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新人冒険者、外国人さんと戯れる-4




 抜身の短剣を手にしたまま、ズイーも走り出している。


「こっちでさあ」

「休憩はいらない!?」

「救える命のためなら、肺が破れたって駆け続けて見せまさあっ!」

「ああもう、気に入った! もう仲間扱いすっからね! 態度が気安いって苦情は受け付けないよっ!」

「恐悦至極っ!」


 森は深い。

 モンスターの闊歩するこの世界、このような森に分け入っての狩りなど、よほど腕の良い冒険者パーティーでもなければただの自殺行為だ。

 常人なら足を取られてマトモに歩くのもムリな下草を、ズイーが蹴散らして走る。

 続くリーミヤは弓を収納して剣を抜いていて、ジャスやザースのジャマになりそうな枝を切り払っているというのに、走る速度は皆と変わらない。


「海軍の旦那、陸は苦手だろう。速度を落とすように言うかい?」

「なんの。陸で誰よりも駆け続けられるからこそ、海軍を預けられているのですっ!」


 走り続けて10分ほど。

 森の中にぽっかりと出来ている空き地のような場所で、先頭を走っていたズイーが足を止める。

 空き地には腕組みをして煙管を燻らせるエーと、周囲を警戒する仲間達がいた。


「ミノタウロスはどうだ?」

「今にも破られちまいそうだねえ」

「・・・チッ」

「うわあ。なにあれ・・・」


 リーミヤの視線の先には、荒く編んだ網のような物に入って木に吊り下げられている何かがいる。

 捕らえられたそれが、ミノタウロスであるのだろう。


「生け捕りかよ。初めて見たぜ・・・」

「そりゃいいんだけどねえ。ほら、アタイらってモンスターを狩るのが仕事じゃないだろう? どうやって止めを刺したモンかとね。必要なのは無傷の肝らしいって話だし」

「海軍の旦那、銛の出番だぜ」

「・・・置いて行けとおっしゃったのはジャス様でしょうに」

「ねえ、あれって少し低い位置に動かせる?」

「そりゃ大丈夫ですが、どのくらいで?」

「立ってる俺が、ミノタウロスの目を覗けるくらい」

「わかりやした。おい、やれ」

「へい。すぐに」

「おいリーミヤ。まさか・・・」


 リーミヤが肩を竦める。


「まずは、俺とおっちゃんの剣で」

「ならいい。俺からやるぞ?」

「うん」


 網は太い枝に引っ掛けて吊るされ、幹に結んで固定されている。

 それをズイーの部下が解いて高さを調節すると、ジャスが歩み寄って荒い網の目の向こうを観察した。


「急所はどこも奥だなあ、かなり。リーミヤ、こりゃもう滅多刺しにしてから網を切って仕留めた方が早えぞ?」

「原始人かって話だけど、仕方ないか。そんじゃ、ザースさんも手伝って」

(銃を使うって言い出すんじゃねえかと心配してたが、そこまで考えなしじゃねえんだな。安心したよ)

(2級の銃、まだ作ってないからねえ。手持ちのじゃ威力不足。あったら迷わず使ったよ)

(あ、危ねえトコだった・・・)


