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飲んだくれドワーフと極東の亡国

少し長めです。




「うぅ……ひっく、おりゃあなぁ……大事なモン全部失っちまったんだぁ…」



 そう言いながらテーブル席に突っ伏したドワーフは嗚咽(おえつ)かしゃっくりかも分からない声をあげながら語りだした。


 現在、俺はカウンター近くのテーブル席でこの酔っ払いのドワーフの相談相手(というかほぼ聞き役)をしている。


 何故こんなことになったのかは自分でもよく分からないが、変に絡まれるよりはこちらの方がいくらかマシだ。


 テーブル席に着いたこのドワーフは二日酔いの症状を引き起こしているにも関わらず、酒を注文した。もうここまでいくとアルコール依存症を通り越してアルコール性肝炎になりそうだ。


 ちなみにアルコール性肝炎とは、アルコールの大量摂取が原因で肝臓に炎症が起こった状態のことを指し、肝細胞が急激に壊されて壊死したりする病気だ。


 人間よりもドワーフ族の方が基礎的な身体能力や肉体の頑丈さは上なので大丈夫だとは思うのだが………そんな心配をよそに運ばれてきた酒をグビグビといっき飲みするドワーフ。


 心配しなくてもよさそうだな、うん。


 気にすることをやめた俺はドワーフに酒を注いでくれと頼まれたので適当にグラスへ注ぐ。



(……なにこの茶番劇)



 言いたいことは色々あるが、ドワーフがポツポツと再度語りだしたので黙って聞いておくことにした。



「おれはなぁ、ドワーフだから鍛治師やってんだ。毎日鉄を打っては武器やら防具やら作って生計立ててたんだがよぉ…。それも限界が来ちまったみてぇでさ」


「限界…?」


「あぁ、出来のいい武器と防具を作っては売り(さば)いてたんだがぁ、最近はなにかと不景気でな…。特に鍛治師にとって生命線とも言える鉱石がなかなか入手出来なくなっちまったんだ……うぅ」



 そう言った冒険者姿のドワーフは苦虫を噛み潰したような顔をするが、どうしようもないと理解しているので全てを諦めたような目をすると大きなため息を吐いた。



「勇者のいる戦場に資源が送られるからか?」


「ああ、嬢ちゃんの言う通りだ…。そのせいで……うっく、商売どころじゃなくなってよぉ。冒険者になってはみたが全く上手くいかずに食い扶持(ぶち)を稼ぐだけで手一杯……おまけに支えとなってた嫁さんには夜逃げされちまって……う、うぉぉおおおんッ!!」



 希望であった嫁に夜逃げされた事が余程心に傷を負わせたらしく、その時のことを思い出しているのかドワーフは人目も(はばか)らずにおんおん号泣した。



「うわぁ…」



 それは辛い。だがそれだけではないらしく、ドワーフはこの世の終わりのような悲愴感溢れる表情をした。



「しかも…! 夜逃げした嫁さんは昔からおれと犬猿の仲だった奴のもとにいたんだ…ッ! これがッ! これが平常心でいられる訳ねぇだろぉおおおッ!?」



 ドワーフがテーブルに両手を打ち付けて発狂じみた叫びをあげた。


 残酷過ぎるだろ…。嫌いな奴に嫁さん寝取られるとか辛いとかそんなレベルじゃ済まない。精神の弱い人なら自殺ものだ。


 昼ドラかよってツッコミすら入れられず俺はただただドワーフの持つグラスに酒を注ぐ。もちろん、俺はお金を持っていないので全部このドワーフが支払いをするんだろうけど。


 俺の事を嬢ちゃんとか言ってるけど不憫(ふびん)なドワーフを見ていると怒るに怒れなくなり、しっかりと話相手になってやらなければと思わせてくる。聞いてあげるだけでも幾分か気分は楽になるはずだ。


