彼の行く先
※感想を書いてくれると作者は狂喜乱舞します。
しばらくの間、螺旋階段を降り続けて広々とした廊下を歩いた私達は、先頭を歩くエルバート王によって止められた。立ち止まった王の目の前には装飾の施された大きな扉が鎮座している。
「ここは大事な客人専用の応接室だ。勇者様方には遠慮なく使っていただけるとこちらとしても嬉しい限りだ」
部屋の説明をしながらエルバート王はドアノブを回して私たちに応接室の中を見せた。
「これは……凄いわね…」
「うひゃー…部屋全体が輝いて見えるよ」
応接室を簡潔に説明するのなら《贅沢を尽くした部屋》とでも命名したいくらいだった。王から許可を得て応接室の中に入りいくつか観察してみるが、どれも目を見張る物が多い。
毎日、丁寧に掃除されているのだろう。埃一つ落ちてないのが当然とでも言いたげな清潔な部屋だった。扉もそうだが、それに合わせて部屋の中も所々に金の装飾が施されている。
「ふむ…。これは珍しい。金箔かと思えば純金じゃないか…」
知識の豊富な鈴谷さんも口に出して驚いている。なんでそんなことを見分けられるのだろうかと訊くのはきっと野暮なんでしょうね。
この部屋の全体的な印象としては長テーブルと椅子が部屋の中央に設置されており、ざっと数十人は席に着けるだろう。とにかくクラスメイト全員が座れるだけの数はある。
「ここでは、主に大人数を迎え入れるのに使われておる。まだ昼食には早いが、何か軽めのものをすぐに手配させよう。しばしの間、待っていてくれ」
そう言って部屋の外で待機していた兵士に食事を持ってくるよう命じ、兵士はすぐさま厨房へと向かった。ちなみにローブを着た人たちは勇者召喚の儀式での疲労が溜まっているため移動の時に解散となった。
「絨毯に輝くシャンデリア、そして細かい刺繍の入ったドレスと数々の美術品…。高そうな物がいっぱいじゃね~」
「まぁ、ここには普段の日常生活で見られる物が少ないからなぁ…」
神谷さんの言う通り、ここには普段の日常生活ではなかなか見ない物が多い。絵画やシャンデリアなど西洋風のものは私の家に一切なかったので新鮮だ。
「呼んだらホストとか出てきそうじゃよ」
「「いや、それはないから」」
朱里さんの発言に私と神谷さんはツッコんだ。おおよそ普通の女子高生が考えるような事ではないと思うのだけれど、朱里さんなら何故か納得してしまえる…。
「確かに高そうな物がいっぱいあるけど、オレ的には土足で絨毯の上にいる事が一番の違和感なんだよなー」
「そうだろうか?私の家は土足禁止ではないから少し懐かしさを感じるね…」
「あぁー……そうそう、分かる分かる…!それにシャンデリアや絵画があるとまさに家って感じがするわよねー」
(((この人達はいったいどこの住人なのだろうか…?)))
鈴谷さんと美咲さんが家の内装についての話で盛り上がっている。私は少し彼女達の方へ耳を傾けていたけど彼女達の普通と私達の普通が全然違うことが判明した。
「かみやんは違和感あるって言ってたけどこの場合はセーフなんじゃない?」
「セーフ?いったい何が?」
懍の言ってる事が理解出来ない神谷さんは頭に疑問符を浮かべた。
「いやだってほら、私達上履きのまんまだし…」
その言葉と共に懍は私達の上履きを見渡した。
(((あ、そういや召喚された時は教室だったから当たり前か…)))
どうして今まで気付かなかったんだろう…この時3人の意見が一致した。
「皆、待たせたな。我と大臣のヨルドを除き、これより軽く自己紹介をしていこうと思う。中央にある席へ自由に座ってくれ」
私達が雑談に応じていると、兵士から準備が出来たと報告を受けたエルバート王が話を進めた。
王の言う通りに私たちは席に着くと、それを確認したエルバート王は見渡せる位置にある席に着いた。
「まずはこちらから紹介しよう。ローザ、入ってきなさい」
「はい、お父様」
エルバート王は聞き覚えのない名前を呼ぶと、扉の外からそれに呼応する声があった。
待機していた兵士が扉をゆっくりと開け、声の主の姿が露になる。
「おぉ…!」
男子陣から歓声があがった。それほどまでに現れた少女が美しかったと言える。ふんわりとしたピンクの髪におっとりした瞳。赤とピンクと白を基調としたドレスを着用しているが、派手過ぎることはなく、むしろそれを着ている少女に合わせて作られたかのようだ。
少女は私たちへと視線を向けるとスカートの一部をちょこっとつまみ、行儀よく一礼した。
「初めまして勇者様方。わたしはローザ・ヴィル・オルティア。王位継承権第一位の長女になります。勇者様方のお力になるため頑張って支援させていただきたく存じます」
容姿だけならまだ幼さを残すものの中身はしっかりとしているようだ。
「ローザは我の愛娘でな。他にも妹や弟がいるのだがまだ公の場に出られる年齢ではないため直接紹介することはできんのだ…」
「分かりました。では、次は僕たちから自己紹介させて貰いますね――――」
そう言って村上君から自然と出席番号順に自己紹介をしていった。エルバート王からのお願いで皆はそれぞれ自分の持つ職業とステータスを明かしていくことになった。
しばらくして―――それぞれの自己紹介が順調に進んでいた頃、私はとある人物の自己紹介に注目した。
「はぁ、一応…初めまして。【破壊者】の海藤悪斗だ。宜しくしなくて結構だ…」
口の悪い男子――――もとい海藤は、心底めんどくさそうな顔をしてポリポリと後頭部を掻いた。その中には不満、焦り、嫌悪などといった感情が混じり合っている。
そんな自己紹介では周囲から好感度を得る事など出来るはずもなく今まさに悪印象を与えていた。
