罠とテストとギルドカード
最近、投稿するのが早いですが、次から遅くなります。
「魔法基礎32点、数学78点、魔物生態学100点、古代言語学100点、魔導工学0点、一般常識0点、迷宮攻略基礎100点、職業基礎知識65点か……」
そんな言葉と共に、キャリアスさんは手に持った用紙を机に放ると、俺の方へと視線を向けて軽く溜め息を吐いた。
窓から差し込む眩しい夕陽が学院長室を朱色に染める。逆光になっているせいでキャリアスさんの表情が読み取りにくくなっているが、何かに呆れているという事だけは分かった。
「ヤトガミ……お前は点数の落差が激しいな…」
「学院長、言うところはそこなんですか?」
学院長が心底呆れたように言うが、その着眼点にすかさずアルティナがツッコミを入れた。
俺たちは、学院長室にある長椅子に腰を掛けている。俺の正面にはテーブルを挟んでミーナとアルティナがちょこんと座っていた。
俺は今、小テストの結果をキャリアスさんから言い渡されているところだ。
昼前に、学院長室で魔法基礎、数学の小テストを受けて休憩を挟み、昼食はバーデルネさんの所で済ました。
何故か、バーデルネさんは俺がこの学院に編入することを知っていたので、そのお祝いだということでただ飯を食わせてもらったのだ。とても美味しかった。
そして、昼食を終えると学院長室に戻って小テストを再開。残りの魔物生態学、古代言語学、魔導工学、一般常識、迷宮攻略基礎、職業基礎知識をそれぞれ約四十分で終わらせて現在に至る。
「私の予想では大体10点くらいだと予想していたが……ヤトガミ、この結果はどういうことだ?」
キャリアスさんの眼に真剣さが増す。
「どうと言われても……。古代言語学は俺の《特殊スキル》、【言語理解】があるしな。その効果のせいでカンニングをしているのとほぼ同義になるからその点数は別におかしくはないだろ」
「それは私も理解している。だが私が聞いているのは、数学と古代言語学以外で何故、いくつか高得点を取れたのか?…ということだ」
MMORPGアルザストルーナで得た知識と全く同じだったからです………なんて言える訳がない。
「えーっと……たまたま…?」
少し首を傾げながら言ってみる。すると俺の言葉にイリーさんが反応した。
「それはあり得ません。小テストの問題に選択問題はありませんので。しかも、ヤトガミさんは記述問題まで正解しているじゃないですか……偶然と言うのは些か無理があるのでは?」
そう言ってイリーさんはクイッと眼鏡を上げると、一瞬眼鏡が怪しく光った。そう、この確実に追い詰められているような感じは、まるで刑務所で尋問されている犯人のようだと俺は思った。
「まさか……マナのいた世界にも魔物はいたのか?」
思い付いたようにアルティナが言った。自信ありげに言っているところ悪いが、それは間違いだ。地球に魔物はいない。
「うーん……アルティナ、ちょっとおしい。俺のいた世界に魔物や迷宮はないが、その概念はあったんだ」
「えぇと、つまり……魔物や迷宮はマナさんの世界では架空の存在とされていたんですか?」
「驚くほど賢いな…」
思わずそんな事を呟いた。
難しい事を言ったつもりだが、ミーナはそれを理解して更に、俺の言いたいことまで言い当てた。実はミーナって凄く頭いいんじゃないだろうか…?