 というかこの状況で「俺、男だから」とかそんな鬼畜なことは言えない。たまには夢を見るのもいいだろう。知らない方が幸せな事だって山のようにあるのだ。


 俺はドワーフの話を聞きながら適当に相づちを打っては空になったグラスへ酒を追加で注ぐ。



「その気持ち、よく分かるよ。大切な人を失うことはこの世で何よりも辛いことだからな…」


「なんだぁ…? 嬢ちゃんもなんか辛い目にあったことあんのかぁ?」


「ああ。数年前、俺は最も仲が良かった義妹と生き別れ、更には恩人である義姉までも失ってしまったんだ」



 俺はかつて生き別れた義妹と失った義姉のことを思い出す。今頃、向こうの世界にいる義妹は俺より一つ下なので高校一年生になっているはず。


 もう何年も前の出来事だ。義妹は俺の事などとうの昔に忘れているに決まっている。それだけ彼女には申し訳ない事をしたし、覚えていたとしてもきっと俺の事を恨んでいるだろう。



「そうかぁ……嬢ちゃんも辛かっただろうになぁ……それなのにこうしておれの話を黙って聞いててくれんだから健気なもんだ」


「いや、俺だって最初はショックでしばらく立ち直れなかったんだ。あんたがそうなるのだって無理もない話だよ」



 むしろこうして自分を見失っていない分、当時の俺よりずっと心が強い。その心の強さは俺にはなかったもので少し羨望してしまう。



「それに、あんたは全てを失った訳じゃない。確かに金もなければ支えとなる人もいない。だがそれでもあんたには鍛治師としての職場がある。推測でしかないけれど鍛治屋は売り払ってないんだろ?」



 テーブルに突っ伏していたドワーフが目を見開いて心底驚いたような表情をした。



「あ、ああ……その通りだ。鍛治屋はおれにとって命のようなモンだ。それを売るなんて鍛治師としての矜持(きょうじ)が許さねぇ…」


「だったらこんな所で飲んだくれてても仕方ないだろ? 残されている物があるのなら、今はそれを必死で守るべきだ」


「そう……だな。だ、だがよぉ……素材がなけりゃ何一つとして作る事が出来ねぇんだ。もうどうしようもねぇんだよ…」


「『例え一流の鍛治師であろうとも、心が()びているなら何を作っても三流以下の出来にしかならない』」


「……っ!」


「オリハルコンや金塊だって錆びれば商品価値を失う。それと同じで鍛治師もやる気のなさや諦めが心に少しでもあるのなら、その鍛治師の作った物はどんなものよりも(もろ)くなる」



 これはMMORPGに登場するとある鍛治師の有名な台詞(せりふ)だ。鍛治師とはまさに、作るものと一心同体。鍛治師の体調や心のあり方、気分、想いの強さなど、様々な状態によって作るものの精度が変化する。


 悪い状態で作れば粗悪品しか出来ず、逆に最高の状態で作ればどんな素材であろうと輝く。



「とある鍛治師の台詞だよ。例え高純度のオリハルコンで作ったとしても、その鍛治師にやる気がなければ粗悪品にしかならない。でも逆に言うと、鉄屑で作ったとしてもその鍛治師が最高の状態であれば一流の業物を作る事だって出来る」



 まさに鍛治師とその鍛治師の作る物は運命共同体と言っても過言ではない。それくらい鍛治師にとって重要なことなのだ。今、目の前にいるドワーフはショックのあまり心が弱っている。


 それがなんとなく数年前の自分自身に重なって見えてしまった俺は、柄にもなく励ましたいと思ったのかもしれない。



「鉱石類の流通が(とどこお)っている今は、もとに戻るまで我慢するしかない。だけどそれは何もせずに待っていろと言ってるわけじゃない。いづれ訪れる好機を狙って己の持つ牙を研ぎ澄ますんだ」



 目の前にいるドワーフが目を見開いて固まっている。その瞳にはいったい何が映っているのか俺には分からない。だが、決して憤怒や失望などの負の感情ではないことは明らかだった。



「まぁ、ここまで言っといてなんだけど、言いたいことは一つ。諦めないでってことだ」



 あまり締まらないなぁと感じながらもなんとかこのドワーフの心情を変えようと脳内で試行錯誤した結果、こうして自分が何を伝えたいのか言葉として相手に伝えている。


 今まで固まっていたドワーフは、不意にフッ―――と口角を吊り上げて不敵な笑みをこぼす。その顔を見ればもうドワーフの酔いなんてとっくの昔に醒めているだろう。



「こんな不景気の中、生きるだけで精一杯っつってんのに無茶言うなよ、嬢ちゃん」


「俺は相手が出来ないことを要求したりしないよ」



 つまり遠回しに「お前ならこれくらい出来るだろ?」と、さも当然のように俺は言う。鍛治師という生き物は似たり寄ったりな性格をした者ばかりで軽く発破をかけてやればすぐムキになる。



