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仮説

暇潰し程度に読んで頂ければ幸いです。



 オリハルコン―――――――MMORPGアルザストルーナで登場する超級鉱石の一つだ。ストーリーの終盤近くでドロップする稀少な鉱石で、主に使用されるのは武器や防具の強化であり、それぞれの装備に合わせて自在に強化する事が可能なのでプレイヤー間でかなり高値で売られていたのを覚えている。



「《魔導銃(マギ・ガン)》を作るのに必要な材料がオリハルコン…?それって本当なのか?」



 怪訝(けげん)そうな表情をしたマナは、《魔導銃》の開発者であるクロナに向かってもう一度問い返した。



「ええ、そうだけど……なに?」



 マナの態度に怪しさを感じたのか今度はクロナが怪訝そうな表情で問い返す。



「いや、具体的にはどの部分に使うのかな~って」


「あぁ、そういう事ね。《魔導銃》はかなり複雑な構造をしてるんだけど、その中でも特に魔力の弾丸を生成、そして発射する部位は小さい上に硬度の高い鉱石を使わなければならないのよ。魔法陣を刻むからミスリル鉱石やオリハルコンなどの魔力の宿った鉱石が必要なの。まぁ、オリハルコンに魔法陣を刻むのにも結構な技量がいるんだけどね」


「へぇ、そうなのか…」



 クロナの説明に、マナは脳内で今得た情報を整理した。



(なるほど、つまり鉄鉱石などの魔力のない鉱石では作ることが出来ないのか…。魔力があり、かつ硬度の高い鉱石はミスリル鉱石やオリハルコン、クロナが知っているかどうかは知らないが、他にも魔結晶や神結晶といった稀少な鉱石でしか作ることが出来ない訳か…)



 危険な魔導具ではあるが、複製、そして大量生産が現実的でない事は救いだろう。もしこれが容易に大量生産されたら戦争が勃発(ぼっぱつ)する可能性が高い。


 クロナがそんな戦争の火種になりかねない物を作っている事は学院長も知っているはず。彼女は一見、悪魔のような嫌な性格をしているが、それでもこの学院を危険に(さら)すような真似は絶対にしないとほぼ確信できる。


 それでもやはり、聞いておかなければならないので、マナはクロナがどういった理由でこれを作ったのか質問してみることにした。



「それで、クロナはどういった理由で《魔導銃》を作ったんだ?」


「そんなの魔族による犠牲者を減らすためと、私の趣味に決まってるでしょ?それともなに?この私が戦争の道具にでも利用しようと思ってたわけ?」



 クロナが不満そうに眉間(みけん)を寄せた。


 エスパーかよ…と、ツッコミを入れそうになったが寸での所で言葉を()み込んだ。後者の理由はどうかと思うが……聞かなかったことにしておこう。



「いや、そこまでは思ってないぞ。ただ、そういう事を分かっていたのかどうかを確認しただけだ」


「ふーん、どうかしらね?」


「少しは(強制的に入部させられたが)部員を信用してもらえませんかね?」


「信用して欲しかったら何か功績を立てるのが手っ取り早いとアドバイスしておくわ」


「つまり今は信用ゼロですか…」


「あら、誰もそんな事言ってないじゃない」


「よく言うよ…」



 軽口を叩きながら再び部室へと戻ってきたマナは、これから使うであろう部室を見渡した。よくわからない機材や書類が部屋いっぱいに散らかっていて、長年使われてない機材なんて結構な(ほこり)が被っている。


 これでは部活なんて到底出来ないと思ったマナは取り敢えず部室の掃除をした方がいいと、隣にいるクロナへと提案した。



「クロナ……部活動をするにせよ、この部室はあまりにも汚いぞ…。手始めに掃除した方がいいと思うんだけどどう?」


「……そうね。最近しなくちゃいけないと思っててもなかなか手が放せなかったから丁度いい機会だわ」


「手が放せなかったって……それってただやる気が起こらなかっただけじゃないの?」


「うるさいわね…。あんたはあっちの方を頼むわ」


「はいはい…」


「はいは一回!」


「はーい…」



 こういうやり取りにどこか懐かしさを覚え、悪くないなとマナは密かに思った。


 クロナに指定された場所は書類がごちゃごちゃと散らかっており、これはこれで大変そうだなと内心ため息を吐いた。


 そんなこんなでしばらく掃除……というより書類整理をしていると、マナの視界にとある書類が入った。気付かれないようにクロナの方へと視線を向けると彼女は何かよくわからない機材(?)を片付けていた。


 それを確認したマナは、いくつかの書類をファイルに閉じるとクロナの方からは見えないようにして気になる書類に目を通した。


 するとそこにはクロナの個人情報が事細かに書かれていた。名前はもちろん、趣味や人物評価、出身地や経歴など様々な個人情報が記載(きさい)されている。



(クロナのプロフィールか…?いや、だがそれにしては事細かに書かれ過ぎている…)



 何か違和感を感じるものの、考えても仕方ないのでマナはそっとファイルに閉じておいた。


 大事な物をこんな散らかった書類の中に埋もれさせておくなんてと呆れる一方で、その大事な物を勝手に見ていた自分がいるので何とも言えない気持ちになった。



(それにしても、クロナの出身地がガルヴァード帝国だったとは……)