そんな事を考えながら、俺はミーナの答えを肯定した。
「ああ、ミーナの言う通りだ。だから知識はあっても不思議ではないだろ?」
俺はそう言うと視線を巡らせて周りの様子を見てみる。皆、少し唸りながらもなんとか納得してくれた。
「その割には、魔法基礎の点数が低いな」
「うぐっ……!」
キャリアスさんが嫌なところを突いてくる。そういうことを平気でやってくるので、どんなに嫌な性格をしているのか窺える。
「仕方ないだろ…。魔法の種類や効果は知ってるけど、それに必要な魔力量や詠唱呪文、魔法陣の組み方とかは元いた世界にはなかったんだ…」
「そうか……ならこの点数にも納得か…」
その言葉を聞いた俺は内心でふぅ、と安堵した。ゲームの知識ではあるのだが、俺は間違ったことは言っていない………………多分。
学院長は背中を椅子に預けて深い息を吐く。
「ふぅ……。一般常識と魔導工学が0点になってるが、説明してもらおうか」
キャリアスさんは椅子をクルリと回して俺に背を向けた。隣に座っていたイリーさんは席を立ち上がると、ティーポットがある方へと歩いていった。紅茶でも淹れるのだろう。
そんな様子を俺は気にすることなく、一般常識と魔導工学が何故0点だったのかを説明した。
「そもそも、この世界の一般常識なんて知らないし、魔導工学なんて俺は初めて聞いたんだ」
「ヤトガミのいた世界にはなかったと…?」
「ああ…」
魔導工学なんてMMORPGアルザストルーナには載ってなかったんだから仕方ない。
「そうか……まぁ、この結果は嬉しい誤算である事には間違いないから、これ以上詮索するのは止めておこう…」
そう言いながら、キャリアスさんはなんとも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ヤトガミ、お前の持ってる封筒の中はちゃんと見たか?」
「……いや、少し目を通しただけだ」
突然の問いに、キャリアスさんの意図が分からず首を傾げた。取り敢えずよく見ておけと言われたので封筒の中身を取り出した。
正式な編入手続きの書類や学院の説明書など、幾つかの書類が入っている。
「………ん?」
何やら封筒から見慣れない物が出てきた。大きさはポイントカードやクレジットカードと同じくらいで、色は緑。俺は何に使うかも分からずキャリアスさんに問う。
「何……?これ…?」
「それはギルドカードだ」
椅子に体重をかけ、ぐで~んという表現がぴったりの姿勢でキャリアスさんが答えた。視線だけがこちらを向いている。
「ギルドカード………これが…」
俺がそう呟くとキャリアスさんが肯定して、言葉を続けた。
「まだ未登録の品物でな。手に入れるのは苦労した」
「苦労したのは、それを持ってくるように言われた私なのですが…?」
イリーさんは五人分のティーカップを運びながらそう言った。キャリアスさんに小言を言いながら、それぞれ違う種類のティーカップを俺たちの前に置くと、ティーポットを傾けて紅茶を淹れてくれた。
俺たちはイリーさんに礼を述べると、キャリアスさんの方へと視線を向けて話を進めた。
「それで……その未登録のギルドカードは何に使うんだ?」
「特に使う場面は少ないかもしれないが、まずは登録してもらう」
俺は怪訝そうにしながらキャリアスさんへと問い掛けた。
「使う場面は少ないのに…?」
「一応、ギルドカードは身分証にもなっているのでな。登録しておいて損はない」
その答えに俺は、なるほどと納得した。
「登録方法は?」
「触れば終わり」
なんともまぁ、簡単なことで。そんなことを思いながら俺はギルドカードに触れた。
すると、ギルドカードが淡く光り、魔法陣のようなものが空中に浮かび上がる。その光景は数秒間続き、光はすぐに収まった。
「登録完了したな……できるだけ肌身離さず持っておけ。それと、登録出来たギルドカードは持ち主の意思によって表示することも可能だ。後で確認しておくといいぞ」
「そうしておくよ」
キャリアスさんのアドバイスを受け取り、俺は自分のギルドカードを制服の内ポケットに仕舞った。
その後、キャリアスさんの指示の下で俺は編入手続きの書類を完成させた。【言語理解】のスキルを持っている俺は、この世界の文字で自分の名前を書くことなんて造作もない。
身分証明書などは、キャリアスさんが予め設定しておいたらしい。出身地は極東にあるナラクという国になっていた。
そのあまりの手際の良さに俺たちは苦笑するしかなかった。
「よしっ!終わったーっ!!」
俺はそう言うと両腕を挙げて伸びをし、長椅子に背中を預けた。
「お疲れ様でした」
後ろからイリーさんが労いの言葉を掛けてくれた。
時間帯はもうすっかり夜になっており、窓から外を見れば夜の闇が広がっている。ちなみにミーナとアルティナはこの部屋にはいない。待たせるのも気が引けるので先に帰ってもらったのだ。
「すみません…うちの学院長の気まぐれで……」
イリーさんが俺に謝ってきた。別に俺は気にしてないので本音を伝える。
「いや、別に迷惑とかはしてないぞ…?だから気にすることないって」
「いえ、ほんとに……」
