事件の原因、そして
「エネナギ草が枯渇した原因、それはグリーンスライムだ」
「「「え、グリーンスライム?」」」
俺がそう言い放つとミーナ達は揃って首を傾げた。
「そう、皆が知ってるグリーンスライム。今もそこら辺でぽよぽよ跳ねてるだろ?」
「それは確かにそうですが…」
「言い切ったからにはちゃんと証拠はあるんでしょうね?」
クロナが怪訝そうな表情で問う。俺は小さく笑みを浮かべるとたった今グリーンスライムが通っていった跡に指を指した。
「まずあそこをよく見てくれ。たった今グリーンスライムが通った場所なんだがそれこそが動かぬ証拠ってやつだからさ」
ミーナ達はグリーンスライムが通った跡をそれぞれ間近で観察し始めた。
そこにはなんの変哲もない草しかないがクロナは何かに気付いたようだ。
「まさか―――」
「さすが天才、もう気づいたのか」
ちょっとからかってみたがクロナの機嫌が悪くなる事はなく、むしろもっと崇めなさいというような目でこちらを見てきた。……凄く偉そうだ。
「当然ね。それに、あんまし天才舐めてるといつか足下すくわれるわよ?」
「あはは、肝に命じておくよ」
表面では軽く笑ってみせたがなかなか怖い事を言う。いつか酷い目に遭いそうだ。天才って怖い。
「えと、どういうことなんでしようか?」
「頼む、私達にも分かるように説明してくれ」
「それもそうだな。まず、注目して欲しいのは通った跡にある草の数だ。よーく見てみると若干減ってないか…?」
言ってはみたがミーナとアルティナは困ったような表情で小首を傾げた。まぁ、普通はこんな細かいこと気にもしないし気付かないよね。
「そう言われればそう見えるような…?」
「すまん、私も分からないんだが…」
申し訳なさそうにする二人。それを見た俺はちょっと焦る。
「あ、いや! 別に分からないのが普通なんだけど! 全然気にしなくていいぞ!」
「なにさらっと自分は特別だなんて宣言してんのよ」
「え!? 何で俺が責められんの!? てかそれを言うならクロナだってそうだろ!」
「…? 私は特別だからいいに決まってるじゃない」
「当然のように肯定したよこの人…」
特別=自分=当然というとんでも公式が頭の中にでもあるのだろうか。おまけに俺のツッコミに対して心底不思議そうな顔してるし。
そもそも自分は特別だなんて思ってすらいないというのにこれは些か理不尽のような気がする…。
「えー、おほん。まぁとにかく、なんでグリーンスライムが原因なのかミーナは分かる?」
質問されるとは思っていなかったのか、指名されたミーナはあたふたと慌てていた。
「え、あ、いや、その…! えーと、……なんででしょう?」
苦笑しながら「てへっ♪」という可愛らしい仕草をした。萌え萌えだよマジで。
「アルティナは?」
「むっ!? わ、私か!? そ、そうだな…。もしかしてグリーンスライムの主食だったりするのか?」
「うーん、おしい!」
「そ、そうか…!」
さっきまでキョドりまくってたアルティナが嬉しそうな表情をした。
うーん、本当にあとちょっとで正解なんだけどなぁ…。そんな事を思いながら俺は二人に分かるよう簡単に説明した。
「率直に言うとグリーンスライムには強酸があるんだ」
「「きょうさん…?」」
二人が首を傾げた。……もう少し砕いて説明しなきゃいけないなこれは。
「えと、アルティナやミーナも知ってるだろ? スライムには物を溶かす粘液があるって」
「ええ、ですがそれはレッドスライムとかでは?」
「レッドスライムは主に火山地帯に生息してることから強酸じゃなくて高熱によって物を溶かしてるんだ(ゲームの時の設定だけど)」
「へぇ、そうだったのですね…」
ミーナが感心したように呟いた。
「ではグリーンスライムがその強酸でエネナギ草を溶かしたと?」
「ああ、でもグリーンスライムが魔物とはいえ従属栄養生物だと思うから普通に補食してる時もあるぞ」
なんせミーナが先程、数匹倒したのにエネナギ草を入手出来たのは1つだけだったのだ。そのことから察するに食べてない奴もいくらか混じってるんだろうな。
「じゅうぞ………なんて?」
クロナがちょっと不審なものを見るような目でこちらを見てきた。お願い、そんな目でこっちを見ないで。
「いや、なんでもない。こっちの話だ」
「ふーん、そう…」
別段興味がないのか短く返事をするとそれ以降は何も聞いてこなくなった。今後この世界になさそうな言葉を使うのは控えておこう。どんな風に思われるか分からないし、何より異世界人という事がバレたら面倒な事が起きるはずだ。
