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He, their beginnings (彼、彼女らの始まり)

サブタイトルをわざわざ英語にする必要あるの?って聞かれたらなんかカッコ良さそうだったからという曖昧な理由しか言えない…。( ゜ε゜;)

あとしばらくは加菜恵視点が続くのでご了承下さい。




「…………ッ!」



 南の大陸に存在するハトレアの(とりで)にある一室にて。


 突然、目が覚めた私は勢い良く飛び起きた。背中は寝汗でベッタリと濡れており、呼吸も荒い。その原因は考えるまでもない……あの悪夢だ。


 あの日以来、私は時々あの悪夢を見る。その日は決まって寝汗の量が凄いのでいつも最悪の目覚めになる。ほんと、今日の目覚めは最悪だ。



「およ?もう起きたんだ…?」


「えぇ、目覚めは最悪だったけれどね…」



 私は声のした方へと視線を向けると素っ気なく答えた。そこには部屋の扉を開けて入ってきたであろう少女が立っていた。


 彼女の名前は青山(あおやま)(りん)。数年前に一緒に剣道をやっていた友達で、茶髪で活気な性格が特徴の少女だ。


 門下生のほとんどが病院送りにされたあの事件で、彼女は血まみれになって倒れていた。てっきり私は死んだものだと思っていたんだけど、実際は擦り傷だけというかなりの軽傷で済んでいた。


 頭部や服に付着していた血は懍のものではなく、誰か他の人のものだったらしい。更には目を開けて気絶するという珍妙な技を修得しているようで、未だにあの悲惨な顔を忘れられずにいる。


 いったい人がどれだけ心配したと思っているんだと、思い出したら腹が立ってくるので軽くため息を吐いて心を落ち着かせた。事件の翌日に散々怒ったのでこれ以上彼女を責めるのはよそう。悪いのは全てあの事件の元凶である犯人なのだから。



随分(ずいぶん)とうなされてたみたいだけど、またあの頃の記憶が…?」


「そうね。おかげさまで背中が寝汗でベトベトよ」


「あはは…、だったら風邪引かない内に早く水浴びに行かなきゃね」


「そうするわ…」



 私は被っていた布団を畳んで水浴びをしにさっさと支度をする。



「そう言えば戦況はどうなってるの?」


「うーん、あともう一息って感じ。ハトレアのドワーフ族と獣人族が元から友好関係だったのが幸いだったね。おかげで強力な増援が来てくれた訳だし」



 私も増援は期待していたけどまさか王自らが戦場に出て来るとは思ってもみなかった。助かるのは助かるけれど少し困る。


 もし死なれでもしたら他国から私たちに責任を追求されるかもしれないのに。



「敵の勢力は後どれくらい?」


「まだ魔族の幹部が残ってるよ。軍勢は1000くらいで城に(こも)ってるみたいだけど、最悪の場合逃げられるかも」


「村上君達は…?」


「別動隊で城からの脱出ルートを潰して回ってる」


「さすが勇者ね。仕事が早い」



 この調子ならもうそろそろ決着がつくかもしれない。私のクラスメイト達は強いから。もうすぐオルティアに戻れると思うと少し安心する。



「水浴びが終わったら私も戦線に復帰するわ」


「おお、さすがだねー。半日で魔力が回復するなんて勇者並みだよ?」


「村上君は数時間あれば回復するわ。それに、私は早くオルティアに帰りたいから」


「あはは…!聖騎士団長様は違うなぁ…」


「その呼び方はやめて。私と懍の仲でしょ?」


「ま、それもそうだね。ついでに聞くけど私も一緒に行こうか?……最前線」


「いえ、懍は休んでて。まだ完全に回復してないでしょ?」



 懍の体内にある魔力を感知するが、まだ半分くらいしか回復していない。もう少し休息を取るべきだろう。



「…そっか。残念だけどもう少し休んでるね」


支度(したく)も出来たしそろそろ水浴びに行ってくるわ」


「ん、了解。気を付けてね…?」


「ええ、行ってきます」



 そう言って私は自分の相部屋から出ていき、水浴びをしに向かった。



(一年…。異世界アルカディアに召喚されてからもうこんなに月日が流れた。ほんと、なんでこうなったのかしらね…)



 誰もいない静かな廊下で一人、私は疲れと共にため息を吐いた。





――――――――――――――――――――――――





 今からおよそ一年前。私が通う桜宮(さくらみや)高校の教室にて。



「いや~、私達もついに高校デビューかぁ…。青春の1ページが今、開かれたって感じがするよ…!」



 新調された学生服を着た(りん)が嬉しそうに言った。私たち二人は偶然、同じ高校に通うことになったのだ。進路希望とかの話は打ち合わせなんてしてないし、むしろ自分の進路を曲げたくないと懍が頑なにそういう話をしたがらなかった。


 私は正直どちらでも良かったので残念がることもなくすぐに了承した。そしたら「少しは残念がってよ!」と悲痛な声で言われたのは記憶に新しい。


 その後の卒業式の日にしたお別れ会という名目のパーティーをしたのは一体何だったのか…。パーティー解散後、散々泣いていた懍に私も思わず貰い泣きしてしまったが、現在では中学の時のように懍はピンピンしている。あの頃の感動を返して欲しい。



