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3 学校にも行かず、あてもなく



 担任の教師から失踪した二人を探すよう依頼された翌日から、僕は学校へ行くのを止めた。制服を着て、心なしか豪華になった弁当をかばんに入れ、玄関を出る。けれど行く先はまばらだった。家は山のふもとの住宅地にあって、小学校すら歩いたら三十分かかるような場所だから、まずは自転車で走る方向は通学路と同じだ。そこからなるべく無感動に努めていつもと違う曲がり角でハンドルを切った。初日はサボりの罪悪感から、ずっと自転車に乗って市街を走り回っていた。ショッピングセンターやファミレス、家電量販店、パチンコ屋が並ぶ通りを当てもなく走らせながら、居るはずのない二人の影を探した。昼を図書館の隅のベンチで食べ、また夕方まで自転車を走らせた。疲労に体が覆われた後で、自分は明日も学校へ行くつもりがないのだと悟った。楓も岬もサボっているのに、どうして自分が行かなくちゃいけないのか、と。

 翌日はショッピングセンターに出かけ、各店舗をくまなく回った。警察官がいて補導されないか心配だったが、それはなかった。代わりに私服を来た同い年くらいの髪を染めた二人組からカツアゲに遭った。ゲームセンターで所在なくコインゲームをしていると、声を掛けられオンライン麻雀コーナーの裏に連れて行かれた。喧嘩では到底勝てなさそうになかったが、粘って反抗していると小銭を巻き上げられるだけで済んだ。もし楓がいたら言ってやるところだ。知ってたか?カツアゲって値切れるんだぜ、と。

 ショッピングセンターを離れると、急に恐怖感が胸に迫ってきて、先ほどの二人組が背後からつけていないか不安になった。弁当を食べ終わると、途方もない疲労に襲われた。今日は市街をやたら排気音の大きな車が走り回っている。サーキットの方へ向かっているようだ。変な尻をしたカエル顔の丸目ライトや、赤くて妙に扁平な跳ね馬バッヂの車が何台も通りかかる。サーキットのあるこの街では、走行会がある日はこうして似たジャンルの車が何台も列をなした。遠くで唸る排気音が市街のそこかしこから響き、耳に煩わしい。余計に自転車を漕ぐ体に疲労を感じた。

 次の日にはガラの悪い連中を避けるために図書館に行った。各フロアを形だけ見回るが、もちろん岬も楓もいない。電子端末の検索コーナーで、二人に関係する事を片っ端からキーワード入力した。同性愛や駆け落ち、不登校、留年、それから彼女たちの名前。具体的なキーワードで検索しても、表示された題名のリストを見るだけで気が滅入った。結局手に取ったのは、植物としての楓について書かれた造園関係の本だった。楓は接ぎ木で増やす。直径二ミリ程度の枝を接ぎ穂とし、台木となる株に特殊な接合をして括り付け、一体化させる。細かい接合の仕方や括り付ける方法を頭に入れていると、自分が学校をさぼっている事や二人が失踪している事をひとときの間忘れておくことができた。

 やがて学校付近にいるだけで気を揉むようになり、電車で遠くに行くようになった。コンビナートの夜景を一人で眺めに行って夜風に震えた。日本有数の水族館に出かけて一日中ペンギンを眺めた。県境にある巨大な遊園地に行こうとしたが、さすがに馬鹿馬鹿しくなって、近くを流れる巨大な河のほとりにたたずんだ。時折釣りの老人が通り掛かったが、離れたところで釣竿を振るだけだった。二月の心もとない日差しの中で、海と半分混ざり合った広い水面が流れていくのを日が沈むまで見ていた。

 家に帰ると、今日何したかを楓と岬にメールに書いて送った。返事は来なかった。駆け落ちした二人が僕の放浪をどう見るか、まるで想像はつかない。あるいは、あてつけのように思うかもしれなかったが、毎日欠かさず送り続けた。家にいる間に何もしないでいると苦しかったし、今日一日が無価値だったと思いたくなかった。メールを送信してしまうと、今日一日のやるべきことがきちんとなされたように思えた。


 土曜日の早朝、スマートフォンが鳴った。岬からの返事だった。今から待ち合わせしないかと伝えている。

 失踪から二週間ばかりが経っていた。

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