「でもそれならなんでこんな事態になるわけ? 今までこんな事は一度も起きたことなかったのに…」
「…ッ! それは本当なのか?」
クロナの指摘に表情が僅かに表に出てしまった。すぐに元通りに戻したので幸い誰にも気付かれていないようだ。
「え、ええ。だってそうでしょ? 過去に数回でもこんな事があったらすぐにギルドから依頼が出てるはずよ。それがないということは過去に起こったことがない事態だと言えるわ…」
(だとしたらこれかなり厄介な事態になってるんじゃ…)
なんとなくではあるがそんな予感がする。考えられる限りの最悪の想定―――それは、魔族の襲撃。
10年前に襲撃があったことといい、狙い澄ましたようなエネナギ草の枯渇。……可能性としては充分あり得る。
……あれ? これってもしかしてフラグじゃ……いや、いくらなんでも考えすぎか。
「どうかしましたか、マナさん?」
「え、あぁ、なんでもないよ」
「そうですか? だったらいいのですけど」
ミーナが心配そうに見てくる。俺はそれに感謝しながらも気を遣わせたことに少し申し訳なく思った。
「ところでさ、さっきから気になってたんだけどあれなんだ?」
そう言って俺は空に浮かぶ黒い影を指差した。ここからだと目を凝らさなければよく見えないが、王都を出た時から今までずっと円の形に沿ってグルグルと旋回して飛んでいる鳥(?)が気になった。
まるで鳶のようだなとか思ってたけど、あの距離から見える大きさから推測するとだいぶ大きいはず。さすがに「ピーヒョロロロ」とは鳴かないけど。
「一応、【ホークアイ】を使ってみたけど遠すぎて分からないわ」
クロナが片目を閉じながら言った。
【ホークアイ】とは自分以外の動物の目を借りる事によってそこから見える景色をその場で見る魔法だ。クロナが片目を閉じているのは恐らく閉じた方の目で違う景色を見ているからだろう。
しばらく魔法を発動させ続けていたクロナはやがて閉じていた片目を開けると大きなため息をついた。
「ダメね。いろんな動物の目を借りてみたけどそもそもあの影がはっきり見える場所に動物が全くいないわ…」
「そんなことあるのか?」
「事例がまったくない訳ではないけど……どちらかと言えば珍しいわね」
「まぁ見えないものを気にしていても仕方ないか」
「それもそうね」
クロナが短く頷くと同時に草むらから飛び出してきたグリーンスライムを風魔法で真っ二つに切り裂いた。すげぇ…。
「早業かよ…」
「これくらい出来なきゃ対人戦ではかなり不利になるわよ?」
「そりゃご忠告どうも。てか、そもそも魔力のない俺がどうにか出来る話でもないだろ…」
「あ、そういえばそうだったわね。ごめんなさい、傷ついたかしら?」
「おーい、言葉と表情が合ってないぞー」
謝るくらいならその笑みをやめてくれ。余計に傷つくわ。
言葉と裏腹な行動をするクロナの笑みはさながら悪役令嬢がしそうな黒い笑みだった。もとから傷付ける気満々で草。
「取り敢えずこれ以上被害が出る前に少しでも多くグリーンスライムを狩っとくか」
「とは言ってももうエネナギ草なんてほとんどないじゃない」
「それでもだよ。もしかしたらまだ生えてるかもしれないだろ?」
「そりゃあ、否定はしないけど…」
クロナは渋々といった感じで納得してくれた。近くにいるミーナ達の方へ視線を向けると俺の意図を読み取ったのか、静かにこくりと頷いた。
「そんじゃ、グリーンスライム狩りまくるか! ちなみに一番狩った数が少なかった人は罰ゲームだからな!」
「「「おー!」」」
俺の掛け声にミーナ達は元気よく答えてくれた。まぁ、若干1名棒読みではあったけど…。
こうして俺達のグリーンスライム狩りが開幕したのであった。
――――――――――――――――――――――――
マナ達がグリーンスライムを狩り始めてから数分後。
一方、遠い山脈付近の上空を旋回しながら飛ぶ影の上には二人の人物がいた。
「マグナ、向こうの戦況はどうだ?」
黒い鎧を装備した上司と思わしき人物に、マグナと呼ばれた部下が答えた。彼もまた、もう一人と同じデザインの黒い鎧を装備している。
「籠城しているそうですが戦況は絶望的、とのことです。恐らくはあと数日も持たずに壊滅させられるでしょう」
「ふむ、そろそろか…」
上空を旋回する黒い影―――もといブラックドラゴンに乗った上司は顎に手を当てると考える素振りをした。
「どういたしますか? グラッド様」
グラッドと呼ばれた男はしばらく黙考した後、短く答えた。
