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聖なる鮭

最近は調子がいいので投稿速度が上がってきてます(ただし長くは続かない)




「全くお前達は何をやっていたんだか…」


「いや、まさか呼び方一つでああも反応よく飛び起きるとは思わなかったんだよ…」


「うぅ……ごめんなさい…」



 アルティナの呆れた視線は若干、心にダメージが来る。隣にいるミーナは頬を紅潮させて恥ずかしそうに(うつむ)いている。


 現在、俺の小屋にはいつも通りの光景が広がっていた。朝は俺がミーナを起こしに行き、その後アイテムボックスから取り出した食材を使って朝御飯を用意するといった流れだ。


 料理珍しさにミーナとアルティナも来るのでいつも通り3人分作っている。



「それにしても毎朝すまないな」


「ん?あぁ、別に気にしなくてもいいぞ。1人で食べるより人数が多い方が賑やかで楽しいからな」


「そうか…ありがとう、助かるよ」


「いつもありがとうございます。マナさん」


「おう、どういたしまして」



 ミーナとアルティナは未だに(はし)の使い方には慣れておらず、丁度いい練習になるだろう。今度時間があれば大豆を使って箸の練習でもさせてみようかな。


 味噌汁は残り物があるものの、そろそろ品を変えた方がいいのかもしれない。毎朝ほぼ同じような食事はさすがに飽きてくると思うし。


 そんな事を思いながらフライパンでバターと一緒に鮭を焼く。鮭といってもただの鮭ではなく、秘境にしかない清浄な川に生息しているホーリーサーモンというモンスターからドロップしたものを使用している。


 あのモンスターは鮭のくせに異様なほど強いのでいいレベリング(経験値稼ぎ)になるのだ。そしてドロップするのは鮭の切り身、鱗、たまに鮭の卵であるイクラといった具合だ。


 鮭の切り身とイクラは回復アイテムに設定されていたので持っていたのだが、まさかこんな所で切り身を使う事になるとは想像もしていなかった。その内イクラも使うかもしれない。



「マナさんのお料理っていつもいい香りがしますよね」



 ジュウジュウと音を立てながら周囲に香ばしい匂いが漂う。近くの窓を開けて換気をしているが、それでも小屋には匂いが充満しているようだ。


 お腹が減っている時にこの状況は、人の食欲をより刺激させる。ミーナがそう呟くのも無理はないだろう。



「別に大したことないぞ。料理の腕はそこそこだから多分、食材がいいんだろうな」


「食材か…。そういえば今焼いているその魚の種類は何なのだ?」



 台所までやって来たアルティナが俺の隣からフライパンの中身を覗いた。



「鮭っていう魚だ」


「鮭……ですか…?」


「ああ、別名はホーリーサーモン」


「ちょっと待て」



 アルティナが険しい表情で待ったを掛けた。ミーナまでなんか驚愕したような顔をしていた。



「どうした?」


「ホーリーサーモンと言ったか…?それは……あれか?あのホーリーサーモンか?」


「…?あのホーリーサーモンでは分からんが…」


「レベル140の伝説級の食材、ホーリーサーモンの事を言っているのか?」



 アルティナの質問に俺は疑問を覚えた。俺の知ってるホーリーサーモンのレベルは180以上あったはずだ。しかし彼女は140と言った。……この異世界のホーリーサーモンのレベルは低いようだ。いや、ホーリーサーモンに限った話ではないのかもしれないが。



「よく分からんがホーリーサーモンである事には間違いないな」


「な―――ッ!?」


「…………………っ!」



 本当のことを言ったら何故かアルティナが絶句した。ミーナも向こうで話を聴いていたのか驚愕して固まっている。



「な、ななな――――何故そんな高級食材を当たり前のように使っているのだッ!?」


「いや、そんなこと言われても…」



 しばらく鮭を焼いていると再起動したアルティナが猛烈な勢いで叫んだ。在庫にいっぱいあったんだからいいじゃないかと言いたいが、また何を言われるか分かったものではないので黙っておくことにした。



「えーっと……ホーリーサーモンって高級料理店でも滅多に見ないと言われている伝説級の食材なのですが…」


「そうなのか?」



 ミーナの解説のおかげで何故二人が驚愕していたのか分かった。元の世界で例えるなら朝御飯に当たり前のようにキャビアがあるといった感じかな。―――うん、そりゃ誰かて驚くわ。たった今想像して俺も驚いたわ。



「……!まさか、今までの食材も聞いた事がなかったから気にしてはいなかったが…」



 アルティナがハッと何かに気付いたようだ。それにつられてミーナも同様だ。



「アルティナ、世の中には知らなくていい事も沢山あるぞ…」



 俺が(さと)すように答えるとアルティナは頭を抱えて席に戻った。その隣ではミーナも苦笑している。


 皿には事前に盛り付けされた少量の野菜があり、空いている部分に焼き上がった鮭を乗せる。



「マナさん、出来上がった料理は運んでおきますね」


「あぁ、助かるよ」



 ミーナが完成した料理をテーブルへと運んでいく。その間に俺は釜から炊いた米を三つの茶碗によそい、お盆に乗せておく。味噌汁もちゃんと人数分用意し、同じようにお盆に乗せて運ぶ。



