ステータスとその詳細
エルバート王の口から紡がれた衝撃の事実に騒然とする中、質問した男子が声を荒げた。
「どういうことだ…ッ!?元の世界に帰れるのが最低でも5年後だと?ふざけてんのか!」
「君、少しは落ち着いたらどうだい?」
「これが落ち着いていられるかッ!!」
どうにか落ち着かせようと右肩を掴んだ村上君を、彼は怒鳴って強引に押し退けるとズカズカと大幅で歩き、エルバート王のいる所へ向かった。
ローブを着た人達は彼に近づくまいと自然に道を開ける。
しかし、その奥でエルバート王を護衛している兵士達は警戒心を強め、持っていた武器を構えた。中には抜剣している者までいる。
「勇者様方に向かって武器を構えるでない」
「し、しかし…ッ!」
「二度は言わぬ」
戦闘態勢に入っていた兵士達をエルバート王が片手で制した。兵士達は逡巡した後、渋々武器を納めた。
その隙に男子はエルバート王の前に立ち、王としての風格のある顔を睨み付けた。
「最初に訊くが何故5年後なんだ…?」
「…そなたら……勇者様方を召喚した事によって祭壇の機能は一時的に停止した。そして、それが再起動するのに必要とされる時間が約5年。そういうことだ…」
「…なんとか出来ねぇのか?」
「無理だ。この祭壇は太古に発展していたとされる旧文明の技術が使われている。我々は未だに全ての旧文明の技術を解明出来ていない中、下手に操作することなど出来ぬ…」
「他に方法はねぇのかよッ!?」
「………………ない。勇者様方を元の世界に帰還させられるのはこの祭壇だけだ」
エルバート王が淡々と告げる事実に声を荒げた男子は顔をしかめて力強く拳を握った。そんな様子の彼には、どこか悲壮感や何かへの後悔といったものが感じ取れた。
それを見たエルバート王は難しい表情で何を言おうかと逡巡した後、渋々といった感じで話を付け加えた。
「―――――ただ、可能性を上げるとするならば」
「何かあるのかっ!?」
「帰還した時に、勇者様方は召喚する前の時間軸に戻れるかもしれぬ…」
―――――召喚する前の時間軸に戻れる……ね。でもかもしれぬって事は確実ではないということ。それはこの人達が分からなくても当然かもしれない。例え過去に異世界人を元の世界に帰還させたとしてもその後の結果は帰還した本人にしか分からないのだから。
「それは本当かっ!?」
「だがこれはあくまでも我々の希望的観測にすぎない。根拠や証拠がない以上絶対とは口が裂けても言えぬ」
それを聞いた途端、詰め寄った彼はあからさまな態度で落胆し、吐き捨てるように言った。
「チッ…!わざわざ希望を持たせる様な事を言いやがって…」
「先ほどから黙っていれば貴様ッ!我らが王に対してなんたる無礼の数々…!恥を知れッ!」
彼の言動に耐えきれなくなったのか、ローブを着た人の中から同じ服装をした痩せ細った男性が前に出てきた。注視してみれば頬も痩けておりとても健康そうには見えない。
そんな病人のような男性は、額に青筋を浮かばせて口の悪い男子を睨み付けた。
「あぁ?んだよ、テメーは…。名乗りもしねぇで勝手に怒鳴りやがって…。ったく、うるせーったらねぇぜ」
「ふんっ、私は慈悲深いからな。貴様らのような怪しい輩であっても特別に名乗ってやろう。光栄に思うがいい」
ローブを着た男性は、傲慢な態度で私達に接してきた。それを見たエルバート王とヨルド大臣は呆れたようにため息を吐いている。
「私は王国魔法師団団長ギルテット・バルフェルズ…!由緒正しき五大貴族の一つ、バルフェルズ家の長男である!」
――――――――シーン…。
そんな効果音が似合いそうなほど、周囲は静寂に包まれた。
(……………何…?この人…?)