 書類を見たマナが一番気になっていたのは経歴でも人物評価でもなく、クロナの出身地だった。


 ガルヴァード帝国……、MMORPGアルザストルーナにおいて最も腐敗していた国…。プレイヤー間では一番嫌悪(けんお)されていた国で、別名『悲劇と腐敗の国』とも言われていた。


 MMORPGなのに妙に生々し過ぎる設定になっていてプレイヤーに嫌悪感を抱かせるのには充分だった。かくいうマナもこの国には嫌悪感を抱かざるおえない。



(………………いや、そんな事よりも大事なのはここが異世界だということだ。そう、異世界……なのに何故ガルヴァード帝国という国が存在している…?国の名前が一緒だったという偶然は充分にあるが、ガルヴァード帝国だけでは憶測することしか出来ないか…)



 思考を巡らせるも、やはり証拠が揃わないと確信出来ない。そしてマナの中にはとある仮説が思い浮かぶが、これはどうしても自身が都合のいいように解釈(かいしゃく)しているような感じが否めない。



(そういえば……王立魔法聖女学院はどんな名前の国に存在しているんだ?)



 ふと、気になった疑問を頭の中で反芻(はんすう)させ、その疑問の意味をしっかりと噛み締めて理解する。


 マナが異世界に召喚されてはや四日。この王立魔法聖女学院はミーナの案内によって大体の構造を把握している。しかし、言ってしまえばそれだけだ。それ以外の地理についてマナは何一つ知らない。そしてこの学院は王立……つまり王国ということには間違いない。



(これは早急に調べる必要があるな…)



 思い立ったが吉日。マナはこの場所とその周辺について調べようとして――――――――――



 ―――――――――――――バシッ。



「あたっ…!」



 後頭部に衝撃。突然の衝撃に驚いたマナは思わずしゃがみ、後頭部を手で抑えながら衝撃を与えた人物を軽く睨んだ。ちょっと涙目になっているせいか、全く怖くはないだろうが。



「こっちが終わったから見に来てみれば………はぁ、なにサボってんのよ…」



 パン、パンと丸めた書類で肩を叩き、呆れた視線でマナを見下ろしているクロナがいた。丁度マナの背後にいるのでクロナが犯人だろう。



「ちょっと考え事してただけだ。てか、そっち終わるの早くないか?」


「機材の移動だけだからね。重い物も特にないし場所は全て把握してるからすぐに終わるのよ」


「それならこっち手伝ってくれないか?」



 マナが手伝ってくれと助けを求めるが、それを聞いたクロナは少しだけ顔を渋らせた。



「さっきは手伝おう思ってたんだけどね…。あんた、サボってたし。どーしよっかなー?」


「わーお願いしますクロナ様がいないと掃除という書類整理が終わらないんです助けて下さい」


「し、仕方ないわね…!そこまで言われたら手伝ってあげなくもないわよ…!」



 超棒読みのマナの懇願(こんがん)に、クロナは仕方ないと言いながらちゃんと手伝ってくれた。ガサゴソと少しずつ散らかった書類を片付けていく中、不意にクロナがマナの様子を(うかが)うように問い掛けてきた。



「ねぇ、あんたさっき何してたの?」


「サボってたんだけど?」



 その問い掛けに内心驚くも、表には出さず答えた。返答に時間が掛かってない以上、クロナに違和感は与えなかったはずだ。それに貴女の個人情報をガン見してましたなんて死んでも言えないし。



「ふーん、あんたってサボる時に難しそうな顔をするんだ…」


「え?俺ってそんな顔してたか?」



 予想外の答えに対し、マナは思わず書類整理の手を止めてクロナの方へと振り向いた。


 彼女は気づいてなかったの?とでも言うように意外そうな顔をした。


 クロナの反応を見たマナはもう少し自身の表情に気を使うべきだなと思い、これからは気を付けようと反省した。誰かに怪しまれたり心配かけたりするのはマナの本意ではないし、後々困るのは自分自身かもしれないのだ。どこまでも自分勝手だなと思うも、やはりそれが自分らしさなのだろうなとマナは苦笑した。



「何笑ってるのよ?」



 クロナが怪訝そうな表情で問い掛けてきた。心なしか彼女がマナとの距離を取ったように感じた。………いや、訂正しよう。実際に彼女が気味悪そうにして距離を取っている。数センチ後退(あとずさ)りされたマナは表情には一切出さず、心の中で号泣(ごうきゅう)した。ガラスの十代は伊達ではないのだ。



「いや、気のせいだろ。俺は至って真面目な顔しかしてないぞ」


「あぁそう…」



 何を問い掛けてもまともに返答してくれないのを察したのか、クロナは諦めたようにため息を吐いた。



「それにしても、何でこんなに書類が多いんだ…?」


「研究成果の資料、実験レポート、材料費のまとめと部費の管理書類、更には私の開発した魔導具の売り上げ金とそれに関する契約書………挙げ出したらきりがないわ」



(この人は本当に学生なのだろうか…?)



 マナがそう思うのも仕方のない事なのだろう。なにせクロナのやっていることは学生の範疇(はんちゅう)を軽く超えている。


 その後も、クロナからどんな書類なのか………また、どういった経緯でそうなったのかをずっと聞かされながら二人して掃除をやり遂げたのだった。


 クロナも疲れている様子だったが、それ以上にマナが(精神的に)疲れていたのは言うまでもないだろう。



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