ネトゲ仲間
今回は少しだけ長めになっています。
「王様、一ついいでしょうか?」
「む?なんだ、申してみよ」
勇者となった村上君はエルバート王にとある提案をした。
「実は、僕たちの関係性と元の世界の事情を王様に話しておこうと思ったのですが……構いませんか?」
「ああ、構わぬ。ちょうど我も、勇者様方の関係性が気になっていたところだ。魔王討伐の旅に出るのに険悪な仲では目も当てられんからな」
エルバート王の承諾を得ると村上君は元の世界の事情と私たちの関係性を正確に話してくれた。それを聞いたエルバート王は少し難しげな表情をした。
「――――つまり……召喚される直前、勇者様方は学校に入学したばかりで自己紹介もしていなかったと…?」
「はい、その通りです。今ここにいるクラスメイトの中に気の合う友達もいますが、ほとんどが初対面です」
「…ふむ、そうか、それだけならば問題もなかろう。初対面だというのならこれから仲良くなっていけばいい。戦闘において信頼関係は一番大事だからな」
私的にはどちらでも構わないのだけど、それを言ったら面倒事になるわねとついつい余計な事を考えてしまう。
「……そうだな、では少し移動するとしよう。いつまでもこの部屋で立ち話をする訳にはいかんだろうしな。では、我について来くるといい」
「お気遣いありがとうございます…!」
エルバート王の気遣いに村上君は頭を下げて礼を言った。そして移動し始めた王とそれを護衛する兵士達に私たちはついて行く事になった。
部屋を抜けて目の前にある螺旋階段を降りた。螺旋階段は綺麗に整備されており、所々にある窓から光が差し込んでいて何だか絵画にある歴史的建造物のように見えた。
そしてこの螺旋階段は上への階段がないのでここが最上階だということがすぐに分かった。私の隣で歩く懍も、窓から見える景色に関心を示していた。
「ほぇ~。すっごいもんだねぇ…」
最上階だけあってそこから見える景色は絶景だ。螺旋状の階段なのでこの国全体を見通す事が可能だろう。高所恐怖症の人にとっては心臓に悪い景色かもしれないけれど。
「今更だけれど、ほんと……ありえない事だらけね…」
「それはどうかな?……この異世界では魔法や魔物といったものが存在する。そして、何よりも私達の世界から勇者とその仲間として召喚する事が可能であると、実際に体験した私達自身が既にそれを証明している。この事を踏まえれば我々の世界の人間だけが、異世界が実在すると知らなかった……という結論にならないか?」
独り言を呟いたつもりだが、どうやら後ろの人に聞かれていたらしい。私の独り言に対して真面目に返答してきた。
私の後ろを歩いていたのは随分と長身の少女だった。目測だけれど多分170センチを超えていそう。スレンダーな体型に似合わぬくらいの豊胸。私が数段下にいるせいで余計に大きく見える。
……別に羨ましいとか思ってないから。巨乳は絶滅すればいいとか願ってもないから。一段降りるごとにたゆんたゆんと揺れる暴力的な大きさを目の前に私はただ睨み付ける事しかできなかった。
「何が言いたいの…?」
「つまり、元の世界では非常識と認識されていても、この異世界ではそれが非常識ではない……ということさ。端的に言うと認識の違いだね。人は何を以てそれを常識とするのか、実に興味深いね…」
何か良く分からない事を語りだした長身の少女は豊満な胸を―――チッ(舌打ち[弱])……揺らしながら―――チッ(舌打ち[強])……機嫌が良さそう―――チッ(舌打ち[憎悪])……にしている。
見ているだけで何だか腹が立ってしまうわね。顔だけを見ようとしても私の視界に必ず無駄な脂肪の塊が入ってくる。どうすればいいかしら?いっそのことサラシであの胸を縛ればいいのかしら?
