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6-7


 ナイトクラブ、マディ.Dに足を踏み入れる。


 人生初のクラブホールは、リクが思っていた以上の熱気とざわめきで溢れていた。

 モニターやマイクごしでは伝わらなかった独特の湿気と匂い、心臓を揺らすようなバンドの低音が、学ランを脱いで赤いTシャツ一枚になったリクの体に伝わる。

 音楽に合わせて体を揺する人々、壁際で見目麗しいモデルを囲む女性たち、触れ合うほど耳に口を近づけて会話する男女。


 人が発する熱や匂いの密度に、酒も飲んでいないのにぐらりと酔いそうになる。


「うわ……」


 小さな声でリクが呻く。

 あまり得意な場所ではないな、と嬌声を振り撒きながら行き交う女達を見て彼は顔を歪め、耳たぶのピアスホールを指で弄る。

 どうもピアスがないと落ち着かない。

 元々自己防衛のためにつけていたものだ。

 まるで皮を一枚剥がされたような心もとなさが全身を包む。

 そういう意味でもアキから渡された帽子を深く被っているのは、彼にとって若干心強かった。


 一つ息を吐いて気合を入れ、モデルに群がる女性や踊る男女の間をくぐって目的のバーカウンターに向かう。

 人の群れを抜けた辺りに来ると、カウンターに備わったスツールに座るハルの青い服が見え始め、少し心が休まる。

 が、それもつかの間。


「……武井崎、か」


 直角に曲がったカウンターでハルの対角線に、黒い革ジャンの男、件の武井崎がモニターで見たのと変わらずじっと佇んでいる。


 自分と同じくらいの身長で、肩幅が張っているように広い。

 身じろぎ一つせずホール内に目を這わす姿は、獣というよりも爬虫類的な薄気味悪さを感じた。

 短髪に凹んだ陰険な目元は、リクとは同じ高校生とは見えない荒み方をしており、口元に広がる無精髭が尚一層荒れた表情を際立たせている。

 今年で二十歳だとカイが言っていたが、ともすればもっと年上にも見える。


 彼を目に入れた刹那、喧噪に紛れ込む様にして、リクの脳裏に廃工場の匂いが蘇る。


 ゾクリと背筋に一筋の汗が落ちた。


 あの、雨の音が落ちる暗い廃工場の中。

 リクを騙しておびき寄せた切り裂き魔が、ナイフを薄明りに反射させてじわじわと彼を追い詰める。

 何とか反撃に転じたものの、即座に応戦されて逆に締め上げられ殴られた。

 変わらぬ身長なのに、まるで赤子の手をひねるように簡単にあしらわれたのだ。

 笑いながら首を絞められて意識が薄れていくときの無力感と恐怖は、今でも身体が覚えている。


 武井崎に一歩、また一歩と近づくにつれて、その時の感情がリクを侵食するように広がる。

 破裂するように腹に響くドラムの低音が、じわりと湿った脳内に鈍く落ちていく。


 ハルは『駄目なら切り上げろ』言っていた。

 だが。


 霞みそうになる視界を、リクが唇を噛んで再生する。

 そしてそのまま武井崎の後ろにそっと近づく。


 まったく彼は気づかないようで、相変わらずホール内に目を向けている。


 男の匂いを嗅ごうとリクが鼻に神経を集中させる。

 ……が、駄目だった。

 アルコール、汗、化粧、体臭、様々な匂いが邪魔をする。

 しかしここで引いたら、収穫なしだ。


 こうなったら、とリクが腹括る。

 スツールに軽く腰を掛けて、バーテンダーにウーロン茶を頼む。

 オールバックに黒い髪を撫でつけた若いバーテンダーは、手際よくカウンターに磨かれたグラスを置き、透明の茶色い液体でそれを満たしていく。


(いくぞ、やるぞ、やるぞ。

 俺だって、やれる!)


