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第十五話 反撃の狼煙とか上げる役じゃありませんので、あしからず

まだまだ、戦いはこれからです。

 司令官であるはずのタストクリスが一人で撤退してしまった魔族軍は、それでもよく戦い続けていた。

 というか、そもそもデビルズボイス以外、指揮をとるタストクリスの指示が聞こえていて動いていたわけじゃないってことだ。命令しているのはそれぞれの部隊のリーダーたちで、一万五千の軍隊は実は、百人の部隊が百五十個集まっているだけだったのだ。

 数で三倍、防御有利に導くはずの高い城壁は、魔族が飛行して来るので効果を失っている。

 タストクリスが居なくても、魔族が勝ちそうな戦だ。

 魔族軍が撤退するまで、俺が魔族を切りまくらなきゃいけない流れだろうか。

 いったい、何人切ればいいんだ。

 一万五千全部切ってたら毎秒一匹でも四時間以上だ。疲れないスキルの聖騎士さんならともかく、俺の場合、いくら武器を軽く感じるといっても、四時間も振り回し続けるのは無理だろう。

 あ、そうか、それぞれの部隊のリーダーをつぶせばいいのか。それなら150人だ。

 魔族の半包囲の真ん中あたりにいるので、とりあえず西側を回ることにする。

 エアウォークに時間制限とかないことを祈って、空中を走りながら、北門のすぐ西を見ると、城壁の上で人間側が健闘している。翼がある魔族と、そいつらに運ばれてきた魔族が城壁の上にいて、数は魔族が圧倒的だ。人間側は「ゴッズボイス」の影響下にあって、戦意が上がっている状態なのでもっているようだ。

 魔族のリーダーらしいのを見つけた。人間側の騎士団員らしいのと戦っている十二従将と同じタイプの魔族が、あきらかに周りの魔族より強そうだ。横から空を駆けて、味方の騎士団員ごと左手のハルバートで薙ぎ払う。

 例によって味方の騎士団員をすり抜けて、魔族にだけヒットする。胸板のど真ん中直撃だ。

「ボーナスダメージバーサスイビル」

 魔族リーダーの胸が爆発してはじけ、大穴が開いた。

 ついでにまわりにいる魔族を右手の剣で切りまくる。この部隊の魔族たちがひるむ空気があった。

 よし、次!

 リーダーを切ってまわっていることが敵味方から認識されるように、そのままエアウオークで移動する。

 二十メートルも進めば隣の部隊だ。今度のリーダーは人間の槍兵三人と戦っていた。まずは、

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

そこらにいる魔族のうち傷ついてるやつにはとどめを刺し、健全なやつを傷ものにするエリアスキル攻撃からだ。そしてリーダーにはハルバート攻撃。槍兵たちをすり抜けたハルバートを防ごうとした魔族リーダーの右腕にあたって、

「ボーナスダメージバーサスイビル」

爆発して腕が吹っ飛び、かばわれていた顔面もえぐれる。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

炎がとどめになり、魔族リーダーが周囲の雑魚魔族といっしょに灰になって崩れ落ちた。


 その調子で西へ進むことにする。俺がリーダーを倒してファイアーバーストを2、3回見舞ったところでは、人間側が制圧する事になるので、

「わたしが西へ向かうから、手が空いたら東へ援護に迎え!」

と、偉そうに指示を出す。これで安心して西へ向かえる。

 北西の角あたりまで来ると、魔族軍が勝ってしまっている個所もあった。勝った魔族部隊はさらに西を城壁沿いに攻め立てていた。場内に攻め込むのではなく、城塞の兵を減らすのが戦闘の目的だったらしい。総司令官が居なくなったから、当初の指示どおりやってるのだろう。

 負けちまった戦場はスキップして、俺も西へ行く。角で南に折れて、そこからは南へ行く。

 西側の城壁の中ほどまで行くと、魔族の半包囲軍の端だ。

 これで半分終わった。東半分には西側にいた兵たちを向かわせたから、分が良くなっているはずだ。しかしそれでも敵の兵力が上だ。


 一番危ないのは東の端あたりだろうか。城壁沿いに北回りしてたら遠回りなので城の中央を駆け抜けることにする。城の建物部分を超えるため、エアウォークで階段を上るイメージで、高度を上げる。

