呼び出し
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「はぁ…。これで最後ね」
「あぁ、全ての書類を整理出来たな…」
――――――――王立魔法聖女学院、魔導工学研究部にて。
部活動の終わりを告げる鐘が鳴る前に書類整理を終わらせたクロナとマナは、部室の隣にある会議室で二人揃って椅子にもたれかかっていた。
マナは会議室の壁に設置されている時計へと目線を移し、今何時なのか時間を確認した。
時計の針は5時24分を指しており、もうすぐ部活動を終える時間帯となるだろう。この学院では基本、5時30分に部活動を終えて女子寮、または実家へと帰宅しなければならない規則がある。
あと6分……特に何か出来る訳ではないので二人揃って先程からダラダラとしているのだ。
部屋は静寂で満たされており、これといった会話もないので外で部活動に励んでいる生徒達の声がやけに大きく聞こえた。
「そう言えば……クロナは俺の事、どんな風に見えた?」
静寂に包まれた空気に耐えられなくなったマナは、クロナに無難な質問をした。
「突然何?」
「ただの興味本意だよ。印象とか悪かったら改善するし、他の生徒達もどんな感じなのか知っておきたいからな。それに、生徒の意見や感想は学院長にも報告しておいた方がいいだろ?」
「ふーん、そういうもんなの?」
「そういうものだ…」
なにせこの企画を発案したのは他でもない学院長だ。実行したからにはちゃんとした責任がある。もちろん、マナもこの企画の関係者だから学院長と同じく責任はあり、こういう質問をしても不思議ではないだろう。
「ん~、そうね…」
クロナが顎に手を当てて考える仕草をする。その様子はまるで、テストの難問を解こうと必死に考え込んでいる学生のように見えた。
そこまで考え込む事なのだろうか…?そんな疑問を抱くも、マナはただ静かにクロナが答えるのをった。
「……………………1日見てたけど、敢えて言うなら………不思議って感じね」
「不思議…?」
予想外の答えにマナは思わず小首を傾げた。
「えぇ、不思議よ。これはあくまで私個人の印象なんだけどあんたって結構頭いいのにどこか抜けてたりするでしょ?」
「まぁ、確かに。編入初日に違う教科書持ってきてたしな…」
「そ。まさにそういうとこよ。だから不思議な感じがしたんだと思うわ」
クロナの感想は大体的を射ているように感じた。
「改善点とかはあるか?」
「んー、特にないわね。口調とか目立つと思うけどそのままの方がいいわ。変に畏まられたりすると逆に接しずらいし」
「そうか、ありがとな」
「別にいいわよ、このくらい…」
質問に答えてくれた礼をすると、クロナは少し照れくさそうにマナから顔を背けた。
「……それより、あんたにはやってもらわなきゃいけない事があるわ」
「やってもらいたい事?」
そう言うとクロナは隣にある魔導工学研究部の部室へと入っていった。だがものの数秒で出てくる。手に何かの用紙が握られており、マナの方へ歩いて来ると手に持っていた用紙を渡してきた。
手渡された用紙を見てみると、『入部届』と書かれていた。
マナは一旦入部届と書かれた書類から目を放すと、クロナの方へと視線を向けた。
「そういや書いた覚えがなかったな…」
「これを提出しない限り、正式にあんたを部員として認められないのよ。他の事は私が記入しておいたからあんたはそこに名前を書くだけでいいわ」
「随分と強引な部長だな」
そう言ってクロナに呆れた視線を送ると、彼女は「それが私よ」と即答した。自分自身を貫けるその姿はマナにとっての憧れであり、キラキラと輝いているようでとても眩しかった。
「でも俺は部活に入るなんて一言も言ってないぞ」
「結構楽しそうな顔してたのに?」
マナの返答に思いもよらなかったのか、クロナは意外そうに言った。
「そんな顔してたか?」
「ええ、もちろん」
確かにクロナのやっている魔導工学研究部はかなり興味深かったし、元の世界では一度も部活をしたことがなかった。心のどこかで憧れていた部活が目の前にあるのだ。自然と表情に出るのも頷けた。
