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召喚された者達




「よくぞ召喚に応じて下さった勇者達よ!」



 眩しい光も収まり、やっと視界が戻ったかと思えばこれだ。私は状況把握のため即座に周囲を見渡した。


 大理石で建造された大きな部屋。白を基準にしており、実に清潔感のある部屋だと思う。壁には大きな窓が両端にいくつもあり、全て開け放たれているせいで心地のよい風が肌を撫でる。


 今、私達のいる床には学校で見た魔法陣のようなものが、役目を終えたと言うように光ることもなく沈黙していた。


 どうやら私たちは六角形の台座のような物の上に立っているようだ。周囲と段差があるので間違いない。現状から推理しても何かの祭壇である可能性が非常に高い。


 そしてそれを取り囲むようにしてローブを着用している人が大勢いる。



(それにしても多いわね…。3桁くらいはあるかもしれないわ…)



 ただの目測でしかないが、その人数を収容出来るこの部屋は余程広いのだろう。


 そしてローブを来た人達の更にその外側には、甲冑(かっちゅう)を着た兵士が武器を持って中心にいる人物を護衛するかのように立っている。いや、実際に護衛している。


 何故なら先程、私達に声を掛けたのはその中心にいる人物だ。他のクラスメイトも何が何だか分からず、戸惑っている。



「ふむ、少しいきなり過ぎたかの…?」


「やはり召喚されて早々、エルバート王の発言は勇者様方をより困惑させるだけかと…」


「そうか……そうであったか」



 何やら王らしき男性が隣にいる男性と会話している。クラスメイト達がざわざわと未だに騒いでいるせいで聞き取りづらい。



「あの、少しいいでしょうか?」



 そんな中、クラスメイトの一人が目の前にいる王へと話し掛けた。そしてそれが切っ掛けとなり、騒がしかったクラスメイトが徐々に沈静化していく。


 現状が把握出来てないからこそ取り敢えず静かにして話を聞こう、というクラスメイト達の意見が周囲で一致した。



「ふむ、何かね?勇気ある少年よ」


「突然ですが、僕は村上という者です。自己紹介をしてもらっても構いませんか…?」



 村上と名乗った男子はストレートに王の名前を訊きにいった。普通なら臆するところだけど……王の言った通り、確かに勇気があるようだ。



「そうだな。名も申せず済まない。我はオルティア王国の国王、エルバート・ヴィル・オルティアだ。気軽にエルと―――「駄目ですよ。国王様」――むぅ…」



 エルバートと名乗った国王は隣にいる男性に黙らさせた。やはり王である以上、気軽にという訳にはいかないのね。それに、王というのはもう少し老けた老人だと思ってたんだけど、目の前にいるエルバート王は随分と若い。目測だけれど歳は40~50に見える。



「いや、しかしだな…」


「少しは自分の立場をお考え下さい。あと、一々注意する私の身にもなってくれると助かるのですが」


「ヨルドよ、私情が挟まれておるのだが…」


「おっと、すみません。つい…」


「え、ついッ!?」



 なんだろう、この気軽なやり取りをする二人組は…。私が見た限り、一国の王とはとても思えないのだけど…。


 そんな二人組が醸し出す雰囲気のおかげか、先程までの緊張が少しほぐれた。中には小さく吹き出している者までいる。



(……なるほど、狙ってやったのね)



 クラスメイトの様子を見て私は確信した。緊張をほぐす事で少しでも相手に安心感を与えようとする腹積もりか。なんだか釈然としないけど、まんまと私も乗せられた訳ね…。


 そんな事を考えていると、次は王の隣にいた男性が自己紹介をした。



「さて、お戯れもほどほどに。私はオルティア王国の大臣を務めさせております、ヨルド・ブロットと申します。この度、勇者様方に出会えて光栄です」



 ヨルドと名乗った大臣は自己紹介が終わると綺麗にお辞儀をした。


 こちらもやはりと言うべきか、大臣にしては若いと思う。見た目が30~40歳といった感じ。黒いスーツを身に(まと)い、髪型もしっかりと整えられている。正直なところ大臣というよりサラリーマンのようだ。


