女子力とは…?
女子力という言葉はよく耳にしたりするんですけどなんなんでしょうね…?謎です。
――――オルティア王国中央広場の噴水前にて。
巨大な時計塔が見える位置に設置してあるベンチに腰をかけた俺はきょろきょろと辺りを見渡す。
せわしなく行き交う馬車とダチョウのような大きい鳥が荷台を引いているのがよく目立つ。周囲の店舗や民家は基本的に白を基調としたものでなかなか清潔感のある街だ。
道端などにゴミが一つも落ちていないことはないものの、俺の故郷と比べるとだいぶ綺麗な方だ。
(あの巨大な鳥……もしかしてクエックか…?)
俺は荷台を引く巨大な鳥に視線を向けるとしばらく観察する。クエックとはダチョウのような姿をした巨大な鳥で、荷台を運ぶなどの運搬作業でよく用いられる魔物だ。
魔物には分類されるものの、草食類かつ大人しい性格をしたものが多いので人間などの種族にとって全く害がない。
頭もよく、物覚えがいいため調教する手間もあまりかからないのでかなり好感が持てる。定期的に卵を産むので食材用や加工用、またはそのまま孵化させて飼育したりするのが主流だ。
クエック達の働く姿を眺めていると、飲食店から凄く美味しそうな匂いが漂ってくるのでついつい寄ってしまいそうになる。お金ないけど。
今日はギルドの依頼(強制)がある日曜日。視線の先にある巨大な時計塔を見てみると、時計の針が午前7時40分を指していた。ここに到着した時は30分だっのでクエック達の様子を10分くらい観察していたのか。
集合場所はあらかじめここだと決めていたけど初めて来る場所なので多少の緊張感が身を包む。
「あ、ここに座ってたんですね」
後ろから声がしたのでそちらの方向に目を向けるとミーナが立っていた。俺と同じでいつも通りの制服姿に内心ほっと安堵した。
今のままでもミーナは充分可愛いが、お洒落とかしてきたらどうしようかと悩んでいたのだ。だって俺の服は制服以外だと、元の世界で着用してたルームウェア用のもの(愛用のパーカーも含む)を1セット持ってるだけだし。
寝るときはそれに着替えているのだが、正直一着だけしかないので結構ツラい。この際、ギルドから取ってきた依頼を達成してそのお金で何か服を買おうと決めた。
「ん?…あぁ、随分と早いな。まだ20分前だぞ?」
「それを言うならマナさんの方が私よりも早く集合場所に到着しているじゃないですか」
「今さっき到着したばかりだ」
一応、お決まりの台詞を言っておく。特に相手が女性なら尚更そうしろと、昔姉から教わった。
「ふふっ。マナさんは嘘が下手ですね。ほんの僅かですが私から目線がズレていますよ?」
俺の嘘を即座に看破したミーナは微笑んだ。しかも目線がズレているという指摘も合っている。これは相手から見ても不自然ではない程度のもので、実際に元の世界の高校にいたときは一度も看破された事はなかった。
だというのに出会って一週間くらいのミーナに難なく見破られてしまった。嘘をつくときの癖は自分でも把握しているし、それを看破されないよう徹底的に工夫したつもりなんだけどな…。
こうもあっさりと看破されると少し自信をなくしてしまう。もしミーナがエスパーだったら看破されて当然だろうけど、それはさすがにないと思う。……………ないよな?
