事件の鍵
今回は少し長い(かも)です。
雲一つない快晴の下、王都の大通りにある門を抜けて草原へとやってきた俺たちはまず一番に辺りを見渡した。
「なんかちょっと草の数が少なくないか?」
草原といったらもっとこう新緑でいっぱいとかそういうイメージだったんだけど、この草原は所々に土が見える。舗装された道はともかく、そうでもない所にいくつか切り取られたように草がないのを見るとどうにも違和感を拭えない。
「多分、雑草に混じって生えてたエネナギ草が採られたからじゃない?」
「だからこんなことになってるのか…」
舗装された道に沿ってしばらく歩いてみるがやはりエネナギ草らしきものは見当たらない。
「それにしてもマジで見当たらないなぁ…」
「仕方ないですよ。今ではエネナギ草は高級品とまでは言いませんがそれなりに貴重なものになってしまったんですから…。もし生えてたら新米冒険者さん達がこぞって採ってしまいますよ」
「それもそうか」
エネナギ草から作るポーションは上級者や中級者はともかく駆け出しの新米冒険者にとっては必需品だ。それがなくなったら犠牲が増えることくらい俺でも分かる。
……それにしても本当にエネナギ草がないとは…。燃やされた分までとは言わないがそれなりにあると思ってたんだけど…。
これやった犯人は相当眼がいいんだろうな。
「うーん……当てがはずれたか。無念…」
「ちょっと、いつまでそんなところにいるつもりなの? 魔物が出る前にさっさと帰るわよ」
一刻も早く帰りたいという顔をしているクロナが急かしてくる。いくら『いのち大事に』が主義でも帰るの早すぎるだろ。まだ門を出てから数分しか経ってないぞ。
「いや、早く帰りたいのは分かるけどもう少し時間くれよ…」
「嫌に決まってるでしょ。そもそもなんであんたの意思で私がこんな危険地帯にずっといなきゃいけないのよ!」
「ずっとじゃないけどもう少し我慢してくれって」
「もし魔物が出たらあんたがまず囮になりなさい!」
「いやマジでビビりすぎだろ!? どんだけ魔物が怖いんだ!?」
「だ、だだだだだ誰が何を怖いですってッ!?」
俺のツッコミに剥きに返してくるクロナだが、その足はカタカタと小刻みに震えていた。
(……これってもしかして本当に怖がってたりするのか…?)
冒険者のランクがミーナより一つ上なのにこのビビりよう………どうやってランク上げたんだろ…。
「ダメです! マナさんが囮になる前に私が倒しますから!」
「それに私もいる。万が一【深緑の森】から出てきた魔物と遭遇してもなんとかなる」
やだ、かっこいい…! 思わず惚れそう!
女性でありながらなんとも男らしさ溢れる二人に感動した。本物の男である俺より男らしさが上という事実に自分が情けなくなるが今はどうでもいいことだ。
そんなことを考えているとミーナがクロナから俺へと視線を移し、にこりと笑って言った。
「大丈夫、安心して下さいね。私がマナさんに傷一つつけずに守りますから!」
「ごめん、ミーナ! もう傷付いてるから! 体は無傷でも心にダメージきてるから!」
……前言撤回。どうでもいいとか思ってたけどここまで言われれば流石に申し訳ない。普通は女性を守るのが男であって、女性に男を守ってもらうのはいくらなんでも男としてのプライドがズタボロになる。
おかげでガラスの10代は守るべき相手によってハートブレイクされかけている。なんて皮肉だろうか。
「安心しろマナ。お前がいかにレベル1であろうが、ましてや装備もろくにないとしても、戦闘力のない足手まといではないぞ」
グサッ。ブスッ。ズシャッ。
3つほど言葉の槍が心に刺さった。あれ、なんでだろう? 目から塩水が…。
「私はこれでもレベル85だ。そこらにいる雑魚に後れは取らないさ」
「それは重々承知してるからさらっと人の心抉るのやめような?」
「む? 私が何かしたか?」
「自覚なしか!? 知ってたけども!」
天然で人の心を容赦なく抉ってくる事がアルティナの一番恐ろしいところだ。
キョトンとした顔をしているが騙されてはいけない。彼女は隙あらば無自覚で精神的攻撃を仕掛けてくる心の破壊者なのだ。【ハートブレイカー】という称号を是非ともアルティナにつけたい。
「なんだか微笑ましいですね♪」
「微笑ましいのかこれが!?」
うっかり心折られかけたんだけど…。
そんなこんなで草原をうろうろしていると、急にガサガサと草むらが揺れる音がした。
その音に反応し、ミーナはキーホルダーを、アルティナは腰にある剣を、クロナは魔力を集めるなどしてそれぞれ身構える。
俺といえば特に何も身構えていない。
ん? 何故かって? ふっ、教えてやろう。何故ならそれは――――
「マナ」
「なんだ? もしかして助けが必要か?」
「……いや、そういう訳ではないのだが―――取り敢えずその木から降りたらどうだ?」
アルティナが少し呆れたような目で言った。
「いや、これは、その………そ、そう! 木の上からそこの草むらにいる何かを確認しようと思ってだな!」
「その割には足が震えてるわよ?」
クロナが冷めた目線を送りながら指摘した。
「む、武者震いだ!」
我ながら言い訳が苦しかった。
不意にガサガサと物音がした瞬間に俺は近くにあった木の上へと登ったのだ。これは敵か味方かを確認するための重要な行動であり、決してビビって安全地帯へと一目散に避難した訳ではない。
「まぁまぁ、仕方ないと思いますよ? マナさんはレベル1なんですから私たちよりも警戒しておかないと」
ミーナが救いの手を差し伸べてくれた。その優しさに感謝しかない。あぁ、今はミーナが聖女様に見える…!
