表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/88

1-13

 リッパーズ・ストリートは新しい街だ。

 ゆえに現在に至るまで混沌とした空気がそこここに流れ、時に澱んで溜まりやすい。

 そのせいだろうか、街に出れば数多くの事件に当たる。

 それこそ行方不明のペットから始まり、ひったくりに恐喝暴行、売春、ドラック、そしてこの街特有といっても良いほど多い、切り裂き事件。

 ガレージのメンバーは、ハルを中心にこれらの中でも凶悪事件、主に切り裂き事件を調査するために集められた。

 そこには彼ら一人一人の動機、そして共有された一つの秘密が存在する。

 今回の事件の対象は、陽光学園内のコードハントに関する切り裂き事件である。


「この二週間で二つの切り裂き事件が起こった。

 被害者はどちらも陽光学園の男子高校生で二年。

 二つの事件の関連性について調べたところ、コードハントというゲームが関わっているということは、二人目の被害者が出た時点で分かっていた。

 このコードハントについては、後でクリスが話す」


 まるでスパイドラマの司令官のように、淡々と切り裂き事件の要点についてハルが話す。

 途中で名前が呼ばれたクリスは、うさぎのスピーカーを通して、よろしくお願いいたします、と挨拶をする。


「被害者のうち、一人目の白沢透は左上腕を切りつけられただけの軽傷。

 二人目、相田誠治は同じく左腕を切られ、その上で数箇所殴られたようだ。

 どうやら抵抗したことに対して逆上したらしいな。こちらも命に別条はない。

 犯人像について、二人共革ジャンと目出し帽を着た男、と証言している。

 身長は彼らよりも大柄、おそらく一八〇センチ前後といったところだ」

「クソオタクと同じくらいか。平均よりは高めだね」


 クソオタクとはアキが兄を呼ぶ蔑称である。

 ほかにもアホオタク、根暗オタクと馬鹿にして、名前や兄として呼ぶことは決してない。

 そんなアキが、自分の目線よりも高い位置に手の平を置いて、犯人の身長を推測する。


「この二人を襲った切り裂き魔はゲーム内で『Ripper』と名乗り、ゲームを辞めるようにプレイヤーを脅している人物と考えられる」

「脅迫者と切り裂き魔が別人ってことは?」


 再びアキが口を挟む。


「勿論その可能性も捨ててはいない」

「ふぅん、暗号ゲームかぁ。

 事件としては面白そうだけど、ハルの興味を惹く程じゃない気がするなぁ」


 ハルの答えに、アキが頭の後ろで手を組みながら呟く。


「この事件については少し違和感があるんだ。

 それは置いておいて、次の事件。


 昨日、切り裂き事件ではないが、このゲームの関係者がまた一人襲われている。

 被害者は東山瑞樹、陽光学園一年で俺の弟の友人。

 撮影スタジオにあったライトの下敷きとなったそうだ。

 彼と弟もコードハントのプレイヤーであるが、[ゲームを辞めろ]と脅迫をしてきた『Ripper』とは逆の、すなわち[ゲームをクリアしろ]という脅迫状を受け取っている。