 グラスに液体が落ちていくのを見ながら、リクは決意を固める。

 グラスが満ちるとリクはそれを受け取り、そしてホールの人に混じるためにスツールから降りる。

 そして、


「うわっ!」

「っ!」


 足を滑らせ……滑らせたフリをして、転ぶと同時に目の前の男の背中にぶつかる。

 突然の衝撃に、前方のホール内に意識を集中させていた武井崎の体が、大きくビクリ跳ねる。

 彼が身を離すより早く、リクが武井崎の首筋に鼻を寄せる。


「!」


 思わず「これだ」と出そうになる声を抑えて、ぱっと身軽に彼から離れる。

 それでも鼻に残る香水の匂いは、あの廃工場で嗅いだものと同じだった。


「うわ、悪ぃ!」


 わざと軽い調子でウーロン茶を片手にリクが謝り、そして後ろ足で数歩下がってその場を離れようとする。

 なるべく顔を見られる前に離れたかった。


「………」


 しかし、武井崎の顔はリクには向いていなかった。

 リクが接触した瞬間か、それに驚いた時か、彼が握っていたグラスを急激に傾げたために揺れたビールが彼の袖を濡らしていた。

 零した量はそれほど酷くはないが、相手が悪い。


(あ、しまった。

 これは……やばいやつだ)


 リクの方を向く前から、びくりと武井崎の凹んだ目が震えるのが分かった。

 明らかに怒りの沸点を超えているのを、元虐められっ子のリクが敏感に感じ取る。

 急いで逃げ出すように、リクは身を翻す。


「おいてめぇ!」

「ひぅっ!」


 椅子からがたん、と乗り出す雰囲気を感じる。


 あぁ駄目だ殴られる。

 また殴られて首絞められて殺される!


 廃工場での一連の流れを思い出し、リクは身体を固くする。


 しかし、武井崎の体がリクの方に進むことはなかった。

 彼ら二人の間を金色の風が通り、そして武井崎の腕によろめいて当たる。


 金髪の少女、もとい女装探偵、もといハルがよろけて縋るように武井崎の腕を取り、実に自然に体重をかけて一緒に倒れ込む。


 武井崎はリクに向いていた注意を腹立たしげに新たな人物に向けるが、


「やだ、ごめんなさい!」

「……あ、あぁいや」


 覗きこむような上目遣いの大きな青い目に武井崎の視線が止まり、一瞬で引き寄せられる。

 ちらりとリクがその様子を心配そうに振り返るが、黒いフリルで隠れた指が、さっさといけとばかりに横に振られる。

 密かにリクに向けられた青い目からは、『任せろ』とどんな男よりも男らしい、確信に満ちた視線が送られる。

 リクはそれに従い、目立たない程度の早足でその場を後にした。


「ごめんなさい、本当に。

 あぁ、どうしよう、濡れちゃいました」

「いやこれは、アンタじゃなくて……」


 ハルが持っていた日傘を傍らに置き、白い上品なレースのハンカチをビールで濡れた武井崎の腕に当て、水滴を吸い取る。

 突然現れた、姿だけは儚げな美少女姿のハルが、申し訳なさそうに上目遣いで覗き込みながら一生懸命奉仕する様に、ゴクリと武井崎が喉を鳴らす。


 かすかに見える白い首元、華奢な姿。

 彼が今まで触れてきた、どの女とも違うその体と雰囲気。

 現実の匂いがまるでしない、異国どころか異世界の住人のような様相に、武井崎の興味は完全にリクからハルに移る。

 それを感じ取ったハルは、視線と言葉で彼の嗜虐性と渇求心を刺激する。


「お詫びに新しいの、頼ませてくれますか?