 3人がザクザクと剣で突くたび、ミノタウロスは激しく暴れる。

 ミノタウロスは以前リーミヤが倒したものより大きい。そうなれば、生木など脆いものだ。

 ミシッという嫌な音が全員の耳に届くと、網は大きな音を立てて地面に激突した。


「げえっ」

「散開、前衛は俺とリーミヤ!」

「こうなりゃ気を使うだけムダか。どっこいー、しょっと!」


 担ぐように振り上げた剣の一撃。

 リーミヤの膂力であるから人間なら即死間違いなしだが、ミノタウロスはさらに暴れながら網を引き千切った。


「活きがいいねえ」

「前に狩ったからって油断すんなよ、リーミヤ?」

「とーぜん」

「もうアタイの魔法で焼き尽くすかい?」

「皮も厚いし大丈夫かもだけど、万が一肝まで火が通ったらなあ」

「面倒だねえ。まあ頑張んな。巧くやれたら、おっぱいで挟んでヌイてやるからさ」

「・・・いらないって」

「迷ったのセレスに報告すっからな、リーミヤ」

「おっちゃん!?」

「そっちの騎士サマもさ。なんなら2人同時にかわいがってやるよ? 具合の良さは折り紙つきだ。好きなトコを、好きなように使っていいんだよ?」

「・・・間に合ってるっての」

「はい迷ったー! おっちゃんも迷ったー! セレスに告げ口したら、ダラスさんにも言うからねっ!」

「こっち来た時ゃ、どこにでもいそうな女にしか見えなかったのに。エーつったよな、そのムダに振り撒いてる色気は何なんだよ!?」


 エーが艶然と微笑み、豊かな胸を組んだ腕で強調する。


「これでも抑えてる方なんだけどねえ。顔自体はそんな化粧をしてないんだよ。口説くのに気後れしない程度の美貌で、見るからに好き者。誘えば気軽に誰とでも寝そうな女冒険者。柔らかそうなおっぱいと尻は、痩せた女が好みの男でも一度くらいは抱きたくなる。そんな印象を狙った変装さ。そう見えるかい?」