「海藤君、それでは友達を作る事なんて到底出来ないよ…」
海藤の自己紹介を聞いて不満げな顔をした村上君が口を挟んだ。
それに対し海藤はイライラしたのか機嫌悪そうに答えた。
「んなもんいらねぇよ…!どーせ友達なんて作っても邪魔になるだけだ」
「そういう言い方はないんじゃないかな?」
「うっせぇんだよ、もともとおれは魔王討伐から抜けさせてもらうつもりでいんだ。オメーらには関係ねぇ事だろ」
「…………」
魔王討伐から抜けさせてもらう―――それはつまり、私たちから独立するということ。その発言にクラスメイト間では少なからず波紋が生まれた。
エルバート王やローザ姫、ヨルド大臣はそんな彼を止めようともせずただじっと現在の状況を静観している。
こんな大変な時期だというのに本当に本人の意思を尊重しているのだろう。その人として正しい姿勢は好感が持てる。
「カイドウよ、魔王討伐から降りるということは我々からの支援を一切受けないとみてよいのだな?」
「あぁ、その認識でかまわねーよ。もともと誰とも知らねぇ赤の他人の施しなんざこっちから願い下げだぜ」
王からの質問を即答した海藤は不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ……そなたがそれでいいと言うならば、我々は止めはせぬ。しかし、この世界【アルカディア】はそなたらのいた【チキュウ】とは比べものにならぬほど過酷な環境だぞ。なにせ今は魔族と戦争中。金を稼ぐにも命のやり取りが日常茶飯事になるだろう。それでもか?」
エルバート王は目を細くして何かを見極めようとしている。
「ああ、望むところだ」
「……それが、そなたの選択か。少々脅しを入れても意志は変わらぬようだな…」
そういうと王は椅子に背を預けてため息を吐いた。もう何を言っても彼を止めることは出来ないだろう。
「……そういう事だからおれは今すぐここから出ていくさ」
海藤は席を立って扉へと歩を進める。がしかし―――
「待て」
気迫のある声に海藤が歩みを止めてめんどくさそうにエルバート王を見た。
「んだよ?止める気はないんじゃなかったのか?」
「そうではない。おぬしはこの城の出口……知っておるのか?」
「……………………あ」
数秒後、海藤から何か思い出したように短い声が出る。なんとも言えない微妙な空気が応接室に流れた。
「………今すぐ案内人を用意させよう」
優しい王の気遣いに海藤は顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「いらねぇよっ!」
――――――バタンッ!!
それだけ叫ぶと彼は扉を乱暴に閉めて走り去った。
周囲の反応を見れば苦笑している者がほとんどだった。神谷さんと朱里さんは机に突っ伏してバンバン叩きながら爆笑していたけれど…。
そんな様子を見てしまうと何故だか海藤が不憫に思えてくるので不思議でならない。
(ほんと、私達のクラスって大丈夫かしら…?)
私はこの先のことを考えると不安になった。
――――――――――――――――――――――――
「くそっ!どうなってやがるこの城はッ!?」
そう叫びながらひたすら出口を探して走り回っているのは先程大見栄を張って応接室から出ていった海藤だ。
彼の額から数滴の汗が滴り落ち、赤いカーペットを汚す。袖で汗を拭うもあまり効果はなかった。
(こんな城くらいどうとでもなると思っていたが……くそったれが!自分の考えの甘さに吐き気がする!)
内心で自分への暴言を吐きまくる海藤は混乱した頭の中を整理させるために廊下の壁に背を預けると、そこからズルズルと背中を擦らせて座り込んだ。
この城の構造は複雑で、攻め込んできた敵を惑わせて時間稼ぎをするために造られたものだ。
元は普通の城と然程変わらない構造だったのだが、9年前に魔族の襲撃を受けて城が半壊した時にヨルド大臣が「戦略的な構造にしてみては?」と言って造られたのがこの複雑怪奇な内部構造である。
この構造は人の記憶力や判断力を鈍らせる効果がある。詳細を語るなら全く同じ景色がいくつもあるのだ。どこへ行っても、どのルートを通っても何一つ変わることなく同じ景色。
自分は本当に進めているのか?…それとも戻っているのか?…方向感覚を狂わせる。
まぁ、そんな事を知るよしもない海藤が迷うのもある意味当然と言えた。
しかし、それは敵が侵入してきた時に使うものであり、普段はそんな機能を発揮しない。
何故なら普段は一階毎に案内板が廊下に貼られているからだ。自分が今どこにいて出口を目指すには次どこへ行けばいいのかも懇切丁寧に文字と矢印で書いてある。
矢印だけでも冷静な異世界人が判断可能な代物だが、それを見ても海藤は迷子になったのだ。このことからこれは単に海藤が方向音痴だという結論が出てくる。
本人は絶対に認めようとしないだろうが、第三者から見れば明らかだろう。
「ハァ、ハァ……あぁもう、ざけんなっつーの」
今まで走っていたせいか、座って休憩しだしたら急に疲れが襲ってきた。しかし、あまり悠長にしていられる時間がない海藤は、それらを振り切って再び立ち上がる。
「おれは……ぜってぇここから抜け出すッ!!」
海藤は気力を振り絞って叫ぶ。己の未来のために、この世界で自由を手に入れるために、彼は明日への一歩を踏み出した。
―――――それから三日後、疲れ果てた海藤が廊下の端で倒れているのを城の兵士に発見されるのだが、それは別の話である。
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