「ミーナはよく見てるんだな」
そう言うとごく自然に俺の隣に座ったミーナは微笑しながら答えた。
「もちろんです。マナさんは私のパートナーですからこれくらい普通ですよ」
「あはは、それは頼もしいな。ところでアルティナは?……いつもミーナと一緒にいるのに…」
いつもはミーナの近くにいるのに今日に限って姿が見当たらない。念のために周囲をきょろきょろと見渡してみるがアルティナらしき姿はない。
「アルティナならもう少ししたら来ますよ。ここに来る途中までは一緒だったんですけど、鍛冶屋の割引券を財布に入れ忘れてたので一旦、取りに戻ったんです」
ミーナの説明になるほどと納得した。
てか、鍛冶屋の割引券ってなんだ…!?まるでスーパーに買い物でも行くみたいだなと錯覚してしまう。懐かしきかな、スーパー。元の世界では確か今日が特売日だったはず。
異世界に召喚されてなかったら今頃はきっとスーパーという名の戦場へと単身で特攻していたに違いない。俺が住んでた近くにスーパーがあるから特売日は必ず買い物に行ってたんだけどな…。
主婦の戦場と化した大安売りコーナーはまさに混沌と表現するに相応しい有り様になる。近所のおばちゃんの必死な形相が地味に怖くて初めて行った時なんかはかなり萎縮していた記憶が鮮明に残っている。
昔から身長が低く、華奢な体つきなので押し合いをするおばちゃん達の間を潜り抜けて結構な数の戦利品を手にしていた。普段は抵身長なのを気にするけど、こういうときだけは役に立つからなかなか憎めない。
―――――閑話休題。
危ない危ない。思わず『近所のおばちゃんと700日戦争~特売日の戦利品~』を語り出しそうになってしまった…。実際にあった話を多少脚色し、軽い気持ちで小説としてネットに上げてみたんだけどまさか映画化するとはあの頃の俺は思ってもいなかった。
……………全然話戻ってきてないな。さっきから脱線しまくってるわ。
取り敢えずこれといった話題が見つからないので俺はミーナに鍛冶屋の割引券について聞いてみることにした。
「気になったんだけど鍛冶屋に割引券があるのって普通なのか?」
俺の質問に対してミーナは顎に手を当てて少し考える素振りをした後、すぐに答えた。
「うーん……私はあまり鍛冶屋には行かないから分からないんですけど、多分割引券のある鍛冶屋さんは珍しいと思いますよ。アルティナが常連となってる鍛冶屋さんは商品の質や種類がいい上に値段もお手頃らしいので」
「あ、やっぱ割引券とかある鍛冶屋って珍しいのか…」
ゲームではそんな仕様はなかったのでやはり珍しいという認識で合っているようだ。
種類が多く、質が良いものをお手頃価格で販売しているとは印象がいい。まぁ、どこまで品質が良いのかは直接鍛冶屋に行ってから見極めるしかないな。
俺がそんな事を考えていると隣で座っていたミーナがまじまじとこちらを見ていた。どうしたのだろうと疑問に思い、俺はミーナに質問した。
「どうしたんだ?さっきからこっち見てるけど…」
「え、いえ。その水晶のついたネックレス似合ってるなぁ…と思っていただけですよ。今までマナさんが身に付けている所を見たことがなかったので…」
ミーナの答えに俺は納得がいった。だから首らへんに視線が向けられていたのか。
「ああ、これのことか。このネックレスはすごく大切な物なんだ。普段はポケットに入れて肌身離さずに持ってるんだけど、せっかく街案内してくれるんだしほんの少しくらいお洒落して行ってもいいかな~って…」
「何故でしょうか…。私、マナさんに女子力で負けた気がします」
「いや、女子力とか言われても…。そもそも俺は男だし女子力なんて持ってないからな?」
何を以て女子力とするのか謎だ…。男性でもお洒落に気を使う人はいると思うのだが……こっちの世界ではそうではないのかもしれない。
「遅れてすまない。割引券を取りに戻っていた」
「お、アルティナ。まだ集合時間前だから遅れてないぞ」
「そ、そうか。それなら良かった…」
集合時間前に到着できた制服姿のアルティナが俺の後ろから安堵したように答えた。
「間に合ったようで良かったです」