私は思わず不審人物を見るような目になった。いえ、もう不審人物でいいわね。
私の中でこのギルテットと名乗った男性の評価が急降下した。まぁ、もとから印象が最悪だったのでこれ以上評価が落ちる事はないかもしれないけれど。つまり落ちるところまで落ちてるってことよ。
「…む?どうした、私が何者なのか聞いて驚いて声も出ないといったところか?……ふっ、それも当然だろうな…」
―――――いえ、不審者だから驚いてます。
自己紹介もしていないクラスメイトではあるが、この時だけここにいる全員と意見が一致したような気がした。
「……………なんだコイツ…?」
先程まで荒れていた男子も、今はすっかり大人しくなってギルテットに不審者を見るような目を向けている。
「あ、あー。誰かそいつをここから連れ出せ」
エルバート王の命令によりぞろぞろと複数の兵士がギルテットを取り抑え、手短なロープで捕縛した。
「な…ッ!?何をする!!私は王のためを思って言っているのだぞ!?……エルバート王よ、どうかお考え直し下さい…!そいつらに頭を下げては王の威厳に関わります―――――あ、こら!そんな所を引っ張るなっ!皮膚がちみれて痛いだろう!?って今はそれどころではない!エルバート王よ、こやつらを何とかして下さい!エルバート王よぉぉおおおおッ!!」
―――――――――バタン。
筋骨隆々とした兵士達にズルズルと引きづられていったギルテットは必死の抵抗をみせていたが、それも虚しく部屋の外へと連行された。
扉の閉じた音だけがこの部屋に反響し、数秒後には再び静寂に包まれた。
「ふむ、私の部下が邪魔をしてすまなかったな。あれでも腕は確かなのだ…。どうか許してやって下され」
そう言うと申し訳なさそうにエルバート王とヨルド大臣が頭を下げた。
「いえ、僕達は全く気にしていないので大丈夫ですよ。他の皆もそうだろう?」
村上君の問い掛けにクラスメイト達は「あ、ああ。全然気にしてないぞ」「えぇ、それもそうね…」と村上君と同意見だった。状況に頭が追い付けていない状態ではあったが、そこまで気にする事もないというのが本音でしょうね。
「勇者様方の慈悲深さに感謝する。さて、先程は邪魔が入ったが、この世界の大まかな状況説明は終わったので本題へ移るとしよう」
「本題ですか…?」
「強制ではないが、勇者様方には魔王討伐の旅に出てもらう事になる。…が、それ以前に勇者様方には問題がある」
「それ以前の問題とは何かしら?」
「勇者様方はこの世界に召喚されてあまりにも日が浅すぎる。そして、何よりも問題なのはまだ全員のレベルが1という事なのだ」
「レベル…?」
エルバート王から発せられたレベルという単語にクラスメイトの半数の男女がそれぞれ反応した。多分だけど反応した男女は何かしら知っているのかもしれない。
だがそれでも私のように正確に理解出来ない者もいる。エルバート王はそんな私達を気遣って分かりやすいように噛み砕いて話し始めた。
「そうだ。勇者様方のいた世界にはあったのか分からぬが、この世界では万物にレベルという概念が存在する。頭の中でステータスと念じてみよ、そしたら己自身の様々な情報が見えてくるだろう」
その言葉にクラスメイト達は目を瞑ってステータスと念じ始めた。中には声に出している者もいる。そういう人に限ってその声にどこか嬉々としたものを感じ取る事が出来た。何が嬉しいのか分からないけども。
(……………ステータス…)
私も周囲に合わせて頭の中でステータスと淡々と告げた。すると、私の目の前に薄い緑色の表が何処からともなく瞬時に出現し、軽快な音を立てて表示された。淡く光っているのもあるが少し未来的な技術のように見える。
―――――――――<ステータス>―――――――――
レベル1
名前:カナエ・ミシマ(美島 加菜恵)
職業:聖騎士
HP:580/580
MP:90
攻撃力:260
防御力:470
魔法攻撃力:200
魔法防御力:410
素早さ:32
命中:46
回避:20
<称号>
・異世界人 ・トラウマを抱えし者 ・神の加護を受し者 ・勇者の仲間
<特殊スキル>
・言語通訳 ・言語理解 ・MP回復量2倍 ・マジックアイテム効果2倍 ・消費MP半減
――――――――――――――――――――――――
エルバート王の言っていた情報とはこれのことだろうか…?
