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「そうだな。続きは?」
「セクションの基本は、ディーラーが問題を出す。
プレイヤーが答えをメールで送信する。
それが正解ならばディーラーから新しい問題が来る。
間違いならば、その旨がプレイヤーに伝えられます。
ゲーム進行に不都合が生じた場合、ディーラーはタイムラグを発生させることができます。
このタイムラグは頻繁に使うと上位プレイヤーから批判が起こるため、実際はあまり使用されないようですがね」
「ディーラーが出す問題って、なんでもいいのか?」
いつの間にかスクリーンの隣にホワイトボードに移動し、マジックを指で回しながらアキが尋ねる。
「基本的には暗号、つまりコードだそうです」
「暗号?」
「えぇ。これがコードハントと呼ばれるもう一つの理由みたいですね。
暗号といっても色々ありまして、ただの数字が羅列したコードが送られ、それを意味のある単語になしたり、逆にある単語を虫食いの暗号にして、穴埋めをさせたり。
要するに謎解きクイズみたいなものですわ。
あとポピュラーなのは、コードサーチと呼ばれるものですね」
「字の如くなら、どこかに隠されたコードを探し当てるのか?」
アキに変わってハルが問うと、クリスがスピーカーの向こうから正解です、と告げる。
「ヒントとなる写真が送られてきて、その場所を探しあげたらコードが書かれている、という感じらしいですわ。
試験管なら理科実験室、モーツァルトなら音楽室、といったふうに」
「ネイビスはどのタイプなんだ?」
「今のところは、クイズ形式とコードサーチの両方が出題されてます」
ハルの後ろの白兎が答え、そして続ける。
「さて、ゲームに関しても簡単にこれくらいにしておきましょうか。その他何か質問は?」
ひと通りのゲームの説明が終わり、クリスが再び質問を募る。
最初に口を開いたのはアキだった。
「サポーターって何? 今までの話で出て来なかったけど、一番初めに言ってただろ?」
ホワイトボードには【ディーラー】と【プレイヤー】のやり取りが簡単な説明と矢印で描かれているが、サポーターに関しては空白のままだ。
そこをとんとん、とマジックでアキが叩く。
「字の通りですよ。プレイヤーを支援する役割です。
勿論お金、というかポイントは取りますけどね」
クリスの答えに、ホワイトボードを上目遣いで見ながらハルが続ける。
「多額の優勝賞金を得られるプレイヤーは一人だが、サポーターになれば小金でも確実に稼げるってわけか」
「はい。
大抵は自分が解いた問題の答えを、まだ解けていないプレイヤーに教える、という立場の一時的サポーターです。
ゲーム開始時点では、ちょっと良い小遣い稼ぎ程度にはなるみたいですよ」
「だろうな。
逆に終盤は自分が追い抜かれる可能性もあるから、サポーターの数は減るってわけだ」
「その通りです」
「一時的なサポーターがほとんどってことは、永続的なサポーターも少なからずいるってことか?」
「えぇ多少は。大抵の場合は、お互い知り合いの場合ですね。
いわゆる共同戦線です。一人がプレイヤーで、もう一人がサポーターになる。
優勝したら賞金は山分け」
「確かに、知らない人とは組みたくないな。賞金持ち逃げされたら嫌だし」
アキがうんうん、と一人で納得している。
『サポーター』についてまとめると、自分の解いた問題の答えを他のプレイヤーにポイントで売る、一時的なサポーターと、共同戦線という形でゲーム中に他のプレイヤーと協力する、永続的なサポーターの二つにわかれるらしい。
アキがホワイトボードに追記する。
「そんなところです。さて、他には?」
「はいはいー」
促したクリスに、カイがひょろりと長い腕を振る。
「どうしました?」
「『ネイビス』ってなんだ?」
「何、とは?」
「意味。聞きなれない単語だから」
「えぇ……確かにあまり耳にはしませんわね」
予想外の質問にクリスが返事に窮する。代わりにハルが答える。
「英語辞書的な意味で言えば、『身廊』」
「しんろー……?」
日本語訳もまた聞き慣れぬ単語だったのか、カイが聞き返す。
「一般的に教会建築で使われる用語だ。
寺や神社にも、いわゆる聖域視される一番大事な場所ってあるだろ?
教会も同じだ。
教会の場合、そこに続く通路が何本かあるんだが、その中で最も中央に位置しているのが、『身廊』といわれる通路だ」
「聖域に続く中央の道、ってことか。聖域が賞金で、プレイヤーが通る道が『ネイビス』?」
アキが聞くとハルが軽く首を傾げて答える。
「さぁな。
語源の方はラテン語で『船』だから、そこから取ったのかもしれないし、全く関係かもしれないし、意味なんて無いのかもしれない」
「名は体を表す。ネイビスを始めた『ディーラー』のことも何か分かるかと思ったんだが」
「気になりますわね」
「そこら辺は、関係有りそうならおいおい詰めていくさ」
ハルが後ろのウサギに向かってひらひらと手の平を振る。
「さて、コードハントやネイビスについてはよろしいでしょうか?
