それぞれの方針
加菜恵視点はここまでです。一年前の話を少し書こうと軽く思っていましたが案外長かったような気がします(読めば短く感じるかもしれませんが)。
新キャラを少し多く出し過ぎたかな?とは思うものの、なんとかキャラが被らないように気を付けて頑張っていこうと思います。
海藤が応接室を出てから数十分後、微妙な空気のまま私たちは自己紹介を続け、現在は私達の今後の方針を決めるべく話し合っているところだ。
エルバート王やその他の人たちは、「勇者様方の話し合いに水を差すつもりはない」と言ってこの部屋から出ていった。部屋の外では話が終わったら知らせるようにと、伝言役の兵士が二人ほど待機している。
「王様の話を聞く限りだと、全員がレベル100を超えるまで本格的な魔王討伐の旅はさせるつもりはないみたいだね…」
村上君がしんみりとした様子で呟く。自己紹介が終わった後、魔王討伐の旅に出るまでの方針とその詳細を教えてもらったのだが、これがなんとも困難な内容に聞こえる。
この世界ではレベル100が熟練者と言われている。50以上が一人前、それ以下が半人前とのことらしい。
それまでは王国の用意した家庭教師や騎士団の一部の下で、私たちは戦術やこの異世界の常識を学び、能力を身に付けなければならない。
「安全策としては最適ね。でもそんな悠長な時間が私達にあるのかしら?」
「それは分からない。僕の予想だけど、僕たちが熟練者になるまでの間、王様たちはなんとかやりくりして魔族と戦争しているのかもしれない」
「それが本当だとしたらますます私達には時間がないわね」
「だからこそ、一刻も早くレベル100を超えなきゃいけないんじゃないかな?」
こんなところでぐだぐだと話している時間が勿体ないとでも言っているのだろうかこの男は…。
「まずは大きく二つに分けよう。魔王討伐の旅に参加する人と、そうでない人にね。参加する人は挙手をしてくれ」
ざっと見渡したところ挙手したに人数はクラス全体の3分の2くらい。それを見た村上君は少し考える素振りをすると、口を開いた。
「皆も知っての通り、魔王討伐の旅はレベル100を超えるまでしてはならないくらい危険度が高い旅になると僕は思ってる。無理に参加しようとする必要は全くないよ。…でも、逆に言えばレベル100になるまで安全に暮らせるということだ。それまでは王様が生活を保証してくれるし、旅に出たとしても様々な国や町で支援を受けられる」
村上君は一旦話を止めた。今彼が言ったことは魔王討伐の旅に参加すると決めた者のメリットとデメリット。決して安全とは言い難いがそれでも彼は続けた。
「そして魔王討伐の旅に参加しないという人は、レベル100になる必要はない上、本当の自由を手に入れられる。……しかしその代償として王国からの援助を一切受けられず孤立無援の状態になってしまう。王国も戦わない人にまで援助出来るほどの余裕はないからね」
そしてこれが魔王討伐の旅に参加しない者のメリットとデメリット。この異世界について学ぶことも出来ず、レベル1のまま最低限の賃金と装備でこの城から出ていかなければならない。
更に勇者の仲間であることを公言してはいけないという条件付き。公言した場合、その者に対して王自らが罰を下すとのこと。なかなかに厳しい対応である。
「どちらを選択するも皆の自由だと思う。でも、僕は皆が思い描いているような勇者じゃない。魔王討伐の旅に参加する人は全力で僕が守るし協力して助け合っていくと約束する」
「貴方も私達と同じレベルなのに随分な物言いね」
私が口を挟むと村上君はこちらを見て優しげに言った。
「それでもだよ美島さん。同じレベルだとしても僕は参加してくれる皆を守りたい。だからこそ、ここで断言しておくよ。魔王討伐の旅に参加しない人達の面倒までは見きれないと」
村上君は真剣な眼差しで断言した。彼の様子からは本気なのだと窺える。
(大を救って小を捨てる……。ついて来る人を全員守るなんて妄言を吐いてた割には現実を見ているわね…)
参加しない人も全員守ろうとしていたならば、私は村上君に失望していた。その判断は現実的ではないからだ。自由になった人をどうやって救うというのか……絶対に不可能だ。まぁ、だからこそ、そうならなくて良かったと安堵している自分がここにいるのだが。
もしかしたら参加者全員を本気で守れるのかもしれない。そういうのは彼の今後の努力次第だろう。少なからず期待しておいて損はない。