そんな事を考えていても意味がないので私は相手の名前を率直に訊くことにした。……別にブラックリスト(巨乳限定)に載せるためとかじゃないから。
「……それで、貴女は誰なの?」
私の質問に対し、彼女は名乗るのを忘れていたのか思い出したかのような素振りを見せると申し訳なさそうに自己紹介した。
「あぁ、すまない。私は【魔法師】の宮城鈴谷だ。今後とも宜しく」
そう言うと彼女――――鈴谷さんはこちらへと手を伸ばし握手を求めてきた。
「美島加菜恵よ。こちらこそ宜しく」
淡々と返答すると差し出された手を握って握手した。その様子を見た懍が隣でニヤニヤしていた。
「いやー、加菜恵がこんなナイスボディの少女と友達になるなんてこの私も予想外だったわー♪」
「今すぐそのニヤけ面をやめなさい。でなければ木刀で蜂の巣にするわよ…?」
「怒ると怖い、加菜恵ちゃんでしたー!」
睨み付けても懍は飄々とした態度で華麗にスルー。私が自身の貧しい胸を気にしている事を知ってて言っているのだから尚更タチが悪い。
高校生になって少しは成長しているかもしれないと、微かな希望を抱きながら私は両手でそっと自分の胸を触ってみた。
――――――――つるぺたーん。
絶望しかなかった。
「ペッタン♪ペッタン♪ツルペッタン♪」
隣で懍が奇妙な歌を歌いだしたので素早く右手で彼女の頭を掴むと容赦なくアイアンクローを決めた。慈悲はない。
「――――あ、ちょ、それヤバ―――ッ!?」
ぎゅぅぅうううッ!!というような擬音が聞こえてきそうな程強く掴み上げ、しばらくそのままにしておく。懍は必死に抵抗しようとするが無駄な足掻きでしかない。
「その辺で止めてはもらえないだろうか?」
もがき苦しむ懍を見て憐れに思ったのか、鈴谷さんが助け船を出した。
「今までの状況を見ていたなら懍が悪いと判断出来るはずよ」
「まぁ、それは確かにそうだが彼女は私の友達でね。私に免じて許してやってくれないかな?」
「何ですって…?」
思わず掴んでいた右手を放した。
「あたっ…!」
幸い、階段から落ちることはなかったものの、懍は硬い石材で造られた段差に尻餅をついた。痛かったのかちょっと涙目だ。
「懍と宮城さんが友達…?中学校が同じだったとかそういうことなの…?」
「いや、そういう訳ではない。中学校も別々だったからね」
「じゃあ何よ…?」
「まぁ、所謂ネトゲ友達といったものかな」
「ねとげ友達…?」
ねとげ……やったことはないけどインターネットでやるゲームのことだったような気がする。懍がよくやってるゲームを隣で観てた事が記憶に新しい。
「【MMORPGアルザストルーナ】というネトゲ史上最大のマップとストーリーに加え、キャラメイクやアイテム数、装備の種類と見た目が豊富でかなり有名なネトゲなんだ。ネット上ではMMORPGの最高傑作と称賛されているね」
「へぇ…」
相づちを打っておくが、何か凄そうね……くらいしか感じない。もともとそこまで興味無かったからという理由もあるかもしれないけど。私の隣では懍が鈴谷さんの説明にうんうんと頷いている。
「それだけじゃなくって登場人物(美少女)の綺麗さも評価するべきだと思うんじゃよ」
突然、私でも懍でもましてや鈴谷さんでもない声が聞こえたかと思うと鈴谷さんの後ろから横にひょっこりと出てきた少女がいた。
「朱里、君はいつも突然現れるね」
「いや、さっきからずっといたんだけどすずやんの身長で今まで存在消されてたんじゃよ!」
朱里と呼ばれた少女は鈴谷さんに対して理不尽にプンプンと怒っていた。少し変わった話し方をした少女ね……と、私はそんな感想を抱いた。
「紹介しよう、彼女は霧山朱里。ネトゲ友達でよく一緒にプレイしている」
「すずやんに紹介された通り、霧山朱里じゃよ!気軽にあかりんって呼んでね♪」
鈴谷さんに紹介された朱里さんは元気よくポーズを決めた。
「そしてその朱里の隣にいるオレが小崎神谷だ!宜しくな!」
「右に同じく、十六夜紫織。呼び方は紫織で構わない」
「そして最後にこのメンバーのリーダーをやっている綾瀬美咲よ!宜しくね♪」
「「なんか増えてるっ!?」」
いつの間にか増えてる人数に私と懍は思わずツッコミを入れてしまった。ほんと、どこから現れたのかしら…?