「そう…?別にそんな感じはしないけど…」


加菜恵(かなえ)は分かってないなぁ…。ギャルゲーとかやったら少しは分かるかも…」


「やらないから」


「えぇ…?面白いよ?ギャルゲー」


「待って。あなた16歳でしょ…」



 なんで未成年が持っている……というかプレイしているのか疑問だが、深く聞いてはいけないのだろう。高校に入って最初に学んだのがこんな事だとは昨日の私は想像もしなかっただろう。



「それにしても桜綺麗だねー」



 そう言って懍は窓から見える景色へと視線を移した。彼女の席は窓側にあるのでここから満開の桜を眺められるのだ。それに比べて私の席は廊下側にあるので桜が見えない。だから懍の席は実に羨ましい。出来れば席の位置を交換して欲しいくらいだ。


 ここ桜宮高校では学校の敷地内に沢山の桜の木が植えてあることで有名だ。それはもう桜の楽園と他校から言われるくらいに。



「そうね。でも綺麗な桜の木の下には死体が埋めてあるって都市伝説があるけど…」


「都市伝説は所詮、伝説でしかないよ。どうせ埋まってるなら金銀財宝とかがいいな」


「欲丸出しね…」


「別にいーじゃんか…!素直が一番だよ!……てな訳で加菜恵もそんな仏頂面してないでニコッと微笑んでみれば?絶対モテるよ…?」


「そういうの興味ないからいい」


「もぅ、そんなだから友達が私だけになるんだよー?」



 私の素っ気ない態度に懍は苦笑した。



「今日やる自己紹介を期に友達増やした方が絶対いいって~」


「でも―――――」

 


 友達を増やしたら?と催促してくる懍に反論しようとした時、教室内に異変が生じた。


 床から良くわからない幾何学的模様が入り乱れ、そこからぼんやりとした光が教室中を照らした。私はゲームや漫画にあまり詳しくはないけど、例えるなら魔法陣のような感じだ。


 突然の異常事態に周囲で歓談していた生徒達が混乱し、更に騒がしくなる。



「ちょ――――なになになに!?何が起きてるの!?もしかしてこの教室爆発したりする!?」



 隣にいた懍も状況が全く把握出来ずに変なことを口走っていた。こんな爆発の仕方があってたまるかと言いたいが、今もなお、この非常識な状況が目の前で起こっているので否定は出来ない。


 少し冷静になった所で私は教室の扉に向かって全力で走る。物は試しに扉を開けようと(こころ)みるが、まるで何かにくっついているみたいに全く動かない。


 仕方ないので別の方法を模索し、今度は扉を蹴破るつもりで鋭い蹴りを入れる。



――――――――ズガァンッ!



(……ッ!?(はじ)かれた…ッ!)



「きゃっ…!」



 蹴りを入れた時の衝撃の半分ほどが自分に返ってきたので思わず小さな悲鳴を上げて私は尻餅(しりもち)をついた。


 この様子なら椅子や机で攻撃をしても自分に跳ね返ってくるだけだろう。それでも私は諦めず今度は窓側へ向かって走る。



(ダメ元だけど…!やるしかない…ッ!)



 そう結論付けた私は懍の席にある椅子を持ち上げると勢い良く窓ガラスにぶつける。



――――――ガァンッ!!



(やっぱりこっちもダメね…)



 窓ガラスも扉と同様に弾かれた。身構えていたから良かったものの、やはりと言うべきかこちらも衝撃の半分ほどが自分に返ってきた。


 事前に予想していたので尻餅をつくことはなかったが、代わりにここから脱出する事は不可能だという結論が出てきた。


 しかし、混乱しているクラスメイト達は冷静な判断が出来ずに教室の扉を開けようと必死だ。中には現状を理解する事すら出来ずに呆然と立ち尽くしている者までいる。



「加菜恵っ!これどうなってるの!?」


「知らない…!私にだって分からない…ッ!」



 懍の自棄(やけ)気味な叫びに答えていると床や壁に張り巡らされた幾何学的模様が更に加速して広がっていく。


 その様子はまるで何かの生き物がウネウネと床や壁を這いずり回っているようにも見える。そんな感想を抱いているとその模様から発する光はより増加して私の視界を奪った。



「……くぅっ…!」


「わ、眩し…ッ!」



『さぁ!君達は選ばれた!これから起こる出来事にどう対処していくのか…?是非とも私に、人間の持つ無限の可能性を見せてくれ!』



(この声は…っ?)



 何も見えない真っ白な景色の中、突然誰かも分からない声が聞こえた。男なのか、それとも女なのか……それすらも判断がつかない不思議な声だ。


 話の内容は不可解なもので、なぜ選ばれたのか、そして誰に選ばれたのかなど、様々な疑問が浮かぶ。しかし、そんな事を考えている暇はなく、時間経過と共に眩しさを増していく光に私達は呑み込まれていった…。




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