「それが現実的な判断だと私も思うわ。関係のない人まで無理して救おうとするのは愚か者のすることよ」
私の言葉に村上君が苦笑すると、皆の方へと向き直る。
「それらの事を踏まえた上でよく考えて欲しい。魔王討伐の旅に参加するか、参加せず孤立無援の自由を得るか」
これは……一種の脅しだ。村上君は事実を告げているだけでも、その言葉を受け取った人は素直に解釈しようとしない。いや、出来ないといった方が正確かもしれない。それが人間の性だから。
この国は比較的に治安はいい。でも全てではない。もちろんのこと、治安の悪い場所だっていくつか存在する。もしもその問題に直面した時、無事に解決できるかと訊かれれば私はノーと答えるだろう。
数分後、充分な時間を与えた後に村上君は皆に再度質問した。
「もう一度訊くよ。魔王討伐の旅に参加する人は挙手をしてくれないかな?」
今度は私も含め全員挙手した。それを見た村上君は椅子の背もたれに体重を預けてほっと、安堵したように小さく息を吐いた。
これは私の予想でしかないけれど、村上君は最初から全員守ろうとしていたんじゃないだろうか。だからこそ、今のこの状況に安堵している。
参加しない人は見捨てると言った割にはかなりのお人好しだと思う。
少し緩やかになった雰囲気の中、一人の少女が静かに手を挙げた。村上君はすぐに気付き声を掛ける。
「なんだい?……えーと―――」
名前を呼ぼうとして村上君が言葉に詰まった。まだ自己紹介したばかりなのであまり覚えていないのだろう。
「宮城鈴谷だよ。呼び方は好きにしてくれ」
「ありがとう宮城さん。それで、何か言いたい事があるようだけれど、どうしたんだい?」
やっぱり魔王討伐の旅に参加することを取り消すのだろうか?……そんな皆の不安を先読みしたかのように鈴谷さんは答えた。
「魔王討伐の旅に参加する事については異論はないよ。しかし、我々は別行動を取らせてはもらえないだろうか?」
鈴谷さんの言う我々――――それが一体誰を指すのか私はすぐに理解した。
村上君といえば鈴谷さんの提案に困惑している。何故別行動をする理由が分からないのか、あるいは予想外の出来事が発生した事に対するものなのか。
「……宮城さん、君のいう別行動を取る理由を答えてはくれないかな?」
「簡単なことだよ。これは先の話になるのだが、村上君が魔族と戦っている最中に別の場所で被害が出ないとも限らないからね。それなら戦力を分担した方が被害を抑えられるとは思わないか?」
鈴谷さんの言っていることは正論だ。だが戦力を分担してしまうと―――――
「それだと[勇者の仲間]という称号の効果は発揮されないけど……それでも宮城さん達はいいと?」
称号[勇者の仲間]。それは勇者である村上君以外全員にあった称号。つまり村上君以外の勇者はここには存在しない。称号の効果はどれほどなのかはまだ不明だが、ないに越したことはない。
しかしそれでも、彼の問い返しに鈴谷さんの隣の席に座っていた紫織さんが淡々と告げた。
「構わない。レベル100の私達なら戦力として何一つ問題はない」
「オレも紫織と同意見だなー」
「私も右に同じくじゃよん」
「そうそう!私達ならやれるわよ♪」
「――――だ、そうだよ」
紫織さん、神谷さん、朱里さん、三咲さんという順に鈴谷さんは見渡すとはっきりと答えた。
「……分かったよ。君たちの意見は王様にも伝えておく。その要望が通るかは聞いてみないと分からないけれど、それまでは一緒に頑張っていこう…!」
村上君は立ち上がると眩しい笑顔で皆にそう告げた。その輝くような笑顔に一部の女子がやられた。ちなみに私には効果がない。朱里さん達のメンバーにもどうやら効果はないようだ。紫織さんなんていつも通り無表情。
その様子からいつも思うのだけれど表情筋が死んでいるのだろうかと錯覚してしまう。
「いや~、さっすが桜宮高校イケメンランキングの上位に入ると言われている期待の新人!その眩しい笑顔に心打たれる女子が続出中…!」
「そうじゃね~。やっぱイケメンに限るんじゃよ」
駄目だった。よく見れば凛と朱里さんが堕ちてた。ここは友達として目を覚まさせるのが優しさなのだろうかと判断に困る。あとそのぽわぽわとした雰囲気醸し出すのやめなさい。
「美島さんはどうするのかな?」
「私…?」
不意に話し掛けてきたのは鈴谷さん。どうする?とは今後の方針についてだろうか?