イリーさんが何か言っていたようだったが、声が小さ過ぎて聞き取れなかった。
俺は頭に疑問符を浮かべながらティーカップに入っていた紅茶を飲み干した。種類は分からなかったが、ほんのりとした甘味が口に広がり、今までの疲労を癒してくれた。
「キャリアスさん、これでいいのか?」
俺は書き終わった書類をキャリアスさんに渡した。一応、指示通りに書いたが最終確認は必要だろう。
「あぁ、そこの机に置いといてくれ」
キャリアスさんは優雅に紅茶を啜ると、顎で机を差した。
「これでもう用は済んだよな?」
書類を机に置き、尋ねる。
「ああ、これで手続きは終わりだ。三日後に編入することになってるから、それまで学院を見て回るなり街へ出掛けるなり好きにすればいい…」
「りょーかい」
俺は返事をすると、学院長室から出ていこうと扉に手を掛けた。
「あぁ、それと一つ言い忘れていた…」
その言葉を聞いて俺は振り返ると、そこには口角を上げてなんとも愉快そうな表情をしたキャリアスさん。
この人がこういう顔をするとロクでもない事が起こる前触れだと、俺は短期間の内に学んだ。警戒してちょっと身構えておく。
「ようこそ、我が王立魔法聖女学院へ」
「…………………………………………………………………………え?」
その瞬間、俺はフリーズした。
おかしいな、俺の聞き間違いだろうか…。この学院の正式名は聞いたことないが、多分さっきキャリアスさんが言ったのがこの学院の正式名なのだろう。
駄菓子貸し………じゃなくて……だがしかし、それならば聞こえてはいけない単語が聞こえた気がしたんだが……。女学院…?冗談だろ……?いや、冗談だと言ってくれ。
俺はなんとか眼だけでも動かし、キャリアスさんの様子を見た。
「………く、くくくく………ッ!……!」
キャリアスさんは口元を手で抑えて笑い声を押し殺している。俺の反応を見て邪悪な笑みを浮かべているのは明らかだ。
ギギギ……というような音が聞こえそうな動きで俺はイリーさんの方へと視線を向けた。
「…………………………………」
イリーさんは、ただただ俺から顔を逸らしていた。少し申し訳なさそうにしているので、この事を知っていたのだろう。
俺はぎこちない動きで視線をキャリアスさんの方へと戻した。笑い疲れたのか肩で息をしていた。
あぁ、女を本気で殴りたいと思ったのは生まれて初めてだ…!(迫真の演技)
イリーさんの気持ちを、この時、俺は本当の意味で理解した。同情するぜ、マジで。
しばらくして……やっとキャリアスさんが笑い終わったのか、少し乱れた魔女服を整えた。たまに小さく「プッ…」と吹いているのが聞こえるが、無視しておく。
「俺の反応はそんなに面白かったのか…?」
「あぁ、それはもう。予想していたのより面白かったぞ…」
俺は軽く睨むが、キャリアスさんは俺の視線を飄々と受け流す。
そしてようやく、状況を把握した俺はキャリアスさんに注意する。
「いくらキャリアスさんでも言っていい嘘と悪い嘘があるだろ…」
「「え…?」」
俺の注意に今度は二人が固まった。俺はそんな二人の反応に戸惑う。何かおかしな事を言ったのだろうか…?
するとイリーさんがまさかというような表情で俺に問い掛けてきた。
「……えと、ヤトガミさん。……まさか先程の事は学院長の嘘だと…?」
「……?当たり前だろう…?女学院に男を編入させるなんて、いくらキャリアスさんでも不可能だろ?」
俺は当然のように答えるとイリーさんが気の毒そうな顔をした。そして頭を軽く手で抑え、俺から視線を外した。キャリアスさんの方はというと、「これは傑作だ」と言って笑っていた。
そして、笑い終えたキャリアスさんが真面目な顔をして言った。
「言っておくが、嘘ではないぞ」
「………いや、信じられないな。何か証拠でもあるのか?」
俺はどうせ証拠なんてないだろうと思い、キャリアスさんに問う。するとキャリアスさんは、俺が机に置いた書類の一枚を取り出すと、こちらへと突き出してきた。
俺は目を凝らしてその書類に書かれてある文字を読む。
「王立魔法聖 学院・編入手続き……?」
なんか一文字分の空白がある。書類に名前やら書いてる時はそこまで気にならなかったが、今見てみると物凄い悪寒がした。
キャリアスさんがニヤリと怪しい笑みを浮かべ、書類にある空白の部分に人差し指を触れさせた。
「その姿を現せ――――【ワードマジック】」
そう言うと、人差し指の触れた空白部分からゆっくりと何かが浮かび上がってきた。キャリアスさんは人差し指をどけると、もう一度俺に読むように書類を突き出してきた。
俺は、その浮かび上がった文字を恐る恐るといった様子で、繋げて読んだ。
「王立魔法聖女学院・編入手続き…………ッ!?」
「ま、そういう事だ。諦めろ、お前の編入は今ここで正式に決まった」
その言葉を聞き、俺は全ての状況を理解した。
「は、嵌められたぁぁぁああああッッ!!!」
俺の絶叫が、学院長室に木霊した。そして、俺は二度とこの人の前で油断しないと心に誓った。
やっと学院に編入することを確定させるところまで来ました。書いてると長く感じるけど、実際読んでみたらそこまで長くなかった。(あくまで個人の意見)