 先程から聞き慣れない国名と、召喚や勇者といった単語。そして、一瞬で教室から知らない場所に移動したという前代未聞の出来事。これらの情報を統合してみたが、考えられる可能性はかなり少ない上に嫌な予感がする。



「それで、国王様。ここはいったいどこでしょうか…?」



 村上君がエルバート王に質問した。



「ふむ、そうだな。ここはアルカディアという世界のオルティア王国の王城にある儀式祭壇。まぁ、勇者様方からすれば、異世界といったところだ」



 エルバート王の衝撃的な発言にクラスメイト達は再び騒ぎ始めた。私の隣にいる懍も目を見開いて驚愕している。



「で、では…!僕たちは異世界に召喚されたというのですか…?」


「その認識で間違いない。疑問などもあるだろうが順序良く説明するので聞いて欲しい。何故勇者様方が召喚されたのか、その経緯や現在の状況を―――」





――――――――――――――――――――――――





 今からおよそ20年前。暗黒大陸と呼ばれる地に住む魔族がその他の大陸へと侵略を開始した。


 侵略を開始した理由はおそらく魔族の中に魔王が誕生したからだろう。今まで小競り合いで済んでいた争いが本格的な戦争へと発展した。


 最初は拮抗状態であった戦争だが、魔王の力は強大で、徐々に人間を含めた他種族が押され始めた。だが他種族といってもドワーフ族と竜人族としか協定を結んでおらず、それ以外の種族とは協力していなかった。


 そのため、まずは力のある獣人族と協力関係を結ぼうとエルバート王は獣王国ガルドーラへと(おもむ)いた。


 しかし、話どころか門前払いで取り入って貰えなかった。それもそうだろう―――――なにせエルバート王がオルティア王国の王として王位を継承するより以前、人間は獣人族を奴隷として扱っていたのだ。


 今は奴隷制度も撤廃されているが人間と獣人族の間に出来た溝は深い。だがそれを承知の上でエルバート王は何度も頭を下げに行った。


 世界のためだと、自国の民やその家族を一人でも多く守るためだと、いくら門前払いされようと決して諦めることはなく話だけでも聞いて貰うためにエルバート王は毎日、獣王ガルディウスとの面談を求めた。


 そして獣王ガルディウスは、エルバート王の熱意に負けたのか、彼の面談に応じる事にした。


 それから渋々ではあるが、人間と協力関係になった獣人族。獣王ガルディウスを筆頭とした獣人族の精鋭部隊の力は凄まじく、世界平和のために大いに貢献した。


 しかし、魔王はその強大過ぎる自らの力を魔族の幹部達に分け与えた。もともと一騎当千と(うた)われた幹部達はそれ以上の力を身に付け、再び他種族を圧倒した。


 そして暗黒大陸から近い国や村が侵略され、瞬く間に滅ぼされた。


 この状況は非常に危険だと見なしたエルバート王はエルフ族との協力を求めて西の大陸へと赴いた。エルフ族は世界樹の周辺一帯に住んでいると言われているが、森に入る事すら出来なかった。


 エルフ族の張った結界や魔法が森への侵入を拒み、それは今も続いているという。結果的に獣人族よりも協力関係になるのが困難と判明した。


 そして打つ手なしとなった状況の中、更に最悪の事態が発生した。今から9年前に、この国が魔族によって襲撃されたのだ。歴史ある建造物が破壊され、大勢の国民が命を落とした。


 この王城も襲撃されてかなりの痛手をくらったそうだが、間一髪の所で救われた。【災禍の魔女(カラミティウィッチ)】の2つ名を持つこの国最強の魔法使いが襲い掛かる魔族を一匹残らず灰にしたのだ。


