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新人冒険者、外国人さんと戯れる-2




 リーミヤとジャスは葡萄酒を舐め、魚介類のツマミを口に運びながら交易船を見張った。

 だが日が暮れてからは、遠見が可能になる【鷹の目】と夜目が利くようになる【夜鷹の目】を取得したリーミヤにしか闇の海原に浮かぶ交易船は見えない。

 どれほどの時間、ベッドに横たわるジャスの鼾を聞きながら、1人で真っ暗な部屋で窓の外を眺めていただろう。

 リーミヤが眉根を寄せ、闇に目を凝らす。


「・・・起きて、おっちゃん!」

「な、なんだっ!?」

(ズイーさん、交易船の甲板に飛行物体が着艦。そっちから確認できた?)

(チャッカンってのは?)

(ああ、船に下りたって事。で?)

(いえ。酒場にエーを置いてあっしは野営に合流しやしたが、そんなんは見えやせんでした)

(了解。動きがあったら、また知らせますね)

(・・・へい)


 ジャスが起き出し、窓辺のテーブルに移動して飲み残しの葡萄酒を呷る。

 2、3回ほど顔を振ったジャスは、目は覚めたぞとでも言うようにリーミヤを見た。


「飛行物体ってのは?」

「わかんない。【鷹の目】じゃそこまでは。・・・取るか、【機械の目】」

「物騒な名前だな。それもスキルなのかよ?」

「うん。父さんも持ってた。使った事のある機械の視覚的システムを、俺の目でも使えるようになるスキル。似たようなのはたくさんあるんだけど、俺達は母さんのHTAに触った事があるからね。これがベストなんだよ。ミスったなあ。最初から【機械の目】まで伸ばしとけば良かった」


 リーミヤが今ここで使おうとしていたスキルポイントは、ベンタ内戦で手に入れた分だ。

 まずは交易船を見張るのはわかっていたのだから、ベルーナまでの道中にでも【機械の目】を取得していれば。歯噛みするリーミヤだが、時を戻すなどというスキルなどありはしない。

 【機械の目】を取得して船をズームしたリーミヤが目にしたのは、篝火の明かりで文らしき物を読む若い女だ。


「おっちゃん、交渉役って女の人?」

「いつも男のはずだぞ。交易船に女が乗ってるってのか?」

「うん。回りにいる男達より、明らかに身なりが良い。それなりの立場の女の人かも」

「・・・あっちの国の事は、なんもわかってねえ。いつも女を乗せてたのか、それとも今回が特別なのか」

「手紙を届けたみたいだね、あの飛行物体は。正体が気になるけど、航空機製作スキルを取る余裕なんてないしなあ・・・」

「鳥じゃねえのかよ?」

「大きさ的には、成人男性くらい」

「飼い慣らしたホーホーって可能性は?」

「わっかんないねえ。ああ、そんで女の人だけどさ」

「ああ」

「鬼だわ、あれ」

「なんだそりゃ。回りにいる男達を殴りでもしたのか?」

「うんにゃ。ツノがある。それ以外は人間」

「はあっ!?」


 ジャスが絶句する。

 この大陸にも亜人は多いが、ツノのある種族など確認されてはいない。もしかしてこれまで交易していた相手はモンスターのような存在なのではと、そこまでジャスは疑った。


「どうするべきかねえ」

「ってもな。出来る事なんか、そうそうねえぞ・・・」


 相手がモンスターでないにせよ、ツノがある人間が船に乗っているからと交易を拒否すれば、それが戦争の火種にもなりかねない。


「あれ、なんだ?」

「今度はなんだよ・・・」

「舷側から艫が出て来た。風がないから、人力で港を目指すみたい」

「おいおい、こんな夜更けにかよ」

「そうまでしてでも急ぎたい理由があるんだろうね。夜明け前には入港かな」

「・・・なら、こうしちゃいらんねえ。準備をさせるぞ?」

「お願い。出来れば篝火かなんかで、港を煌々と照らして。そうすれば闇に紛れて潜入とか、し難くなるはずだから」

「心得た」


 煙管を出して火を点け、リーミヤはなおも交易船を睨み続ける。


(ズイーさん、いい?)

(動き出しましたなあ、交易船)

(うん。今、おっちゃんが入港の準備に行ってる。港を明るくしてもらうから、そっちに移動して潜入に警戒してもらえます?)

(3人を岩場からの上陸に備えて残し、あっしが港へ。エーも使いまさあ)

(お願い。そんで、ツノのある人間ってのに心当たりないかなあ。あ、セレス達も聞いた事ない?)

(さすがにそんなのは・・・)

(ツノって。本当なの、リーミヤ?)

(うん。【機械の目】まで取って、この目で見た。ツノ以外は人間と変わりない)


 誰もが沈黙する。

 亜人の存在する世界であるから、ツノがあるからバケモノなどという決め付けの声は聞こえない。

 だが、この大陸にいない種族がこれからリーミヤ達と接触するというのは事実なので、どうすればいいか判断できないでいるようだ。


(それで、どうするの?)

(どうもこうも。まずは友好的に挨拶するしかないでしょ)

(バダムです。相手の望みが交易でなかった場合が問題となりますな)

(謎の飛行物体が船に手紙を届けて、それからすぐに港に向かって動き出した。よっぽどの事が起こってるのかもねえ)

(海の向こうで、ですか。・・・援軍の要請などされたなら、どうするのです?)