 コイツ……分かりにくいから『第二の脅迫者』としておくが、この『第二の脅迫者』に襲われたものと考えられる」

「『Ripper』と真逆の脅迫。

 ということは、『Ripper』と『第二の脅迫者』は別人と考えてよろしいのでしょうか。

 やり口も『Ripper』とは違いますもの」


 後ろのスピーカーから、クリスが遠慮がちな声で質問を投げかける。


「それも今の段階は保留だな。

 実は同一人物、という線も捨ててはいないが、現段階では別人と考えておく。

 以上が昨日までに起こったコードハントの切り裂き事件の概要だ。

 まず、ゲームに関することを知っておいたほうがいいだろう。

 ……クリス」

「はい、かしこまりました。カイさん、画面操作の方をお願い致しますね」


 ハルが視線を向けると、スクリーンの横に立っていたカイが、パソコンを操作してスクリーンにパソコンのデスクトップ画面を映し出す。


「では、カイさんと私が集めた情報を、実際にプレイしてみた経験も含めて伝えさせていただきます。

 まずは『コードハント』について軽く触れておきましょう」


 彼女の言葉とともにスクリーンの画面が、とあるサイトのトップページを映し出す。

 スクリーンにはやたらリアルに描かれたウェスタン・ドアが映される。


「このコードハントにおける、一般的な役割は三つです。

 『ディーラー』と『プレイヤー』と『サポーター』。

 まぁそれぞれその名の通りなのですが」


 サイト上の扉を通過して映されたのは、いくつかの選択肢だった。

 ポインタは『酒場』を示す。


「まず、ディーラーがコードハントのルールに乗っ取ったゲーム、セクションと呼ばれるものを用意します。

 提示するのは賞金額と参加費と問題数。

 そしてそれを見て、プレイヤーがそのセクションに参加するかどうかを決めます。

 プレイヤーは各ディーラーの用意したセクションを選んで、自分のコードネームとメールアドレスを登録し、参加費を払ったらゲームスタート。

 ……ここまででご質問は?」

「しつもーん」


 ドラム缶の上でグラグラと上半身を揺らしながら、アキが手を挙げる。


「どうぞ」

「そのディーラーとかプレイヤーって誰でもなれるのか?」

「誰でもなれます。

 セクションを提供する側のディーラーでさえ、登録さえすればオッケーです。

 ディーラーは問題を登録するだけで、あとはシステムがプレイヤーの答え合わせと次の問題の配布を自動でやってくれる親切設計になってます。

 あ、ただしセクションの進行に不備等が生じた場合に、タイムラグを発生させて、問題の配布を遅らせるということもディーラーの特権ですね。

 ……他には?」


 ウサギのぬいぐるみから、ギギっと内臓カメラが動く音がする。


「はいはい、もう一個。参加費とか賞金ってのはどうやってやり取りするんだ?」


 続けてアキが、西部劇で出てくる酒場のものを模したであろうカウンターの上に置かれたグラスを見ながら言う。

 グラスにはそれぞれ、ディーラー名と賞金額が書き込まれている。

 このどれかを選択すれば、詳しいセクション情報が表示されるようだ。

 水滴付のなかなか凝った造りのグラスに書かれた賞金は三千円程度が平均、高くて一万円というセクションの中において、十五万円という数字は明らかに目立っている。


「電子マネーです。購買や学食、定期等々陽光学園内でのみ使われるものですね。

 構内に電子マネーをチャージする端末がありまして、タッチで直接チャージする方法と、発行されるコードを各々の学生が端末に打ち込んで、その端末にチャージさせるという二つの方法があります。

 プレイヤー側はこの時に発行されるコードをディーラーに送るのです。

 そしてそれをディーラーが確認したら、一番初めの問題が送られてくる、という流れですね」

「ディーラーからプレイヤーに贈られる賞金も、その流れでいいのか?」


 スクリーン横のカイからも質問が飛んでくる。


「えぇ。基本的にはこのコードを使ってのやりとりとなります。

 これが『コードハント』と呼ばれる一つの所以となってるみたいですね。

 ハル様はなにかありますか?」


 クリスに促され、ハルがソファに胡座に座り直す。

 少しばかり顔を右に傾け、細い指を顎に当てて口を開く。

 何を言うのかと全員がハルに注目するが、その口から出たのは意外な言葉だった。


「このゲームを知ってからずっと考えていたんだ。

 ……なんというか、ゲームとしておかしくないか? これ」

「そんな根本的部分からの駄目出し!?」


 ずばりと言われた一言に、アキが思わずのけぞる。

 しかし表情を変えずにハルが続ける。


「こいつら、何がしたいんだ?」

「そりゃ、賞金が欲しいんじゃないのか?」

「プレイヤーはな。ディーラーは?」

「ディーラーは……うぅむ」


 問い返されたアキが腕を組んで唸る。


「参加費目当てでは? 参加者が多いほど参加費が集まるようですし」


 代わりにクリスが答える。


「だったら、なぜ賞金を払うんだ」

「なんでって、そういうゲームだからじゃないの?」


 ハルが何を言いたいのか分からず混乱しながら、アキが答える。


「ゲームを純粋に楽しみたいなら分かるさ。

 だが、こいつらはどっちも金目当てがほとんどじゃねぇか」

「えっと、つまり……ハルは何が言いたいんだ?」


 ついに首をひねるアキを見て、ハルが胡座を解き、足を投げ出すようにして座る。


「少しは頭を使えよ。

 俺だったらディーラーとなり、割と低めの参加費と超高額賞金でセクションの登録する。

 そしてそれに惹かれたアホどもが参加費を投げ打って俺のセクションに参加してきたのを見たら、頃合いを見計らって逃げる。

 もちろん、金だけ持って」

「ゲスいよ!」


 アキから非難が飛ぶ。だが、意にも介さずハルが続ける。


「だが金が欲しいならそれが一番手っ取り早いだろ?