「ほぅ、言ってくれるじゃねぇか…! ここまで言われて黙ってるなんざ鍛治師の名折れだ。ここは嬢ちゃんの言う通り乗り気ってやろうじゃねぇか! 今までにないくらいの最高傑作を作ってみせらぁっ!」



 そう言うとドワーフは椅子からガバッ!と勢いよく立ち上がった。



「おう、その調子その調子」


「だがその代わりと言っちゃあ、なんだが今度うちの鍛治屋に来てくれねぇか? 見たところ嬢ちゃんは武器を携帯してねぇだろ。 いくらここが平和だからってそれはちと無防備過ぎだ。ま、本音を言えば仕入れが少なくなっちまったせいで客足も減ったんで少しでも客増やそうという魂胆だけどな」



 なかなか商売上手だなと頭の片隅でそんな感想を抱く。当然のごとくそれは本音を言わなければの話だが。


 特に断る理由もないので俺はこのドワーフの頼みを快諾することにした。



「なるほど、それくらいのことなら御安いご用だ」


「ありがてぇ、恩に着るぜ」



 そう言いながらドワーフは自らのポケットをに手を突っ込んでゴソゴソと探り、その中から一枚の紙切れを取り出した。



「ほれ、鍛治屋の割引券だ。今後ともうちをご贔屓(ひいき)にしてくれよ?」


「そりゃあんたの腕前次第だな」


「がははははっ! 厳しいこと言ってくれるがそれもそうだなっ!」



 正論をぶつけられて豪快に笑ったドワーフは、機嫌良さそうに懐から銀貨と銅貨を数枚取り出して机の上に置いた。



「この金額はおれが飲んだ酒の合計じゃねぇ。あと一杯だけジュースを注文出来る金額だ」


「いいのか?」


「ああ、構わねぇよ。元気付けて貰ったお礼と未来への先行投資だと思えば安いモンさ」



 随分と安い先行投資だ―――と内心で苦笑した。ここで貸しにしておくのではなく(半ば強引に)一括返済されたのだ。せっかく貸しにしておこうと企んでいたというのに、それをちゃぶ台返しのようにあっさりとひっくり返され台無しにされた。


 わざとやっているのかそれとも天然でやっているのか判断が難しい。ドワーフからは悪意を全く感じないので多分後者のほうだとは思うが、まだ憶測の域を出ない。


 通常の武器の値段はこのジュース一杯分の値段よりも数十倍、あるいは数百倍の値がつくのだ。もちろんのことこのドワーフはそれを知っていて言っているのだから尚更たちが悪い。


 抜け目のないおっさんドワーフめ、と俺は内心毒づきながらも口角を吊り上げる。でもその言葉とは裏腹に不快感もなければ悪意もない。



「時間があったらあんたの鍛治屋を見に行くよ」


「そん時はなんか買ってってくれるとありがてぇ」


「生憎と今は手持ちがなくてな。しばらくは買うことはないと思う」


「元気付けてくれたわりには、随分と非協力的なんだな…。ちったぁ、責任持って何か買おうとか思わんのか? なんなら売りもんと同等の価値のある素材と交換って手もあるが………まぁ、これを嬢ちゃんに言うのは酷ってもんか」


「察しが良くて助かるよ」



 ドワーフが諦めたようにため息を吐いた。


 俺の服装は王立聖女学院の制服(男性版)だ。どこからどう見ても学園の生徒だということが分かる。それに、冒険者のようなしっかりとした装備をしている訳でもないのでドワーフがそう思うのも無理はない。


 もしかしたら俺を少女と勘違いしたのは見た目だけではなく、この制服も原因の一つなのかもしれない。


 外見だけなら制服と、両手にタイラントグローブしか装備していないように見えるが、タイラントグローブの内側にある右手の親指にはちゃんと女神の指輪も装備している。


 冒険者視点で見た場合、軽装とも言えないほどの軽い装備。所持している武器もなく、とても冒険者には見えないだろう。もし私服を着ていたならただの一般人と認識されるに違いない。