「ああ、そうだな。……こちらからお願いした事なのに万が一にでも遅刻する訳にはいかないので全速力で走ってきた」
「だからそんなに疲れているのか…」
額や首筋には多少の汗が流れ落ちている。呼吸も少々荒く、俺はベンチから立ち上がるとそこにアルティナを座らせることにした。
「俺は平気だから座っててくれ」
「だが、しかし――――」
「いいからいいから」
「むぅ、すまない。今日はマナに何か一つ奢るとしよう」
申し訳なさそうにするアルティナはお礼として何か俺に奢ってくれるようだ。だが、それだとなんだか俺が申し訳なく感じてしまう。席を譲っただけなのに大袈裟だと思った。
「別にそこまで気にしなくてもいいぞ?」
席を譲るくらいなんともないので、せっかくだけど断っておく。
「それでは私の気がすまないのでな。おとなしく私に奢られてくれ」
アルティナの目は真剣そのもので、決して譲るつもりはないという意志がひしひしと伝わってくる。
「いや、でも―――」
アルティナの気迫におされた俺はほんの少し言い淀んだ。
「マナさん、諦めた方がいいですよ。こうなったアルティナは頑固なので私でも勝てませんから」
ミーナがここまで言うとは…。断りたいのは山々だけどこれ以上続けても時間の無駄かもしれない。ここは大人しくミーナの言う通りアルティナに奢られるとしよう。
「……分かったよ。これ以上断るのも忍びないしここはアルティナに何か一つ奢って貰うことにするよ。…あ、でも奢ると決めたからには覚悟しとけよ?ここぞとばかりにアルティナの懐を削ってやるからな!」
「ああ、望むところだ」
「そこは望んじゃいけないと思うのですが…」
俺とアルティナの会話にミーナが苦笑した。もちろんアルティナの懐を本気で削るつもりは毛頭ないので、何か安い物にしようと思う。例えば髪留めとかどうだろうか?……俺髪長いし。
掃除するときに長い髪は少し邪魔になるのでポニーテールとかにして掃除の邪魔にならないようにしないと。俺があの小屋を掃除するときにそれを痛感したし。
「そういや今更だけどアルティナも制服姿なんだな…」
「ん…?まぁ、運搬の依頼だからな。それに休日とは言ってもマナに街案内するだけだからいつもの制服姿でもいいと思ったのだが……何かまずかったのか?」
不安そうに聞いてくるアルティナに俺はさっきミーナと女子力がどうのこうのと会話していたことを話した。
するとアルティナは「なんだ、そんなことか」と呆れたように笑った。ちなみにミーナが「同じ仲間がいて良かったです…」と小さく呟いていたのだが、それは聞かなかったことにした。
そんなこんなで楽しく歓談していた俺たちに、声を掛けてきた人物が一人。
「私が最後なのね…。ねぇ、あんた達。全員揃ったんだからさっさと行ってギルドの依頼を終わらせるわよ…」
「最近、後ろから声を掛けられる事が多い気がするけど何か心当たりない?」
「そんなこと知らないわよ…」
クロナの呆れた声を聞きながら俺は後ろを向いて固まった。
そこに立っていたクロナは水色を基調としたワンピースにチェック柄のレースプリーツスカート。一見夏場で着るような服装だが、今日はポカポカと暖かいので違和感がない。
髪型はいつもツインテールにしているが、今日は片方だけに髪をまとめて結ったサイドテールだ。
エネナギ草の運搬依頼だから俺、ミーナ、アルティナは制服姿だというのに、クロナはどこかへ出掛けるかのようにめっちゃお洒落をしていた。
………数秒間、俺たちの時間が止まった気がした。これほどシーン…という効果音が似合いそうな場面は他にはないだろう。
「な、なによ…?なんであんた達固まってんの?」
クロナだけがこの状況についていけず困惑している。
「優勝は間違いなくクロナだな」
「クロナさんだけズルいです…!」
「まったくだな」
「だからなんの話!?」
女子力(?)コンテスト優勝は間違いなくクロナだった。それは当の本人以外が認めるものであり、今日限りなら決して揺らぐことはない。
普段は研究に没頭して引きこもりになりがちなクロナの意外な一面に、俺たちは驚愕せざるを得なかった。
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