「えー、おほんおほん。要するに、今自己紹介したのは全員ネトゲ友達だね…。休日などでよく一緒にゲームをしている…」
わざとらしく咳き込んだ鈴谷さんは突然現れた人達の紹介をした。あのタイミングで出てきたことからもしかしてと思っていたのだけれど……どうやら私の勘は当たっていたらしく懍を含め私以外は全員ネトゲ友達のようだ。
「よく一緒にゲームしているって……もしかしてさっき言っていたMMORPGのこと?」
「そうだね。他のゲームでも遊ぶ事はあるけれど、主にMMORPGアルザストルーナをしている。ついでに言うと美咲はゲームの中で我々メンバーのリーダーを務めている」
「あぁ、なるほど。そういうことだったのね」
ゲームの中での話なら納得出来た。美咲さんの見た目的にリーダーに向いてなさそうに思えるもの。
顔やスタイルは整っていて、それだけならリーダーに見えるけど、たまにピョコピョコと揺れる二本のアホ毛がそれらを台無しにしている。第一印象がアホの娘っていうのは失礼かもしれないけど、そう見えてしまったのだから仕方ない。
「ん?私に何か用?」
「いえ、別に何も…」
ピョコっとアホ毛が反応したかと思うと美咲さんがこちらの視線に気付いた。気付かれるとは思っていなかったので私は少し焦って無愛想に答えてしまった。……あの人のアホ毛は探知機か何かなのだろうか…?
「そ、それにしても男子一人に懍も含めて女子五人って珍しい組み合わせね…」
「あー、確かにそうかも!このメンバーはゲーム内ではギルメンだったし…」
今更気付いたかのように懍は私の感想に同意した。
「ぎるめん?」
「ギルドメンバーの事だね。省略してギルメンだ。簡略化して説明するとギルドという組織があり、リーダーによって方針は様々だよ。そして、その中の一つに私たちは加入していたのさ」
「つまりあなたたちはゲーム内では仲間同士ってこと?」
「ゲーム内限定という訳ではないが、大体その通りだね」
鈴谷さんが私に分かりやすいよう噛み砕いて説明してくれた。MMORPGなどのネトゲを私はやったことがないので非常にありがたい。
「オレもオフ会で会った時はビックリしたぜー。正直、このメンバーに出会うまでは全員おっさんとかかと思ってた」
「かみやん、それはさすがに夢見なさすぎじゃよ…」
「そうかー?それが普通の反応だと思うけどなー」
「もっとこうッ!あるじゃろ!?お年頃の男子が妄想するアレが!」
「取り敢えず朱里、お前のその男子に対する幻想をぶっ壊すッ!!」
「おぉ!神谷がかみやんになったわ!」
私をおいて騒ぎ始める朱里さん、神谷さん、美咲さん。いつもこんな調子なのだろうか?
「それより、その……かみやんって何?」
「んー?あぁ、オレのあだ名だよ。オレの場合、神谷と書いて《こうや》と読むんだけど間違えて《かみや》って読む人が多くてなー。んで、そのまま呼び方を少しアレンジされて【かみやん】になったんだよ…」
「なるほど。確かに私も言われなければ《かみや》という読み方をしていたかもしれないわね…」
そう言うと神谷さんは「だよなー」と同意した。
「ちなみにかみやんのあだ名を付けたのは私じゃよん♪」
「もしかして宮城さんのあだ名も…?」
「もち、私!」
「朱里ってそういうの得意だもんねー」
元気に答える朱里さんに対して懍は「あはは…」と苦笑した。
「なんか、こういうのも悪くないわね…」
懍以外、こうやって一緒に騒げる仲の友達がいなかった私にとって、この光景は一種の憧れでもある。そこには何一つとして抵抗もなく楽しそうにしているメンバーを見て私は少しだけ羨ましく思った。
「どーしたの?急に…?」
小声で呟いた私の独り言を聞き取った懍が嬉しそうにニヤニヤしている。その顔もわりと腹立つけれど、何より分かってて言ってるのが一番腹が立つ。またアイアンクローでもしてやりましょうか…。
「まぁな、オレもこのメンツといてて結構楽しいからな!」
……どうやら私の独り言を聞き取ったのは懍だけではないらしい。神谷さんは実にいい笑顔をしている。この人は無自覚でやっているかもしれないけどそっとしておいて欲しかった…。
「そうね。全くその通りだわ。小崎さん以外といると凄く楽しいわ」
「なんかオレに恨みでもあんの!?」
神谷さんのツッコミにその他のメンバーは、クスクスと微笑した。……なるほど、こういう扱いの人なのね。
【加菜恵は神谷の扱い方を少し学んだ!】
続きが読みたい方はブックマークお願いします。