「ん、じゃあ提出は明日にしてもらってもいいか?」
「別にいいけど…なんでよ?」
「こっちにも事情ってもんがあるんだよ」
「ふーん、まぁいいわ。本来、提出期間は一週間だからそんなに急ぐこともないし。部活って行っても強制ではないからゆっくり考えて決めてちょうだい」
「おう、分かった」
マナの返答を聞いたクロナは、時間を確認して席を立ち上がった。
「さ、もう部活は終わりだから出ていくわよ」
「あいよー」
クロナに続いてマナも席を立つと、ちょうどいいタイミングで部活の終わりを告げる鐘が学院全域に鳴り響いた。
窓の方を見ると、外で部活動をしている生徒達が次々と部活を終えて帰宅する姿が目に写る。元の世界となんら変わらない光景にマナは懐かしさを感じた。
「ほら、ボサッとしてないでさっさと行くわよ」
「ん、そうだな」
部室に鍵を掛け終わったクロナは、会議室の扉の近くの壁に背を預けてもたれかかっている。手には部室と会議室の二つの鍵があり、くっついている紐の部分に人差し指を引っ掻けてクルクルと回していた。
待たせる訳にもいかないので、マナはさっさと会議室から出ていくことにした。
「きゃっ…!」
扉を開けて廊下に出ようとした所で可愛らしい悲鳴が聞こえた。マナは声のした方へと視線を向けると、そこには額をさすっているミーナがいた。しかもしりもちをついているというおまけ付きで。
「えと、ミーナ…?そこで何してるんだ…?」
扉を開けたまま立ち止まったマナは、困惑しながらも何故ここにいるのかを訊いた。
「え…?あ、あの…!学院長がマナさんを呼んでいるので、知らせに来たんです…。リリア先生からマナさんはここにいると聞いたので、それでそこの扉を開けようとしたら……」
「ミーナより俺の方が早く開けたからぶつかったのか…」
「はい……」
(なんていうか……タイミングが悪かったな…)
ミーナの運の悪さに少し同情した。
「………なんかすまんな」
「いえ、もう大丈夫ですから気にしないで下さいね…」
ミーナはそう言うと微笑を浮かべた。その笑顔と優しさが心に染みる…。
「―――――――――――ッ!?」
そんな事を思いながらつっ立っていると、後ろからゲシッとアキレス腱辺りを軽く蹴られ、マナは悶絶しそうな程の激痛に襲われた。
だが決して表には出さず、平静さを装う。マナは後ろへと振り返り、何故蹴ったのかと問うように涙目になりながら蹴った相手を見やる。訂正、少し表に出ていたようだ。
「私の目の前でイチャラブしないでくれる?凄くイライラするから」
めっちゃ不機嫌そうな顔をしたクロナがキッパリと言った。イチャラブしてるつもりは毛頭ないのだが、クロナにはそう見えたらしい。昔の偉人も『現実とはその人にどう見えるかである』みたいな事を言ってた気がする。
(理不尽だ……)
心の底からそう思った。クロナの視点からイチャラブしているように見えたのなら、先ほどマナの足を蹴った事から推測すると、彼女も『リア充爆発しろ』と言う人達と同類なのだろうか…?
まぁ、単にそういうのを目の前でやられるのが嫌いなだけかもしれないけれど…。どちらにしてもマナは蹴られていただろうが。……どうやら救いはないらしい。
(そして無慈悲だ……)
そんな事を思いながらもマナはさっさと廊下へ出た。クロナは不機嫌なので、いつまでもそこにいたらまた蹴られかねない。乙女心とは複雑怪奇であり、難解なものだ。
「………………あんた、Sクラスの……」
ミーナの着ている制服を見たクロナが更に機嫌を悪くした。顔に『私は不機嫌です』と書かれていそうな程だ。……しかし、マナは敢えてそれに気付かないフリをしてクロナに声を掛けた。自身の周囲の人間関係は出来るだけ早く知っておいた方が後々面倒事にはならないはずだ。
「どうしたんだ…?」
「ん……、何でもないわ」
クロナは何かを言おうとして、途中で止めた。
(もう少し踏み込んでみるかな…?)