「にしては警戒し過ぎのような気もするが…」
アルティナは何か言いたげだったが、ここは無視しておこう。それが最善の一手だと思うから。
「ありがとう、ミーナ!」
「いえ、当然の事をしたまでですよ」
そう言うとミーナは小さく微笑んだ。どうやら聖女様から慈愛の女神様にランクアップしたようだ(※あくまで個人のイメージです)。
俺はついつい嬉しくなって言った……言ってしまった。後になって後悔するとも知らずに。
「いや、そんなことはないぞ! ミーナには感謝してるし俺に出来る範囲でなら何でもするよ!」
「え、今なんでもって―――」
ミーナが小声でボソリと何かを呟いた。
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! 何も言ってませんよ!?」
「そう?」
それならそれでいいんだけど…。
「それよりマナさん。助けたお礼として明日、これを着て欲しいんですけど―――」
そうしてミーナのどこからか取り出された服を見た瞬間に俺は目をそらした。
「見えない! 俺にはゴスロリ衣装なんて見えないッ!」
現実逃避したかった。いや、するしかなかった。そうせざるを得ない状況なんだ。きっと神様だって許してくれるさ(遠い目)。
「東方の国では『男に二言はない』という言葉があるぞ」
ここでアルティナからの追撃。しかし、そう簡単に撃墜されるほど俺も柔ではない!
「だったら今だけは女の子でいいよ!」
かなり恥ずかしいセリフではあるが致し方あるまい。ミーナが手に持っているあのゴスロリ衣装を着せられるよりよっぽどマシだ。
「へぇ、女の子だったらこれ着ても問題ないでしょ?」
クロナがニヤけた顔で更に追撃。
くっ…! 全員敵だったか!
「だったらおと―――」
「二言はない」
「ぐっ…!」
アルティナの追撃に俺は言葉を詰まらせる。
(ど、どうする…? 男だと言えば「二言はないだろう?」と言われてゴスロリ衣装を着せられ、女の子だと言えば「問題ないでしょ?」と言われて結局はゴスロリ衣装を着せられる…! って―――)
「どっちを選んでも詰んでる! もう八方塞がりじゃんか!」
この状況に対して思わず悲痛な叫びをあげた。
この場にいる皆は俺の敵だ。ならば他の場所にいる人物を頼るしかない!
そう結論を下した俺は早速ミーナ達に向かって言い放つ。
「イリーさん! 常識人であるイリーさんならこんな事を許すはずがない!」
「お好きにどうぞ、とイリーさんから伝言を預かってます♪」
「皆して俺の敵かぁぁぁああああッ!?」
木の枝の上に俺の膝が崩れ落ちた。ミーナは実にいい笑顔だった。可愛いけど、今はその笑顔が辛い…(泣)
「まぁ、マナがゴスロリ衣装を着るかどうかはおいておくといて。ミーナ、それはいったいどこから出したのだ…?」
アルティナが不思議そうに、というかもう若干慣れた様子でミーナに訊いた。
「これですか? ポケットからですよ?」
「四次元ポケットかよ…」
思わずつっこまずにはいられなかった。未来から来たタヌキ型ロボットが装備してたやつ。あれ、ネコ型だったっけ? まぁどっちでもいいか。
「…? よじげん?」
ミーナが可愛らしく小首を傾げる。萌えってこういうことを言うのかな。ちょっくら秋葉に行きたくなってきた。
「それもさっき王都で言ってたキーホルダーに出来る魔導具なの?」
「ええ、武器だけでなくちゃんと防具も揃えておきたかったのでいくつか持ってますよ」
(その防具の見た目が何故ゴスロリ衣装なのかは突っ込まないでおこう…)
墓穴掘りたくないし。
「それで、あんたそっから何か見えたの?」
「何が…?」
クロナの突然の問い掛けに俺は首を傾げた。するとその様子を見た彼女は少し呆れたように言う。
「何がって……草むらの中に何が潜んでるのか聞いてるのよ!」
「あ、そのことか。草むらの中にいるのは……多分スライムかな。緑色だから凄く見えづらいけど」
よーく目を凝らしてみるとガサガサと揺れる草むらには何匹かのスライムがポヨポヨと自身の体を弾ませ、あちこち移動している。
あの緑色のスライムの名称はグリーンスライム。主に草原や平原に生息し、魔物の中で最も数が多い。ちなみに序盤に出てくるのでレベル1だ。
他の場所も見渡してみるがグリーンスライム以外の魔物は見当たらない。これなら木の上にいなくても大丈夫だろう。
そう判断した俺は身軽に木の根元まで降りる。
「なんというか、凄いな」