随分と偏った情報ではあるが、それは戦闘に関係するものしか表示されていないため仕方のない事だと思う。
(トラウマを抱えし者…。はぁ、あれのことね…)
称号の一つに嫌なものがあった。数年前の悲惨な事件なのだが、未だに忘れられずにいる。他の称号は大して気にする事はないのだけれど、この称号だけはなくなって欲しいと正直うんざりした。
そして勇者の仲間っていう称号はあまり好きじゃない。勇者が誰かは知らないけれど懍以外は初対面だ。高校でするはずだった自己紹介はこの異世界に召喚されたことで中止……もとい、そんな事をやっている場合ではなくなったから。
「ねぇ、懍はどうだったの?」
「私…?んー、普通…?」
隣にいる懍へと質問したが、彼女は少し悩むと曖昧な答えを返してきた。
「見せてくれる?私のも見せるから」
そう言うと早速ステータスを懍に見せた。現在村上君の付近ではクラスメイト達が集まり、王のステータスに関する説明を聞いている。私も耳を澄ませてエルバート王の声だけを拾うと共に行動に移していく。
エルバート王の説明している内容は特定の相手に自身のステータスを自在に見せる事が出来るといったものだ。やり方は特定の相手に見せたいと思うだけで、その相手に自身のステータスを見せる事が可能らしい。
なので私は懍だけに見せたいと思い、ステータス表を彼女の方へと向けた。
「えっ!?私より強いじゃん!」
懍は私のステータス表の内容を覗き込むと、目を見開いて驚いた。
「そうなの…?」
「うん、私の職業が加菜恵と違うからかもしんないけど…」
そう言って彼女はすぐに自身のステータス表を私に見せてきた。私はそれを遠慮なく見るとあぁ、確かにと納得した。
―――――――――<ステータス>―――――――――
レベル1
名前:リン・アオヤマ(青山 懍)
職業:暗殺者
HP:120/120
MP:65/65
攻撃力:80
防御力:30
魔法攻撃力:42
魔法防御力:25
素早さ:120
命中:98
回避:200
<称号>
・異世界人 ・学校一の情報通 ・飽くなき探求者 ・剣術音痴 ・俊足のジャーナリスト ・神の加護を受けし者 ・勇者の仲間
<特殊能力>
・言語通訳 ・言語理解 ・逃走能力 ・継続逃走能力 ・瞬発逃走能力
――――――――――――――――――――――――
「明らかに戦闘向きじゃないわね…」
ツッコミどころ満載のステータスを見ながら私は呟いた。
「あー、やっぱり?」
「えぇ、特殊能力がそれを物語っているわ」
「だよねー、逃げることしか想定してないよねこの能力…。あ、そだ。それよりさ、称号や特殊能力の詳細ってもう見た?」
「詳細…?」
「うん、詳細を知りたいものをタップするか、よーく眺めると表示されるんだよね。さっき弄ってる時にたまたま見つけたんだ…!」
懍がえへんと胸をそらして得意気に言った。勉強なら私がいつも教えている側なのに逆の立場になる日が来るとは想像もしていなかった。
「懍はもう自分のステータスの詳細を見たの?」
「うん、そりゃあもうバッチリと」
「そう。私はまだだから少し見てみるわ」
懍の教えて貰った通りに操作して早速自分の称号や特殊能力の詳細を確認した。
<称号>
・異世界人
[全てのステータスが上昇する]
・トラウマを抱えし者
[自身のトラウマとなる存在に対して全てのステータスが下がる]
・神の加護を受けし者
[ドロップ率+30%、経験値+50%]
・勇者の仲間
[戦闘中、パーティに勇者がいると全ての攻撃力と防御力が上昇する]
<特殊能力>
・言語通訳
[自身の言葉が何語であっても相手に通じる]
・言語理解
[全ての言語を理解する事が出来る]
色々と言いたい事はあるけれど、取り敢えず確認を済ませたので良しとしよう。その他の特殊能力の詳細は見なくても効果が分かるので省略した。
言語理解と言語通訳。この2つ特殊能力は非常に便利だと思う。元の世界で身に付いていたら英語の勉強をしなくても余裕で満点を採れるだろう。懍だってテストの度に私に泣きつくこともなくなる。
そして何よりも、私の中にある疑問が一つ解消された。ここが異世界なら何故私たちの言葉が相手に通じ、そしてその逆に、相手の言葉を私たちが理解出来るのか…。どうやらその原因はこの能力のおかげらしい。
称号に関してはマイナスのものが一つあるけど、よくよく考えてみたらトラウマとなるのは数年前の事件で出会ったあの少年だけであり、それ以外のトラウマはない。
話を聞く限り、この異世界に召喚されたのは今ここにいる私たちだけ。その中にはあの時の少年はいないので、私のトラウマとなる存在はなく、称号の効果も発揮されることはない。結果的にプラマイ0ということになる。よって何の問題もない。
「それにしても――――」
私が懍に話し掛けようとしたところで「おぉ!」という歓声があがった。声のした方向へと視線を向けるとそこには村上君を中心としたクラスメイトがいた。
懍もこの歓声が気になったらしく、静かに耳を傾けている。その反応の良さを見るに彼女の称号は性格を表したものなのかもしれない……という仮説が私の中で構築された。将来、情報屋にでもなった方がお似合いね。
そんな事を考えながら耳を傾けていると、エルバート王の嬉々とした声が聞こえた。
「やはり、そなたが勇者様であったか…!」
…………勇者?
一体誰が勇者なんだろうと気になった。今後一緒に戦うかもしれない人の顔くらい覚えておこうと、軽い気持ちで勇者と呼ばれた人物を見た。
「いや、そこまで凄いことじゃないよ…。初期ステータスなんて皆より少し上ってくらいだし…」
囃し立てる周囲に対して謙遜しているのは、召喚されて最初にエルバート王に話し掛けた村上君だった。
…………多分彼が勇者なのだろう。予想通りといえばそうなのだが、懍が曖昧な表情で「ありがちなパターンだねー」と苦笑していた。
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