 病弱だった俺からしたら、オリアルトの身体はかなり鍛えられていたが、やはり息が切れた。

 真ん中まできたら、下ると遅くなるので水平に走る。東の城壁がみるみる近づく。

 端はやられて、その隣あたりが二部隊に攻め立てられてる。こっちが三十メートルは高い位置だがかまわずスキル連発だ。

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

「ホーリーファイアーバースト」「ガン!」

眼下で半数の魔物が灰になり、残りはジリ貧になっている。リーダーらしいのは元気だ。俺のほぼ真下で槍兵四人を翻弄している。

 俺は奴にたどり着くまでの2メートルおきくらいの岩の足場を思い浮かべる。だいたいこのエアウォークが分かってきたんだ。思い通り、都合が良いところで踏ん張れるんだ。

 前屈で、足と頭が同じくらいの高さの姿勢ではね降りる。両手の武器を振りかぶり、駆け下りながらリーダーの頭目掛けて振るう。ふたつの武器のスキルアナウンスが同時にハモる。頭を失った魔物の身体が倒れるころには、俺は城壁の上を北へ向かって駆け出していた。まだまだ先は長い。

 もしも魔族軍の目的が城内への乱入であれば、城壁はあちこちで破られていた状態だった。飛んでくる敵には、高さの優位はないのだから、数の不利を士気の高さで補うにも限度があったということだろう。魔族軍の目的である城兵の撃破は成功しつつある。

 俺が進む東側の城壁の上は、生きて戦っている城兵と倒れている城兵の数は同数といったところだ。

 北東の角で左に曲がり、北の城門へ向かう。城の戦いの全容を見る者が居れば、魔族は撤退するのが当然な状況なのだが、戦っている魔族軍のそれぞれの部隊は、自分のところは勝ってるか、いい感じで戦ってるわけだから撤退しないのは仕方ない。無責任なタストクリスのせいだな。

 十二従将と戦った塔が近づく。やっと、生き残った魔族が自軍の負けを悟り、個々に逃げ始めていた。扇状地の上を飛べるものは飛んで、飛べないものは走って逃げていく。

 塔の上に向かって、外からエアウォークで登る。

 上には人間しかいない。怪我をして倒れている者の治療が行われていた。魔法やら魔法の薬やらが使われているようだ。

 娘に支えられて、ドラスベイン卿がなんとか立ち上がり、扇状地を逃げる魔族たちを指さしていた。

「やつらを追撃するんだ! 逃がせば、次の戦いで脅威になる!」

 無茶言ってるな。自軍の兵も戦いでボロボロじゃないか。追撃の部隊が門を出撃する様子はない。

 卿が俺を見つけた。説得するように叫ぶ。

「渓谷を取り戻さねば、いつ攻め込まれるかわからない状況がずっと続く! 今度はあの砦を攻略する戦いになるんだ! やつらはそのときの障害になる! 逃がしてはいけないんだ!」

「お父様、無理をなさらないで」

娘のレイナがなだめる。なだめながらレイナは、すがるような眼で俺を見る。

 ふうう、わかったよ、やればいいんだろ。

「私が行ってきます。ドラスベイン卿は治療を受けて待っていてください」

 凹凸の壁を乗り越え、宙を駆けて魔族を追う。斜面を登って逃げていくやつらに、

「クリエイトホーリーウォーター」

俺がイメージした大波は、手前から向こうへではなく、向こうから手前に向かう波だ。波に巻き込まれて城へ引き戻されるように流されてくる。

「クリエイトホーリーウォーター」ピー!

 今度は飛んでいる魔族に向かって後ろから、光線タイプの細い水流を見舞う。ちょっと「虐殺」という言葉が頭をよぎった。真っ二つに切れた魔族の身体が、扇状地の斜面に降り注ぐ。

 ほんの百匹ほどの魔族軍の残党が、開いた砦の門に逃げ込んでいった。これくらいは仕方ないだろう。

 城の方を振り返り、宙を歩いて戻る。城壁の上で城兵たちが拳を挙げて何か叫んでいる。

「オリアルト! オリアルト!」

俺の名じゃないか。剣を鞘に納め、右手を挙げて応えると、歓声が巻き起こった。なかなかいい気分だ。

 塔の上に向かうと、レイナと親父さんがこっちを向いて見ているのが見えた。

 塔の近くまで来て、地面を見下ろすと、アマンダが倒れているのを見つけた。

 動いている。息があるようだ。

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