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見馴れた光景

今回は少し短めです。



「今から話すことは――――全てが真実だ――――」



 その言葉を前置きに、俺は元いた世界の様子を順序よく話した。



「魔法ではなく、科学…?といったものが発展した世界か……私にはとても想像できない世界だな…」



 アルティナが難しい顔で呟いた。


 結果はご覧の通りである。全て話せばどれだけ時間があっても足りないので、かなり大まかな説明になってはいるが、ちゃんと理解してくれたようだ。信じてもらえるかは別だけど。



「まぁ、俺はそういう世界から来たと思ってくれれば助かる」



 どうせこの世界で身分証明書を作ることになっても出身地などを偽らなければならない。それなら身近な人だけにでも真実を知っていて欲しかったし、厄介事はごめんなので嘘偽りなく話したのだ。



 そんな事を考えながら俺は周りの様子を見てみる。誰もが難しそうな表情を浮かべて沈黙している。



「ああ、それと。元の世界では使われている文字や言語が違うのは分かるか?」


「……そうなのだろうと予想はしていた。だが、だったら何故マナがこの世界の文字を読める?いや、それだけではない……私達とも普通に会話が出来る…?」



 アルティナが不思議そうに問う。ミーナ達も気になるのか口を挟まずに聞いている。



「そう、それを説明しようと思ってたんだ。ミーナ達と会話が出来たり、この世界の文字が読めたり出来るのは【言語理解】と【言語通訳】という特殊スキルがあるからだ」



 スキルの名前からミーナ達は大体察しただろうが、一応ちゃんと説明しておきたいので俺は口を開く。



「まず、【言語理解】とはミーナ達が使っている文字などを理解することが出来る。言ってしまえばこの世界に存在する文字全てが範囲だ。そして、【言語通訳】だが、これは俺がどんな言語で話しても相手に通じるようになる。そしてその逆もまた然り」


「……そんな便利なスキルが存在するのでしょうか…?」



 ミーナが信じられないといった様子で呟いた。反応はその他も同様である。でもこれにはちゃんとした証拠があるので、俺は自信ありげに言う。



「現に、俺はミーナ達と会話出来ているのが動かぬ証拠だしな」



 俺はそう言って話を締め括る。



「何故……そのような事をヤトガミさんは話してくれたのでしょうか…?」



 難しそうな表情をしたまま、イリーさんが言った。


 静まり返っていた学院長室に、イリーさんの疑問が静寂を破った。



「ミーナ達に少しでも信頼して欲しかったからだ」



 当然のように俺は答えた。まぁ確かに、ミーナ達に信頼して欲しいというのもあるが、本当に信頼して欲しいと願う相手は学院長であるキャリアスさんだ。


 今は机にうつ伏せになっていて寝ている様にも見えるが、本当は起きているということを俺は知っている。


 ただ、俺の話の信憑性(しんぴょうせい)が低いので信頼してもらえるのか?と問われれば声を唸らせざるをえないのだが……。



「この話が、嘘かどうかは各自で判断してくれて構わない…」


「私は信じます……マナさんの瞳は嘘を言っているようには見えませんでしたから」



 ミーナは真っ直ぐ俺を見て言った。その眼は真剣そのものでふざけているようには見えない。



「私も信じるぞ。これでも人を見る眼はあるのでな…」



 今度はアルティナが答えた。どうやらこの二人には信じてもらえたらしい。俺は二人から視線を外してイリーさんとキャリアスさんの方へと向ける。



「それで、キャリアスさんはいつまで寝たふりをしているつもりなんだ…?」



 俺がキャリアスさんに向かって言葉を投げ掛けるとキャリアスさんはうつ伏せになっていた状態からゆっくりと起き上がった。



「なんだ、気付いていたのか…?」



 起き上がったキャリアスさんは、意地の悪そうな笑みを浮かべる。俺はその表情を見ると、呆れたように言った。



「当たり前だ…。人を呼びつけておいて寝るなんて、常識的に考えてありえんだろ…」


「ふっ……私はそんな常識なんて知らんな」


「はい……私も本当に学院長が寝ていると思ってました…」



 キャリアスさんが起きてたという事が意外だったのか、ミーナが驚いたように言う。



「……キャリアスさんは常識を知るべきだ。うちのご主人様がすっかり毒されてるじゃないか…」


「ご、ご主人様…ッ!?」



 ご主人様という言葉にミーナは頬を紅潮させた。俺は一瞬、ミーナの方を見るがすぐに視線を元に戻して話を進めた。



「で、信憑性の低い俺の話は信じてくれるのか?」



 今、俺が確認したい事をキャリアスさんに問う。俺の質問に対し、彼女は少し考えるような素振りをするとすぐに答えを出してくれた。



「そうだな…特殊スキルなどの話は証拠があるから信じよう。それで、マナ・ヤトガミの出身地だがこれはなんとも言えんので半分信じる事にした。たが、信頼するかは別だ」


「なんだ、俺の目的も察していたのかよ…」


「当然だ。私を誰だと思っている…?」


「ここの最高責任者だと思っているよ…」



 どうやらそこまで信頼してくれないようだ。まぁ、予想通りの結果ではあるけど。



「まったく……そう易々(やすやす)と私の信頼を勝ち取れると思わないことだ」


「肝に銘じておくよ」


「さて……これで問題は学力だけになったな」



 実に嫌な顔を浮かべてキャリアスさんが言った。ちょっと腹が立ったので俺も少しだけ対抗して、意地の悪い笑みを浮かべる。



「俺が《始原郷》から来たのではなくもっと別の場所から来たと言った時は焦ったんじゃないのか?……俺を編入させるのが不可能になるんじゃないかと」


「その顔は見ていてイライラするが、全くもってその通りだ。先入観に囚われていたせいで大事なことを見落としていた。さすがに読み書きが出来ない奴を編入させるなんてこの私の権力を持ってしても不可能だからな」



 どうやら俺のこの顔は見てるとイライラするらしい。ちょっとショック。


 それに、キャリアスさんは自身の非を認めている分、こんな非常識な人でも大人だなと思う。学院長という肩書きは伊達ではないようだ。



「あの…学力だけなら少し問題を出してみてはどうでしょうか…?」



 ミーナが恐る恐る手を挙げて答えた。いや、問題って言っても俺分かる気がしないんだけど。



「ふむ。それはいい案ですね、ミーナさん」



 イリーさんが眼鏡をクイッと上げてミーナの提案に同意する。ミーナの隣で立っていたアルティナも、ミーナの提案に賛成らしい。



「そうだな……。休み明けに小テストするつもりだし、丁度いいだろう。ミーナ・クロスフィアの提案に私も賛成だ」



 どうやら小テストを受けるのは決定事項らしい。いつものごとく俺の意見なしで勝手に話が進んでいく。



「俺の意思は?」


「「「ない(ぞ)(です)」」」



 聞いてみたけど駄目だった。てか、キャリアスさんまで加わってるし……君たちほんとに仲いいね。


 俺はそんな感想を抱くと、もう見馴れてしまった光景に苦笑するしかなかった。



気付けばもう、10部以上投稿しているんだなと思いました。まだまだ頑張っていくつもりです。

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