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異世界に部活がある……だと……?

今回は少し長いかもしれません。



 学院全体に鐘の音が鳴り響き、一時間目の授業の終わりを告げた頃、マナは筆記用具を片付けるとクロナの席へと借りた教科書を返しに――――――


 ―――――――行こうとした所で、マナはクラスメイト達に囲まれた。何故囲まれたのか訳も分からず困惑していると、一気に質問の嵐がやってきた。



「ね、ねぇ!ヤトガミさん!貴方が殿方だというのは本当なのですか!?」


「こんなに可愛らしいのに!?それにしてもヤトガミさんの出身地はどこですかっ?」


「今までに恋とかしたことありますかっ?」


「ねぇヤトガミ君、今度私と一緒にお茶しない?」


「あっ!ずるいっ!私もヤトガミ君とお茶したいのに!」



 ガヤガヤ、きゃあきゃあ、そんなこんなで群がる彼女たちに質問攻めにされるが、マナは一つ一つ丁寧に彼女たちの質問に答えていく。



「あぁ、俺が男だと言うのは本当だぞ。出身地は極東にあるナラクって国だ。それから恋愛経験はしたことないかな。よくわからないけど。あとお茶に誘ってくれるのは嬉しいけど、編入したばかりでまだ忙しくって……。すまんな、また今度誘ってくれ」



 マナは愛想笑いを浮かべて質問を片っ端から(さば)いていく。このやり取りが授業が終わる(たび)に繰り返されるのは言うまでもなかった。



     ――――――◇◇◇◇――――――




「や……やっと終わった……」



 その日の放課後、マナは一人で机に突っ伏していた。ついでに大きな溜め息を疲れと共に吐く。



「大人気だったわね、あんた」



 いつの間にか隣にいるクロナが話し掛けてきた。マナはクロナの方へと顔を見上げ、恨めしそうな目で言った。



他人事(ひとごと)に出来るクロナが羨ましい……」


「知らないわよ、そんなこと。それよりあんた、私の教科書返しなさい」


「んなこと言わなくても返すって…」



 そう言いながらマナは鞄からクロナの教科書を取り出して、少し不機嫌気味の隣人へと返した。



「ほら、これだろ?」


「ん、間違いないわね。ちゃんと返せて偉いじゃない。これからはちゃんと忘れ物をしないように私がしっかり(しつけ)てあげるわ!」


「俺はあんたの犬か何かか…?」



 マナは困り果てた顔で言う。



「まぁ、今のは冗談だけど。でもグレイド先生に頼まれたのは本当よ。注意くらいはしておけって」


「あの教師……」



 なんともまぁ余計な事をしてくれたものだ。マナは表には出さず内心愚痴を溢した。悪いのは完全に自分自身だと自覚はしているが、普通そこまでするのだろうかと疑問に思う。



「グレイド先生は、ああ見えて結構生徒の事を心配したりするから。その性格も相まってか、この学院では彼のファンが多くてね……ほんと、困ったものだわ」



(俺は編入早々、あの教師に脅迫されたんだけどなぁ…)