 同じもので良いでしょうか」


 小首を傾げた白い顔に浮かぶ桃色の唇が、武井崎に微笑む。

 そしてそのままバーテンダーに向かい、折りたたまれた札を渡す。

 その気遣いや指先に至る洗練され動作の一つ一つに、目の前で映画でも見ているようだ、と武井崎がにやけそうになる唇を噛んで堪える。

 コクリとバーテンダーが頷くと、すぐさま武井崎の前に中グラスが置かれ、金色の泡立つビールが注がれる。


「アンタも頼めよ」


 武井崎は一つだけ置かれたグラスを手に取り、舌なめずりを抑えながら平常心を装い言うが、


「ごめんなさい。もう門限なの。

 外にお迎えが来ちゃって」


 頬に細い指を置き、軽く頭を振られる。

 申し訳なさそうにハルが目を細めてスカートを翻すが、


「待てよ」


 その細い腕を武井崎の無骨な手が捉える。

 そのまま姿をくらませる予定だったハルの体が、つんのめるようにかくんと傾ぐ。


「っ!」


 武井崎は乱暴にぐっとハルの手を引き、ビールを置いた逆の手で腰を掴んで自分のスツールの方に引き寄せる。

 逃がすまいとシルクに隠れたハルの手を握りつぶすように掴む。


「いいじゃねぇか、一杯くらい。

 ……なぁ?」


 金髪に隠れたハルの耳元で、酒の匂いが混じる低い声を小さく響かせる。

 武井崎の鼻先が、匂いを嗅ぎこむようにハルの首元に触れた。


 その力の入れ方と言葉は、ナンパや口説くためのものではない。

 純粋に力で脅し、従わせるためだけのものだ。

 このクラブにいる女性の大多数ならば、逃げることもできないだろう。


 隠しきれない牙を見せ始めた武井崎に、ハルは見えない位置で顔を歪める。

 しかしその力に、彼は敢えて逆らわなかった。


 ハルはスツールに片膝をかけて上半身を上に上げ、武井崎の広い両肩の首近くにそっと手を置く。

 そして、自分が彼にされたように耳元に小さな唇を近づける。

 まるで抱きあうようにしながら、ハルは自分の唇を舐めて湿らせ、


「また今度。

 機会があれば、是非」


 低くもなく高くもなく、大きくもないのに心臓を鷲掴みするようなトーンで、そう耳の中に吹き込む。

 まるで冷風を体内に吹き込まれたかのように、びくりと武井崎の手が緩む。

 それに従ってハルがスツールを降りて一歩距離をおく。


「ふふ、いい子」


 顔を僅かに傾げて半月のように目を細めて微笑み、ハルは両膝を折って日傘を拾い上げる。


「では、また。

 ごきげんよう」


 そして最後に、流れるような仕草でスカートの裾を摘んで一礼すると、音もなく人の群れに混ざる。

 そのまま、初めから存在しなかった幻のように、謎めいた金色の影が消えていく。

 後には、この場に似合わぬ清涼感と淡い薔薇の匂いだけが残された。


「……は」


 ついに耐え切れなくなった卑下た笑みが、武井崎の口元に広がる。

 それをごまかすように口元を右手で拭うが、にやけた笑いは収まらなかった。

 腰に添えた感触を思い出すように手を一度握り、


「最っ高だな、ありゃあ」


 そう唇を舐めながら呟き、彼はグラスのビールに口を付ける。

 そのまま抑え難い野獣のようなの感覚が芯から湧き上がるのをなだめるように、泡立つ液体を体の奥に流し込んだ。




----------------------------------------------------------


「がぁああ離せぇっ!

 あの野郎ぶっ殺す! 殺す!

 微塵に砕いて叩いて踏んで潰してぶっ殺す!!」


「いやだぁああやだやだ兄貴兄貴兄貴ぃいい!」


「落ち着け弟組っ!」


 バンに戻ったハルを待っていたのは、咆哮と絶叫と怒声だった。


「む?」


 アキが警棒を抜いて目をむき出す白獅子モードに、リクが三白眼に涙をためて頭を抱えた泣き虫弟モードになりながらバンから飛び出そうとしているのを、ライカが各々の上着を引っ張って必死で止めている。


「なに騒いでんだ、お前ら。

 おら、怪しまれるからとっとと入れ」


 リクとアキの頭を片手ずつ抑えてバンの中に押し返す。


「あの野郎っ!

 ハルの事、きったねぇ目できったねぇ手で、きったねぇ体でっ!」

「消毒!

 消臭剤!

 制汗剤!