「そんじゃあ、おれはそろそろ仕事に戻るとしよう」


「大丈夫なのか? 呂律はなんとか回っているようだけどかなり酔ってるだろ?」

 

「まぁな。正直に言うとさっきから頭痛がひでぇ」



 そう言いながらドワーフは「あいたたた…」と頭を押さえ、顔をしかめた。


 俺はドワーフや周囲の冒険者から見られないように机の下へ手を伸ばすと静かにアイテムボックスを開く。今のところ誰にも見られていないようで、周囲の変わらない反応に小さく安堵した。


 だがあまり時間がないので手早くアイテムボックスから目的のアイテムを取り出すと、瞬時にアイテムボックスを閉じた。



「まったく、あんま無茶するもんじゃないぞ」


「がははっ! 返す言葉もねぇな!」



 相変わらず豪快な笑い声をあげるドワーフに呆れながらも手に持っているアイテムを差し出した。


 それを見たドワーフは、俺が手に持ってる小瓶をまじまじと見てきた。いや、正確には小瓶の中に入っている翡翠(ひすい)色――(エメラルドグリーン)――の液体を見ているのか。



「ちょっとした薬だ。飲めば多少なりともマシにはなるだろ」


「あ、ああ。わざわざ薬まですまねぇな…」



 俺から薬を受け取ったドワーフは間近で観察し始めた。


 だがこの薬に見覚えがないのか、彼は不思議そうに観察していたが、やがて「駄目だ分からん」とでも言うように降参のポーズを取った。



「見たことねぇ薬だな…」


「……俺の故郷に伝わってる薬だよ。ナラクっていう極東の島国なんだけど聞いたことないか?」



 俺の言葉を聞いたドワーフは一瞬、ギョッとしたが「そうか、だからなのか」と何か一人で納得したように呟いた。



「ん? どうかしたのか?」


「いんや、ナラクといやぁ最初に魔族に滅ぼされた国だったと思ってな。そうか、とっくに滅んだもんだからあそこの島国に住んでる奴らは全員魔族に殺されたと思ってたんだが……まさか生き残りがいるたぁ思わなかった…」


「――――ん!?」



 ドワーフの爆弾発言に思わず変な声が出そうになった。てか今ので自分の耳を三回くらい疑ったが、何回か脳内リピートしてようやく聞き間違いではないと己の聴覚への疑いが晴れた。


 ―――が。疑いが晴れたのはいいとしてナラクが滅亡してるなんて初耳だ。学院長はそんな事を一言も言ってなかったし、ましてや「出身地はナラクと答えておけば大丈夫だ」と妙に自信ありげに言っていた始末だ。


 当時は意味が分からず「まぁいっか」と納得していたが、今になって何故大丈夫と言っていたのかが理解出来た。



「魔族の襲撃で姉妹を亡くしちまってるとは…」



 ドワーフは全てを察したようなしみじみとした表情で、何度か頷いた。


 いや、勝手に殺さないで欲しい。義姉はともかく義妹は生きてますから。向こうの世界で楽しく高校生活送ってますから。


 だが何を勘違いしたのか、このドワーフは俺の(義理ではあるが)姉妹が魔族に殺されたと思っている。真実は全く違うので訂正しようとしたが、しばらく考えてやめた。


 多分、これが学院長の狙いだと思う。ナラクが滅亡していると知っていた彼女はこれを利用することにしたんだろう。


 実際に目の前にいるドワーフは少し気まずそうな顔をしていてどうやって話題を変えようかと悩んでいる。


 それによくよく考えてみると、メリットは情報を漏洩(ろうえい)させにくくするだけではない。出身地が滅亡した国なら他の国や大陸にいてもおかしくないし、本当にナラク出身なのか特定することも不可能だ。


 滅亡した国の民の生き残りに対し、他国の人間がどう思うかなど手に取るように分かる。自分の国が突然魔族に襲撃されたのだ。必死に逃げてきたに違いないと思い込み、金や身分証がなくともなんら不思議ではないと考えてしまうことだろう。