 クロナはパタパタと手を軽く振って、何を思い出したのか、心底鬱陶(うっとう)しそうな顔をした。



「取り敢えず、教科書貸してくれてありがとな」


「べ、別にこれくらいたいしたことないわ」



 もう一度クロナに感謝すると、クロナは気恥ずかしそうにしながら、プイッと顔をそむけた。少しばかり頬が朱色に染まっている。


 感謝を言い終えたマナは、鞄を持って帰ろうとする。



「あ、ちょっとあんた、どこ行くのよ?」



 席を立って帰ろうとしたマナに、クロナが慌てたように声を掛ける。



「どこって……帰るんだけど?」


「部活とかはしないの?」



 クロナの何気ない質問にマナは眉を寄せて、不思議そうな顔をした。



「……部活なんてあるのか?」


「あるに決まってるじゃない……。てか、なんであんた知らないのよ……?」



 マナの質問に今度はクロナが怪訝そうな顔をする。


 そういう事は編入前にちゃんと知らせておくのが普通ではあるが、学院長がわざと教えなかったのは彼は知るよしもない。



「はぁ、ちょっとついて来なさい…」



 そう言うとクロナが教室を出て、廊下を歩き出した。マナはその後に続き、部活の事について聞いてみることにした。



「取り敢えずどんな部活があるんだ?」


「色々ね……。魔法早撃ち部、魔法研究部、魔法芸術学部、マジックボール部………などなど。ちなみに私は魔導工学研究部に入っているわ」


「まさに魔法尽くしだな……」



 そんな事を話しながらクロナとマナはしばらく歩き続ける。



「それより今、どこに向かってるんだ?」


「ついて来ればわかるわ」



 クロナはマナの質問に答えることなく、ただ黙々とどこかへ向かって歩く。そしていくつかの階段を降りたり登ったりを繰り返して、人の気配がない廊下にある扉の前で止まった。



「着いたわ、ここよ」



 そう言ってクロナは制服のポケットから扉の(かぎ)を取り出して、ガチャガチャと音を立てながら扉のロックを解除した。


 ガラリと扉を開き、クロナは部屋に入る。マナも外から部屋の中を覗くと、そこには特に何もない真っ白な部屋があった。机や椅子などの最低限の物はあるがそれ以外に何もないのだ。予想外の部屋の様子にマナはきょとんとした。



「あんたも入って来ていいわよ?……というか入りなさい」


「お、おう。じゃ、じゃあお邪魔しまーす」



 クロナの許可を得て、恐る恐るといった様子で部屋の中へと入る。



「次はこっちよ」



 部屋の中の壁にもう一つ扉があった。クロナはそちらへと向かい、再び鍵でロックを解除する。鍵をよく見ると、部屋に入る時に使った鍵の形状とは少し違った。



「さ、入って来て」



 マナは促されるままもう一つの部屋へと入った。するとそこには様々な機材が置かれており、足場が狭い。資料らしきプリントは作業台の上に乱雑に散らばっていて、その一部は床に落ちていた。


 マナは驚きながらも部屋を見渡す。パソコンのようなもの、何かを組み立てるような機械、印刷機……などなどやたら近代的な物がある。特に目を見張ったのは壁に取り付けられている巨大スクリーンだ。



「ようこそ!我が魔導工学研究部へ!」



 部屋の汚さや、置いてある機材など……色々な理由で唖然としているマナにお構い無く、クロナは得意気に告げた。



「取り敢えず部屋を掃除しろよ…」


「そこっ!?この部屋見ておいて言うところそこなのっ!?あと掃除はしない!」



 クロナが信じられないといった様子で、マナを見る。確かにこの部屋はかなり近代的で凄いとは思うものの、それを上回るほど散らかっているのだ。マナがクロナに掃除するように言うのも当たり前なのだ。



「それで……いったい何が目的なんだ…?」



 足場の少ない部屋で、マナはクロナに問い掛けた。それを聞いたクロナはふっ、ふっ、ふっ、と少し怪しげな笑みを浮かべる。



「よくぞ聞いてくれたわね!あんたをここに連れて来た目的は他でもない!部員の勧誘よ!」


「………………………………………………………えぇー」


「ちょっと、何よその反応は!?」



 な、なんだってー!?……なんてお決まりの台詞を返してやりたいが、クロナの普通過ぎる答えにそんな気概も失せてしまった。



「まぁ予想はしてたからな。この散らかった部屋や誰かが使っていたような物の痕跡(こんせき)。埃が被っているのを見る限り、だいぶ時間が経過したものだろうと推測出来る」


「へぇ……それで?」



 マナの推測にクロナは興味深そうにし、腕を組んで続きを促す。それを見たマナは、放課後の教室でのクロナの様子を脳裏に思い浮かべながら答えた。



「そして何よりも、編入してきたばかりの俺を部活に勧誘するということは、この魔導工学研究部は今人手が足りていないということ」


「でもそれなら他のクラスメイトや生徒達でもよかったんじゃないの?」



 クロナが至極当然の疑問点を口にする。それはそうだろう、なにせ人手が足りないのであればわざわざマナを勧誘する必要はない。だったら何故、彼女はマナを部活に勧誘したのか―――――