 除菌スプレー!!」


 ハルの手でお座りをさせられているアキが、それでもなお目を見開いて犬歯を歯ぎしりさせながら呻き声をあげ、リクは涙目のまま様々なスプレーを兄に満遍なく浴びせかける。

 アキにとっては飼い主、主人に近い親友、リクにとっては言うまでもなく敬愛すべき兄。

 そんなハルがセクハラされたのが、彼らには耐え難いようだ。

 当のハルは先程の対応で表情筋力を使い果たしたのか、いつもの能面に疲れた色を浮かべるだけだった。


「うるせぇし冷てぇよ。

 しっかりしろお前ら、冷静に考えろ。

 女と思い込んで男のケツ触ってんだぜ、あのバカ。

 損してんのはアイツの方じゃねぇか」


 ケツぐらい減るもんじゃねぇとばかりにハルは鼻で笑うが、二人は納得しない。

 リクは座ったまま足をバタバタさせて地団太を踏む。


「兄貴が男だろうが女だろうがネコだろうがミジンコだろうが、兄貴は兄貴で兄貴のケツだから触った野郎は滅菌処理されるべきなんですよ!」

「意味分かんねぇよ。

 なんで敬語なんだよ」

「ぐるる……」

「アキ、お前も良い子だから怒んねぇの。

 ほら、良いもん持ってきたぜ?」


 完全にお兄ちゃんモードになりながら二人をなだめつつ、ハルがショルダーバッグに手を入れて、ハンカチに包まれたグラスを取りだす。


「あ、それって」


 正気に戻りながらも、未だ涙目のリクが指をさす。

 つい先程見た覚えがある、確か武井崎が飲んでいたビールのグラスだ。


「お前が武井崎大輝にぶつかって零したグラス。

 新しいビールを頼む時に回収させてもらおうと思って、頼んでおいたんだ。

 こいつで指紋の照合ができるだろ?」

「頼んでおいたっていつの間に……。

 あぁ、もしかして札渡す時か?」

「そう。

 たたんだ札の中にメモ挟んでおいたんだ」


 新しいビールを頼む時の情景を、唯一冷静だったライカが思い出す。


「でもよ、よくそんな頼み事が通ったな。

 普通怪しまれるだろ」


 疑問を口に出すと、ハルがグラス越しにライカを見ながら答える。


「あのバーテンは巳堂悟の差し金だ。

 ま、勿論金も渡してるけどな」

「ミドウサトル……?」


 聞き覚えのない名前にリクが首を捻る。

 ハルは話していなかったか、と同じように首を捻る。


「ん? あぁ、アイツだよ、ほら。

 お前らを公園で襲ったバイク野郎」

「え!?」


 クーガ一味の一人かとリクは考えていたが、どうやらそうではなく、しかも彼も知っている意外な人物だった。

 コードサーチに公園に訪れたリクとミズキを襲った、黒ずくめのバイク男。

 アキとハルに返り討ちにされ、街から出ていったと思っていた。


 ハルは続ける。


「あの後、ミドウさんが『Ripper』から報復されてねぇか確かめに行ったんだ。

 そっちの方は大丈夫だったんだが、やたら恩を感じているみたいでな。

 『何かさせろ』ってうるせぇから、あのバーテンやらクラブやらの準備をやらせたんだ」


 ミドウからしてみれば、浅はかな感情から人一人を重症に追いやり、『Ripper』に脅され、殺しも厭わない黒狼のど真ん中に飛び込ませられる生活をしていたのだ。

 なんの言い訳もできない、自業自得の罪と罰。

 終わりの見えない恐怖を終わらせたハルに恩義を感じるのは不思議ではないが、彼自身はそんなミドウの行動が不満で仕方がないらしい。


「……もう関わるな、ってあれほど言ったのになぁ」


 償えるとは思っていない。

 だが自分の犯したことで、未だ誰かが傷ついているのならば、それを止める責任がある。

 そう言って手伝わせてくれと、足元に縋るようにして土下座をしたミドウを、ハルがグラスを見ながら思い出す。

 さすがに『Ripper』に顔が割れているミドウを全面に出すわけにはいかず、代わりに融通がきく人間を一人用意させた。

 特定のチームには属していないが、街にたむろする人間の一人としてそれなりに広く、また成人がほとんどであるミドウの交友関係は、ハルにとって使い勝手の良いものだった。

 移動手段がバイクのミドウ自身も、小回りの効く足として使い勝手が良く、ハルも何度か呼び出している。

