第十六話 ちょっと天狗になって調子に乗ってました。反省してます。
かなり空きましたが、ちゃんとつづけます。
アマンダは拘束された上で治療され、回復した。
こいつ、自分のスキルで自分を治せないんだ。俺なんか自分しか治せないのに。俺のスキルよりもこいつのスキルのほうがよっぽど善人っぽいじゃないか。
回復したとき、目の前に俺が居るのを見て、彼女は最初に俺に喰って掛かった。
「七つ星のオリアルト! きさまさえいなければ!」
「おまえと初めてあったときと違って、俺は聖騎士だ。トライスラー王国を守って戦うのは当然だ」
「聖王国ジークライトから隣国トライスラー王国を救いに来た聖騎士だって? ふん! あたりまえじゃないか! トライスラー王国のやつらは、聖王国ジークライトのために血を流して戦ってるんだからな!」
その情報は初耳だぞ。
「なんの話だ?」
「われわれ魔族だって好き好んで北の地に住んでるわけじゃない。暖かくて豊かな地に住みたいのさ。こんな岩だらけの痩せた土地ばかりのトライスラー王国なんか眼中にないんだよ! めざしているのは聖王国ジークライトなのさ! だけどあの国との境は女神フィラスのご加護で越えられない結界がある。だからこの国を通りたいんだ。 それだけなのに、この国の奴らは隣国のために必死になって戦ってる。あんたらジークライト出身の聖騎士が助けてやるのはあたりまえだろうね」
へえ。そういう話なんだ。なんか聖騎士の意味合いが思ってたのと違うようだな。
「うるさい! おまえたちがこの国を荒らしているのに変わりはなかろう! オリアルト殿、悪魔の戯言に耳を貸してはなりませんぞ」
となりのドラスベイン卿が怒りをあらわにする。
そうか、人間側の士気を挫くためのつくり話なんだ。もしも本当だとしても、トライスラー王国が攻められていることに変わりはないわけだしな。
彼女は、牢ではなくて塔の一室に見張り付きで閉じ込められることになった。
戦勝は伝書鳩ですぐさま王城に伝えられ、反攻作戦が実施されることになったという連絡が戻ってきた。輸送部隊が来るはずだった三日後、やってきたのは三人の聖騎士や騎士団の面々が率いる軍団だった。シュタークの顔も見える。指揮するのは騎士団の剣術指南を務めるオーダック卿だ。城に着くや、ドラスベイン卿とのあいさつもそこそこに、俺に駆け寄って両手を取って喜びをあらわにした。
「おお! オリアルト殿! 活躍は聞き及びました。すばらしい働きだったと!」
「あ、いや、それほどでも」
「謙遜なさらなくとも。あなたがいなければ、今頃、この城はやつらのものになっていたでしょう。だが、実際にはやつらの軍勢は壊滅し、今度は我々が押し返す番です」
北の扇状地の上の谷の出口には、魔族が最近築いた砦がある。その向こうはトーリッツ渓谷。オーダック卿らが先月の戦いに敗れて魔族に奪われた土地。その渓谷の上流の出口にはもともとの国境にあたる人が築いた砦がある。そこまで魔族を押し返す目的で軍団がやってきたのだ。
俺やレイナも軍団に編入されることになり、ソロント城には三千の兵とともにドラスベイン卿が残る。兵の過半数は負傷兵だ。回復薬や回復魔法は軍団優先となっているので、負傷兵たちは通常の治療しか施されていない。
もし、軍団が負けて、逆に押し返された場合、ソロント城も危ないかもしれない。だが、今がチャンスなのだ、という。
攻勢は早いほうが良い、ということで、王城からの兵が到着した翌日には進軍が始まった。
騎士をはじめ騎馬の兵が前に固まり、歩兵が続く形で扇状地を登る。魔物の砦からは反応はない。
先頭にいる俺たちが、砦まで200メートルほどになったときに、砦破壊を試みる。
「クリエイトホーリーウォーター」ピー!
聖水カッターで砦の壁と門をゆっくり斜めにカットする。ななめにカットされた石材は、つるつるの断面が滑って、切られた上部がすべり落ちてくる。さらに門あたりの低いところを横に薙ぎ払う。切れた扉がばたりと倒れて、地上から1メートルくらいが名残りとして残るだけになった。
魔族の兵は見えない。どうやら完全撤退してるようだ。
ひかり号で軽く門を飛び越える。他の騎士も越えてくる。
「オリアルト殿、先へ進みましょう!」
オーダック卿は俺に対して丁寧語を使うのでこそばゆい。
「や!」
ひかり号の横腹を蹴って、駆け出すことでその言葉に応える。
渓谷には植物はまったくない。川の水も枯れて、川底だった砂地が平らにつづく幅30メートルほどの谷。両側の岩壁は80度くらいの切り立った崖で、高さは百メートルを超える。上から攻撃されたら大事だなあ、と上を注意して走る。ルートはゆるやかに蛇行していて、見通せるのは数百メートル先まで。この渓谷が5キロほど続いて、丘陵地に出るところに砦があるそうだ。
前方で気配がある。
地響きと大きな生き物のうめき声だ。
ズシン! 「うごるるるるる」 ズシン!