「もう時間がないから……だろ?」


「……ッ!?」



 マナが確信を持ってクロナへと問う。マナの言葉を聞いたクロナは目を少し見開けて驚いたような顔をした。



「周りの機材を見る限り、これらを製造するのには特殊な技術が必要だということが一目でわかるし、部費もそれなりにかかるはず。顧問の先生に期限内に部員を増やさなければ廃部になるなんて事を言われたんじゃないか?……そして、なりふり構っていられず編入してきたばかりの俺に目をつけた。他の生徒は何かしらの部活に入っている可能性があるが、編入したての俺なら部活に入っていないのは当たり前だしな」



 ここまで話してマナは口を閉じた。クロナは俯いたまま沈黙している。


 ――――――パチ、パチ、パチ、パチ………。


 部屋の奥からゆっくりと手を叩いて拍手する音が聞こえてきた。その音の方へと鋭い視線を向けて警戒する。マナは内心気付けなかった事実に驚愕するも、すぐに冷静さを取り戻して身構えた。



「いや~、お見事、お見事~!あなた凄いわねぇ。少し答えがずれていたものの、ほとんど正解よ~!」



 ゆったりと落ち着いた口調が部屋に木霊(こだま)する。奥から出てきたのは二十歳くらいの女性だった。緑色のふんわりとした髪に、おっとりした目。ふんわりとした髪がこの女性の雰囲気とマッチしていてとても印象的だ。しかもその女性は少し着崩してはいるが、この学院の教師達が着ている服と同じものを着用している。



「リリア先生……あいつどうなの?」



 今まで沈黙を貫いていたクロナが突然現れた教師へと質問した。リリアと呼ばれた先生は嬉しそうに微笑むとこう答えた。



「もちろん、合格よ~。そういうクロナちゃんこそどうなの~?」


「私?……認めたくはないけれど、これは間違いなく合格よ」



 クロナはそう言うと「はぁ…」と小さな溜め息を吐いた。マナは状況の急展開に脳の情報処理が追い付かず、首を傾げるばかりだ。



「あんた、入りたい部活はあるの?」


「いや、特にないけど…」



 クロナの唐突な質問につい咄嗟に答えた。それを聞いた彼女は僅かにだが、安心したような表情をした。



「だったらあんた、私の部に入りなさいよ…!」


「ああ、いいぞ」


「やっぱり駄目よね……。こんな強引な方法で入ってくれる訳が――――――――え…?今なんて…?」


「いや、だから入ってもいいって」



 断られるとでも思っていたのか、クロナはマナの予想外の返事にしばらく思考を停止させて固まった。


 数分後―――――はっ…!と我に帰ったクロナが勢いよくマナの両肩を掴み、その勢いのまま壁に押し付けた。壁に背中をぶつけたせいでダメージが入り、マナのHPが少し減った。



「あんたッ!!い、今、入ってもいいって言ったッ!?言ったわよね!?」



 クロナの瞳は信じられないといったものと、絶対に逃がさないといった激しい感情が混ざり合っており、少々理性が欠けている。これを普通の人が見たらきっと恐怖で動けなくなるだろう。どれだけ部員が欲しかったのだろうかとマナは内心苦笑した。


 リリアと呼ばれた先生の方へ「助けて」とアイコンタクトを送るが当の本人は「あらあら~」と微笑ましそうに様子を見ていた。きっと助ける気は皆無だろう。



「取り敢えず落ち着け」


「いたっ……!」



 そう言うとマナは、目の前にいる少々理性の欠けたクロナの額にデコピンを喰らわす。少し痛そうに顔をしかめていたが、落ち着かせるためにやったので仕方がないと割り切る事にした。



「魔導工学研究部に入ってもいいけど、その前にいろいろと説明してもらいたいんだが」



 マナはスッと手を挙げて言った。二人はお互いに顔を見合わせ「それもそうね」と納得し、何故こうなったのか経緯と現状を説明してくれた。



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