 そのおかげでひとまず危機は脱したものの、エルバート王はエルフ族への協力要請を諦め、代々王家から受け継がれてきた勇者召喚の儀式を決行することにした。


 異世界から魔王を倒す力を持った勇者を召喚するということ自体、エルバート王の本意ではなかった。しかし、切羽詰まった状況のため我が(まま)は言っていられない。


 そしてエルバート王やその他の種族はこの勇者召喚に希望を託して儀式を行った……と、エルバート王の話してくれた内容は大まかではあるがこのくらい。



「頼む…!勇者召喚に全ての希望を託した我らにはもう後がないのだ…ッ!どうかこの通り…!」



 深刻な表情をしたエルバート王は私達に頭を下げた。それに(なら)い、周囲にいるローブを着た人や甲冑姿の人まで全員が私達に頭を下げた。


 その様子からこの人達の誠意や必死さがどれほどのものなのかが(うかが)えた。


 クラスメイト達が騒然とする中、村上君はやはりと言うべきか、一歩前に出るとエルバート王に告げた。



「…分かりました。僕は王様達に協力します。……それに困っている人が目の前にいたら、僕はその人達を見捨てる事なんて出来ない。それが例え、王様であろうと、村人であろうと関係ありません」



 彼が協力を受諾(じゅだく)した事により、周りにいたクラスメイト達も放っておけないと彼に賛同し始めた。ここまで賛同する人が多いのは、もしかしたら彼のその優しさや正義感に触発されたからなのかもしれない。


 そんな明るい雰囲気の中、懍は不安そうに私に話し掛けてきた。



「ねぇ、加菜恵はどうするの?」


「………取り敢えず様子見。まだ現状を整理しきれてないのもあるけど、理解や整理が出来ないまま行動に移すのは非常に危険よ」


「……そっか。それもそうだよね」



 あまり様子の変わらない私を見て安堵したのか、懍は小さく笑った。



「騒いでるとこわりぃが王様、あんたにいくつか質問があるんだが…?」



 今まで沈黙を貫いていた男子がエルバート王へ話し掛けた。彼の言葉づかいは、異世界といえども一国の王に対する言葉づかいとしては不適切だろう。しかし、エルバート王とヨルド大臣にはそんな事を気にする素振りはなかった。周囲の護衛は別だけど。



「何だね…?」


「ここが異世界っつーことはまぁ、理解出来た」



 そう言いながら男子はチラリ窓の向こうに広がる景色を見た。そこには中世ヨーロッパ風の街並みがあり、その大通りには馬車やダチョウのような大型の鳥類が闊歩している。


 確かにこの光景を見れば誰だってここが現代とは思わないでしょうね…。



「だがよぉ、召喚されたのはいいがこれからの生活はどうすんだ?……まさか、今すぐに魔王退治に行けとか言ってここから追い出す気じゃねーだろうな?」



 その男子は脅しを掛ける様な態度でエルバート王に問う。彼の不穏な発言に周囲は少しだけざわめく。もしかしたら、という可能性が少しでもあれば人間、不安になるもの。



「そんな事は絶対にあり得ない…!そんな愚行を犯したとあれば、王家のいい面汚しだ…ッ!」



 エルバート王は彼の発言に……いや、人柄を考えるとその可能性に憤慨した…?


 怒鳴るまではいかなかったものの、声を上げたのは間違いない。エルバート王は一息吐くとわざとらしく咳をした。



「…おほん。すまぬな、少々取り乱した。……して、勇者様方の今後の生活や援助は絶対に保証しよう。王城で最高待遇の生活を送れるように手配しておく。それに、その他の説明の詳細は後程(のちほど)、伝えよう」



 その言葉にクラスメイト達は安心と、喜びの声が上がった。男子はその様子を気にした風もなく質問を続けた。



「なるほど、こっちでの生活が保証されるのは分かった。んじゃあ確認するが、召喚の儀式が存在するっつーことは、もちろん俺らが元の世界に帰る方法もあるんだろうな?」



 その質問を聞いた私は、自分の中で彼の評価を上げる。見た目はがさつそうだが、その見た目とは裏腹にちゃんと冷静さが備わっているようだ。人は見掛けによらずってまさにこの事ね。



「それならば心配ない。ちゃんと勇者様方が元の世界に帰還させるための儀式も存在する。……だが、条件がある」


「あ?条件だと…?」



 彼は不快そうな顔をした。


 たがエルバート王の深刻そうな顔を見る限り、交渉ではなさそうだ。ではその条件というのはエルバート王でも何とも出来ないものかもしれない。


 そんな予想をしているとエルバート王はゆっくりと告げた。



「勇者様方が元の世界に帰還出来るのは―――――」




「――――――最低でも5年後だ」




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