「ああ、忌々しい事になっ!」


 ジャスがミノタウロスに突っかける。

 その浅い突きを物ともせずに繰り出される太い腕。

 拳を盾でいなされて体勢を崩したミノタウロスは、たたらを踏みながらも何とか転ばずに堪えた。


「いただきっ!」


 リーミヤの剣。

 正確に首を狙って振り下ろされたそれを、ミノタウロスは頭突きでもするようにして立派な角で受け止める。


「ちいっ!」

「まだまだ甘いなあ、リーミヤ」


 ジャスの足払い。

 それがどうした? そんな様子でミノタウロスが腕を振り回す。


「ああもう、オルビス出して挽き肉にしてやりたいっ!」

「肝がダメになるだろうがよ。・・・仕方ねえなあ」

「お、珍しく本気? おっちゃん」

「急いでっからなあ。どら、テメエは死んだぞ。牛」


 ジャスが剣を納める。

 とっておきの武器でも出すのかと目を輝かせるリーミヤだが、その期待は見事に裏切られた。


「オラアッ!」


 盾での殴打。

 そんな攻撃じゃ、そう声を出そうとしたリーミヤは、ミノタウロスが地に膝を付くのを信じられないという面持ちで眺めている。


「うっそーん!?」

「これが金獣騎士の本気、金獣状態ってヤツかい。・・・濡れるねえ」

「柔いなぁ、乳牛かよテメエはっ!」


 拳。

 剣すら弾き返すミノタウロスが、顔面を殴られて大きく仰け反った。


「・・・おっちゃん、ホントに人間?」

「失礼なガキだっ!」


 殴る。

 殴る殴る。

 それは、最も原始的な攻撃方法。

 これではどちらがモンスターかわからない。


「今は持ってないけど、ミノタウロスですら斧とか使うのに・・・」

「盾を使ってんだろうがっ!」

「残り少ない髪を逆立ててモンスターを殴り殺す。うん、街の人に恐れられる訳だ。S級冒険者」

「余計な事を言ってんじゃねえっ。オラ、これで終いだッ!」


 拳で鳩尾を突き上げられたミノタウロスが、ゆっくりと倒れてゆく。

 呆れ顔のリーミヤが念のためにかミノタウロスの頸動脈を斬ると、拳をほぐすようにブラブラさせながらジャスは獰猛な笑顔を浮かべた。


「いやあ、久しぶりに殴った殴った。やっぱ戦闘って言ったらコレだよなあ」

「洗練された剣技が理由で、金獣騎士なんて呼ばれてるんじゃなかったのかあ。ミノタウロス殴り殺すなんて、大陸中でおっちゃんだけじゃね?」


 言いながらリーミヤは、解体ナイフでミノタウロスの腹を捌いている。


「ほっとけ。肝の状態はどうだよ」

「完璧。・・・収納っと。急いで戻ろ。ズイーさん達も乗ってく?」

「お気になさらず。リビングにジャス様を連れ込みそうなバカがおりますので」

「そりゃいいな」

「ズリい、じゃなくて、こんな時に不謹慎な事は許しません。本当にありがとう、みんな。後で珍しいお酒を奢るからねっ。じゃあ、また後でっ!」


 肝だけをアイテムボックスに入れたリーミヤが走り出す。

 モンスターに出会う事もなく森を出た3人は、すぐにオルビスに乗り込んだ。


「何のお役にも立てず・・・」

「ストップ。それを言うなら俺もだよ、ザースさん。それより、病人のいる無人島までどのくらいかかるの?」

「・・・小船で私が届けます」

「間に合うの、それで?」

「・・・い、今はまだ明かせませぬが、この御恩に報いるためにもいずれ」

「ああ。空を飛んで肝だけ運ぶのかあ」

「え・・・」

「おい、リーミヤ。海軍の旦那はバレてねえと思ってんだから」

「ど、どうしてそれを・・・」


 リーミヤが笑いながら紙巻きタバコを出す。

 3人でそれを吸い始めると、リーミヤは表情を引き締めた。


「ねえ、正直に答えて。ザースさんは空を飛べるの?」

「・・・はい」

「無人島まで?」

「それはさすがにムリです。しばらく海を進んでからでなければ」

「昨日の夜中は、ギリギリの飛行だったのか」

「やはり、見られていましたか・・・」

「うん。まあ、あれが人間だとは思わなかったけどね」

「では、なぜあれが私だと?」


 咥えタバコでリーミヤがイタズラっぽく微笑む。


「ミノタウロスを殴り殺す人間を見せられたら、空を飛べる人間がいても不思議じゃないかなあって」

「なるほど。・・・納得しました」

「すんなっての」

「あはは。いいからおっちゃんは、ファウンゼンさんに船への伝言を頼んで」

「そりゃいいが、なんてだよ?」

「ミノタウロスの肝を入手。帆船や小船より速度の出る乗り物で、ザースさんは無人島を目指す。それと、昨夜はベルーナから船上を見張っていたと。それで理解すると思う」

「まさか、オルビスは海の上も走れるってんじゃねえだろうな?」

「可能だけど速度がねえ。備品として、発動機付きのゴムボートを作ってある。そこの砂浜で乗り換えて、そのまま無人島に向かうよ」

「・・・それが何かは知らねえが、どうせロクなモンじゃねえんだろうなあ」

「失礼な」

「オメエほどじゃねえよ」


 リーミヤは速度を落として道を選び、オルビスを砂浜に乗り入れた。

 停車したのは、波打ち際にだいぶ接近してからだ。


「よっし。急がなきゃ急がなきゃ。おっちゃん、荷台からゴムボート降ろすから手伝って」

「あいよ。納得させられるかはわからんが、ファウンゼンには要件を伝えた。海軍の旦那、たぶん念話魔法が来るだろうから、そっちは任せたぜ?」

「はい。・・・と、さっそく来ました」

「みんな仕事が早いねえ」


 リーミヤがジャスの手を借りて荷台の床から出したのは、一抱えほどの機械。

 ゴム製の大きな布のような物が付いていて、リーミヤはそれに荷台の壁から出したロープのような物を接続している。


「なんだこりゃ?」

「見てればわかるよ。コンプレッサー、接続よし。さあ、膨らめー」

「うおっ。な、なんだこりゃ!?」


 ゴムが膨らんで、詰めれば大人が5人も乗れそうなほどに大きくなる。

 ゴムボートというそれと驚くジャスを見て、リーミヤは上機嫌だ。



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