 どうやらミドウはそれに嬉々として出動しているらしい。


「……あぁ、また信者が増えた」


 知らぬ間にハルの道具と化していたミドウに、三毛猫のぬいぐるみからカイがぼそりと嘆く。


「そういうことだ。

 このグラスと第一の被害者のメガネ、第二・第三の被害者のカバンを照合して一致すれば、この三人を襲い、掲示板でプレイヤーを脅していた『Ripper』が『武井崎大輝』だと確定できる」


 あくまで物証重視ということか、被害者から集めた証拠と照合するようだ。

 汚さぬようにと、ハルが喋りながらレースのハンカチでグラスを包み込む。


「そもそも指紋の照合を一般市民がやってのけるってのが、まずおかしいんだけどな」

「理系男子はこれくらいできなかったら、帰り道に脳天割られるんですよ。

 ナメないでいただきたい!

 あとはDNA検査ができる設備があれば、最っ高なのになぁ!」


 もっともな疑問を口にしたライカに、どうやら照合担当らしいカイがテンション高く答える。

 あのカイが一体どんな顔で喋っているのか考えようとして、想像の後に首を振ってやめたリクに、ハルが証拠のグラスを向けて問うてくる。


「それでリク。

 お前を襲った男は、ヤツだったか?」

「あぁ、間違いない。あの匂いだ」


 むせるほどに鼻に残る粘っこい感触をリクは思い返す。

 ハルがこくりと頷く。


「そうか。

 これでグラスの指紋が被害者の持ち物に残されたものと同一ならば、リクを襲った男と『Ripper』が武井崎という男に繋がる。

 だがこの男、これだけか……?」

「兄貴?」


 スカートのまま胡座をかいて、ハルが何か呟きながら考え込む。

 先程、武井崎という男を目の前にして何か思うことがあったようだ。

 そんな兄の様子をリクが覗き込む。


「……いや、『今』は関係ない話だな。

 それよりリク」

「うん?」


 そして頭を切り替えるように、ハルは軽く胸の前で手を叩く。


「そろそろタイムラグが終わる時間じゃないのか?

 第九問目が届いているはずだろ」


 そう言って首を傾げているリクに目を向ける。

 ハッとしてリクは自分の携帯端末を引っ張り出す。

 一日以上に及ぶ、ネイビスのディーラーによるタイムラグ。

 それがやっと終わり、ゲームが再び開始される。


「んー……あ、来てる!

 ちょうど十分前だ」


 どうやらハルの尻云々で喚いていた時間に問題が送られてきていたらしい。


 ネイビス:第九問目


 カイが言っていた。

 問題が難しい程、『Ripper』や『BlueButterfly』が優勝してしまう可能性がある。

 最後に向かえば向かうほど、大事な問題だ。


 さっそく端末を操作して、リクが画面に問題を映す。


「どれどれ。

 ………。


 …………え?」


 そして首を捻る。

 捻るというよりも、真横から画像を覗き込むように傾けている。

 

 リクのおかしな動作に、ネイビスの第九問目が気になりだした面々が群がる。 


「ん?」

「どうした?」

「どれ? どれどれ?」


 ハル、アキ、ライカに向かって、リクが件の問題が表示された画面を向ける。


「………。

 …………ん?」


 そして三人ともリクと同じように、真横に首を傾げる。


「……なんだ、これ?」


 そこに映っていたのは、一枚の写真だった。

 だが、いつものようにコードサーチという訳ではなさそうだ。


 写真に映っていたのは、スーパーで見かけるような、ごく一般的なプラスチック容器に入ったサラダ油。

 それだけでも訳がわからないのだが、


「逆さま?」


 そのサラダ油が、上下逆さまの状態で映されていた。

 逆さまの油。

 そして回答の数字は、『???』と三桁分用意されている。


「こりゃまた、随分と……」

「難問、きちゃったかなぁ」


 今までとは一風違うネイビスの第九問目に、八柄兄弟が顔を見合わせた。

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