(あっちでも内戦って可能性かあ。俺とオルビスだけを10日くらいまでなら、まあ出してもいいかなあ。月を跨ぐようだと、こっちが心配)

(・・・本気なの、リーミヤ?)

(相手の出方次第だけどね。自分達の国の位置すら、あっちは隠し続けてるって話だもん。そんな付き合いのまま援軍を出せなんて言ってきたら、まずは鼻で笑ってやるよ)


 やりすぎないでよ、とセレスが呟くように言う。だがもしそうなれば、リーミヤなら礼儀もわからぬのかと交渉役を扱き下ろし、尻を蹴って船に帰すくらいはやりそうだ。

 それを知ってか、サーミィがベルーナに着いて行かなかった事を悔しがっている。

 リーミヤの言葉通り、交易船は夜明け前に明かりの灯る港に入った。

 アィダーヌには大型船がないので、桟橋も交易船を着けられるような規模のものはない。交易船は湾内に錨を下ろし、海面に1艘の小船を降ろした。

 舷側から垂らしたロープを使い、中年の男がそれに乗り移る。


「身のこなしは、船乗りって言うより武人だね。おっちゃんやバンズールさんには届かないけど、それなりの腕だ。ツノのある美人さんは、あれから甲板には出て来てない。さて、どんな目的でわざわざ海を越えて来たのやら・・・」

(リーミヤ、会見には同席するよな?)

(当然。俺はおっちゃんの、S級冒険者ジャスの弟子でパーティーメンバーって事にでもしとこうか。S級冒険者のいるパーティーの一員なら、レオニウスの家臣の中でも腕が立つ方でしょ。それなら同席を許されても不思議じゃない)

(わかった。ギリギリまで船を見張るのか?)

(そのつもり)


 小船に乗り移った男は器用に艫を操り、漁船用の桟橋に上がって出迎えの役人らしき者と挨拶を交わしている。

 その2人が馬車に乗っても、リーミヤは動かない。

 じっと船とその周囲の海面を見つめたままだ。


(おい、そろそろ下りて来いよ。リーミヤ)

(はぁい。さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。あ、鬼は船にいるんだったねえ)

(どんな女だったんだよ?)


 立ち上がって部屋を出たリーミヤが笑みを浮かべる。


(黒髪の美人さん。おっぱいとお尻は、残念って言うしかないね。まあ、鍛えてるからだろうけど)

(そりゃ残念だ。せめて、ケツはデカくねえとなあ)

(こっちに向かってるおっさんも良い腕してるみたいだし、武を重んじる国なのかもねえ)

(敵に回ってくれなきゃいいが・・・)

(ホントホント)


 ハシゴを下りると、リーミヤを最初に3階へ案内した侍女が廊下で待っていた。

 その案内で、応接室へ。

 席は1つと3つ。


「あれ、ロイズは座んないの?」

「護衛だから立ってる。槍のそばに」

「観賞用の槍と自分のを取っ替えたのか。暴れるのは最後の最後、ふん縛るしかなくなってからだよ?」

「ん」


 やがてサルーに案内されて来た中年の男を、全員が立ち上がって出迎えた。

 整えられた髪。無精髭など残っていない日焼けした肌。ただ、目の光だけが剣呑に過ぎる男。


(やれやれ。立合いの申し込みにでも来たみたいな目をしてやがるよ)

(斬って終わりなら楽なんだがなあ・・・)

「ようこそ、アィダーヌへ。どうぞお掛け下さい。それから自己紹介と参りましょう」


 リーミヤとジャスのボヤキには反応を見せず、ファウンゼンが笑みを浮かべて男に椅子を勧める。


「ありがとうございます」


 男はレオニウスの当主であるファウンゼンでも、アィダーヌに3人しかいないS級冒険者のジャスでもなく、リーミヤに視線を合わせて頭を下げた。

 頭を下げても周囲を見渡せる程度の、浅い礼。それは武人の身に染み付いている動きだ。


「すぐに飲み物を運ばせますので」

「どうかお気遣いなく」

「レオニウス様。出来るなら小船に新鮮な果物や野菜を積み込んで、帆船にも届けていただきたいのですが」

「・・・おや、リーミヤ。船旅なら、新鮮な肉などの方が喜ばれるのではないのかな? いつもそう思って、捌いたばかりの牛豚羊を届けさせているのだが」


 リーミヤがレオニウス様と呼んだ理由を慮って、ファウンゼンがそんな風に声をかける。

 顔色すら変えないのを見ると、ファウンゼンは腹芸が得意そうだ。


「野菜や果物には、新鮮な状態で口にしなければ体内に取り込めない滋養があるのです。長い船旅などではそれが不足して、最悪の場合は死者すら出しかねません」

「それは難儀な。すぐに運ばせよう。サルー、聞いていたね?」

「はい。朝採りの新鮮な物を用意させます」


 言いながら、ワゴンで運ばれてきた飲み物をサルーが供する。

 それが終わると優雅に一礼してサルーは部屋を出たのだが、男は視線を揺らす事なくリーミヤの目だけを見ていた。

 ファウンゼンが自身、それからジャスとリーミヤを紹介する間もずっと。


「ズン王国の臣、ザースと申します。若輩者なれど、海軍を預かる身。どうぞよしなに」

「・・・そのようなお方が、ただの交渉役として参られたとも思えませぬ。理由をお聞かせ願えますか?」

(斬り込むねえ、ファウンゼンさん)

(交渉事にも、剣での立合いみてえな機があるんだろ。まあ、任せとこうや)

(んだねえ)



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