 なんせディーラーになるのに制約なんていらない上に匿名なんだから。

 だが、ゲームとして成立しているということは、ディーラーたちが過去にちゃんと賞金を払ってきてるということだ」

「そこなんだ」


 黙っていたカイが、意を得たりと人差し指をハルに向ける。


「元々このゲームは身内でやってたらしい。

 それが段々と広がり、このように一つのサイトを介して匿名の参加者があつまったという歴史を持っている。

 そうなると当然、ハル君が言ったような悪意あるディーラーも登場してくる」


 カイが指を額に当てて、嘆かわしいと言わんばかりにため息をつきながら続ける。


「はじめの頃は、純粋にゲームを楽しんでいたプレイヤーばかりだった。

 でも、そういうルール違反をして金を稼ぐディーラーの横暴が蔓延り、このコードハントの興隆は最近じゃ低迷の一途を辿っていた。

 プレイヤー側が完全にディーラーを信用しなくなったんだ」

「だろうな。

 それが今回のコードハント:ネイビスで息を吹き返したってことは……つまり、無かったのか? 

 ……それとも」


 考えるように眉を寄せるハルに、カイが短く答える。


「そう、無かった」

「でもそれって、もっとおかしいんじゃないか?」

「そうだ」


 カイがハルに頷く。


「『無い』って、なんだよー。二人だけで分かるのはズルいぞ!」


 アキがまたグラグラと上半身を揺らして不機嫌を主張する。


「だから、無かったんだろ。参加費が」


 そんな彼に、短くハルが答える。


「んん?」

「あぁ、なるほど。改めて言われてみれば、確かにちょっとおかしいですわね」


 スピーカーからも疑問符が飛んでくる。

 どうやら話の筋が見えていないのは、アキだけのようだ。


「なにがおかしいんだ?

 コードハント:ネイビスは参加費無料で優勝者は十五万もらえる。

 仮にディーラーが逃げても、プレイヤーは損をしない。

 だから今回またコードハントの参加者が増えたってことだろ?」


 アキが眉を寄せながらハルに問う。


「さっき言ったばっかりじゃねぇか。こいつらは金が欲しいんだぞ。

 仮に賞金額が五千円、参加費が三百円くらいの、[そこそこの賞金額]と[低参加費]という設定ならば参加者が多くなり、そのプレイヤー分が乗算されていって、ディーラー側にも賞金額と同等かそれ以上の金が入ってくる。

 プレイヤー側も、これくらいなら騙されてもいいや、って額があるからな。

 そこに上手く合わせれば、そのセクションはどちらも得をする可能性がある」

「ふむふむ」


 ハルがアキに分かりやすく、コードハントというゲームの仕組みを説明する。

 プレイヤーとディーラーが両方儲けを出すためには、いかにプレイヤー側が納得の行く参加費と賞金額を用意するか、が重要という話である。

 彼はその流れで、今回のコードハント:ネイビスの非合理性を説明する。


「だが、今回のセクションは[賞金額十五万]に[参加費ゼロ]だ。

 プレイヤーは失うものがない上に、上手く行けば賞金十五万。

 だがどうだ、一方のディーラーが一文も得をしてない」

「あ、そうか。なるほどー」


 アキが納得したように今度は縦に首を大きく振る。


「俺だったら、たかだか十五万程度に踊らされて競い合うアホどもを見て鼻で笑う、というメリットがあるけどな」

「なんでハルは、発想がいつもゲスいんだよ」


 間髪入れずに最低な遊び方を思いつくハル。


「つまりハル様。

 コードハント:ネイビスの『ディーラー』の目的は、お金ではない、ということでよろしいのでしょうか」

「そうだろうな」


 スピーカーからの問いに短く答える。


「金じゃないなら、なんだ?」

「今は分からん。というよりも選択肢がありすぎて絞り切れない。

 やっぱり賞金なんて用意してませんでしたー、みたいな愉快犯な可能性も大きい」


 ハルがブーツのままソファに膝を立てて、アキの質問に答える。

 彼の疑問がひとまず落ち着いたところを見計らって、クリスが他のメンバーに声をかける。


「話が大分それましたが、大体のゲームの流れはわかっていただけたでしょうか?」


 スクリーンの矢印ポインタはコードハント:ネイビスのグラスの上に置かれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