「今日の夕暮れ時に仕掛ける。部下にも万全の準備をさせておけ。王都にはあの魔女もいるからな……絶対に油断は出来んだろう…」
「はっ! 兵士全員にそう伝えておきます」
「それからもう1つ。敵本拠地内部にいるあやつは上手くやっているか?」
「順調とのことです。王都にいる上級冒険者を除き、新米冒険者の戦力は以前よりも低下している模様。更に、王直属の騎士団にも少なからず影響は出ております」
「ふむ、思ったよりも策が効いているな。やはりエネナギ草をグリーンスライムに食わせて正解だったか…」
グラッドが淡々と述べた。
そう、この事態を引き起こしたのは他でもない彼らだ。グリーンスライムを操り、多くの冒険者から愛用されているエネナギ草を食わせた事により、冒険者の戦力は著しく低下した。
数が激減し、値上がりした事によって冒険者達に回復手段を限らせる。それが今日の夕暮れ時に大いに役立つことだろう。
作戦は問題なく成功している。
しかし、マグナは硬い表情のまま不安要素を口にした。
「ですが、それに気付いた者もおるようでして…」
「偶然ではないのか?」
グラッドの質問に対しマグナはとある方向を眺めながら言った。
「いえ、それが……先程からグリーンスライムばかり狙っている集団がいるようでして…」
その報告を聞いたグラッドは考える。
グリーンスライムは新米冒険者達が狩ったりするのだが、それはあくまでレベル上げが目的であり、しかもグリーンスライムのドロップアイテムは低価格で取り引きされるためほとんど金にならない。
むろん、冒険者の収入は主に魔物の素材なのではした金にもならないグリーンスライムを狩ったところで何一つ得がない。狙うならもっと強い魔物を狙うだろう。
それらを考慮するとグリーンスライムばかり狙っている集団の行動はあまりにも不自然。ならばこちらの作戦がバレるまではいかなくとも、エネナギ草が激減した原因は突き止められたという可能性が非常に高い。
「その集団とはアレのことか?」
そう言いながらマグナの眺めていた方向に指を差した。
「はい。あの集団で間違いありません」
「女が3人、男が………む? あれは……男、なのか?」
集団の中に1人、男物の服装をした人物がいるが、髪は女のように長い。男にも女にも見える不思議な奴がグリーンスライムを引っ張ったり踏んづけたりしてかなり苦戦している。
そんな世にも奇妙な光景にグラッドは少々困惑しながらも部下の答えを待った。
「いえ、格好は男のようですが恐らく女かと」
「近距離が2人、中距離が1人、遠距離が1人か。バランスはいいが対して問題ではない。放っておけ」
「よろしいので?」
「ああ、今頃何をしようがあの草原にエネナギ草はほとんどない。勇者やその仲間どもの持つ特殊能力でもなければエネナギ草を集めるなど不可能だろう」
そう言いながらグラッドは忌々しい勇者とその仲間についての情報を思い出した。
召喚された異世界人はこの世界に顕現する際にいくつかの特権を入手する。その一つがメニュー画面であり、装備、アイテム整理、ステータス確認など様々な事が出来る。
そしてそのメニュー画面の能力で最も厄介なものはアイテムドロップだ。
例えばグリーンスライムにエネナギ草を食わせて消化させたとしても、メニュー画面の能力を持った者がそのグリーンスライムを倒せば消化されたエネナギ草も魔物の素材としてドロップされる。
つまり、その能力を持った異世界人がいない今が王都を潰す絶好の機会。わざわざ犠牲を増やしてまで陽動させた甲斐があったというものだ。
「マグナ、そろそろ準備にかかれ。まだ時間があるにしても予定を変更するかもしれん」
「はっ! 仰せのままに」
グラッドの命令を受けたマグナは、その場にひざまづいて一礼をした後、すぐに姿を消した。
それを一瞥することなく、グラッドは王都内の森の奥にそびえ立つ巨大な学園を見つめていた。
(あやつ……上手くやってくれるといいが…)
今頃敵の本拠地にいるであろう協力者がしくじればこちらに勝機はない。それに、勇者達とやりあってる部隊ももう少し持ちこたえてくれなければ我々の動きに勘づき、作戦を見抜かれる可能性がある。
今は午前10時頃。作戦決行時刻まではまだ時間がある。それまでに少しでも戦力を増やさなければ返り討ちにあうだろう。
(……今は、もう少し策を練っておくか)
そう結論づけたグラッドは、ブラックドラゴンを操り拠点へと帰還した。
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