幅30メートルほどの渓谷の最前列は俺をはじめ聖騎士と騎士団の騎士たち。気配に向けてスピードを上げる。 気配の主が見え始める。
一言で言うならオオトカゲだ。
四足で低い姿勢の茶色いトカゲ。ただしサイズは尋常じゃない。頭だけで一戸建ての家くらいあり、身体の幅は渓谷の幅ぎりぎり。こちらへ進んでくるが、両側の岩壁を削りながら進んでくる。岩より硬い皮膚の持ち主ということか。目が血走っていて、怒っているようだ。あんなのにこのまま進まれたら、渓谷を進んでいる軍団は踏みつぶされて全滅してしまう。
「行くぞ! ひかり号!」
足を早めて先行し、トカゲの頭まで五十メートルほどになったときに、左手のハルバートをいつもの要領で回転させつつ投げつける。
「いけません! オリアルト様! あいつは!」
斜め後ろから馬でついてくるヴォルトックが俺に呼びかける。
「フレンドリーファイアー・キャンセラー」
トカゲの眉間に当たった、と思ったハルバートは、トカゲの頭に吸い込まれて消えた。ヴォルトックを振り返って、俺は状況を悟った。同時に、その意図を読んで確認のスキルが勝手に発動する。
「デテクトイビル」
反応がない!
このトカゲは悪じゃない!
魔族のやつら、ニュートラルな生物をけしかけて攻撃してきたんだ。俺のことを知ってるやつの仕業か?
まずい! 狩りのときのイノシシと同じだ。俺の味方の攻撃はトカゲをすり抜け、トカゲの攻撃で味方に被害が出る。
離れなくちゃ!
俺は手綱を引いてひかり号の頭を後ろに向けた。
「ヴォルトック、皆に説明を!」
トカゲの化け物を前に、馬の向きを反転させて、一目散にそこから離れる俺の行為は、敵前逃亡にしか見えない。まわりの士気に影響しかねない行為だ。理由の説明をヴォルトックに任せた。俺が200メートルほど離れるまで、トカゲに攻撃を仕掛けたら、その人物は危険だし。
50メートルも駆け戻ると、後続の軍勢が進んできていた。ここから先はひかり号では進めない。早く200メートル離れなきゃいけないのに!
ひかり号を飛び降り、そのまんま、エアウォークで、空中の階段を上って軍勢の上を走る、走る。
兵士たちが見上げているのを感じる。完全に逃亡兵だなあ。いや、背に腹は代えられないんだ。
なんとか200メートル離れたころには、エアウォークで高さは100メートルほどになっていて、渓谷の上に届いていた。振り返るとトカゲが見えた。聖騎士たちとの戦いが始まっていた。
よかった、間に合ったかな。
ガキン! ガキン! と、動物相手の戦いとは思えない音が聞こえてくる。トカゲの皮が堅いんだ。苦戦してるらしい。
こんな離れた上空から、高みの見物を続けているわけにはいかない。聖水カッターを編み出したときに考えた戦法を試すことにした。200メートル以上離れて「フレンドリーファイアー・キャンセラー」の範囲外から聖水カッターで攻撃してみる。
細く、強い水流をイメージして、左手の拳を前に差し出す。
「クリエイトホーリーウォーター」 ピー!
光線のような一筋がトカゲの眉間に当たる。だが、そこで水が飛び散って跳ね返されてしまった。
トカゲの皮が堅いんだ。この距離では貫けない。岩でも切れる距離なのに。
そうだ、岩は切れる。トカゲの皮は堅くても、甲羅のように型があるわけじゃない。皮より柔らかくても、岩を落とせば潰れるんじゃないか?
「クリエイトホーリーウォーター」ピー!
今度の目標はトカゲの胴体があるあたりの左側の岩壁の上部だ。ゆっくり斜めにカットする。
完全に切れる寸前、まだ一メートルをど切れてないところがある段階で、ポキン! と重みに耐えかねた岩が折れ、滑り落ちるように渓谷に落下する。30メートルほどの岩の塊が、トカゲの胴体の上に落ち、砕けてトカゲの身体を上から押さえる。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃあああ!」
トカゲが暴れるが、胴体は動かない。動けないトカゲの頭部を、騎士団や聖騎士の面々がタコ殴りにしてる。
トカゲが動く気配がなくなってから、ゆっくりと前線に戻る。トカゲは主に打撃系の武器で頭をボコられて死んでいた。
「すみませんでした。迷惑なスキルが勝手に発動して」
バツが悪い。理由はどうあれ、前線から逃げ出しちゃったわけだから。
「あなたが落とした岩のおかげで、楽勝でしたよ」
オーダック卿がそう言ってくれてほっとした。
とりあえず、トカゲと岩を乗り越えて進軍することになった。トカゲのしっぽの先に、最初に投げたハルバートが落ちていた。馬上だったので、ガントレットのスキルを使って手に呼び寄せて拾い上げる。
この先も、イビルじゃないやつの攻撃が続くとしたら、またまた役立たずの邪魔者に逆戻りだな。