 ……人間の心理を上手いこと利用したものだ。ここまでのことを考えての行動なら学院長は末恐ろしい存在だ。絶対敵に回したくない相手である。


 だがそうなると不可解な事が一つ。


 王立魔法聖女学院のクラスメイトに出身地を質問された時、俺はナラク出身だと答えた。しかし、それを聞いた女生徒達は興味津々といった様子でどんなところなのか、また有名な食べ物はどんなものかなど、ごくごく普通の質問をしてきたのだ。


 つまり、これらの行動により明らかになったものは一つ。彼女達はナラクが滅亡したことを知らないという事実だ。


 ナラクはこの世界で一番小さな国で、人口も少ない上にかなりの辺境だから知らない人の方が圧倒的に多いのかもしれない。


 でもだからといって魔族に襲撃されたのなら少なからずその情報が知れ渡るはずだ。現に目の前にいるドワーフもナラクが滅亡したことを知っているというのに王立魔法聖女学院の生徒が知らないというのはあまりにもおかしい。


 もしかしたら学院長は生徒達にわざと教えていないのではないだろうか。または、教える必要性がなかったとか…? そういった理由でなければ説明がつかない。



(いったい何故…?)



 しばらく考えてみるも所詮は子供。思考能力にも限界がある。しばらくこの疑問は放置しておいてもいいだろう。



「悪いことを聞いたな。すまねぇ…」



 結局いい話題の変え方が見つからなかったのかドワーフは素直に謝った。



「いや、全然気にしてないから謝らなくていいぞ」



(むしろ騙してる分、こっちには罪悪感あるし…)



 嘘をつくのは得意ではあるが好きではない。得意=(イコール)好きという式は早計であり、偏見でもある。


 俺は自分によくしてくれる人にはあまり嘘はつきたくないと思っているし、逆に自分にとってデメリットとなる人や関係ない人には平気で嘘をつく。罪悪感が全くない訳ではないがわりとどうでもいいと思っている。


 これを聞いた人間はきっと俺のことを非難するだろう。その考えはどうなんだ、と。


 でも非難する人達のほとんどは自分の心を(あざむ)いている。周囲と波長を合わせ、己が爪弾(つまはじ)きにされたくないがために他人を利用する。それが大半の人間の本性だ。


 この異世界アルカディアの人達はどうかは知らないし今のところ興味もない。


 無駄な思考にいつまでも浸ってるのも馬鹿馬鹿しいので話題を変えることにした。



「それより、仕事に行かなくていいのか?」


「おっと、いけねぇ! 嬢ちゃんと話してたらあっという間に時間が過ぎてっちまう。これ以上嬢ちゃんに時間取らせる訳にもいかねぇからおりゃあそろそろ行くことにするぜ」


「おう、気を付けてな」


「がははっ。当ったりめぇよぉ! 鍛治師はポジションが大事だからな。健康に勝る宝なしってな!」



 かなり酔っているにも関わらずドワーフは元気良く答えた。



「じゃあな、嬢ちゃん。薬、ありがたく貰っとくぜ」



 そう言いながらドワーフはポケットに薬を仕舞うとギルドから出ていった。


 最後まで見送った俺はドワーフの置いてった金を持って酒場のカウンターへ向かい、会計を済ませた。彼の言った通りジュース一杯分の金が余ったが、注文することなくポケットへと突っ込んだ。


 今俺は一文なしなので少量でも貯金しておいた方がいいだろう。貰ったものなのでこの金をどう使おうが俺の自由だ。貯金しても罰は当たるまい。



「む? 今のは鍛治屋の店主ではないか」



 会計から戻ってみれば先ほど俺たちが座っていた席の近くにアルティナが立っていた。彼女は不思議そうにドワーフの出ていった方角を見ていたが、こちらの存在に気付いたのか俺へと視線を移した。



「知ってるのか?」



 質問するとアルティナはしばらく考えた後、先程の独り言が聞かれていたのかと理解したようだ。



「ん? ああ、丁度今日私が行こうとしていた鍛治屋の店主だ。割引券があって安い上に腕も確かだからな」



 なんとも奇妙な縁があったものだ。事実は小説よりも奇なりと言うがまさかその言葉がぴったりな出来事が起こってしまうとは。



(店主さん、あんたはきっとこれから救われる。なんせあんたの店の常連が俺の目の前にいるんだからな…)



 そんな確信をもってアルティナを見上げると、俺は小さく笑った。



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