また何か出て来ましたら、私の方までお尋ねください」
まるでオペレーターのような物言いで、クリスが説明の場を閉める。
それと同時に、ドラム缶の上で胡座をかいていたアキが、待ってましたとばかりにぴょんと飛び降りて手を挙げる。
「じゃ俺! 次俺だね!」
アキは小走りにスクリーンの前に立つと、腰に括りつけていたサイドバックから手のひらサイズの革手帳を取り出す。
「何を調べさせたんだ?」
先ほどまでスクリーンの上を行き来していた指し棒を指の上で回しながらカイが言う。
「陽光の切り裂き魔の噂とか、その他諸々。
噂に疎いリクでも知ってるなら、他のやつも何かと知ってるんじゃないかと思ってな。
……で、どうだった? アキ」
ハルがアキの声の大きさに、イヤホンから流れる音楽の大きさを微調整しながら尋ねる。
するとアキは開いたばかりの手帳を、満面の笑みで乾いた音を立てて閉じて答える。
「特になし!」
「死ね」
「きゃんっ!」
パソコン側から飛んできた指し棒が、得意満面の笑みを浮かべたアキのこめかみを直撃する。
「何を得意げに。真面目にやれ、鳥頭」
「真面目にやったぞ! だけどハルが言った以上のことは、誰も知らなかったんだよ!」
「そこを掘り下げるのがお前の役目だ。なぜ収穫なしで帰ってきた」
「俺はお前と違って外駆けずり回ってんだよ! 引きこもってるお前とは違うんだ!」
「俺は頭脳労働だ。エネルギーの使いドコロが違う」
頭を抑えて怒鳴るアキと、予備の指し棒を取り出して更に投げようと構えるカイ。
「やめなさい。精密機器が多いんだから暴れるんじゃねぇよ」
二本目の指し棒がアキの額に跳ね返ったところで、どことなくお兄ちゃん口調のハルが止めに入る。
勿論口だけで、体を張ろうとはしないが。
「陽光の連中に直接聞いてきたのか?」
「そうだよ。昨日の今日だったから、学校帰りの捕まえてさ」
額をさすりながらアキが、縋るようにハルを見ながら質問に一つずつ答える。
「それで『Ripper』と名乗るプレイヤーが、他のプレイヤーを賞金目的に脅迫して襲ってるって?」
「そうそう」
「それだけか?」
「イエッサ!」
「役立たず」
ハルの問いに敬礼で答えたアキに、カイの三本目の差し棒がヒットする。
「落ち着けよカイ。情報が無いってのも大事な情報だ」
ついに予備の指し棒を全部ドラム缶の上に並べだしたカイが、ハルのその言葉で思いとどまる。
ハルが立てた膝に頬杖をついて続ける。
「アキ、二つ質問だ。
まず一つ目、リクを脅迫していた類の脅迫については?」
「[ゲームを辞めるな]ってやつ? なかったな。『Ripper』の切り裂き事件ばっかり」
「そう。それじゃもう一つ。
カイ、お前にも聞きたいんだが」
投げつけていた指し棒の回収をしていたカイにハルが視線を向ける。
「何?」
「お前、この数時間ほど掲示板覗いたか?」
「いや、最後に見たのは午前中、だったか」
ハルの質問に顎に指を当てて首をひねるカイ。
「ちょっと開いてみな? 面白いことになってるぜ」
「ん」
ドラム缶上のノート型コンピューターを再び操作して、掲示板をスクリーンに表示させる。
掲示板の仕組みは簡単なもので、一つのコメントに対して、ツリー式にコメントを付けられるというものである。
ツリーのコメント数が表示されるので、その時一番話題となっているコメントがどのようなものか、ひと目で分かるようになっていた。
カイの操作により、現在の掲示板の中で最も話題となっているコメントにポインタが運ばれる。
「えっと、題名は【サポーター宣言】?
……本文が[プレイヤーを棄権して、本日よりRipperのサポーターに転換。皆様のご健闘をお祈りします]?
なんだこれは?」
眉をひそめるカイがハルを見る。
いつもどおり無表情なはずのハルの表情が、カイにはどこか意味深に見えた。
「その投稿者はコードハント:ネイビスの暫定一位だ」
ハルの言葉を聞いたクリスが事態をまとめる。
「その暫定一位さんが、『Ripper』の……先ほどの言葉を借りるなら、永続的なサポーターになるってことですよね。
つまり『Ripper』がコードハント:ネイビスの一位になるということですか?」
「そうだ」
頬杖をついた方の指をスクリーンに向けてハルが続ける。
「が、そこは今はいい。問題はその投稿者だ。見てみろ」
コメントに添えられた投稿者名に全員の視線が注がれる。
そしてその視線がそのままハルに戻ってくる。
アキとカイ、おそらく顔の見えないクリスも、目を開いて眉を寄せるという顔全面に疑問を押し出した表情を見せる。
「ハル、これって」
スクリーンの投稿者『BlueButterfly』をマジックで差しながら、アキが問う。
だが視線を受けても表情ひとつ変えずに、ハルは口だけを静かに動かした。
「アキ、もうひとつの質問だ。
最近の『BlueButterfly』について、何か情報は得られたか?」
「う、ううん。それも聞かなかったよ」
「そう」
アキの答えに納得したように、ハルは軽く目を閉じて小さく縦に首を振る。
そしてその目が薄く開かれたとき、暗く濁った眼の奥に、異様な光が宿った。
頬杖をついていない方の手が、彼の顔の前に上がり、人差し指だけが立てられる。
「……コードハント:ネイビスのプレイヤー脅迫し、ゲームを辞めさせようとする『Ripper』」
全員の視線がその指に集まる。
続けてハルは中指も立てる。
「それとは逆に、ゲームを続けさせようとする『第2の脅迫者』」
最後に細い薬指がゆっくりと持ち上がる。
「そしてこの街に棲むシリアルキラー、『青い蝶』……『BlueButterfly』を名乗るサポーター」
そこまで言って、彼は両方の口角をわずかに上げる。
人形のように張り付いた顔に新しく刻まれた表情には、大人のような狡猾性の中に、どこか幼い残酷性を潜ませているように見えた。
「一つのゲームに三人の切り裂き魔、か。今回は大量だな?」
立てられた細い三本の指越しに、まるでそこにいない誰かに話しかけるかのように、薄く開かれた口から冷たく言葉が吐かれた。