「あ、マナさん。それも私が運びますよ?」



 ご飯を運び終えたミーナがお手伝いを申請してきた。



「いや、いいよ。運ぶのはこれで最後だし。手伝ってくれてありがとな」


「いえ、そんな…分かりました」


「ふむ、なんだかこうして見ると長年付き添っている良き夫婦のようだな」


「ふ―――ふふふ夫婦ッ!?」



 アルティナの感想にミーナが顔を真っ赤にした。その反応を見た彼女は楽しそうに笑う。



「ああ、マナが嫁でミーナが婿(むこ)だな」


「おいこらちょっと待てい」



 アルティナの発言した言葉にちょっと聞き流せない不穏な響きがあったので即座にストップを掛けた。誰が嫁だ。誰が。



「何で俺が嫁なんだよ。俺は男だぞ。普通逆だろ」


「そういえばマナは男だったな」


「わざとやってるのか素でやってるのか判断に困る発言はやめてくれ…」



 これ見極めるのかなり大変なんだぞ。元いた高校でも男子は大抵からかっている感じがちらほらと見え隠れしているから分かるが、女子だとそれが見えないのでからかっているのかどうか判断がつかないのだ。



「マナさんがお嫁さん役になるのもアリですね♪」


「頼むから本気にしないでっ!?」


「ウェディングドレスを試着してみるのもいいかもしれませんね。きっと似合うと思います…!」


「ミーナだよな?試着するのはミーナだよなっ?」



 俺は顔を青ざめながら言った。想像上とはいえ、そうであることを切に願う。



「まぁ冗談はさておき、今週の日曜日にお前達はクエストをこなしに行くのだな…?」



 アルティナが俺に確認してくる。昨日ミーナから学院長室に呼ばれた理由の詳細を聞かされていたらしく、こうして再度確認してきたと言ったところかな。



「そうだけど?」


「なら私も同行していいだろうか…?」


「…?報酬は三人分しかないんだけどそれでもいいのか?」


「ああ、別に構わんさ。私も近々寄っておきたい店があったからな。街の案内が目的なら同行してもどうせ目的地には辿り着くだろうし、丁度いい機会だからついでだ」


「まぁ、断る理由もないからいいぞ。ミーナもそれでいいか…?」


「はい…!むしろこっちから来て欲しいと言いたいくらいでしたから」



 そう言うとミーナはニコリと小さく微笑んだ。アルティナも安心したのか少々硬かった表情を和らげた。



「それで、その寄っておきたい店ってどんな所なんだ?」


「鍛冶屋だ。私の持つ剣が傷んできてな。毎日手入れはしているんだが、劣化を防ぐまでには至らず切れ味が悪くなったんだ」



 そう言いながら自身の腰にある帯剣を(さや)から抜いて見せてくれた。




――――――――――<詳細>―――――――――――


種類:片手剣

名前:レイピアソード

レア度:R級

属性:なし

熟練度:56


【装備能力】

・なし


【固有能力】

・なし


[説明]

・レイピアを参考に製造された量産型の剣。重量は一般的な片手剣と比べて軽く、初心者でも扱いやすい。そのため攻撃速度を重視した戦い方をする者に向いている。


――――――――――――――――――――――――



 アルティナの帯剣をよく見ようと凝視したら何かウィンドウが出てきた。少しびっくりしたものの、何一つ反応しない彼女らの様子から推測すると多分これは俺にしか見えないのだろう。


 おかげでちょっと変な反応をしてしまい、ミーナに不思議そうな表情で見られた。なんか微妙に恥ずかしい。



「欠けてはないけど結構使い込んでるんだな…」


「まぁな。これでも数年は使っていた」


「あぁ、なるほど。だからアルティナの剣は軽いのか」



 まだ成長期だからその数年前となると今より筋肉量が少なかったはずだ。だから比較的軽い剣を装備していたのか。無理をして重い剣を装備しても意味はなく、最悪体を壊しかねない。



「成長期に無理する訳にはいかなかったんだ。今の私ならもう少し重量のある片手剣を扱えるから鍛冶屋で新調してもらうつもりだ」



 それに今の剣は私にとって少し軽過ぎると言ってアルティナは剣を鞘に納めた。それと同時に俺の視界に表示されていたウィンドウも消えた。



「もう少し重い剣と言ったらロングソード辺りか?」


「そうだな。マナの言う通りその辺りが妥当かもしれん」



 俺がもう少し話をしようとした時、―――クゥ…という音が聞こえた。


 なんの音だろう?と不思議に思って音のした方へと視線を向けると耳まで真っ赤にした涙目のミーナが椅子に座っていた。よく見ると両腕で必死にお腹を抑えている。随分と可愛らしいお腹の音だな。



「う、うぅ…」


「ふふっ、悪かったな。先に飯にしようか」


「うむ、それもそうだな…」



 目の前に朝御飯が置いてあるのに俺がアルティナと話してるせいで食べられず、おあずけをくらっていたんだろうな。別に先に食べてくれても良かったのだが、ミーナは気を使って絶対に食べない。


 ここはミーナのためにも朝食にするとしよう。可愛い反応をするのでもう少し意地悪してみたくなったがさすがに自重した。


 やっと朝御飯が食べられるということでミーナは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。まだ使い慣れていない箸を手に取り、俺たちは一緒に朝食を楽しんだのだった。


 ちなみに二人とも幸せそうな表情で鮭を食べていたのは言うまでもないだろうが、一応ここに記しておくとしよう。



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