「クロナ、何でそんなにSクラスが嫌いなんだ…?」
小声で言ったマナの質問に対してクロナは少しだけ目を見開いて驚愕した。そして何かに思い当たったのか、クロナはこちらへと振り向いて怪訝そうな表情をする。
「あんた、さっきは知ってて質問したの?」
「………さっきクロナがSクラスがどうとか言ってたからな…」
「………ッ!?」
マナの言葉にクロナは反射的に口元を手で隠した。心の中で何か呟いたようだが、少しだけ外に漏れていたようだ。しかも無意識で。
「何を思おうがそれは個人の自由だけど、口に出す時はちゃんと気を付けないと。極東の国では『口は災いのもと』って言われているくらいだからね…」
マナはクロナに注意する。意識して言っていたのならこんな説教臭いことは言わないが、彼女は無意識だった。マナに注意されたクロナは、顔を険しくした。
「あんたに説教されるなんて…………屈辱だわ」
「……ひどくねッ!?」
クロナの言いようにマナはすかさずツッコミを入れた。
「二人とも、どうかしたんですか?」
マナとクロナの様子を見たミーナは、不思議そうにして小首を傾げた。
「いや、何でもないぞ。それより学院長が呼んでるんだろ?俺は早く行った方がよくないか?」
「……それもそうですね」
マナの指摘にミーナが頷くと、マナは学院長室へと向かった。
―――――◇◇◇◇―――――
微細な装飾が施された階段や廊下を通って学院長室へ向かう途中、マナは不意に自身の背後へと振り向いて質問した。
「………えと、呼ばれたのって俺だけなのか?」
「ええ。そうですよ」
「じゃあ、なんでついてきてるんだ?ミーナはともかく、クロナは関係なくないか?」
マナはジト眼でミーナの隣にいるクロナを見る。
「私も少し用があるから別にいいでしょ?」
「ん、まぁそうだけど…。ちなみにその用ってのは?」
「開発中の《魔導銃》関係のことよ。外装は殆ど完成してるんだけど、肝心の中身がね…」
そう言ったクロナはふぅ、と軽く溜め息を吐いた。
「あぁ、オリハルコンが必要なんだっけ?」
「えぇ、そうよ。ミスリル鉱石でも出来ない事はないけど、魔力の含有量、持続性、硬度とかがオリハルコン以下だからすぐに限界が来るの。言わば使い捨てのティッシュと同じよ」
「おま、ミスリル鉱石でも結構高価なものなんだぞ?それを使い捨てのティッシュと言うのかよ…」
少し呆れた目でクロナを見やる。
「価値観の相違よ。ミスリル鉱石は装飾品としての価値は高いけど、実用性にはあまり向いてないもの」
「そりゃそうかもしれんが…」
どこか釈然としないものの、マナは一応納得しておく。クロナはあくまで実用性を重視している。装飾品としての価値は求めておらず、むしろ眼中にないのだろう。
「そういうあんたは、いったい何をやらかしたのよ?」
「なんでやらかし前提で話を振るんだ!?」
「え、違うの?てっきりあんたが何かやらかして呼び出されてると思ってたけど…」
マナの言葉にクロナは意外そうな顔をした。その瞳には曇りもなにもなく、ただ本当にそう思っていたようだ。信用されてなさ過ぎて心が折れそうだ…。
「編入初日でやらかして学院長に呼び出しくらうとかただの問題児じゃねぇか…」
「………………違うの?」
「だからちげぇよッ!」
クロナの中で自分の人物像はいったいどんな奴なのだろうかとマナは密かに思う。編入したてのクラスメイトにここまで遠慮なく物事を言えるのは珍しい。いや、むしろ一種の才能か。
そんな事を考えながらミーナの方へと視線を向けると、マナとクロナのやり取りを見ていた彼女は小さく苦笑していた。
「お二人ともとても仲がいいのですね…」
「そうか…?まぁ、別に仲が良くない訳でもないからな…。仲がいいのかもしれない」
「私にとってはあんたはただの部員よ」
「グハッ!?」
クロナの吐いた言葉(という名の猛毒)にマナは精神的ダメージを受けた。たとえそれが事実であったとしても空気を読んで欲しかった。
「……………………………………………………」
「え、えーっと、あんた大丈夫?」
マナの沈んだ雰囲気に耐えられなくなったクロナが心配そうに尋ねてくる。
「うん………。俺は大丈夫です………」
「いや、どう見ても大丈夫じゃないでしょ…」
気のせいかな?……昔はもっとメンタル強かったんだけど、段々と脆くなってきてる気がする…。このまま悪化すれば豆腐メンタルになりそうだ。
「も、もう…!さっきのは冗談に決まってるでしょ…!あんたは大切な部員第一号なんだから…!」
気まずくなったのか、クロナは頬が朱色になりながら恥ずかしそうに言った。
「なんだ冗談だったのか」
「復活早くないっ!?」
まるで先程の沈んだ雰囲気など初めから無かったかのようにマナの態度が急変したので、クロナは思わずツッコミを入れてしまった。
そんなこんなで雑談しながらマナ達三人は、窓から夕陽が差し込む廊下を歩いて学院長室へと向かうのだった。
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