「私と朱里、神谷、紫織、三咲は別行動を取るつもりなのだが君と凛にもどうするか聞いておこうと思ってね…」
なるほど。別行動するかそうでないかを聞きにきたというのか。
鈴谷さんの質問に私はどう答えるか悩む。彼女のチームには私のように上位職を持つ人が3人いる。
上位職を持つ人は戦闘で自分に有利な状況へと持っていきやすい。レベル以上の強さを発揮できるのが強みだろう。それに比べて凛が持つ下位職は上位職より劣っていて、レベル相応の強さしか発揮できない。
村上君の方には上位職が5人いるが、全体の人数と比較すればやや少ないように感じられた。
「申し出は嬉しいけど、私は村上君の方にいておくわ」
「そうか…。凛はどうするのかな?」
鈴谷さんが少し残念そうな顔をした。だがそれもすぐに消え、私の隣に座っている凛に視線を向けた。
「んー、私も遠慮しとくかなー」
私は内心で驚いた。凛のことだからてっきり鈴谷さん達と一緒に別行動すると思っていたからだ。
「ふふっ。凛はそんなに美島さんが心配かい?」
「そりゃあもう加菜恵だかんねー。心配するよ」
微笑を浮かべる鈴谷さんに凛は飄々とした態度で答えた。それに比べて私の顔は少し赤い。
「よ、余計なお世話よ…!」
「もぅ、またまた~♪照れちゃってー」
「照れてなんかないわ…!」
「ふふっ。可愛いね、君は…」
ついに鈴谷さんまでからかい始めたところで私は抵抗することを諦めた。
大人っぽい雰囲気の鈴谷さんには悔しいけれど言い負かせそうにない。
辱しめにあったお返しに私は聞きたいことを鈴谷さんに尋ねた。
「もう一度訊きくけれど、別行動を取る理由は本当にあれだけなのかしら?」
「それはどういう意味かな?」
私の質問に鈴谷さんはシラ切った。その態度に私はわざとらしく不機嫌そうな顔をした。
「そう怒らないではくれまいか?」
「私を辱しめた罰だと思って答えて」
本当に怒っていると思わせるために口調も強めておく。
「む。そう言われるとこちらもそれに答えざるを得ないね…」
そう言うと鈴谷さんは観念したように両手を挙げて降参のポーズを取った。
「確かに、我々が別行動を取りたい理由は他にもある。その中でも特に大きな狙いは援助を受けながらどれだけ自由にいられるか……だ。そこで彼の納得するような理由を述べた訳だが……予想していたよりも案外上手く事が進むものだねと実感している」
援助を受けながら出来るだけ自由を得る……ね。魔王討伐の旅に参加しない者ほどではないにしろ、なかなか頭の回転が早いようだ。見た目通り学力は私と同等かそれより上くらいだろう。
(凛とは比べ物にならないわね…)
「ん?加菜恵今私の事何か言った?」
「いいえ、何も言ってないわ。気のせいよ」
こういう時だけ勘が鋭いのよね……と呆れながらさらっと嘘をつく。凛は「あれー?おっかしーなぁ…」と呟きながら頭に疑問符を浮かべていた。
「よし、皆も大体話し終わった事だし王様にも伝えにいこう」
それぞれ話していたクラスメイトをまとめ上げて締めにかかる。部屋の外で待機していた伝言役の兵士達に話し終わったことを伝えると、急いでエルバート王のところまで向かった。
私たちは兵士が帰ってくるまでしばらく雑談に花を咲かせていると、伝言役の兵士が帰ってきた。その兵士はエルバート王の伝言も頼まれていたらしく、自分達が王の所へ案内するのでついてきて欲しいと私たちに言った。
了解した私たちは席から立ち上がると兵士のあとを追って応接室から出ていく。
方針は決まった。あとは私たちの努力と運勢次第だ。レベル100になる前に魔族がここを襲撃してこないとは限らない。
だからこそ、私は決意する。元の世界へ帰るためにも、いつまでもこのままではいられない。皆もそれぞれの想いを胸に抱いて、明日への一歩を踏み出した。
――――これが私たちの始まり。新たな日常。命懸けの日々が……今、幕を開けた。
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