって」

かいつまみ過ぎたかな? でも話は通じたようだ。オーダック卿の頭脳が目まぐるしく働いているようだった。顎に人差し指と親指を当てて、床を向いたまま話始める。

「そのとおりかどうかはわかりませんが、その論理からすると、和平の条件は、魔族軍の通過でしょうな。聖王国ジークライトを目指しているという、あの女魔族の話が前ぶりになっているのでしょう。聖王国ジークライトは宗教国家だ。戦いで救われようが救われまいが、信仰心は根付いている。魔族にとっては出来レースの片棒を担ぐことにならない」

シュタークがまるで目の前に居るオーダック卿が魔族代表であるかのように激高して言い返す。

「そんな! 自国が攻められなければ、魔族軍を通すなんて、そんな選択はあり得ない! 周辺諸国からはトライスラー王国が悪魔に魂を売ったと誹られるでしょう」

オーダック卿は顔を上げてシュタークと目を合わせて、笑ったように見えた。

「わたしはなにも、この和平に賛成しているわけじゃない。想定を言ったまでだ。和平で兵を引いて北の地に籠ります、と言うはずはないからな。そのつもりなら交渉などする必要がない。こっちは北に逆侵攻などするつもりがないんだから、自分たちが戦闘をやめるだけで戦いは収まる。それをわざわざ交渉というからには要求があって、対価を提示するつもりだろう」

「対価とはなんです! 悪魔と取引ですか?!」

シュタークは、まだ怒っている。それを諫めるでもなく、オーダック卿は続ける。

「おそらくは、ジークライトに攻め込んで移住するから、北の地はトライスラー王国に譲渡するとか、かな。やせた土地とは言え、開拓すればそれなりの領土だ」

シュタークが睨む。オーダック卿はまた笑った。

「俺じゃないぞ、やつらの考えを予測したまでだ」

「その話、その条件だとして受けるんですか?」

俺はたまたま、他の三人の聖騎士とオーダック卿の間に立っていたので、聖騎士を代表して訊いたような形になった。

「聖王国ジークライトとトライスラー王国は戦争状態になったことはないし国境紛争もない。しかし同盟しているわけではない。魔族とトライスター王国の戦いに、聖王国ジークライトが援軍を送ったり援助してくれたこともない。たしかにあなたたち聖騎士は聖王国ジークライトの出身だが、かの国が派遣しているわけではなく個人の意思で参戦している。そうでしょう? 聖騎士を輩出していることは間違いないが、恩義はない。本当に魔族の目標が聖王国ジークライトで、トライスター王国は、その盾になっているだけだとしたら、そして、それを継続しないという選択肢があるのだとしたら?」

オーダック卿はそこまで言ってから、思い直したように首を振った。

「王が決められることですね。たしかに話を持ち帰る必要があるかもしれません」

怒っていたシュタークが、急に笑顔になって発言する。

「そうだ! 和平を受けた振りして、通過する魔族軍の司令部を叩くっていうのはどうです! 普通の国同士の約束なら破った国は国際社会からつまはじきにされますが、魔族との約束なんて、破っても問題ないでしょう」

どうですか、と自分の案を誇っている表情だ。

「お兄様! それでは王国は魔族以下の非道な集団ですわ。恥を知りなさい」

妹に叱られて、笑顔はしゅんとしぼんだ。

「報告書を私がまとめて、王城に届けます。オリアルト殿、時間をいただいて、もうすこし詳しく聞かせていただいてよろしいですか」

「かまいませんが、その前にひとつ、やつの言葉で確かめたいことが」

俺はヴォルトックのほうを向いた。

「やつが言うには、おれを聖騎士に仕立て上げるために、神が神託を与えた人物がいるんじゃないか、と」

ヴォルトックは、すこしすまなさそうに顔を伏せた。

「黙っていたのは悪気があってではないんです。もう、7年も前です。前のオリアルト様にお仕えするときに、夢を見ました。女神が現れて、告げたんです。『時が来たらオリアルトに勧めなさい。聖騎士になるように、と』と。私は、『時が来たら』って、いつのことなんですか? って訊きました。そうしたら、女神は『時が来たら、わかります。はっきりと』と。そしてそのとおりになった。だから従いました」

ヴォルトックの首には教会のシンボルのネックレスがかかっている。聖王国ジークライトの住人なのだから、彼も当然敬虔なる信者だ。

「別に責めちゃいない。確認したかっただけだ。神がどういうつもりだったかってね」

そう、俺は、あのままあの国にはいられなかったさ。

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