俺が木から降りる様子を見ていたのか、アルティナが感心したように呟いた。
「そうか? これくらいなら誰でも出来そうな気がするけど」
「お前の基準で判断されても困るのだが…」
「ほら、サボってないでとっととエネナギ草探すわよ」
クロナが急かしてくる。最初はめっちゃ帰りたがってたのに今はまぁ、最初よりはやる気を出しているのみたいなので文句は言わないけど…。
「マナさーん! グリーンスライムはどの辺にいますかー?」
ミーナが手を振りながら聞いてきた。なんだろう、ちょっと和む。
「ミーナの位置から北西に32度、そこから約3.8メートルほどの地点に数匹の集団がいるぞー」
数匹のグリーンスライムが集団となって互いにプルプルと動いている。え、なにこれ地味に可愛い。
「いや、それでは分からんだろう…」
「分かりました! ありがとうございます!」
「分かったのか! 今ので把握出来たと言うのか!?」
ツッコミを入れるアルティナの肩に俺はそっと手を置いた。
「俺だって伝わると思ってなかったさ」
あわてふためくミーナの姿を想像してたんだけど予想外だった。……残念。
「もう突っ込まん。ツッコミを入れたところで無駄でしかない…」
「人間諦めが大事☆」
慣れれば抵抗なんてなくなるから。ゴスロリ衣装を着るかどうかは別問題だが。
「というか、グリーンスライムの位置を特定してミーナはいったい何を――――」
――――ジャラ……ジャラジャラ……ズズズ…
不穏な物音がした。聞こえない。聞こえないったら聞こえない(震え)。
アルティナも察しがついたようで苦笑している。その目は最早諦めの色しかない。
「さて、それでは! ―――やぁっ!」
可愛らしい掛け声と共にミーナは引きずっていたモーニングスターを思いっきり振った。
刺つきの鉄球が北西へと勢いよく飛んでいく。あれ、あの位置って確か……。
グチャァッ!!
そんな擬音が似合いそうなほど、衝撃的な光景であった。
緑色のプルプルとした欠片が宙に舞い四散する。多分……というか間違いなくグリーンスライムの残骸だろう。
「グリーンスライムゥゥウウウッ!!」
残骸と化したグリーンスライムを見て悲痛な叫びをあげるが時すでに遅し。残骸となったグリーンスライムは魔力の粒子となって空気中に消えた。
なんてむごいことを。ちょっと可愛げがあった分、心にダメージが…。
【戦闘終了:勝利】
《入手経験値》
・100
《ドロップアイテム》
・プルプルした欠片×3
・緑色の液体×1
・エネナギ草×1
突然目の前に現れたメッセージを見て俺は眉をひそめた。
(グリーンスライムからエネナギ草がドロップしてる…)
グリーンスライムとエネナギ草はなんの関係性もないはず。俺の記憶が正しければグリーンスライムからドロップするのはプルプルした欠片、緑色の液体、あとドロップしてないがスライム核酸の3つだけだ。
なのにエネナギ草がドロップした。それは何故? この世界がMMORPGアルザストルーナと似て非なる世界だからエネナギ草もドロップするのか?
いや、違う。確かに似て非なる世界であったとしても魔物から植物がドロップすることがあるのだろうか? 植物系統の魔物なら理解出来るが残念ながらグリーンスライムは土と水属性の魔物。植物系統の魔物ではない。
だったら尚更不可解だ。いったい何が起こっている? この世界の魔物は生態系が全く異なるのか?
悩みながらもふと、グリーンスライムのいる場所へと目を向ける。
一匹のグリーンスライムはぽよぽよと体を弾ませながら草原を移動する。
なんとなく、グリーンスライムの通った跡を見てみると微かな違和感を覚えた。そしてその場所をよく観察してみるとあるものが見えてきた。
(そうか、そういう事だったのか…)
なんだ、答えに辿り着いてみれば意外と簡単なことだったじゃないか。なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだろうな、と我ながら苦笑せざるを得ない。
「ミーナ、アルティナ、クロナ」
「なんでしょうか?」
「なんだ…?」
「なによ…?」
3人とも「どうしたんだろう?」というような顔をしている。いや、正確にはクロナが怪訝そうな表情をしていた。
それに対し俺は3人に向かって確信しながら言った。
「エネナギ草が枯渇した原因が分かった」
「「「…ッ!?」」」
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